G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

文字の大きさ
105 / 273
第6章 決戦前夜

幕間13-1 ~ 神の封印に至る過去 計画の始まり 其の1

しおりを挟む
 20XX/12/21 0035

「2年前に起きた例の事件に関する映像データの復元、完了しました。併せて、旗艦から関連映像を入手しました。何れも断片的ですが、2年前の出来事はおおよそ理解出来ます」

 私の報告にツクヨミは日課を切り上げ、私が収集、復元した映像データに目を通す。私は言葉を続ける。

「その中には特兵研内データベースに保管されていた録画映像も含まれています」

「当該映像は何者かの手により加工、旗艦全域に公開された……か。だが」

「はい。巧妙に隠されていましたが、アラハバキです。アマテラスオオカミの封印に奴等が関わっている点は疑いようありません。ですが、アマテラスオオカミを出し抜けるとなると……」

 映像データの内容は散々に予想した通り。調査過程で分かった幾つもの事実と隠された真実が計画的な神の封印を裏付ける。だが、問題はそんな大それた真似を誰が出来るのか?という点。無論、アラハバキ単独では不可能。現時点で考えられる可能性は一つ――

「人知を超越した力を持つと噂される連合の頂点、カガセオの姫か?」

 旗艦アマテラスが所属するカガセオ連合の頂点、その一つ。同じく連合の頂点に立つアマテラスオオカミと対を成す姫以外に有り得ない。

「腑に落ちないな。封印と言う遠回しな手段を使う理由が分からない。そもそも姫が介入したとして、意図して封印を狙ったのか、それとも意図はなかったが結果として封印された、のどちらだ?少なくとも調査時に主星が介入した痕跡は全く見当たらなかった」

 ただ、そうだとしても彼女の指摘通り意図が全く見えず、証拠もない。

「混乱させて申し訳ありません。可能性の一つとして、という前提を言い忘れておりました。確かに姫が介入する理由が見当たりませんし、もし介入していたとするならば全ての準備全てが無駄となります。考えるのは止めましょう」

「そこまで、なのか?」

「唯一、旗艦のデータベースに『銀河の半分を支配するカガセオの体制を盤石ばんじゃくとするに必要不可欠』との記述がある程度で、具体的にどの様な力を所持しているかについては連合にさえ秘匿されている模様です。加えてもう一点、あらゆる事象の演算を可能とするアマテラスオオカミすら超える力との評価から考えれば十分にあり得るかと」

「……そうか。しかし、今は考えない方が良さそうだ。そもそも介入の有無も力の性質も不明では対策の立てようがない」

「はい、では続けます。先ず、これまで集めた情報を元にしたアラハバキに関する評価です。彼等は綿密に計画を立てた様に見えますが、複数の映像を見るに壱号機の暴走を想定していた可能性は非常に低いと結論します」

「ある程度の計画は立てられるが、結果を予測する能力が非常に低い、もしくは持ちえない、か?」

「はい。彼等の知識は当然ですが経営や経済に偏っており、戦闘関連の知識と情報は著しく不足しています。タガミをはじめとした元ヤタガラスやスサノヲ退役兵を報酬で引き込んだのは不足分を補う為でしょう。しかし」

「一方でその彼らに強い権限を与えていない状況を見るに、非常に俗物的で物欲的で支配欲旺盛だ……と」

「能力も性格も、おおよそ人の上に立つには相応しくない集団と結論します」

 結論を簡潔にまとめた。諦観を含んだツクヨミの溜息が聖域に虚しく響く。

「そのような性格だからこそ、彼等は戦いの手を絶対に止めない。アマテラスオオカミを停止させた状態であの巨大船団の維持、運営を行えるとは思えない。一時不在時の補助システムだけでは足りぬと使える者を総動員しているようだが、それでもボロが出始めている。だから急いでいるのか」

「はい。アラハバキの目的は次の神。地球から奪い、意志を奪い、己に都合の良い新たな人造神として旗艦の中枢に据えるつもりでしょう」

「アマテラスオオカミの代わり、か……足りるかどうかわからないのに」

 囁くような、消え入りそうな声。心が昏く、重い感情に支配されている。アラハバキが求めるは己に都合の良い神。愚かな彼等は、それ故に戦いを絶対に止めない。その事実が改めて重く伸し掛かる。

「歯がゆいな。この状況を変えるには、もはや清雅源蔵に頼るしかない。だが……彼はナノマシンを含む幾つかの技術を与えて以降、明らかに残虐で残酷な選択を平然と行うようになった。彼が何を考えているか、もう今の私には分からない……いや、違うな。何時からだろう、彼の心が分からなくなったのは。もし彼までが暴走してしまえば、地球と宇宙の戦いは確実に泥沼状態に陥る」

 彼女の苦難は何も旗艦側だけではない。清雅源蔵は神を信奉する清雅一族の長でありながら、時に神が望まぬ残虐な選択肢を平然と取るようになった。強烈な信仰心故か、それとも何らかの思惑があっての行動か。基本的にはツクヨミの意に沿ってはいるが、彼の弾く算段次第では更に泥沼となる可能性は否定出来ない。

「本来ならばこの情報を旗艦側に暴露したいのだが……現状を知らせたとしても誰一人信用しない。アマテラスオオカミに取って代わって現れたアラハバキを盲信する市民達の事だから、恐らく私達の罠と否定する。誰も戦いを望んでいる訳ではないだろうに、なのに、決断の行く先を見ようともしない。頼るしかないのか、彼に。もう、誰にも止められないのか」

 全てはツクヨミの言葉通り。アラハバキの意図通りに動く市民が望む限り戦いは止まらない。が、市民は盲信に支配されている。自浄作用が期待出来なければ地球側で対処するしかない。以前からわかっていた事で、だから戦うしかなかった。

 重苦しい雰囲気の中、最初の映像が再生される。ツクヨミの前方に浮かび上がったディスプレイには全ての元凶となった事故の始まりが映し出された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...