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第3章 漂流
幕間6-1 楽園にかつての面影はなく 其の1
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20XX/12/16 1000
母なる宇宙を旅する旗艦アマテラス。その中央に広がる居住区域の遥か上方に高天原は存在する。他区域とは完全に分断された数百キロに及ぶ超広大な空間は、アマテラスオオカミに認められた者――特定のケースを除き、スサノヲを含む限られた役職のみ立ち入る事を許される特別な区域。
その更に天涯に位置する巨大な円柱状の広間、陽光の間。超広大な旗艦に置いて宇宙空間を目視出来る数少ない場所。神の為に用意された特別な空間は主の封印以後、荘厳さとはかけ離れた俗物的な空間に様変わりした。
その厳かな空間に数名の人影が踊る。続けて怒号、嘲笑に満たされた。
映像にはドーム状に広がる陽光の間の中央に陣取る者達が執拗に一人の男を責め続ける様子を映す。初回の襲撃作戦で早期撤退を指示したイヅナ。彼も彼で執拗に食って掛かるが、相手が相手だけに分が悪い。原因は彼の置かれた状況。今、正に口論する相手はアマテラスオオカミ封印以後、旗艦の全てを掌握した市民代表アラハバキと呼ばれる政治的組織。
最も、市民の代表とはいっても主要メンバーの大半が旗艦内でもとりわけ大規模な企業から選ばれた重役達。必然的に偏った思想の元で運営される。利益中心で、それ以外を軽視しているということだ。
「何度でも言う、おかしな事だらけだ!!あの星の文明が一部だけ突出している事、それからカグツチ濃度の急激低下、何も知らされていない!!転移予定地点を動かした事もだ。俺達を使い捨てるつもりか!!それに、交戦した連中の一人が旗艦側との接触を匂わせる発言をしていた!!広大な未探査地域にある一惑星の更に一部地域でしか使われていない言語の翻訳が事前に用意されていた事からも間違いない!!何を隠している!!何をさせようとしている!!お前達の標的は何だ!!」
語気を強めるイヅナの声が部屋中に木霊した。不測の事態でスサノヲを纏め上げる羽目になった男の言い分は最も。言葉が真実ならば、旗艦アマテラス側は戦闘部隊に何一つとして情報を渡さない状況で地球との戦端を開いた事になる。言わずもがな愚行。が、ふんぞり返る3人には届かず。
厳かな空間に似つかわしくない、悪趣味且つ派手な机と絨毯は彼らの内面そのものに見えた。見下ろす者と見上げる者睨み合い。やがて、イヅナの対面に座る者達の一人、中央後方に位置する男が口を開いた。
「言う必要はない。貴様達スサノヲは黙って我々の為に働けばいい。カグツチの濃度は貴様の落ち度。定期的に確認していれば分かることだ」
地球でよく見る一般的なビジネススーツに近しい見た目をした、ナノマシン製高級スーツを着た白髪交じりの髪をオールバックで固めた厳つい顔の壮年の男がイヅナの言葉に反応した。身形、外見、口調の全てが極めて頑固で融通が利きそうない男の内面性を物語る。
「詭弁だ!!事前の接触からカグツチ濃度低下の件をわかっていながら真面な武器を支給しない事が問題だと言っている!!」
「無能の言い訳は聞きたくない。スクナが聞けば嘆くぞ?さて、ならば次は別の場所を襲撃してもらおう。貴様等が想像以上に役に立たない事だけは十分にわかったのでな。主要都市の中継基地局を破壊して来い。被害を拡大させ、本社の戦力を分散させる。どうだ?守りの堅い本社に比べたら簡単な仕事だろう?作戦開始時刻は今より6時間後、場所位は貴様に選ばせてやるが次は失敗するなよ」
男の吐き捨てるような指示に私は大きな疑問を抱いた。この男はスサノヲが如何に冷遇されようとも命令を正しく遂行すると確信している。スサノヲに対しこうも高圧的でいられる原因は不明だが、絶対的な自信の裏側に明確な根拠があるのは疑いようない。
「承知した。だが何処かのタイミングでいい、G県に転移する許可が欲しい。仲間が助けを待っているんだ、頼む!!」
予想通りイヅナは指示を承諾した。が、対価として地球に置き去りにした仲間の救出を懇願した。生死不明の仲間の為に危機の中に飛び込む選択を人道的、常識的と評価するのはフィクションの中だけ。冷静に考えれば合理性に欠け、褒められる選択肢ではない。
「断る。敵地のど真ん中で逃げ遅れる無能を助けてどうするんだ?そもそも生きている保証は?姿形を似せた偽物を用意している可能性は?救助を見越して罠を張っている可能性は?歴戦の勇士と言えど、仲間の命が掛かると目が曇ってしまうようだな」
悲しいかなアラハバキの男もよく理解していた。
「罠の可能性は現地で判断するッ、だから!!」
「ハハハハッ、度し難いな貴様は。ならば……」
ある意味において、予想通りの指示だった。これまで耐えに耐えていたイヅナだったが、与えられた信じ難い命令に激昂した。怒りに支配され、理性が完全に消失している。
しかし残酷な指示を淡々と与える男も、嘲笑いながら聞いている周囲の者達も、イヅナの反応を知って尚、命令を下した。歴史を遡れば人心を踏みにじる為政者など吐いて捨てる程におり、特別珍しい話ではない。が、しかしそれでも思う。彼等に心はあるのか、と。
「貴様らぁ!!」
当然の反応。我慢の限界を超えたイヅナが獣のように嘲笑う連中に向け駆け出した。対して、ふんぞり返るオールバックの男を含めたアラハバキは顔色一つ変えない。スサノヲに喧嘩を売る理由も、自身の根拠も私には理解できなかった。
母なる宇宙を旅する旗艦アマテラス。その中央に広がる居住区域の遥か上方に高天原は存在する。他区域とは完全に分断された数百キロに及ぶ超広大な空間は、アマテラスオオカミに認められた者――特定のケースを除き、スサノヲを含む限られた役職のみ立ち入る事を許される特別な区域。
その更に天涯に位置する巨大な円柱状の広間、陽光の間。超広大な旗艦に置いて宇宙空間を目視出来る数少ない場所。神の為に用意された特別な空間は主の封印以後、荘厳さとはかけ離れた俗物的な空間に様変わりした。
その厳かな空間に数名の人影が踊る。続けて怒号、嘲笑に満たされた。
映像にはドーム状に広がる陽光の間の中央に陣取る者達が執拗に一人の男を責め続ける様子を映す。初回の襲撃作戦で早期撤退を指示したイヅナ。彼も彼で執拗に食って掛かるが、相手が相手だけに分が悪い。原因は彼の置かれた状況。今、正に口論する相手はアマテラスオオカミ封印以後、旗艦の全てを掌握した市民代表アラハバキと呼ばれる政治的組織。
最も、市民の代表とはいっても主要メンバーの大半が旗艦内でもとりわけ大規模な企業から選ばれた重役達。必然的に偏った思想の元で運営される。利益中心で、それ以外を軽視しているということだ。
「何度でも言う、おかしな事だらけだ!!あの星の文明が一部だけ突出している事、それからカグツチ濃度の急激低下、何も知らされていない!!転移予定地点を動かした事もだ。俺達を使い捨てるつもりか!!それに、交戦した連中の一人が旗艦側との接触を匂わせる発言をしていた!!広大な未探査地域にある一惑星の更に一部地域でしか使われていない言語の翻訳が事前に用意されていた事からも間違いない!!何を隠している!!何をさせようとしている!!お前達の標的は何だ!!」
語気を強めるイヅナの声が部屋中に木霊した。不測の事態でスサノヲを纏め上げる羽目になった男の言い分は最も。言葉が真実ならば、旗艦アマテラス側は戦闘部隊に何一つとして情報を渡さない状況で地球との戦端を開いた事になる。言わずもがな愚行。が、ふんぞり返る3人には届かず。
厳かな空間に似つかわしくない、悪趣味且つ派手な机と絨毯は彼らの内面そのものに見えた。見下ろす者と見上げる者睨み合い。やがて、イヅナの対面に座る者達の一人、中央後方に位置する男が口を開いた。
「言う必要はない。貴様達スサノヲは黙って我々の為に働けばいい。カグツチの濃度は貴様の落ち度。定期的に確認していれば分かることだ」
地球でよく見る一般的なビジネススーツに近しい見た目をした、ナノマシン製高級スーツを着た白髪交じりの髪をオールバックで固めた厳つい顔の壮年の男がイヅナの言葉に反応した。身形、外見、口調の全てが極めて頑固で融通が利きそうない男の内面性を物語る。
「詭弁だ!!事前の接触からカグツチ濃度低下の件をわかっていながら真面な武器を支給しない事が問題だと言っている!!」
「無能の言い訳は聞きたくない。スクナが聞けば嘆くぞ?さて、ならば次は別の場所を襲撃してもらおう。貴様等が想像以上に役に立たない事だけは十分にわかったのでな。主要都市の中継基地局を破壊して来い。被害を拡大させ、本社の戦力を分散させる。どうだ?守りの堅い本社に比べたら簡単な仕事だろう?作戦開始時刻は今より6時間後、場所位は貴様に選ばせてやるが次は失敗するなよ」
男の吐き捨てるような指示に私は大きな疑問を抱いた。この男はスサノヲが如何に冷遇されようとも命令を正しく遂行すると確信している。スサノヲに対しこうも高圧的でいられる原因は不明だが、絶対的な自信の裏側に明確な根拠があるのは疑いようない。
「承知した。だが何処かのタイミングでいい、G県に転移する許可が欲しい。仲間が助けを待っているんだ、頼む!!」
予想通りイヅナは指示を承諾した。が、対価として地球に置き去りにした仲間の救出を懇願した。生死不明の仲間の為に危機の中に飛び込む選択を人道的、常識的と評価するのはフィクションの中だけ。冷静に考えれば合理性に欠け、褒められる選択肢ではない。
「断る。敵地のど真ん中で逃げ遅れる無能を助けてどうするんだ?そもそも生きている保証は?姿形を似せた偽物を用意している可能性は?救助を見越して罠を張っている可能性は?歴戦の勇士と言えど、仲間の命が掛かると目が曇ってしまうようだな」
悲しいかなアラハバキの男もよく理解していた。
「罠の可能性は現地で判断するッ、だから!!」
「ハハハハッ、度し難いな貴様は。ならば……」
ある意味において、予想通りの指示だった。これまで耐えに耐えていたイヅナだったが、与えられた信じ難い命令に激昂した。怒りに支配され、理性が完全に消失している。
しかし残酷な指示を淡々と与える男も、嘲笑いながら聞いている周囲の者達も、イヅナの反応を知って尚、命令を下した。歴史を遡れば人心を踏みにじる為政者など吐いて捨てる程におり、特別珍しい話ではない。が、しかしそれでも思う。彼等に心はあるのか、と。
「貴様らぁ!!」
当然の反応。我慢の限界を超えたイヅナが獣のように嘲笑う連中に向け駆け出した。対して、ふんぞり返るオールバックの男を含めたアラハバキは顔色一つ変えない。スサノヲに喧嘩を売る理由も、自身の根拠も私には理解できなかった。
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