G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

文字の大きさ
52 / 273
第3章 漂流

幕間5-2 想定外に揺れる地球側勢力 其の2

しおりを挟む
「失った弾の予備についてはがあります。問題はありません」

 不意に聞こえた声に、部下を睥睨する清雅源蔵の視線が動く。釣られてそれ以外も声の主へ視線を向けた。

「そうか。では君に任せる」

 白川水希の言葉に張り詰めた糸がプツリと切れた。緊迫から一転、空気が一気に弛緩する。清雅源蔵が最も頼みとする彼女の言葉なら――

「はい。それともう一点、彼らの報告を裏付けるようなデータが観測されています。交戦地域のK区駅内で観測された大規模なエネルギー反応と急激な消失現象についてです。此方の調査を行うべきかと。今すぐにでも調査に当たらせ……」

「不要だ」

「ですが……」

「くどい。それより敵と十分に渡り合えるという評価は本当に信じて大丈夫なのだろうな?今更になって無理とは言わせんぞ?調査は後でいい。今は実戦データの調査と解析、改造が最優先だ」

 と、思いきやその後の提案を却下した。口調こそ穏やかだが言葉の端々には怒りが滲む。想定外の敗北に怒りが抑えきれない――いや、どちらかと言えば抑えきれないのは焦りか。

 山県大地の敗北は地球側の前提崩壊を意味する。十分な勝算を見込んだ上で今日この日を迎えた。しかし、地球側最高戦力の一人が開戦翌日に謎の敗北を喫した。しかも原因不明。

 初戦の勝率は五分五分だと予測したが現実は圧勝。勝因は何故ここまで、と疑問に思う程度に貧弱な武装。その武装でどうやって山県大地に致命傷を負わせたのか?一体どんな力で成しえたのか?

 白川水希の言葉にあった大規模なエネルギー反応と急激な消失現象の詳細は、時を同じくして監視システムが全損した為にデータが存在しない。

「奴らが本格的に動き出すまでにはまだ幾分か時間が掛かるだろう。しかし、そのような状態ですらこの有様とは。貴様等だけでも頭が痛いのに、逃走した我が社の元社員と異星人は健在。さて、どうするか」

 清雅源蔵の機嫌が露骨に悪化する。全員の睨み付ける顔に怒りが、苛立ちが滲む。

「そちらも私に考えがあります。お任せください」

 静寂を破る女の声。やはり、白川水希が反応した。

「伊佐凪竜一と異星人の女……取りあえずカグヤと仮称します。その2名は私が対応します」

「策があるのか?」

「はい。加えて、奴等を使いマジンのデータを収集します。一度きりですが今の我々には貴重な機会です。旗艦の連中は私達に歯が立たないと理解するや戦力分散を主目的に世界各国に建造したネットワーク中継施設への無差別攻撃を始めました。ですが奴等の元に戦力を届けるには時間的にも不可能です。そもそも、清雅市以外での戦闘は我々の存在が露見する危険性もありますので。宜しいでしょうか?」

 白川水希の回答は現状において限りなく完璧に近く、残酷だった。

「そうか」

 彼女の言葉に清雅源蔵は一言、相槌を打った。僅かな心境の変化が声に乗る。相変わらず椅子の背もたれに身体を預けた姿勢を変えていないが、やがて目を瞑り大きく一度深呼吸した。静まり返った部屋に清雅源蔵が体重を預ける椅子が軋む音が不規則に響く。

 誰もが、清雅源蔵の言葉を待つ。誰も、口を開かない。彼に物申す事が出来るのは清雅の神のみ。暫しギシ、ギシと音だけが支配したその空間に再び声が響いた。やがて、再び目を見開く。その目には怒りの色が消えていた。

「伊佐凪竜一とカグヤにはデータ取得の生贄になってもらう。だが、止めは必ず刺せ。ゲイル、お前に任せる」

「必ずや吉報を」

「フェルドは研究を一時中断、大地の治療に当たれ」

「承知」

「計画に修正の必要が生じた件については、最終的に奴に追撃を許した私の責任だ。改良については私からツクヨミに掛け合う」

「ありがとうございます」

「各自、改めて聞け。我らの神たるツクヨミだけは何としても死守せねばならん。その為にどれだけ死のうとも、だ。ツクヨミなくして我々も、地球も成立しない。だが旗艦ヤツラは理解していない。いや、するつもりすらなく、知りながら銃口を突きつけた。だから戦うのだ。戦わねばならないのだ」

 清雅源蔵の言葉は全て真実。だから、戦いを決断した。誰もが黙って話の続きを待つ。

「言葉の壁を容易く超える文明を有しながら、それを有効に使う事が出来ないどころか、脅迫材料に降伏を迫る蛮族共だ。端から理解するつもりすらない連中に屈する訳にはいかない。敗北は許されない。我々の為、地球の為、ツクヨミの為に。正義は我らにある等とクサい事は言わない。その為に多くを犠牲にして来た。我々が今、正に進むこの道は夥しい数の死者の上に成り立っている。その死に報いる為にも、無駄にしない為にも必ず勝利せねばならない。改めて肝に銘じろ」

 清雅源蔵が、改めて激を飛ばした。恐怖に震えていた山県大地の部下達も、白川水希達も、事情を知る全員が同じ気持ちで戦いの道を選んだ。

 その選択が正しかったのか?他に手段があったのではないか?その答えを知る者はいない。全てを知る彼等でさえ、我らでさえも。だが、知ろうが知るまいが、ほんの僅かな者達の思惑に大勢が巻き込まれ、そして死んでいく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...