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第4章 神
56話 黄昏に沈む 其の1
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「2人とも逃げるんだよ!!」
部屋を後にしようと瞬間、老婆の叫び声が背から廊下へと突き抜けた。反応し、武器を実体化させる。ナギは窓を開け放ち、外を睨んだ。
男がいた。山県大地とは違う壮年の男。オールバックの髪型には白髪が交じっており、背はかなり高いが身体は随分と細い。見た覚えはないが、燐光の様に舞う青白い粒子を纏う様子、何より左手で老婆を締め上げる光景が敵と告げる。その男はもう片方の手に錠剤の様な何かを握っていた。
恐れていた事実が目の前に突き付けられる。清雅の追手に見つかった。
掲示板の情報を見れば、まだ私達のところにまで辿りついていない様に見えたが――やはり、連中を利用したのは間違いない。情報を意図的に垂れ流す事で「この連中を使って私達の居場所を探させている」と思わせた。
が、実際は二段構えの作戦で「掲示板の情報を意図して捜査、まだ見つけていないと私達を誤認、油断させる」あるいは「掲示板に注意を向けさせ、その隙に他の調査方法で私達を特定する」目的もあったようだ。
何れにせよ、捕捉された。もう少し時間が掛かるかと思ったが、見積もりが甘かった。もっと早くに行動を起こすべきだった、そんな後悔が心の底から湧き上がる。
「初めまして、お二方。先ずは外に出てきてもらいましょうか。それとナギ君。予備の携帯を用意した点は評価しますよ、しかも決済まで控えるとは実に素晴らしい手並だ。ですが、それも今日この日まで。ここ数日の間に清雅市を離れた車を片っ端から調査しました。全くスマートとは言えない手段ですがね。その情報と暇人共が集めた情報を元にココを特定しました。もう、逃げられませんよ」
どうやら人海戦術で無理矢理探し出したらしい。ただでさえ厄介なのに、力押しされては堪ったものではない。
「いやはや、連中の熱心さには我々一同頭が下がる思いですよ。何の意味も無いのに、部外者なのに、真実を何一つ知らないのに、目の前にぶら下がった餌に浅ましい程に喰らいつく。その癖に自らを立派だの頭の出来が違うだの他人とは違うだのと己惚れる。清雅の掌で踊らされているとも知らずに、気付かずに、実に救いようの無い連中だ。だがそんな連中でも役に立つ場所と言うモノは存在するのですねぇ。もうすぐ本格的な戦いが始まります、その前に始末しろとの命令ですので貴方達には今ココで死んで頂きたい」
妙に丁寧な物言いをする男だが、殺意と悪意は全く隠さない。説得などするだけ無駄か。ふと、視界の端にナギが映った。武器を固く握り締めている。老婆を助ける為、あの男に向かうつもりだろう。彼の行動は聞くまでもなく理解できる。だが、だけど――
「いいから早……クッ、に、逃げ」
「逃げても構いませんよ。但しこのご老人がどうなってもいいというなら、ね。ナギ君。君、確か祖父に死なれているんでしたねぇ。また人が死にますよ。但し、今度は君が原因だ。言い逃れしようがなく、ね」
先を読まれた。私達の行動が遅い事に壮年の男は老婆を締め上げながら、逃走しないよう牽制した。急いでバイザーを起動、反応を調べた。目の前に居る男の他に反応が3つ。やや離れた地点からこの場所へと近づき、取り囲む様に展開すると動きを止めた。一方、もう少し範囲を広げればそれ以外の反応はゼロ。周囲から人払いは完全に終わっていた。
人数は少ない。だが奴等の兵器と私の戦力を考えれば、これでも十分すぎる。山県大地の時についたハッタリが、まだ有効だと思いたいが、仮に有効だとしても周囲は取り囲まれ、人質を取られ、人払いは終わっている。
この後に考えられる事態を予測するのは難しくない。あのマジンとかいう青い生物型兵器を出す。しかも、今度は逃げられないよう、確実に始末するよう複数体投入するつもりだ。
――逃げる以外の選択肢は存在しない。どう考えようとも、アレに勝てる理由が見当たらない。だが、それでは私達の恩人を見捨てる事になる。身体の奥、僅かに残った生身の部分から表現しようのない痛みが湧き上がり、身体と心を責め苛む。言いたくない。選びたくない。それでも、言わない訳にはいかない。戦っても勝てない、ならば逃げるしかないと説明しなければならない。
震えるナギと目があった。想定外の事態を前に、私以上の混乱に支配されている。無理もない。数日前までは命を狙われる生活、命懸けの戦いとは無縁だった。寧ろ、現状に取り乱さないだけマシだが。
「恐らく、奴等の兵器を持ってきている。触媒となる存在は見当たらないが、確実に。奴が持ってきていないにしても、周囲を囲むように配置された他の連中が持ってきている可能性もある。四方を囲まれた状態で戦っても勝ち目はない」
ここで過ごした日々の記憶、そして何よりも知ってしまった彼の過去が重しになる。逃げようと言い出せない。やはり話を聞くべきではなかった、そんな後悔が幾度も頭を過った。他にも携帯を譲ってもらった恩もある。この星でナギ以外から与えられた優しさもまた、私の心を重く深い闇の底に沈めていく。
部屋を後にしようと瞬間、老婆の叫び声が背から廊下へと突き抜けた。反応し、武器を実体化させる。ナギは窓を開け放ち、外を睨んだ。
男がいた。山県大地とは違う壮年の男。オールバックの髪型には白髪が交じっており、背はかなり高いが身体は随分と細い。見た覚えはないが、燐光の様に舞う青白い粒子を纏う様子、何より左手で老婆を締め上げる光景が敵と告げる。その男はもう片方の手に錠剤の様な何かを握っていた。
恐れていた事実が目の前に突き付けられる。清雅の追手に見つかった。
掲示板の情報を見れば、まだ私達のところにまで辿りついていない様に見えたが――やはり、連中を利用したのは間違いない。情報を意図的に垂れ流す事で「この連中を使って私達の居場所を探させている」と思わせた。
が、実際は二段構えの作戦で「掲示板の情報を意図して捜査、まだ見つけていないと私達を誤認、油断させる」あるいは「掲示板に注意を向けさせ、その隙に他の調査方法で私達を特定する」目的もあったようだ。
何れにせよ、捕捉された。もう少し時間が掛かるかと思ったが、見積もりが甘かった。もっと早くに行動を起こすべきだった、そんな後悔が心の底から湧き上がる。
「初めまして、お二方。先ずは外に出てきてもらいましょうか。それとナギ君。予備の携帯を用意した点は評価しますよ、しかも決済まで控えるとは実に素晴らしい手並だ。ですが、それも今日この日まで。ここ数日の間に清雅市を離れた車を片っ端から調査しました。全くスマートとは言えない手段ですがね。その情報と暇人共が集めた情報を元にココを特定しました。もう、逃げられませんよ」
どうやら人海戦術で無理矢理探し出したらしい。ただでさえ厄介なのに、力押しされては堪ったものではない。
「いやはや、連中の熱心さには我々一同頭が下がる思いですよ。何の意味も無いのに、部外者なのに、真実を何一つ知らないのに、目の前にぶら下がった餌に浅ましい程に喰らいつく。その癖に自らを立派だの頭の出来が違うだの他人とは違うだのと己惚れる。清雅の掌で踊らされているとも知らずに、気付かずに、実に救いようの無い連中だ。だがそんな連中でも役に立つ場所と言うモノは存在するのですねぇ。もうすぐ本格的な戦いが始まります、その前に始末しろとの命令ですので貴方達には今ココで死んで頂きたい」
妙に丁寧な物言いをする男だが、殺意と悪意は全く隠さない。説得などするだけ無駄か。ふと、視界の端にナギが映った。武器を固く握り締めている。老婆を助ける為、あの男に向かうつもりだろう。彼の行動は聞くまでもなく理解できる。だが、だけど――
「いいから早……クッ、に、逃げ」
「逃げても構いませんよ。但しこのご老人がどうなってもいいというなら、ね。ナギ君。君、確か祖父に死なれているんでしたねぇ。また人が死にますよ。但し、今度は君が原因だ。言い逃れしようがなく、ね」
先を読まれた。私達の行動が遅い事に壮年の男は老婆を締め上げながら、逃走しないよう牽制した。急いでバイザーを起動、反応を調べた。目の前に居る男の他に反応が3つ。やや離れた地点からこの場所へと近づき、取り囲む様に展開すると動きを止めた。一方、もう少し範囲を広げればそれ以外の反応はゼロ。周囲から人払いは完全に終わっていた。
人数は少ない。だが奴等の兵器と私の戦力を考えれば、これでも十分すぎる。山県大地の時についたハッタリが、まだ有効だと思いたいが、仮に有効だとしても周囲は取り囲まれ、人質を取られ、人払いは終わっている。
この後に考えられる事態を予測するのは難しくない。あのマジンとかいう青い生物型兵器を出す。しかも、今度は逃げられないよう、確実に始末するよう複数体投入するつもりだ。
――逃げる以外の選択肢は存在しない。どう考えようとも、アレに勝てる理由が見当たらない。だが、それでは私達の恩人を見捨てる事になる。身体の奥、僅かに残った生身の部分から表現しようのない痛みが湧き上がり、身体と心を責め苛む。言いたくない。選びたくない。それでも、言わない訳にはいかない。戦っても勝てない、ならば逃げるしかないと説明しなければならない。
震えるナギと目があった。想定外の事態を前に、私以上の混乱に支配されている。無理もない。数日前までは命を狙われる生活、命懸けの戦いとは無縁だった。寧ろ、現状に取り乱さないだけマシだが。
「恐らく、奴等の兵器を持ってきている。触媒となる存在は見当たらないが、確実に。奴が持ってきていないにしても、周囲を囲むように配置された他の連中が持ってきている可能性もある。四方を囲まれた状態で戦っても勝ち目はない」
ここで過ごした日々の記憶、そして何よりも知ってしまった彼の過去が重しになる。逃げようと言い出せない。やはり話を聞くべきではなかった、そんな後悔が幾度も頭を過った。他にも携帯を譲ってもらった恩もある。この星でナギ以外から与えられた優しさもまた、私の心を重く深い闇の底に沈めていく。
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