G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

文字の大きさ
77 / 273
第4章 神

56話 黄昏に沈む 其の1

しおりを挟む
「2人とも逃げるんだよ!!」

 部屋を後にしようと瞬間、老婆の叫び声が背から廊下へと突き抜けた。反応し、武器を実体化させる。ナギは窓を開け放ち、外を睨んだ。

 男がいた。山県大地とは違う壮年の男。オールバックの髪型には白髪が交じっており、背はかなり高いが身体は随分と細い。見た覚えはないが、燐光りんこうの様に舞う青白い粒子をまとう様子、何より左手で老婆を締め上げる光景が敵と告げる。その男はもう片方の手に錠剤の様な何かを握っていた。

 恐れていた事実が目の前に突き付けられる。清雅の追手に見つかった。

 掲示板の情報を見れば、まだ私達のところにまで辿りついていない様に見えたが――やはり、連中を利用したのは間違いない。情報を意図的に垂れ流す事で「この連中を使って私達の居場所を探させている」と思わせた。

 が、実際は二段構えの作戦で「掲示板の情報を意図して捜査、まだ見つけていないと私達を誤認、油断させる」あるいは「掲示板に注意を向けさせ、その隙に他の調査方法で私達を特定する」目的もあったようだ。

 何れにせよ、捕捉された。もう少し時間が掛かるかと思ったが、見積もりが甘かった。もっと早くに行動を起こすべきだった、そんな後悔が心の底から湧き上がる。

「初めまして、お二方。先ずは外に出てきてもらいましょうか。それとナギ君。予備の携帯を用意した点は評価しますよ、しかも決済まで控えるとは実に素晴らしい手並だ。ですが、それも今日この日まで。ここ数日の間に清雅市を離れた車を片っ端から調査しました。全くスマートとは言えない手段ですがね。その情報と暇人共が集めた情報を元にココを特定しました。もう、逃げられませんよ」

 どうやら人海戦術で無理矢理探し出したらしい。ただでさえ厄介なのに、力押しされてはたまったものではない。

「いやはや、連中の熱心さには我々一同頭が下がる思いですよ。何の意味も無いのに、部外者なのに、真実を何一つ知らないのに、目の前にぶら下がった餌に浅ましい程に喰らいつく。その癖に自らを立派だの頭の出来が違うだの他人とは違うだのと己惚れる。清雅の掌で踊らされているとも知らずに、気付かずに、実に救いようの無い連中だ。だがそんな連中でも役に立つ場所と言うモノは存在するのですねぇ。もうすぐ本格的な戦いが始まります、その前に始末しろとの命令ですので貴方達には今ココで死んで頂きたい」

 妙に丁寧な物言いをする男だが、殺意と悪意は全く隠さない。説得などするだけ無駄か。ふと、視界の端にナギが映った。武器を固く握り締めている。老婆を助ける為、あの男に向かうつもりだろう。彼の行動は聞くまでもなく理解できる。だが、だけど――

「いいから早……クッ、に、逃げ」

「逃げても構いませんよ。但しこのご老人がどうなってもいいというなら、ね。ナギ君。君、確か祖父に死なれているんでしたねぇ。また人が死にますよ。但し、今度は君が原因だ。言い逃れしようがなく、ね」

 先を読まれた。私達の行動が遅い事に壮年の男は老婆を締め上げながら、逃走しないよう牽制した。急いでバイザーを起動、反応を調べた。目の前に居る男の他に反応が3つ。やや離れた地点からこの場所へと近づき、取り囲む様に展開すると動きを止めた。一方、もう少し範囲を広げればそれ以外の反応はゼロ。周囲から人払いは完全に終わっていた。

 人数は少ない。だが奴等の兵器と私の戦力を考えれば、これでも十分すぎる。山県大地の時についたハッタリが、まだ有効だと思いたいが、仮に有効だとしても周囲は取り囲まれ、人質を取られ、人払いは終わっている。

 この後に考えられる事態を予測するのは難しくない。あのマジンとかいう青い生物型兵器を出す。しかも、今度は逃げられないよう、確実に始末するよう複数体投入するつもりだ。

 ――逃げる以外の選択肢は存在しない。どう考えようとも、アレに勝てる理由が見当たらない。だが、それでは私達の恩人を見捨てる事になる。身体の奥、僅かに残った生身の部分から表現しようのない痛みが湧き上がり、身体と心を責めさいなむ。言いたくない。選びたくない。それでも、言わない訳にはいかない。戦っても勝てない、ならば逃げるしかないと説明しなければならない。

 震えるナギと目があった。想定外の事態を前に、私以上の混乱に支配されている。無理もない。数日前までは命を狙われる生活、命懸けの戦いとは無縁だった。寧ろ、現状に取り乱さないだけマシだが。

「恐らく、奴等の兵器を持ってきている。触媒となる存在は見当たらないが、確実に。奴が持ってきていないにしても、周囲を囲むように配置された他の連中が持ってきている可能性もある。四方を囲まれた状態で戦っても勝ち目はない」

 ここで過ごした日々の記憶、そして何よりも知ってしまった彼の過去が重しになる。逃げようと言い出せない。やはり話を聞くべきではなかった、そんな後悔が幾度も頭を過った。他にも携帯を譲ってもらった恩もある。この星でナギ以外から与えられた優しさもまた、私の心を重く深い闇の底に沈めていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...