G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第3章 漂流

45話 漂流

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 大きな衝撃、続けて無数の銃声――

「ううぉぉおおおぉ!!」

「おおおおおい、止まっ、止まれぇ!!」

「クソクソッなんなんだよ、何で一発も当たんねーんだよ!?」

 何度も響く小気味良い破裂音の中を、夜の闇をルミナが踊る。銃弾は掠りさえしない。対して彼女の銃撃は全て、正確に警官の銃を破壊した。しかも瞬く間に。彼女と別れてから1,2分しか経っていない筈だが、既に大勢は決していた。ホテルと道路を区切る塀に着地したルミナを、警官の大半が呆然と見上げる。

「オイ、お前ら落ち着けッ。たった一人だぞ!!ちゅうか誰だよアイツ、上からァ何も聞いてねーぞ!!」

 しゃがれた男の怒号。続けて一発の銃弾がルミナの腕を掠めた。どうやら全員が浮足立っている訳ではないらしい。ただ一人、正確に狙撃するヤツがいる。ルミナが空を蹴り、横転した車体の上に立ち、責任者と思われる白髪交じりの男を睨む。

 直後、破裂音。5、4、3、2、1――が、弾丸の軌跡は数瞬前にルミナが居た位置を通過、夜の闇に呑まれた。撃ち切った男は彼女を睨みつけながら一旦車体の陰へと身を隠し、再装填を行う。

 その隙をルミナは逃がさない。地面を蹴り、空に昇り、男を視界に収めと、すぐ傍にある塀を勢いよく蹴りつけ方向転換、目の前に着地した。互いが睨み合い、即座に引き金を引いた。折り重なる銃声。

「な!?」

 結果はルミナの圧勝。男の手の中でリボルバーがバラバラに砕けた。唖然とする男の目はそれでも諦めず、最速で足払いを仕掛けた。が、やはり当たらない。

 少しだけ飛び上がり、足払いを交わしたルミナはそのままくるりと一回転、男を軽く蹴り飛ばした。多分、本気なら死んでるし、足払いも回避されて正解だと思う。彼女、あれで結構な重量があるから蹴ったら逆に骨が折れていたと思う。

 蹴り飛ばされた男は体勢を立て直し、再び睨み上げた。が、目の前に突き付けられた銃口に閉口する。完全な敗北を突きつけられた男は頭をポリポリと掻きながら地面に寝転がり、両手を頭の後ろに置くと足をバタつかせ――

「こりゃあ参ったね。随分と若く見えるのに……百発百中で銃だけ撃ち落とす奴に頭狙われたらもう諦めるしかねーわなぁ。ホントに参ったよ。降参、こうさん、コウサーン!!」

 子供か、と思うような言動で白旗を上げた。態度はどうかと思うが、とにかく勝負は決着した。しかもアッサリと。時間にして1分も掛かっていない。

 ルミナの形勢が不利になるかも知れない、と考えたのは全く無駄だった。僅かしか見る事が出来なかったが、身体の不調を差し引いてもルミナの技量は遥かに高いらしい。少なくとも、並かそれ以上の警察官では相手にならない。と言うか、本当に調子悪いのかアレは?薬みたいなのを飲んでたから調子が戻ったのか?

 壁を蹴り、空を舞いながら警官の銃のみを的確に撃ち抜き、再び空を蹴り、撃ち抜き、軌道を変えながら着地する。一連の行動の度に後ろで束ねた長い銀色の髪が夜の闇に輝く光景が、外に出た瞬間に目撃した光景が頭に焼き付いて離れない。多分、警官達もだろう。職務としてはどうかと思うが、気持ちは分からなくはない。

 出入口をがっちりと守っていたパトカーは何処かに消え失せていた。いや、よく見ると視界の奥の方にそれらしい物体が横転していた。周囲はボロボロ、出入口を塞いでいた車は全部が見事に吹っ飛び、ひっくり返り、オマケに警官の大半は彼女に釘付けとなっている。というか、魅入っている――あるいは魅入られていると表現した方が近い。

 邪魔をする物は何もない。なら、次は俺の番。彼女の言葉を信じ、助手席の窓を開け放ち、アクセルを踏み込み、急発進させた。猛スピードで車両の間を抜け、道路へ飛び出す。

 目的地は決めてないが、袋小路に入ってしまっては元も子もないので一旦はホテルまでの道のりを逆走する。ホテルの塀から様子を窺っていたルミナは俺の考えを理解していたようで、既に走り始めていた。

 横を通り過ぎた際に警官の様子をチラ、と確認した。誰も彼も、何が起こっているかと言った様子で目を丸めていた。そんな状況も追い風になり、ルミナはあっさりと車に追いついた。

 開け放した窓から助手席に飛び乗る。傾き、大きく揺れ動く車体。荷重を移動させ、必死で踏ん張る。ドン、と浮いた車体半分が接地するのを確認するや、即座にルミナが窓から身を乗り出し、手近な範囲に止まっていたパトカーのタイヤを正確に撃ち抜いた。

 ミラー越しに警察の様子を確認した。ある者は呆然とし、またある者は携帯を操作している。どうやら俺以外にもう一人頼りになる相棒がいる事は知らされていなかったらしい。そんな事があるのか?時間稼ぎだから教える必要はないと判断したのか、ただの使い捨てか。

「後ろを見るな」

 不意に、ルミナが叫んだ。余りの手際の良さと違和感、流れ込む風に紛れた為に言葉を理解するのが僅かに遅れた。直後、遥か後方猛烈な閃光が発生、周囲を眩しく照らした。

「も、もっと早く言ってくれよ!?」

 視界を遮る閃光が車体を包み、前方まで広がる。一瞬、ほんの僅かだが視界が完全に塞がった。頼りになる、じゃなくて頼りになり過ぎじゃないかな君?念には念をという理由で閃光弾?を使ったみたいだけど、それならそうと事前に言って欲しかった。

 頭に焼き付いた光景を元にハンドルを、アクセル、ブレーキ、クラッチを動かす。速度は落とさず、停車もしない。千歳一隅の機会を逃せば今度こそ死ぬ。閃光の向こう、閉じた瞼の向こうに清雅の気配を感じる。今はまだとても小さいけど、油断すれば直ぐに追いつく。

「もういいぞ」

 暗闇の向こうからルミナの声がした。ゆっくりと目を開く。視界が完全に戻った。バックミラーから背後を確認すると、折り重なる様に停車する無数のパトカーが小さく消えゆく光景が映る。

 効果は覿面てきめん。あの状況なら諦めるしかないだろう。未だ、甲高いブレーキ音が幾つも聞こえる。滅茶苦茶に停車したパトカーが道路を塞ぎ、追跡を阻む。完全に諦めた訳ではないだろうけど、全力で逃げれば幾らでも撒ける。とりあえず、一難は去った。フロントガラスに視線を戻すと、ライトに照らされる道路の横に、街灯に切り取られた夜の街が浮かぶ。

 当面の問題は解決した。

 が、状況は最悪を底打ったまま。優先すべきは次に身を隠す場所。無難に山奥にでも引き籠るか。清雅市内と比較すれば監視の目は随分と緩い点は好都合だけど、問題は食事。

 ふもとまで下りれば遠からずバレる。逃げる内に携帯は特定され、現金も心許ない。何より、俺の顔が全国に知られてしまった。その後も色々と考え続けたが、やはり何度考えても何処も彼処も安全とは言い難いという絶望的な結論に辿り着く。

 逃げよう、そう言ったはいいが具体的にどうするか何も分からず、何も決められないままに時間だけが過ぎる。我ながらどうしてこんな事を言ったのか。彼女は提案に乗ってくれたが、具体策が浮かばなかったからだろう。

 打開策が何も見いだせないまま彷徨う様は、夜道の様に真っ暗な中を進んでいる感覚に近かった。終わりの見えない逃避行はいつまで続くのか。車から聞こえる音はフル回転するエンジン音だけ。それ以外には何もない。まるでこれから先を暗示しているみたいだった。
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