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第2章 遥か遠い 故郷
幕間2-2 嘆けども 敗北は覆らず 其の2
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突如として鳴り響いた警報に、全員が一様に驚き、動きを止めた。
今、彼らが会話を行うのは四方を白い壁で覆われた正方形の様な形状をした休憩所。いわゆる検疫所の内部に用意された、検査結果が出るまで出る事が出来ない検査対象者の為に用意された場所で、休憩用の椅子と机に始まり巨大ディスプレイや簡易の食糧提供なども受けられる。
休憩所から両端に伸びる細長い通路の先は2つ、片側は旗艦アマテラス内部へと通じ、もう片側は第一次検疫室へと繋がる。
大勢のスサノヲ達が第一次検疫室へと続く廊下を見れば、最終検査を受ける仲間の姿が透明なガラス越しに見え、更に遠くに見える扉の向こうを見れば第一次検疫である殺菌処理を受けた後に行われる第二次検疫、複数の機器による精密検査を受ける様子がボンヤリと見えた。別の惑星に降り立った後に見られるごく普通の光景だ。
「何だ?」
「検疫班、何があった?なんでこんな警報が鳴る?」
イヅナは即座に検疫部門に向けて連絡を取り、通信に出た青年に説明を要求した。
「いや、えーと」
が、相手の返答は要領を得ない。
「どうした?」
「問題を検知したそうです。ですのでその部屋から出ない様にという警報です。二次検疫時に未知の粒子の付着を確認したそうです」
「未知、だと?」
「はい。今、皆様が接収した各種データと検出された粒子を複数部門に回して調査をして貰っている最中です。で、あの、コレが終わるまでは出られません」
通信に出た検疫部門の青年はそう即答すると、何をどうしてもここに足止めされるのが確定したイヅナは不快感を露わにする。
怒りではない。視野狭窄でもない。疑念だ。ごく短い戦闘と、そこに至るまでに積み重なった不信が、「未知の粒子」の存在よりも「何かを理由に自分達を足止めしている」と判断させたようだ。
しかし、そう考えたのならば誤りだ。旗艦アマテラスの検疫室に設置された無数の計器類が正しい事実を私は知っている。
だが私がより興味を引いたのは、優秀そうな男を含めたこの場にいる全員に「足止めしている」と誤認させた理由、思わぬ形で浮き彫りになった旗艦アマテラスの惨状だ。彼等と彼等を管轄するアラハバキの間にある溝は知っているが、どうやら私が想像する以上に隔たっているようだ。
「そんなに危険なのか?」
「いえ、あのですからまだ検査が。流石に数分では、ねぇ」
「コッチは特に異常は無いが、なぁ?」
言葉を濁す検疫部門の言葉に、イヅナは周囲を見回した。彼の行動に何かを感じた仲間達もまた無意味に周囲を見回し始めるものの、少なくとも視界の範囲内には何もない。が――
「どうされました?やはり何か異常があるのでは?」
「いや、そう言う訳では無いんだ、が……気のせいか、何か視線を感じるんだ」
「はぁ?視線ですか?」
一人が不意に違和感を吐き出した。視線を感じる、と。映像の向こうの検疫官は怪訝な表情で検疫室に閉じ込められた面々と部屋を見入るが、そうしたところで違和感の元など見つけられる訳もなく。青年の眼差しが疑惑に支配され始めるが、しかし直ぐに同情へと変わった。
「とにかく、安全が確認されるまでここでお待ちください……いや、言いたい事は分かりますよ。あんな事があれば動揺するし、冷静な判断も出来ないですよ。今回の件、コッチでもモニターしてましたけど、どう考えてもアイツ等の独断でしょうし。それに……ごめんなさい。手助け出来ませんでした」
「いや、君達が気に病む必要はない。奴等、どうせ程よく俺達を排除する機会を窺っていたんだろうな。そう考えれば今回の件は絶好の機会だ」
「そうだな。目的は果たせず、ただ損耗した挙句に逃げ帰って来ただけでは言い訳しようがない」
「検査が終わらない限り俺達は動けない、となれば真面に動ける部隊は……後はワダツミ位か」
「はい。現状で動けるのは第2部隊だけですが、イヅナさん不在の状態でアチコチの拠点や基地なんかを無意味に巡回させられています。ですから当面は戻ってこれません。では、あの……結果が出るまでお待ちください」
検疫部門との会話は終わった。通信は途切れ、地球での戦いに敗北した彼等は暫くこの部屋から出る事は叶わない。超巨大な艦船には内部での感染症発生、および拡大防止を目的に乗艦の際には必ず検疫が義務付けられる。今、彼等が閉じ込められている場所は旗艦に幾つも存在する検疫所の一つ。
旗艦アマテラスは連合の各惑星を繋ぐ中継地点としても機能している。各惑星が独自の基準で防疫を行うよりも何処かが一括して行った方が効率が良く、また旗艦には連合を支える神の一柱が存在すると言う理由から、その役目が回ってくるのは必然だった。そうであるが故に検査は厳しく、だからこそ安全だった。
しかしそれが彼等の首を締める結果となった。今回の戦いは、地球での戦いにおいて付着する粒子の存在も織り込んでいる。彼等が即座に、そして何度も地球に来られては困る。文明の差、それ以上に地力の差は圧倒的で、初戦は幾つもの偶然が重なった結果に過ぎない事を私はよく理解している。だからこれ以後も手を抜く事はない。
今、彼らが会話を行うのは四方を白い壁で覆われた正方形の様な形状をした休憩所。いわゆる検疫所の内部に用意された、検査結果が出るまで出る事が出来ない検査対象者の為に用意された場所で、休憩用の椅子と机に始まり巨大ディスプレイや簡易の食糧提供なども受けられる。
休憩所から両端に伸びる細長い通路の先は2つ、片側は旗艦アマテラス内部へと通じ、もう片側は第一次検疫室へと繋がる。
大勢のスサノヲ達が第一次検疫室へと続く廊下を見れば、最終検査を受ける仲間の姿が透明なガラス越しに見え、更に遠くに見える扉の向こうを見れば第一次検疫である殺菌処理を受けた後に行われる第二次検疫、複数の機器による精密検査を受ける様子がボンヤリと見えた。別の惑星に降り立った後に見られるごく普通の光景だ。
「何だ?」
「検疫班、何があった?なんでこんな警報が鳴る?」
イヅナは即座に検疫部門に向けて連絡を取り、通信に出た青年に説明を要求した。
「いや、えーと」
が、相手の返答は要領を得ない。
「どうした?」
「問題を検知したそうです。ですのでその部屋から出ない様にという警報です。二次検疫時に未知の粒子の付着を確認したそうです」
「未知、だと?」
「はい。今、皆様が接収した各種データと検出された粒子を複数部門に回して調査をして貰っている最中です。で、あの、コレが終わるまでは出られません」
通信に出た検疫部門の青年はそう即答すると、何をどうしてもここに足止めされるのが確定したイヅナは不快感を露わにする。
怒りではない。視野狭窄でもない。疑念だ。ごく短い戦闘と、そこに至るまでに積み重なった不信が、「未知の粒子」の存在よりも「何かを理由に自分達を足止めしている」と判断させたようだ。
しかし、そう考えたのならば誤りだ。旗艦アマテラスの検疫室に設置された無数の計器類が正しい事実を私は知っている。
だが私がより興味を引いたのは、優秀そうな男を含めたこの場にいる全員に「足止めしている」と誤認させた理由、思わぬ形で浮き彫りになった旗艦アマテラスの惨状だ。彼等と彼等を管轄するアラハバキの間にある溝は知っているが、どうやら私が想像する以上に隔たっているようだ。
「そんなに危険なのか?」
「いえ、あのですからまだ検査が。流石に数分では、ねぇ」
「コッチは特に異常は無いが、なぁ?」
言葉を濁す検疫部門の言葉に、イヅナは周囲を見回した。彼の行動に何かを感じた仲間達もまた無意味に周囲を見回し始めるものの、少なくとも視界の範囲内には何もない。が――
「どうされました?やはり何か異常があるのでは?」
「いや、そう言う訳では無いんだ、が……気のせいか、何か視線を感じるんだ」
「はぁ?視線ですか?」
一人が不意に違和感を吐き出した。視線を感じる、と。映像の向こうの検疫官は怪訝な表情で検疫室に閉じ込められた面々と部屋を見入るが、そうしたところで違和感の元など見つけられる訳もなく。青年の眼差しが疑惑に支配され始めるが、しかし直ぐに同情へと変わった。
「とにかく、安全が確認されるまでここでお待ちください……いや、言いたい事は分かりますよ。あんな事があれば動揺するし、冷静な判断も出来ないですよ。今回の件、コッチでもモニターしてましたけど、どう考えてもアイツ等の独断でしょうし。それに……ごめんなさい。手助け出来ませんでした」
「いや、君達が気に病む必要はない。奴等、どうせ程よく俺達を排除する機会を窺っていたんだろうな。そう考えれば今回の件は絶好の機会だ」
「そうだな。目的は果たせず、ただ損耗した挙句に逃げ帰って来ただけでは言い訳しようがない」
「検査が終わらない限り俺達は動けない、となれば真面に動ける部隊は……後はワダツミ位か」
「はい。現状で動けるのは第2部隊だけですが、イヅナさん不在の状態でアチコチの拠点や基地なんかを無意味に巡回させられています。ですから当面は戻ってこれません。では、あの……結果が出るまでお待ちください」
検疫部門との会話は終わった。通信は途切れ、地球での戦いに敗北した彼等は暫くこの部屋から出る事は叶わない。超巨大な艦船には内部での感染症発生、および拡大防止を目的に乗艦の際には必ず検疫が義務付けられる。今、彼等が閉じ込められている場所は旗艦に幾つも存在する検疫所の一つ。
旗艦アマテラスは連合の各惑星を繋ぐ中継地点としても機能している。各惑星が独自の基準で防疫を行うよりも何処かが一括して行った方が効率が良く、また旗艦には連合を支える神の一柱が存在すると言う理由から、その役目が回ってくるのは必然だった。そうであるが故に検査は厳しく、だからこそ安全だった。
しかしそれが彼等の首を締める結果となった。今回の戦いは、地球での戦いにおいて付着する粒子の存在も織り込んでいる。彼等が即座に、そして何度も地球に来られては困る。文明の差、それ以上に地力の差は圧倒的で、初戦は幾つもの偶然が重なった結果に過ぎない事を私はよく理解している。だからこれ以後も手を抜く事はない。
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