G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第2章 遥か遠い 故郷

26話 悪夢の様な故郷でも それでも帰りたい

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 2025/12/16 1630

 分厚い雲に覆われた空から光が少しずつ失われる。色が白から少しずつ赤みを帯び始めた。もう少しもすれば街が闇に沈む。

 昼過ぎからずっと情報を収集し続けたが、成果らしい成果は全くなかった。辛うじて私達が標的とした組織の頂点に立つ清雅源蔵という男の会見があった程度。

 先ずは冒頭で一族の一人と関わりのある部下が揃って事故死したとの報告。人が、しかも清雅一族からの死亡者となれば身内も同然だろうに非常に淡泊というか、冷淡という印象を受けた。何せその件について触れたのは冒頭僅か1分程度だったのだから。

 上に立つ者は感情を排しなければならないモノなのか。冷淡な異星の男に、直属の上司アマテラスオオカミを思い出す。時に冷酷、冷徹と言われる程に人の意志を極端に排除した命令を下す神の存在が、映像に映る壮年の男に重なって見えた。

 一々下の者の事を考えていては決断を下せないという程度は理解できる。しかし、それでも、一人に一つの命を数字に置き換えられては堪ったものではない。

 清雅源蔵の会見は直ぐに昨日の戦闘行動へと移った。多くの時間が割かれてはいたが、内容は当たり障りのない謝罪と対策に終始するのみだった。考えてみれば当然で、「宇宙からの侵略者と戦っていました」なんて正直に言える訳がない。地球の文明に関する詳細な情報は持っていないが、携帯端末の異常発展を除けば文明レベルは高くない。

 常識とは基本的にその星の文化文明の発展に合わせて変わる。唐突に常識外の情報を教えたところで理解して貰えないどころか狂人と思われるだけ。少なくともこの推測はタガミの話にあった「未だ宇宙に出れない未開文明」との評価と一致する。しかし、全てを信じるのは難しい。黙っていたのか教えられていないかは不明だが、アイツの言葉とは食い違う事実もあった。

 ツクヨミ清雅という例外。

 これはどういう事だ?別の作戦の障害となるから私達が想定する以上の技術を持つ清雅を標的としたのか、それとも想定する以上の技術自体が標的なのか。答えの切っ掛けとなる情報を求めて映像を眺めてみたが、やはり成果はゼロ。

「どの様なルートで市内へ侵入したのか未だに特定できないとの事ですが、有り得るのでしょうか?監視カメラがひしめき、特に現場となった中央区への移動となるとそれこそ無数のカメラが厳重に監視している筈です。それに、一部では愉快犯達は現場となった中央区の道路に忽然と現れたという情報もあります。現在どこまで判明しているのでしょうか?」

「現在、愉快犯が市内へ侵入した手段とルートの調査を行っております。忽然という情報の出処は不明ですが、常識で考えて有り得ません。恐らくこの事態に便乗し、混乱を与えようと目論む愉快犯一味のデマでしょう。市民の皆様、世界中で我が社の製品を愛用される多くの方に不安を与える事となり申し訳ないと考えております。先行きは不透明ですが、解決に向け各組織と連携を行っておりますので今しばらくお待ち頂きたい。また、不確定な情報に踊らされる事なきよう改めて協力をお願いします。では次の質問をどうぞ」

 会見中の清雅源蔵は至って普通だった。組織の頂点に立つのだから当然だが。しかし、その会見で事あるごとに出てきた愉快犯と言う単語が棘のように私の心に突き刺さった。情報も真面な装備も支給されない中で行われた任務は、何人もの仲間の命を奪っただけで成果らしい成果を何一つ出せないまま、撤退と言う形で終了した。

 こんなザマでは確かに愉快犯と言われても致し方ない。だがそんな評価を受けては死んでいった仲間達が報われない――いや、違うか。死んだ仲間の為という理由を付けて、折れそうな心を奮い立たせているだけか。師の教えに背いているな、と自嘲じちょうする。

「死んだ者は何をしても戻らない、死者の為を想う行動は美しいが同時に目と判断を曇らせる。常に生きる者の事を考えろ。お前は特に無茶をしたがる、まず生き延びる事を、自身の命を大切にする事を覚えろ」

 もう随分と前から言われ続けた説教が私の記憶から鮮明に蘇ると、郷愁きょうしゅうの念をくすぐる。

 少なくとも新情報を得る事は出来ない。頭を思考から昔の思い出に切り替えながら時間を潰していると伊佐凪竜一が隣の部屋から出てきた。身体の汚れを落としていたらしい。既に服を着ているが黒い髪は濡れ、全身からは微かに湯気が立ち上っている。

「さっき説明して貰ったけどさ。その……そっち武器ってやっぱり俺には使えないのか?」

 呑気に髪を乾かす男に出発の準備をするよう促すと、全く無関係な返事が返ってきた。未だ敵か判断がつきかねる相手からの質問に言葉が詰まった。

 どう答えるべきか?いや、目的は何だ?自衛か、それとも戦闘力を少しでも奪いたいのか。いや、それ以前に私はこの男を信用したいのか、したくないのか?何方にせよ曖昧な返答は状況を悪化させるだけだ。そう考え、腹を括る。

「カグツチを使用する武器は訓練なしには使いこなせない。正確には使えなくはないのだが。君の場合ならば常に実弾状態で使用し続けるならば問題ない。とは言ってもカグツチの圧縮、制御機構が破損した時に使う程度の代物だから火力は期待出来ない、それでも良ければ……だが管理責任がある。もし破れば君も私もただでは済まないから、後で必ず返して欲しい」

 あの目を見れば貸すというまで粘りそうで、だから彼でも扱えそうな小型の銃を一つ手渡した。使い方を軽く教えた瞬間、男の顔が僅かに強張ったような気がした。考え過ぎか?それともやはり敵か?一瞬そんな事を考えたが、やはり確たる証拠はない。

 頭の中で渦を巻く思考は目の前の男は敵か味方かという答えの出ない疑問と答えが堂々巡りを繰り返し、武器の管理責任と違反した際に受ける罰という現実的に最も可能性の高い問題など完全に隅に追いやっていた。

 助けてくれた事は非常に助かったが、爆弾を抱え込んだ状態が何時まで続くのかと考えると頭が痛くなる。いや、そもそも助けたこと自体が――と、更に浮かんだ別の疑問が堂々巡りの輪に加わり、より大きな思考の渦となってグルグルと回り続ける。

 早く仲間と合流したい。旗艦アマテラスこきょうに帰りたい。悪夢の様な場所ではあるけど、それでもこの星よりは遥かにマシだ。
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