G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第5章 謀略 渦巻く

幕間11-4 歪みは波紋の様に広がり 楽園を超え 世界を飲み込む 其の4

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 新たな不確定要素、ヒルメ。その存在は大いに気になるが、それ以上に厄介で面倒で愚かなアラハバキの動向も気に掛けねばならない。新たな監視カメラを乗っ取り、映像を切り替えた。刹那、ヒルメの口角が歪んだ――気がした。やはり油断ならない。能面の様な顔の裏には確実に感情、意志があり、つまり何かを企んでいる。が、現状で突き止める手立てはない。

 他方、艦橋から退室したヤゴウ含めたアラハバキ達は分かり易い。上機嫌で悠然と廊下を歩く背中が隠しきれない傲慢ごうまんさを雄弁に語る。本当に分かり易い。どうやらあの男の中では既に戦いに勝利しているらしい。それが証拠に口が随分と滑らかになっている。饒舌な口と軽薄な性格の一部をヒルメに分け与えてほしいものだ。

「精々役に立ってもらいましょう、新たな神の為に」

「あのアマテラスオオカミガラクタさえいなければ、ザルヴァートルなどに押されはせんかったものを」

「うむ。利益を無視した共存共栄、調和などと世迷言を。あんなヤツ、あのまま眠っていればいいのだ」

「そうだね。そして遺産も我々が有効に利用する、そういう運命にあるのだ」

「しかし、よく見つけましたね、ヤゴウ。フフッ、いえ疑っている訳ではないですがね」

「ハハ、偶然の産物だ。親父がやってる引き上げ業の方でちょっと、な」

 ヤゴウが言葉を濁した。が、先を予測するなど容易い。

「なるほど、色々とくすねておったのか」

「そうそう。その中に偶然、遺産関連のデータがあったのさ。しかも、この辺りの宙域目掛けて発信させた小型艦の情報のおまけつきだ」

 やはり、か。余計な事を、そんな愚痴が零れた。どうやらヤゴウ家系はマガツヒ襲撃や事故により廃棄された艦から資源や情報を回収、適切な場所へ正しく引き渡すサルベージ業を営んでいるようだ。

 職に貴賤きせんはないが優劣はある。旗艦とて変わらず、トップエリートは大抵が第一次産業か艦内整備に進む。超広大な艦において安定した食料供給と生命維持は何より重要との理由で、難関の代償に優遇措置も多いと記録にあった。羨望を集める|(今現在は集めていた、だが)スサノヲに次いで多くの人間が憧れる職だそうだ。

 反面、それ以外はごく普通。ヤゴウは兵器開発と整備を手掛けるKNYKカナヤコ重工の重役。家業を継いでいないところを見るに恐らく能力か性格、あるいは双方を理由に不適格の烙印を押されたのだろう。そもそも、能力があれば艦内ヒエラルキーの高い先述の企業に就いている。

 しかし、家系丸ごとが腐っているとは恐れ入る。嬉々として語っているが、回収した資源の窃盗は法令違反。クズが、と隠し切れない本心が口を衝いた。

「その後はあれよあれよと、な」

「なるほど。アケドリの調査用端末、足のつかない惑星調査艇。安くない出費でしたけど、おかげで……ウフフッ」

「あぁ、見事に大当たりだったという訳だ。何機か撃墜されてしまったが、それをご破算にしても良い成果だった。正しく奇跡、正しく幸運。姫様々だな、ハハハッ」

 なるほど。地球に何度も調査艇を送り出したのはヤゴウと隣の女の仕業か。全てを総合すると、幾つもの偶然が幾重にも重なった結果、地球の位置が特定されてしまったようだ。

 一連を旗艦の神が見過ごすなどしない。恐らく他星系の支社辺りを隠れ蓑にしたのか。無能かと思えば一方で妙に慎重な部分もあるな、と珍しく苛立ちを覚えた。誰かに対しここまで負の感情を掻き立てられるのは随分と久しい。

 遅かれ早かれと覚悟していたが、最悪の相手に最悪のタイミングで見つかったのは全くの不運としか言いようがない。とは言え、嘆いたところで現状は変わらない。

「よぉ、ちょいと話があるんだがよ」

 逸れた意識が再びアラハバキに向かう。声の主はタガミ。途端にアラハバキの顔から感情が消えた。誰もが無遠慮に割り込む男に忌々しい視線を向けるが、当人にはなしのつぶて。

「タガミ。こいつを使え。幾分か前に話したタケミカヅチの弐号機だ。オイ、今からコイツの下で働け」

 何かを思い立ったかヤゴウが、引き連れていた護衛らしき男をタガミに紹介した。唐突な指示にタガミは驚き、出掛かった言葉を飲み込み、紹介された男をしげしげと見つめ、かと思えば直ぐにアラハバキに向き直った。目は鋭く、表情は険しい。

 当然か。対マガツヒを想定した次期主力兵器製造計画、通称タケミカヅチ計画。タケミカヅチはその成果と同時に2年前に起きた惨劇の主役。旗艦の歴史上、類を見ない未曽有の事件を引き起こした壱号機の同型機。通常ならば使用を控えて当然。当該機ではない片割れではあるが、惨劇の主役がそこに存在するというそれだけで良い気持ちはしない。

 その弐号機は人間と見分けがつかないほど精巧に人の姿を真似られていた。更に今の姿は戦闘とは無縁、眉目秀麗の優男の見た目をしている。時代や文明は違っても、際立った容姿は人を惹きつけるのに役立つという理由か。

 人心掌握を目的に調整された容姿は正に美形、物語の王子と呼ぶに相応しいが、ともすれば頼りなさすら感じる。しかしアマテラスオオカミが製造を主導した最新鋭機。しかもからとなれば侮るなど出来ない。

「2年前の反乱を思い起こさせるから外見は大きく変えている、愚民からの信頼を得やすいようにな」

「コイツは確かイヅナと一緒にいた……いや、そんな事より本気で使うのか?」

「しつこいな、使える物は何でも使うと言った。それに、今のところ特に問題はない。市民の反応も同じくだ」

「オイオイ、つい最近稼働させてたって訳じゃないのかよ。だが問題がないならば有り難く使わせて貰おう。頼むぞ、弐号」

「はイ。何なりとご命令を」

 タガミは渋々ながら弐号機と共にその場を離れた。その背を見送るヤゴウは懐から端末を取り出し、程なく誰かに通信を行った。傍受に成功したが、素性は不明。少なくとも旗艦内の誰かではないという、それだけしか分からない。

「アマテラスオオカミは無力化した。代替となるシステムはもうすぐ手に入る。相手は未開の野蛮人共、システムが少しばかり知恵を貸したようだが直ぐ終わる。文明の差、力の差は歴然だ。そちらはどうだ?後は……姫……成功……」

 はっきりとその内容を聞き取ることは出来なかったが、ヤゴウの言葉には不穏な単語が紛れていた。やはり何かを画策し、その為に地球の神を求める。地球を血で染めてでも、だ。

 敵――そう、奴等はやはり敵だ。相容れるなど出来ない。
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