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第3章 漂流
幕間5-1 想定外に揺れる地球側勢力 其の1
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20XX/12/16 2000
「失敗、したそうだな」
ツクヨミ清雅本社第零会議室。本社地下に作られたこの部屋は、清雅源蔵に選ばれた者達しか立ち入る事が許されない特別な場所。張り詰めた空気が支配するその場所に、静かな怒りを込めた声が響く。
「も、申し訳ありません。敵がマジンごとマガタマを撃ち抜く程の兵器を持っている事を予想できず……」
「言い訳は聞きたくない。どうしてもと、必ず仕留めるとの嘆願を無下に出来なかった。だから我らが神を説得してまで追跡を許可したというのに、敗北し、挙句に貴重な兵器まで無駄に消耗した。それだけに止まらず戦いを辞めたい、だと?お前達には失望した。実に、残念だ」
「い……いえそれは、その山県大地が戦えないならば、バックアップを行う我々は意味を」
「言い訳は聞きたくなと言った筈だ!!」
部屋の最奥に腰を下ろす清雅源蔵が、部下達の報告を聞き終わる前に胸中に滾る怒りを噴出させた。直立不動で立つ4人の男女は恐怖で震える。不在の山県大地を含めた5人は伊佐凪竜一達の追撃に際し、必ず仕留めると約束した。が、清雅市隣接区の駅を封鎖してまで実行した追跡劇は失敗に終わり、更に無視できない程の手傷を負わされた。
怒りを抑えようと必死だった清雅源蔵が耐え切れなくなった理由は、彼等の言い訳に終始する態度。恐らく慢心。初戦の快勝を帳消しにしかねない失態の理由が性根にあると考える。初戦における呆気ない快勝は喜ばしかったが、油断という毒を勝者の中に残した。次も勝てる、そんな無根拠な慢心が敗因だと。
スサノヲの危険性は事前に伝えていた。旗艦アマテラスが連合に誇る最高、最強戦力の一角。力の源泉となるカグツチを体内に大量蓄積し、劇的な戦闘能力を発揮する一騎当千の集団。その能力は個々人が人知を超え、超人とさえ呼ばれる程に高い。
跳躍力は素でも2、3メートルは軽く飛び越え、人によってはその二倍三倍以上を朝飯前でこなす。最高速度も標準的な車程度ならば軽く追い越し、また桁違いの脚力から繰り出す蹴りは岩を容易く砕き、鋼鉄に穴を開け、更に練度を上げれば空中での軌道変更|(俗にいう2段ジャンプ)まで行う。
腕力も同じく、標準的体重の人間程度は軽々と持ち上げ、投げ飛ばし、常人ならば振り回せない重量級の武器も軽々と振り回し、窮まれば離れた相手に攻撃を伝播させる遠当などの技能も駆使するようになる。
防御も人並み外れ、標準威力の銃弾や刃物程度では傷一つ付かず、高所から飛び降りても無傷で済む。
この特徴は体内濃度が高ければ性別年齢の区別なく発現する為、女や子供といった外見、性別的な要素は強さを測る基準になりえない――というのが向こう側の一般常識。
第一陣のスサノヲ達が不自然な程に準備不足だった点を差し引いたとしても、そんな尋常では無い能力を持つスサノヲを相手に完璧な形で勝利してしまった。その油断こそが敗因。
山県大地は重症で入院中で何も語れず。よって、清雅源蔵を含め駅構内で何が起こったか完全に把握する者はいない。監視映像も同様。山県大地が派手に暴れた結果、監視カメラは全て破壊された。あるいは、スサノヲの女がそう誘導したのかも知れない。
何かが起きた。その回答は途切れた映像の先にある。が、確認できる範囲の状況から山県大地が冷静さを欠いていた点は疑いようない。
そもそも強硬な追跡を願い出たのは山県大地自身。それ程までに強烈な伊佐凪竜一への過剰な嫌悪感、個人的な我執を抑え切れず、注意散漫になった隙に火力を一点集中された、と予測する。但し、その手段が分からない。
清雅源蔵の叱責は尚も続く。誰もが萎縮し、憔悴する。
この世界で清雅源蔵の逆鱗に触れた者の末路は一つしかない。今の清雅には、例え僅か数名であっても欠員を出す余裕はない。だが、ここ最近の清雅源蔵は酷く冷酷な選択肢を平然と実行するようになった。彼等の命は間違いなく消える。
やはり、もっと強硬に反対すべきだったか。地球が勝利する為に計画から外れた行動を取るべきではないと我らや清雅源蔵がどれだけ説得 を行っても彼は頑として折れなかった。清雅市は過激なテロ活動に備え、常に厳しい監視体制が敷かれているから無理な追撃の必要はないと知りながら、それでもと願い出た。ソレは、山県大地が初めて見せた一面だった。
その熱意に折れる形で清雅源蔵が許可を下し、なし崩しで我らも許可を出した。独断で出撃、想定外の行動を取られるよりはマシだと、追跡を許す代わりに条件を出し、行動を縛った方が利になると、そう考えた。
不測の事態が発生したならば追跡を止め速やかに撤退する事、他の誰もサポートに入れない等の条件を承諾し、追跡に向かったのは今より数時間前の話。
「ですが、奴等の兵器の性能を知る事が出来た点は評価すべきと考えます。とても貴重な弾は失いましたが、実戦データも得られました。現在の我々には貴重です」
清雅源蔵を遮り、誰かが擁護した。白川水希。清雅源蔵の第一秘書。
「確かに水希女史の言う通りですな。情報は貴重です。しかし、です。弾を置いて逃げ帰って来た、というのはいただけませんねぇ。皆さん」
「全ては山県大地のせいだろう?油断か、あるいはその伊佐凪竜一とか言う奴にこだわりすぎておるのか。だが、まだまだ改善の余地があるという事が分かったのは上出来かね」
立て続けに擁護する声。山県大地の部下達の顔に僅かな希望が滲む。清雅源蔵から部下達を庇ったのは我らによって選定された地球最高の戦力。選抜された4人の現人偽神の内3人。白川水希、ゲイル=ハーバー、アルバート=フェルドマン。|(残りは山県大地)
現人偽神の頂点に立つ4人、彼らを補佐する戦闘員を中心とした総勢百余名の現人偽神。これが、我々が選別した戦力。
その更に下には兵器開発を含めた専属社員達数千名があらゆる面から補佐する。それ以外、清雅と名の付く会社と関連会社を含めれば数千万は下らない社員達の大半は何も知らずに協力しているか、何一つ知らされず、協力すらしていない。
清雅源蔵は威圧的な態度を改め、ゆっくりと椅子の背もたれに身体を預けた。が、その目には怒りが湛えられたまま。戦場から逃げ返って来た山県大地の部下達は相変わらず震えたまま動けない。目を合わす事すら拒否し、俯き、ただこの時が終わるのをひたすらに待ち望む。
「失敗、したそうだな」
ツクヨミ清雅本社第零会議室。本社地下に作られたこの部屋は、清雅源蔵に選ばれた者達しか立ち入る事が許されない特別な場所。張り詰めた空気が支配するその場所に、静かな怒りを込めた声が響く。
「も、申し訳ありません。敵がマジンごとマガタマを撃ち抜く程の兵器を持っている事を予想できず……」
「言い訳は聞きたくない。どうしてもと、必ず仕留めるとの嘆願を無下に出来なかった。だから我らが神を説得してまで追跡を許可したというのに、敗北し、挙句に貴重な兵器まで無駄に消耗した。それだけに止まらず戦いを辞めたい、だと?お前達には失望した。実に、残念だ」
「い……いえそれは、その山県大地が戦えないならば、バックアップを行う我々は意味を」
「言い訳は聞きたくなと言った筈だ!!」
部屋の最奥に腰を下ろす清雅源蔵が、部下達の報告を聞き終わる前に胸中に滾る怒りを噴出させた。直立不動で立つ4人の男女は恐怖で震える。不在の山県大地を含めた5人は伊佐凪竜一達の追撃に際し、必ず仕留めると約束した。が、清雅市隣接区の駅を封鎖してまで実行した追跡劇は失敗に終わり、更に無視できない程の手傷を負わされた。
怒りを抑えようと必死だった清雅源蔵が耐え切れなくなった理由は、彼等の言い訳に終始する態度。恐らく慢心。初戦の快勝を帳消しにしかねない失態の理由が性根にあると考える。初戦における呆気ない快勝は喜ばしかったが、油断という毒を勝者の中に残した。次も勝てる、そんな無根拠な慢心が敗因だと。
スサノヲの危険性は事前に伝えていた。旗艦アマテラスが連合に誇る最高、最強戦力の一角。力の源泉となるカグツチを体内に大量蓄積し、劇的な戦闘能力を発揮する一騎当千の集団。その能力は個々人が人知を超え、超人とさえ呼ばれる程に高い。
跳躍力は素でも2、3メートルは軽く飛び越え、人によってはその二倍三倍以上を朝飯前でこなす。最高速度も標準的な車程度ならば軽く追い越し、また桁違いの脚力から繰り出す蹴りは岩を容易く砕き、鋼鉄に穴を開け、更に練度を上げれば空中での軌道変更|(俗にいう2段ジャンプ)まで行う。
腕力も同じく、標準的体重の人間程度は軽々と持ち上げ、投げ飛ばし、常人ならば振り回せない重量級の武器も軽々と振り回し、窮まれば離れた相手に攻撃を伝播させる遠当などの技能も駆使するようになる。
防御も人並み外れ、標準威力の銃弾や刃物程度では傷一つ付かず、高所から飛び降りても無傷で済む。
この特徴は体内濃度が高ければ性別年齢の区別なく発現する為、女や子供といった外見、性別的な要素は強さを測る基準になりえない――というのが向こう側の一般常識。
第一陣のスサノヲ達が不自然な程に準備不足だった点を差し引いたとしても、そんな尋常では無い能力を持つスサノヲを相手に完璧な形で勝利してしまった。その油断こそが敗因。
山県大地は重症で入院中で何も語れず。よって、清雅源蔵を含め駅構内で何が起こったか完全に把握する者はいない。監視映像も同様。山県大地が派手に暴れた結果、監視カメラは全て破壊された。あるいは、スサノヲの女がそう誘導したのかも知れない。
何かが起きた。その回答は途切れた映像の先にある。が、確認できる範囲の状況から山県大地が冷静さを欠いていた点は疑いようない。
そもそも強硬な追跡を願い出たのは山県大地自身。それ程までに強烈な伊佐凪竜一への過剰な嫌悪感、個人的な我執を抑え切れず、注意散漫になった隙に火力を一点集中された、と予測する。但し、その手段が分からない。
清雅源蔵の叱責は尚も続く。誰もが萎縮し、憔悴する。
この世界で清雅源蔵の逆鱗に触れた者の末路は一つしかない。今の清雅には、例え僅か数名であっても欠員を出す余裕はない。だが、ここ最近の清雅源蔵は酷く冷酷な選択肢を平然と実行するようになった。彼等の命は間違いなく消える。
やはり、もっと強硬に反対すべきだったか。地球が勝利する為に計画から外れた行動を取るべきではないと我らや清雅源蔵がどれだけ説得 を行っても彼は頑として折れなかった。清雅市は過激なテロ活動に備え、常に厳しい監視体制が敷かれているから無理な追撃の必要はないと知りながら、それでもと願い出た。ソレは、山県大地が初めて見せた一面だった。
その熱意に折れる形で清雅源蔵が許可を下し、なし崩しで我らも許可を出した。独断で出撃、想定外の行動を取られるよりはマシだと、追跡を許す代わりに条件を出し、行動を縛った方が利になると、そう考えた。
不測の事態が発生したならば追跡を止め速やかに撤退する事、他の誰もサポートに入れない等の条件を承諾し、追跡に向かったのは今より数時間前の話。
「ですが、奴等の兵器の性能を知る事が出来た点は評価すべきと考えます。とても貴重な弾は失いましたが、実戦データも得られました。現在の我々には貴重です」
清雅源蔵を遮り、誰かが擁護した。白川水希。清雅源蔵の第一秘書。
「確かに水希女史の言う通りですな。情報は貴重です。しかし、です。弾を置いて逃げ帰って来た、というのはいただけませんねぇ。皆さん」
「全ては山県大地のせいだろう?油断か、あるいはその伊佐凪竜一とか言う奴にこだわりすぎておるのか。だが、まだまだ改善の余地があるという事が分かったのは上出来かね」
立て続けに擁護する声。山県大地の部下達の顔に僅かな希望が滲む。清雅源蔵から部下達を庇ったのは我らによって選定された地球最高の戦力。選抜された4人の現人偽神の内3人。白川水希、ゲイル=ハーバー、アルバート=フェルドマン。|(残りは山県大地)
現人偽神の頂点に立つ4人、彼らを補佐する戦闘員を中心とした総勢百余名の現人偽神。これが、我々が選別した戦力。
その更に下には兵器開発を含めた専属社員達数千名があらゆる面から補佐する。それ以外、清雅と名の付く会社と関連会社を含めれば数千万は下らない社員達の大半は何も知らずに協力しているか、何一つ知らされず、協力すらしていない。
清雅源蔵は威圧的な態度を改め、ゆっくりと椅子の背もたれに身体を預けた。が、その目には怒りが湛えられたまま。戦場から逃げ返って来た山県大地の部下達は相変わらず震えたまま動けない。目を合わす事すら拒否し、俯き、ただこの時が終わるのをひたすらに待ち望む。
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