G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第2章 遥か遠い 故郷

28話 闇に沈む夜の街へ 其の1

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 20XX/12/16 1717

 間一髪。とは言え上手く逃げ出せた以上、文句はない。寧ろ上出来だ。それに現状も悪くない。入り組んだ道は物音さえ出さなければ逃走の追い風となり、何より空を見上げても空を飛ぶ生物型兵器の姿が見えなかった。

 居場所が特定出来たから上空からの監視は必要ないと踏んだのか、あるいは大量の兵器を投入出来ない事情があったのか、それともたった一人を相手に複数の兵器をけしかけるのが勿体なかったのか。理由はともかく、迂闊うかつな判断に感謝するしかない。

「上手くいったな」

 空を見上げる私の視線が声の主へと落ちる。隣を走る伊佐凪竜一が私を見つめる顔は、心なしか得意げに見えた。その場凌ぎではあったが、それでも思いの外上手く逃げおおせる事が出来たのは彼の案によるところが大きい。確かに上手くいきすぎた――と、ほんの10分ほど前のやり取りを思いだす。

 ※※※

「下の様子からさ、アイツ等部屋を両端からしらみ潰しに調べてて、んで調べ終わったら上に向かってると思うんだよね」

「そうだな、音と反応から見ても間違いない。で、案と言うのは?」

「一度調べた部屋もう一度調べないだろうからさ、床に穴開けて奴らがこの階調べ始めたら下に逃げたらどうかなって」

 伊佐凪竜一の提案は少しばかり失礼だが随分とまとも――いや、土壇場で思いついたにしては中々良いと思えた。何より今の私にそれ以上の案は思いつかないし、考える時間も惜しい。

 掘った後に蓋をして少しでも時間を稼げるように、穴は場所はベッドの下を選んだ。

 近接用の武装を取り出し、その間に彼がベッドを力任せにどかす。手の空いた彼に実体化した二振りの小型のナイフの片方を投げ渡す。小型の近接武装は実体型しか存在せず、言い換えればこの星でもお目に掛かれる形状をしているから彼でも容易に扱える。小さく取り回しが良い反面、充填されたカグツチが切れると只の切れ味の良い武器程度になってしまうし、その充填量も少ない。

 基本的に素早さを生かした戦いを迫られた際や手狭な場所での戦闘時に使う程度の予備。そんな武器だから、敵かも知れない人物に貸したとしても大した戦力にもならなければ、戦力低下も許容範囲と判断した。そもそも穴を掘るだけならばこの程度十分だし。

「どうやって使うの?」

「柄を強く握れ。刃が発光する」

 迷う彼に使い方を教えた。半信半疑ながら柄を握り込むと、刃が仄かに白みを帯び――

「なんか、腕がピリピリする」

 予想通り痺れを訴えた。やはり地球人に適性はないようだ。適性が低い人間が無理に使おうとしても想定以上の力に身体が耐え切れず、痛みを発する。小型の武器だから痺れ程度で済んでいるが、中型以上なら痺れ程度では済まない。分かっていた事だが、仮に彼が味方だとしても戦力としては期待できそうにない。

「我慢できなければ持ち手を変えて、それでも駄目なら瓦礫を隠して」
 
 再び指示を出し、床を掘り進める。が仄かに白い輝きを放つ刃を勢いよく床に突き立て、切り裂き、持ち上げる。訓練用とはいえ、それでもカグツチを纏った刃は床を容易く斬り裂き抉る事が出来た。

 床の材質がごく普通の物だった事も幸いだ。もう少し固ければ私一人で穴を開ける羽目になるところだった。この時ばかりはこの星の文明が遅れている事に感謝した。

 慎重に、一人が通り抜けられる程度の大きさの穴を掘り進めた結果、1~2分もすれば容易く下の部屋を拝む事が出来た。

 部屋の外からは色々な声が混じって聞こえてくる。部屋中を引っ繰り返す音、扉を強引に開ける音、怒鳴り声、男女の悲鳴と共に「紛らわしい!!」と言う一際大きな怒号。

 どうやら私達以外にも客が居たらしい。不幸な事だが、しかしそのおかげでギリギリ間に合った。後は外へでて彼らをくだけだが、果たして今度もうまく逃げおおせる事が出来るだろうか。あの未知の兵器ともう一度交戦する事があれば確実に――いや、考えるのは止めよう。

 最悪の可能性を頭から振り払い、逃げる事にのみ専念する。このままモタついていたらそう遠くない内に連中と鉢合わせる。

 伊佐凪竜一を先に下ろし、私もその後へ続いた。そこまで高さのある部屋ではなかったが、階下もほぼ同じ位置に形の違うベッドが置かれており、それがクッション代わりとなった点も運が良かった。

 私が階下へ降りる音が大きければ、もしかしたら気付かれたかもしれない。上を見上げるとベッドで塞がれた穴から男達の怒号と辺りをそこらじゅうの扉を力任せに開く音が聞こえる。

「急ごう」

 隣から微かに聞こえてきた言葉に従うように部屋の扉を開けると、急いで階段を駆け下りた。既に陣取られている正面出入口を避け、裏口の扉を捻ると不快な程にカラフルな色合いのネオンと人の姿が全く見えない不気味で静まり返った建物の群れが私達を出迎えた。

 誰もいない静かな街に、再びの轟音と一際不快な声が発する怒号が響いた。

 外にいるあの不快な男が私達が宿泊していた施設を直接攻撃したようだ。急がなければ、という焦りは私の後ろを走る伊佐凪竜一も同じだったようだ。彼を一瞥すると彼と視線があった。

 無言で頷く彼に私も頷き、先んじて駆け出す。最善は市外への脱出、次善は次の隠れ場所――頭に次の目標が自然と浮かんだ。
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