G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第2章 遥か遠い 故郷

27話 見つかり 見つけられる

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 緩慢かんまんで、緊張とは無縁の空気が変わったのは武器を手渡した直後。つけっぱなしにしていたテレビから聞きなれない音が流れ、次に画面に大きく文字が浮かんだ。映像には何やら慌ただしく動く報道関係者の様子が映る。良からぬ事態が発生したようだ。

「あぁ、そういや文字わかんないんだったな。緊急速報だってさ」

 急いで文字の翻訳を頼むと、出発の準備を整えた伊佐凪竜一がそう教えてくれた。なるほど。だが、相変わらず何が起きたのかは分からない。

 出発を一時中断して情報収集するべきか。内容次第では私達の今後にも影響する。やがて映像が切り替わった。軽い破裂音、爆風、明滅する赤と白の閃光。戦闘?だが、少なくとも周囲にそんな反応は見られず、不気味な程に沈黙を保っている。

「たった今入ったニュースです。亜細亜アジア州、中国区域にある清雅グループ関連会社である清雅電子通信網が維持・管理を行うネットワーク施設が襲撃されたとの情報が入りました。現場は既に戦闘が開始され、報道関係者を含め誰も近づく事を許されない状況となっておりますが、独自のルートより監視カメラのライブ映像と当報道機関を繋ぐ事が出来ましたのでご覧ください」

 やはり戦闘で間違いない。場所は不明だが大々的に報じるとなれば相当な規模か、もしくは重要な施設。仲間が私を探しに来た可能性が高い。

 食い入るように映像を見つめ、歓喜した。映し出された映像は荒く、誰が誰だか区別がつかない。が、それでも見間違えることはない。仲間だ。あの時の襲撃から丸一日も立っていないのに、碌に休息など取れていないだろうにもう来てくれた。不安が、一気に一掃された。

「急いでここに向かいたい!!どう行けばいい?」

 気が付けばそう頼んでいた。仲間達の様子は想像以上に悲惨だった。相変わらず真面な武装が支給されていない。本来ならば苦戦すらしないこの星の戦力と互角程度などあり得ない。

 昨日よりも更に悪化した理由は武器。恐らく違法改造した武器は没収された。しかも、防具の方も同様に奪われている。全員が射撃を行いながら、慎重に何かの施設へにじり寄る様に私は全てを察した。同時に、怒りが湧き上がる。

 私達が地球相手に敗走した件は報告として上がっている筈なのに、アラハバキ余計に悪化させる選択肢を下した。何故?こんな程度さえ分からないのか?ここまで冷遇する理由は一体何だ?

 だが、一番の問題は清雅市を狙わない点だ。戦力の分散を狙った?だが、最初の目標に清雅市を選んだ時点で目的は清雅市ココだとはっきりバレているのに、そんな状況で戦力分散させる奴なんていやしない。なら、今戦っている仲間達は何のために命を懸けているのだ?

「無茶言うなよ。戦っている場所この国じゃないんだ。今から向かうにしたって海渡る必要あるから飛行機経由しないと行けない」

 伊佐凪竜一の回答は絶望的、今から急いでも間に合わないらしい。映像を見た。仲間の一人が無残に倒れる様子が視界の端を掠めた。この分ならば、治療薬も与えられているかどうかすら怪しい。死ぬ。また、仲間が死ぬ。映像を見続ける事に耐えきれない。仲間と合流したい。

「聞こえますか?私です、ルミナ AZ-1です。応答願います!!」

 いや、それ以上に、一刻も早くこの星から脱出したい。零れ落ちそうな本音を押し殺し、仲間に通信を飛ばした。この映像がリアルタイムならば、通信機能が正常に機能しているならば、偽の映像でないならば反応がある筈。

 予想通り、期待通り、画面の向こうでテロリストと断じられた人物達が明らかに動揺した。誰もが通信を開き、私の言葉に反応した。帰れる。程なく、懐かしい声が通信の向こうから聞こえた。淡い希望が、現実のものとなった。

「良かったな」

 背中から、伊佐凪竜一の声がした。同時にギシ、と何かが軋む音が重なる。背後を見れば、ベッドに腰を下ろす彼と目が合った。

「オイ……か?」

 直後、思い出したくもない不快な声がした。気のせい、ではない。伊佐凪竜一がベッドから跳ね起き、窓の外に向かい、慎重に外の様子を眺めたかと思えば一目散に離れ、ヨタヨタと後ずさると呆気なく崩れ落ちた。

 分かり易いな、彼は。一連の行動で何が起きているか把握出来るほどに。索敵し、悪い予想の的中を確認した。同時に、偉そうにバイザーを外さない理由を語った事を少しだけ恥じた。仲間達に意識を奪われ、敵の接近に気付かなかった。不審な反応に対応するアラートも気付かなければ意味がない。

 再びバイザーを覗けば巨大な反応が1つと、それを取り巻くように人間サイズの反応が5つ。そしてその内の3つが建物の中に入っていく様子を捉えた。気に病んでももう遅い、切り替えなければ。

「み、みつかった」

 情けない声。少なくとも演技には聞こえない。ここまで通信関連の技術が進歩していて、更に都市中を監視していればもっと早くに補足可能だった筈。ここまで時間が掛かったという事は、少なくとも伊佐凪竜一の選んだ区画が一時避難場所として最適だった事実を物語る。無論、敵でなければだが。ただ、何方にせよ不意を突かれたのは非常に痛い。

 この部屋まであとどれ位で辿り着くかわからない。急いで逃げると彼に指示した。恒星が照らす赤い光は既に消え失せ、闇に沈んでいた。外から再び声が聞こえる。今度ははっきりと、大きな声で、昨日も聞いたあの忌々しい声が周辺に響き渡った。

「オイコラ愉快犯共、とっとと出て来いよ!!早く出ねーとホテルごとぺしゃんこにするぞコラ」

 コイツも分かり易いな。用意しているのは一体だけか。ただ、だからと言ってどうにもならないが。私達の部隊を半壊させた兵器を単独で、しかもお守り付きで退けるなど不可能。

 下から騒がしい声が聞こえた。ドアを強引に開ける音が階下から響き、同時に「コッチにはいない!!」だの「何処だよアイツ等!!」だの叫んでいる。

 兵器の性能に反し、兵士の練度が異様に低い。部屋をしらみ潰しに調べているようだが、アレでは居場所を教えている様な物だ。となると、あの兵器はつい最近完成したのか?あるいは適性が必要なのかもしれない。何にせよ逃げるには追い風、とは言え最大の問題はやはり奴等の兵器。どうするか、見つからず逃げおおせる手段は――

「あのさ」

 集中を阻害する伊佐凪竜一の声。焦り、苛立ちがない交ぜになり集中力が余計に落ちる。こんな時に何の用だ、と辛うじて怒りを抑える私に――

「上手くいくかどうかわからないんだけど」

 と、前置きした彼は柔らかいカーペットが敷かれた床へと視線を落とした。
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