G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第5章 謀略 渦巻く

幕間9-1 追撃の手 未だ緩まず

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 20XX/12/19 1900

「くどい、説明の必要は無いと言った筈だ!!それにいい加減この国と我ら清雅は切り離して考えて貰いたいな」

 清雅市内中心に立ち、その全てを眼下に収めるツクヨミ清雅本社ビル、その最上階に男の怒号が鳴り響いた。

「ですが、この国の事を」

「この国は、清雅の恩恵に与る事で栄えてきたのだ。清雅なくば傲慢ごうまんな列強の支配に飲み込まれ、潰され、消えていた。清雅が基盤を作り上げ、時に血を流してでも守り抜いたからこそ現在の繁栄があるのだ。理解しろ。日本にある清雅ではない、清雅の周囲に日本があるのだ。日本の為に清雅が存在している訳ではないッ。市民への説明は任せる。だが、くれぐれも私達の不利になる様な言動だけは慎むことだ」

「……では、我々も独自戦力で持って事に当たらせて頂きます。全世界の通信を乗っ取った警告、誰が、何の目的で、何処から通信しているかすら把握できませんでした。そんな馬鹿げた真似をする位ですから相応の準備は行っているでしょう。戦力は把握しておりますが、それでも清雅だけに任せておくわけには行きません。既に幾つかの国より協力したいとの申し出が有りました。対応が早い国は既に日本への出発準備を整えている最中です。ですから……コチラはコチラで勝手に貴方達を補佐し、その責任は私が取る。それで宜しいか?」

「あぁ、それで結構だ。君達は君達で好きにしたまえ。但し、これ以上私の邪魔をしない事が条件だ」

 語気を荒げる清雅源蔵は、恫喝に等しい一方的な物言いを最後に通話を切った。彼に情報を下ろすよう具申ぐしんした関首相の意図はただ一つ、国民の為。が、結果は燦々さんさんたる有様。

 首相さえ顎で使う傲慢な清雅源蔵が言い捨てた台詞に、私は大きな不安を覚えた。清雅一族とこの国の力関係が逆転してもう随分と時間が立つ。かつては清雅を抑える役目を担っていた日本が、清雅が生み出す雇用と莫大な資本なしでは成立しない状態へと変わり果て随分と時が経つ。

 先程のやり取りがその事実を如実に物語るが、実際は日本以外の全ての国でもやはり同じ。全世界の為政者達は清雅にあらゆる秘密を握られたが為に清雅の傀儡かいらいと成り果てた。

 気骨のある政治家もいるにはいるが、その数は圧倒的に少ない。その事実は多数決をとする現在の国家連合の運営方針では清雅を抑えきれない事を意味する。

 それに、幾つかの国では国と言う体裁を保つ事が限界に達している様子も観察できた。ボロボロの国家、その内実はツクヨミの仮想世界で繋がる新たな国家内小国家とでも言うべき共同体。

 赤い太陽に代表される共同体――国の在り方に不満を持つ者達が一か所に集い、新たなルールの下で暮らす共同体という生き方は、国と相反する理念を持つが故に頻繁に衝突を起こす。国を疲弊させる一因として日々対応に追われる各国上層部の悩みの種もまた、清雅一強を後押しした。

 地球は清雅と清雅以外という歪な構造、地球外に目を向ければカガセオ連合下の旗艦アマテラスが侵略の準備を進める。目先の問題だけでも困難を極めるというのに、その後の事もまた困難を極める。

 この戦いに勝ち、ツクヨミの加護の元で過ごす安息の日々が再び訪れたとして、我らは後どれ位清雅一族を抑えられるだろうか?世界は何時まで正常でいられるだろうか?そんな回答の出ない疑問が私の中で日に日に膨れ上がる。

「社長のお手を煩わせ、誠に申し訳ございません」

「かまわん。奴ならば仕方があるまい。だが、知っての通り今は重要な時期だ。今後は渉外課しょうがいかに対応を一任する。手に負えぬと判断したら無視してもかまわん」

「はっ、はい。それでは失礼いたします」

 ディスプレイに映る室長クラスの男は申し訳なさそうに頭を下げると通信を切った。清雅源蔵は椅子の背もたれに身体を預け、目を閉じた。

 漸く落ち着ける、という訳ではない。隠し切れない怒りをどうにか抑え込もうと必死の様子だ。理由は先程まで話していた関首相絡みではない。怒りの矛先は、社員用とは比較にならない位に値段の張った机の反対側に立つ白川水希に――否、彼女の報告に向かう。

 ゲイルによる逃走者の抹殺失敗、急場凌ぎで改良されたマジンの機能不全。何れもが、清雅源蔵の思惑を完全に外れていた。

「さて、どういう事だ?」

「申し訳ありません、戦闘データを兵器開発部門に回し……」

「物資の補給を受けられない兵士一人にいつまで時間を掛けているのだ!!ヤツに伝えろ、余り私を失望させるな!!」

「承知しました、必ず」

「我が神の予測通り、奴等は最後通牒さいごつうちょうを寄越した。暇人共の作ったサイトの監視を怠るな、事が起こる前に奴らを必ず仕留めろ」

 感情を抑え切れない清雅源蔵は白川水希に厳命すると部屋を後にした。主が消えた部屋に一人残った白川水希の顔が、憎悪と怒りに歪み始める。程なく、彼女は携帯を操作し始めた。が、端末に表示された映像を見た途端、怒りに紅潮した顔が一気に青ざめた。白川水希が携帯を手早く操作する。ワンコール後、電話の向こうからの形式ばった挨拶を無視した彼女は一方的に捲し立て始めた。

「監視課か?私だ。何故情報が消えているんだ!!しかも一つ残らず!!消すなとあれ程言った筈だ、誰がやったんだ!!」

「そ、それが……」

「言い訳はいい。監視課総力を挙げて奴らの行方を追跡、書き込め。情報エサがなければ作れ、火が消えたのならばもう一度炎上させろッ。手段を選ぶな、他の全てはどうでもいい!!」

「は、はい、承知致しました。監視課総力を挙げて取り掛かります」

 口調には平時の冷静さを微塵も感じない程の焦りが噴出していた。が、そんな状態であっても適切的確な指示を飛ばす。全ての指示を出し終えた彼女は乱雑に通話を切った。呼吸は荒い。携帯を握りしめたまま目を閉じ、冷静さを維持しようと努める。が、抑えきれない。

「ナギ……どうして……どうしてアナタは私の思い通りに動かないのッ!!」

 燃え上がる怒りが、その原因の名を叫んだ。誰もいない部屋で怒りに震える彼女の目はどこまでも暗く、歪んでいた。女の名は白川水希――伊佐凪竜一と故郷を同じくする女。彼と白川水希は、顔見知りだ。
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