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第4章 神
58話 黄昏に沈む 其の3
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「当初はですねぇ、無駄に数だけ多い反清雅共に使う代物だったんですよ。ですが、我らが神ツクヨミを奪う為に宇宙から敵がやってくるという信じ難い話を前に改良を余儀なくされました。これが、その結果ですよッ」
外から得意満面な声が聞こえる。今まで自慢できる相手がいなかったからか、何のせよ随分と癇に障る声だ。五月蠅いヤツ、神なしには何も出来ない癖に、と心中で吐き捨てた。
「圧倒的な戦力差を僅かでも縮める為に主神ツクヨミの手によって改良されたマジンは!!あらゆるモノを桁違いの速度で侵食し、乗っ取り!!強化し!!操るッ!!そして私はソレを操り他者を乗っ取る力を持っているのですッ!!寄生された側、特に人間はその力に耐えきれず直ぐに死んでしまうんですがねぇ、だがそれが良い。敵を殺し、操り、倒し、力尽きたら別の敵を殺して乗っ取る。此方は安全な場所で操るので損害はゼロ、完璧でしょう?」
また神か。こんな悍ましすぎる、悪意に満ちた手段を極めて冷静で合理的だというだけで許容する神など認めたくないな。神と言う存在の意味を思い出せば「信仰の対象として崇拝される存在」と現されていた。なのに、現実はどうだ。神の仕業と言うには余りにも残酷すぎる。敵に容赦なく、余りにも非情。
マジンに浸食された老婆はブツブツと恨み言を呟く。辛うじて、ナギの名前だけが聞き取れる。身体に浮かんだ青い模様が一層輝き、かと思えばいきなり突進してきた。
動きはいつか見た巨大な生物型兵器と同じく直線的。が、速度は人外の領域。老婆とは思えない程に圧倒的、異常。反射的に彼の手を引き、高機動を駆使して家の外に飛び出した。暗い夜空の下に出ると手を離し、体勢を整え、銃口を男に向ける。
「ほぉ。聞いた以上に速い。それに、動作に無駄が一切ない。ですが逃がしませんよ。実はこういう事態も想定していましてね、こんな真似も出来るんですよ」
青白い燐光を纏う男が闇の中に浮かび上がる。想像以上に下卑た笑みを浮かべながら、男は何時の間にか持っていた携帯を操作した。直後、青い粒子が更に身体から湧き上がり、瞬く間に光球の様な形状へと変化した。球は男の手を離れ、猛スピードで私達へと向かい――通り過ぎ、家の中へと消え去った。
何故?いや、即座に最悪の答えが頭を過った。迂闊と、感情が口から洩れた。過去、二度見た情報から一人が操れるのは一体だけだと思い込んでいた。
「うわあああぁあぁあああ!!」
「ま、待ってくださいゲイルさんッ、俺達を弾にするなんて聞いてないですよ!!」
冷酷な男の名はゲイルらしいが、そんな何の役に立たない情報はどうでもいい。奴は自身の仲間すら利用、いや使い捨てる気か。怒りが、頭を埋め尽くす。身体中を巡るカグツチが私の感情に反応し、燃え上がる。意志に反応したカグツチが熱を帯び、冷たい絶望を押しのける。
「戦意を喪失した使えない奴等には弾として役に立ってもらえばいい、そういう事です。勿論、君もですよ。今日までご苦労様でした。逃げても構いませんよ。最も、清雅から逃げ切れない事はご存知でしょうから、ただ死ぬのが僅かばかり遅れるだけですがねぇ」
男の言葉、その奥に蠢く感情に心が粟立った。人を人とも思わない、仲間を仲間とさえ思わない悪意。誰も彼も、神さえも正気とは思えない。
ドォン
背後から衝撃。続けて瓦礫の崩れる音。狂気の産物が半壊した家の壁を破り姿を現した。顔に見覚えがある。地球降下翌日、清雅市から逃げる途中で私が生き埋めにしたあの社員だ。老婆と同じく目は正気を失い、太々しかった態度は消え失せ、ただひたすらに何事かをぶつぶつと呟いている。
「女ぁ、殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと……」
「オマエさえオマエさえいなければオマエさえいなければ……」
直ぐ傍から聞きたくない声が折り重なった。最悪と言う言葉すら生温い。元からナギに戦う力はなく、山県大地の時以上に動揺している。あの時見せた力を仮に制御出来たとしても、こんな状態では半減どころじゃない。唯一の味方、身内だった老婆が敵に操られ、憎悪を込めて襲ってくるのだから。しかも、彼自身の決断だ。この家に逃げ込まなければ、もっと早くに逃げていれば、そんな後悔に心が黒く塗り潰されている。
こんな状況で敵の兵器が2体。真面に戦えば勝ち目はゼロで、逃げる隙もない。現実的にゲイルとかいう男を仕留める以外に手立ても同じく。あの男の周囲の空間に僅かな歪みを確認した。当たり前だが防壁を装備している。時間を掛ければジリジリと追い詰められる。一撃必殺。大火力で一気に防壁を撃ち抜く以外に選択肢はない。ただ、今の私に出来るかどうか。
「殺されちまうんだよおおおぉあぁぁああぁ!!」
「よくも弟をぁあああ!!」
絶叫が重なった。チラと背後を覗くと同時、恐怖を内包した叫びと共に2つの影があっという間に距離を詰め、私の視界を占拠した。早い!!一旦距離を取りたいが、易々とはいかない。このままでは山県大地の時と同じ、ジリジリと追い詰められ、消耗する。そして、あの時の奇跡はもう期待出来ない。直感、反射的にナギを突き放し――
「君はムツミを止めろ。できなければ逃げろ!!」
倒せ、殺せとは言わなかった。いや、言えなかった。残酷な選択肢を私の意志が拒絶する。何が正しいか、などこの短時間で出せやしない。そう分かっていても、何処か冷静な部分が自問自答を繰り返す。だが、既に始まってしまった。物事が常に万全の状態で起こる訳ではないとは師の弁。なら、今は正しいと信じるしかない。
距離を取り、青白く輝く清雅社員の男と対峙する。立ち並ぶ家を盾にしながら男と距離を取り、一旦身を隠す。僅かしか観察できなかったが、それでも奴等の兵器について少しだけ分かった事がある。
与えられた命令のみを忠実に実行する代償か、動きは酷く単調。恐らく、複雑な命令を出せない。その前提で作戦を立てる。飛び出し、攻撃を誘う。回避すれば相手は再攻撃の為に僅か足を止める。その隙に足を狙い撃つ。
引き金を引く度に身体の奥からズキ、と鈍い痛みが絶え間なく走る。その痛みに耐えながら、戦わねば活路を開けないと躊躇いなく引き金を引き続けた。
弾丸が周囲に響く程の轟音を上げながら男の足へ肉薄する。どれ程の効果があるか、いや攻撃は通じなくていい。せめて体勢を崩すだけでも――
バチ
願った甲斐があったのか、果たして効果はあった。おおよそ生物らしからぬ音を上げながら、弾丸が男の足を撃ち貫いた。動きが止まった。
初日に戦った恐竜型や翌日のヘビ型とは違い、何故か今日は攻撃が目に見えて効いている事に驚いた。が、同時に別の疑問も湧く。今回と以前の2回の違いは何だ?
奴等が弾と呼ぶマジンの本体ならば攻撃が通るのか、複数のマジンを操っている事で一体に回すエネルギーが減った為か、昨日よりも高性能な武器だからか、あるいは私が認識できない他の要素か。しかし、何にせよ運が良い。
パン
僅か離れた位置から渇いた破裂音が聞こえた。吹っ切れたのか、やむを得ないと判断したのか分からないが、彼も戦う決意を固めたようだ。が、戦うという事は恩人を彼がその手に掛けるという意味――なのに、一瞬、ほんの僅かだけこれで良いと思ってしまった。最低だな、私は。
外から得意満面な声が聞こえる。今まで自慢できる相手がいなかったからか、何のせよ随分と癇に障る声だ。五月蠅いヤツ、神なしには何も出来ない癖に、と心中で吐き捨てた。
「圧倒的な戦力差を僅かでも縮める為に主神ツクヨミの手によって改良されたマジンは!!あらゆるモノを桁違いの速度で侵食し、乗っ取り!!強化し!!操るッ!!そして私はソレを操り他者を乗っ取る力を持っているのですッ!!寄生された側、特に人間はその力に耐えきれず直ぐに死んでしまうんですがねぇ、だがそれが良い。敵を殺し、操り、倒し、力尽きたら別の敵を殺して乗っ取る。此方は安全な場所で操るので損害はゼロ、完璧でしょう?」
また神か。こんな悍ましすぎる、悪意に満ちた手段を極めて冷静で合理的だというだけで許容する神など認めたくないな。神と言う存在の意味を思い出せば「信仰の対象として崇拝される存在」と現されていた。なのに、現実はどうだ。神の仕業と言うには余りにも残酷すぎる。敵に容赦なく、余りにも非情。
マジンに浸食された老婆はブツブツと恨み言を呟く。辛うじて、ナギの名前だけが聞き取れる。身体に浮かんだ青い模様が一層輝き、かと思えばいきなり突進してきた。
動きはいつか見た巨大な生物型兵器と同じく直線的。が、速度は人外の領域。老婆とは思えない程に圧倒的、異常。反射的に彼の手を引き、高機動を駆使して家の外に飛び出した。暗い夜空の下に出ると手を離し、体勢を整え、銃口を男に向ける。
「ほぉ。聞いた以上に速い。それに、動作に無駄が一切ない。ですが逃がしませんよ。実はこういう事態も想定していましてね、こんな真似も出来るんですよ」
青白い燐光を纏う男が闇の中に浮かび上がる。想像以上に下卑た笑みを浮かべながら、男は何時の間にか持っていた携帯を操作した。直後、青い粒子が更に身体から湧き上がり、瞬く間に光球の様な形状へと変化した。球は男の手を離れ、猛スピードで私達へと向かい――通り過ぎ、家の中へと消え去った。
何故?いや、即座に最悪の答えが頭を過った。迂闊と、感情が口から洩れた。過去、二度見た情報から一人が操れるのは一体だけだと思い込んでいた。
「うわあああぁあぁあああ!!」
「ま、待ってくださいゲイルさんッ、俺達を弾にするなんて聞いてないですよ!!」
冷酷な男の名はゲイルらしいが、そんな何の役に立たない情報はどうでもいい。奴は自身の仲間すら利用、いや使い捨てる気か。怒りが、頭を埋め尽くす。身体中を巡るカグツチが私の感情に反応し、燃え上がる。意志に反応したカグツチが熱を帯び、冷たい絶望を押しのける。
「戦意を喪失した使えない奴等には弾として役に立ってもらえばいい、そういう事です。勿論、君もですよ。今日までご苦労様でした。逃げても構いませんよ。最も、清雅から逃げ切れない事はご存知でしょうから、ただ死ぬのが僅かばかり遅れるだけですがねぇ」
男の言葉、その奥に蠢く感情に心が粟立った。人を人とも思わない、仲間を仲間とさえ思わない悪意。誰も彼も、神さえも正気とは思えない。
ドォン
背後から衝撃。続けて瓦礫の崩れる音。狂気の産物が半壊した家の壁を破り姿を現した。顔に見覚えがある。地球降下翌日、清雅市から逃げる途中で私が生き埋めにしたあの社員だ。老婆と同じく目は正気を失い、太々しかった態度は消え失せ、ただひたすらに何事かをぶつぶつと呟いている。
「女ぁ、殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと……」
「オマエさえオマエさえいなければオマエさえいなければ……」
直ぐ傍から聞きたくない声が折り重なった。最悪と言う言葉すら生温い。元からナギに戦う力はなく、山県大地の時以上に動揺している。あの時見せた力を仮に制御出来たとしても、こんな状態では半減どころじゃない。唯一の味方、身内だった老婆が敵に操られ、憎悪を込めて襲ってくるのだから。しかも、彼自身の決断だ。この家に逃げ込まなければ、もっと早くに逃げていれば、そんな後悔に心が黒く塗り潰されている。
こんな状況で敵の兵器が2体。真面に戦えば勝ち目はゼロで、逃げる隙もない。現実的にゲイルとかいう男を仕留める以外に手立ても同じく。あの男の周囲の空間に僅かな歪みを確認した。当たり前だが防壁を装備している。時間を掛ければジリジリと追い詰められる。一撃必殺。大火力で一気に防壁を撃ち抜く以外に選択肢はない。ただ、今の私に出来るかどうか。
「殺されちまうんだよおおおぉあぁぁああぁ!!」
「よくも弟をぁあああ!!」
絶叫が重なった。チラと背後を覗くと同時、恐怖を内包した叫びと共に2つの影があっという間に距離を詰め、私の視界を占拠した。早い!!一旦距離を取りたいが、易々とはいかない。このままでは山県大地の時と同じ、ジリジリと追い詰められ、消耗する。そして、あの時の奇跡はもう期待出来ない。直感、反射的にナギを突き放し――
「君はムツミを止めろ。できなければ逃げろ!!」
倒せ、殺せとは言わなかった。いや、言えなかった。残酷な選択肢を私の意志が拒絶する。何が正しいか、などこの短時間で出せやしない。そう分かっていても、何処か冷静な部分が自問自答を繰り返す。だが、既に始まってしまった。物事が常に万全の状態で起こる訳ではないとは師の弁。なら、今は正しいと信じるしかない。
距離を取り、青白く輝く清雅社員の男と対峙する。立ち並ぶ家を盾にしながら男と距離を取り、一旦身を隠す。僅かしか観察できなかったが、それでも奴等の兵器について少しだけ分かった事がある。
与えられた命令のみを忠実に実行する代償か、動きは酷く単調。恐らく、複雑な命令を出せない。その前提で作戦を立てる。飛び出し、攻撃を誘う。回避すれば相手は再攻撃の為に僅か足を止める。その隙に足を狙い撃つ。
引き金を引く度に身体の奥からズキ、と鈍い痛みが絶え間なく走る。その痛みに耐えながら、戦わねば活路を開けないと躊躇いなく引き金を引き続けた。
弾丸が周囲に響く程の轟音を上げながら男の足へ肉薄する。どれ程の効果があるか、いや攻撃は通じなくていい。せめて体勢を崩すだけでも――
バチ
願った甲斐があったのか、果たして効果はあった。おおよそ生物らしからぬ音を上げながら、弾丸が男の足を撃ち貫いた。動きが止まった。
初日に戦った恐竜型や翌日のヘビ型とは違い、何故か今日は攻撃が目に見えて効いている事に驚いた。が、同時に別の疑問も湧く。今回と以前の2回の違いは何だ?
奴等が弾と呼ぶマジンの本体ならば攻撃が通るのか、複数のマジンを操っている事で一体に回すエネルギーが減った為か、昨日よりも高性能な武器だからか、あるいは私が認識できない他の要素か。しかし、何にせよ運が良い。
パン
僅か離れた位置から渇いた破裂音が聞こえた。吹っ切れたのか、やむを得ないと判断したのか分からないが、彼も戦う決意を固めたようだ。が、戦うという事は恩人を彼がその手に掛けるという意味――なのに、一瞬、ほんの僅かだけこれで良いと思ってしまった。最低だな、私は。
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