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第4章 神
57話 黄昏に沈む 其の2
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こんな選択を取りたくないし、言いたくもない。出来れば助けたいが、今の私達にそんな力はない。そうするには余りにも無力で、無知だ。いっそ完全な機械ならば――この身体になってから幾度も浮かんでは消えていった考えが、頭の中を隙間なく埋め尽くす。
拒否されるだろう。否定、批判、されるだろう。だが、生き残ろうと思うならば己を殺し、拒絶される覚悟で言うしかない。逃げるべきだ、と――
安寧の生活は破壊された。清雅がそれを許すはずがなかった。私達は再び絶望の底へ落とされる。私はまだいい。ナギは、私より更に深い場所へ叩き落される。
「逃げるべきだ、車を置いてある地点まで君が先に行き私が時間を稼ぐ。一点突破なら……」
「そんな、そんな事……」
予想通りの反応。提案を拒否したナギは私の襟首を掴み、怒りに満ちた目で睨みつける。激情に駆られ、我を失うのを見るのは初めてだ。
「君が私を助ける為に放ったあの一撃を再現できるならば話は別だ」
「は?」
襟元を掴む彼の目に動揺が浮かぶ。あの時の一撃、どうやら無意識的だったようだ。が、今はそれより――彼の目を見つめ、語る。
「できるなら協力する。恐らく奴等もあの時の具体的な情報を知らない。だから人質まで取って私達の、いや君の行動を制限している。確実に出来るのか、出来ないのか。出来ないならば逃げる。悪いが異論は聞けない」
私の言葉に彼はゆっくりと襟から手を放し、自分の手を見つめる。力がある。そう言われたところで今まで認識していなかった力を制御出来る訳がない。
「無理、だ」
「なら逃げるぞ」
「なんで、そんなに冷静でいられる。なんで、そんな機械みたいに冷たいんだよ」
彼の皮肉も初めて聞いた。震える、力ない声が深く私の心に突き刺さる。しかし、予断を許さない。皮肉に心を痛めている時間はない。強引に飲み下し、彼を見つめた。混乱に淀んだ視線が私を睨み返す。互いの視線が重なるのに、心は重なっていない。
「性分だ。私も本心から逃げたいわけじゃない、それに君の気持も……」
「何が」
「すまない、やはり何も分からない」
「分からないなら……クソッ、ゴメン……」
混乱に正常な思考を阻まれるナギが漸く我に返った。相変わらず動揺、混乱しており、視線は力なく床に吸い寄せられる。ややあって「分かった」と、小さく同意してくれた。
一応は納得してくれた。が、こんな状況に陥って始めて感じる。言葉が通じるだけでは駄目だな、と。誰かに何かを正しく伝えると言うのは難しい。そんな当たり前の事実を嫌と言うほど思い知った。
師もこんな気持ちを味わったのだろうかと、そんな考えに至れば随分と迷惑をかけた過去を思い出した。時計を見れば秒針が一周する程度の時間しかたっていない。とても酷く長い様に感じた。
「表に出ないという事は逃げる算段でも立てていると判断してよろしいですね!!」
どうやら外の連中も同じだったらしい。痺れを切らした壮年の男が叫んだ。慌てて窓から外を覗き、混乱した。視界に映るのは、何かを噛み砕く壮年の男一人。男は指先から手の甲辺りに青みがかった模様が入った指先を動かしている。
おかしい?人質は何処だ?どうして消えた?解放する理由など無い。嫌な予感がする、とても嫌な――
「マジンの事は知っていますよねぇ。これはですねぇ色々な使い方があるんですがねぇ……こういう使い方もできるんですよぉ。今それをお見せしましょう!!」
男が不快な笑みを浮かべながら私達を指差した。何時か見た時と同じように手に青い光が集まった。が、何の音沙汰もない。
不発?いや違う、別の能力だ。反射的に動こうとした直後、天井から凄まじい衝撃が発生した。粗末ながらもそれなりに頑丈に造られていた家屋の屋根を易々と破壊し、中に入って来た。全身が仄かに青く発光した――
「ば、ばあちゃん!?」
老婆が姿を見せた。目は完全に正気を失っている。地球に来た初日の光景を思い出せば、青い光が飛んだ後にマジンが発生していた。最初からか。人質ではなく、兵器として利用するつもりだった。
ナギが声にならない何かを叫んでいる。私も同じ気持ちだった。なんでこんな事をする?なんでこんな事が出来る?ヤツ等は私達の為だけにここまでするのか?太陽の光が消失し、全てが薄暗い闇にに侵食され始める。同様に私達の心もまた、闇に塗り潰されようとしていた。私達を照らしていた唯一の光を飲み込んで。
拒否されるだろう。否定、批判、されるだろう。だが、生き残ろうと思うならば己を殺し、拒絶される覚悟で言うしかない。逃げるべきだ、と――
安寧の生活は破壊された。清雅がそれを許すはずがなかった。私達は再び絶望の底へ落とされる。私はまだいい。ナギは、私より更に深い場所へ叩き落される。
「逃げるべきだ、車を置いてある地点まで君が先に行き私が時間を稼ぐ。一点突破なら……」
「そんな、そんな事……」
予想通りの反応。提案を拒否したナギは私の襟首を掴み、怒りに満ちた目で睨みつける。激情に駆られ、我を失うのを見るのは初めてだ。
「君が私を助ける為に放ったあの一撃を再現できるならば話は別だ」
「は?」
襟元を掴む彼の目に動揺が浮かぶ。あの時の一撃、どうやら無意識的だったようだ。が、今はそれより――彼の目を見つめ、語る。
「できるなら協力する。恐らく奴等もあの時の具体的な情報を知らない。だから人質まで取って私達の、いや君の行動を制限している。確実に出来るのか、出来ないのか。出来ないならば逃げる。悪いが異論は聞けない」
私の言葉に彼はゆっくりと襟から手を放し、自分の手を見つめる。力がある。そう言われたところで今まで認識していなかった力を制御出来る訳がない。
「無理、だ」
「なら逃げるぞ」
「なんで、そんなに冷静でいられる。なんで、そんな機械みたいに冷たいんだよ」
彼の皮肉も初めて聞いた。震える、力ない声が深く私の心に突き刺さる。しかし、予断を許さない。皮肉に心を痛めている時間はない。強引に飲み下し、彼を見つめた。混乱に淀んだ視線が私を睨み返す。互いの視線が重なるのに、心は重なっていない。
「性分だ。私も本心から逃げたいわけじゃない、それに君の気持も……」
「何が」
「すまない、やはり何も分からない」
「分からないなら……クソッ、ゴメン……」
混乱に正常な思考を阻まれるナギが漸く我に返った。相変わらず動揺、混乱しており、視線は力なく床に吸い寄せられる。ややあって「分かった」と、小さく同意してくれた。
一応は納得してくれた。が、こんな状況に陥って始めて感じる。言葉が通じるだけでは駄目だな、と。誰かに何かを正しく伝えると言うのは難しい。そんな当たり前の事実を嫌と言うほど思い知った。
師もこんな気持ちを味わったのだろうかと、そんな考えに至れば随分と迷惑をかけた過去を思い出した。時計を見れば秒針が一周する程度の時間しかたっていない。とても酷く長い様に感じた。
「表に出ないという事は逃げる算段でも立てていると判断してよろしいですね!!」
どうやら外の連中も同じだったらしい。痺れを切らした壮年の男が叫んだ。慌てて窓から外を覗き、混乱した。視界に映るのは、何かを噛み砕く壮年の男一人。男は指先から手の甲辺りに青みがかった模様が入った指先を動かしている。
おかしい?人質は何処だ?どうして消えた?解放する理由など無い。嫌な予感がする、とても嫌な――
「マジンの事は知っていますよねぇ。これはですねぇ色々な使い方があるんですがねぇ……こういう使い方もできるんですよぉ。今それをお見せしましょう!!」
男が不快な笑みを浮かべながら私達を指差した。何時か見た時と同じように手に青い光が集まった。が、何の音沙汰もない。
不発?いや違う、別の能力だ。反射的に動こうとした直後、天井から凄まじい衝撃が発生した。粗末ながらもそれなりに頑丈に造られていた家屋の屋根を易々と破壊し、中に入って来た。全身が仄かに青く発光した――
「ば、ばあちゃん!?」
老婆が姿を見せた。目は完全に正気を失っている。地球に来た初日の光景を思い出せば、青い光が飛んだ後にマジンが発生していた。最初からか。人質ではなく、兵器として利用するつもりだった。
ナギが声にならない何かを叫んでいる。私も同じ気持ちだった。なんでこんな事をする?なんでこんな事が出来る?ヤツ等は私達の為だけにここまでするのか?太陽の光が消失し、全てが薄暗い闇にに侵食され始める。同様に私達の心もまた、闇に塗り潰されようとしていた。私達を照らしていた唯一の光を飲み込んで。
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