G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第7章 世界崩壊の日

幕間16-9 世界崩壊の日 ~ 戦況激変 其の2

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「な、何が起きた!?」

 異常事態を察知したオペレーターの大声が艦橋に木霊した。が、時既に遅く。

「ひじょーに不味いです!!地球人の一部が検疫法に定められた手順を無視して艦内に侵入。滅菌装置が置かれた検疫所を破壊して強引に突破、目標はそのまま……大半が居住区域を目指しています!!このままでは地球土着の細菌が原因となる疫病が蔓延する恐れがあります!!」

「おかしいでしょ!!そもそも旗艦ココへの直接転移は封鎖されて……なのに、なんで繋がってるの!?」

「そんな事、言われたって分かる訳ないでしょ!!」

 艦橋を駆け巡る緊張は、間を置かず混乱へと変わる。今まで敵性存在の侵入を一度として許さなかった旗艦内に、初めて敵の侵入を許した。無論、正規の方法ではない。真っ先に過ったのは疫病。そもそも地球とは敵対状態。除染してから侵入などという丁寧な対応など期待できる訳がない。

 だが、それだけでは終わらない。

「あ、あの……」

「今度は何だよ!!」

「侵入地点を中心に妙な反応がどんどん広がってます。コレ、なんですか?」

 とあるオペレーターが艦内の様子を監視し、異変があればその区画をアラートするシステム映像を巨大モニターに映し出した。モニターには確かにハイドリを中心に未知の何かが広がっていく様子が表示されていた。が、実際の映像にはそれらしい物は何も映っていない。

「何?何よコレ?」

「コレ、汚せ……いや侵食されていってるみたいだ」

「でも直接モニターして見たけどなにも変わりないぞ?何コレ、何なんだよオイ!?」

 確かに一見すれば何も異常はないが、確実に起きている。何をしているか、と言えば単純明快。地上と繋がったハイドリを通し、ホムラをばら撒いているだけ。出鱈目な勢いを維持しながら旗艦を侵食するホムラは尚も衰えることなく広がり続け、やがて艦橋にまで押し寄せた。

「侵食反応、艦橋まで到達!!でも、でも何も?」

「いや、なんかさ……寒気が、気のせいよね?」

「ンな訳、って。なら俺も、気のせいかも知れないけどさ。あの、何かに見られてる様な気がしない?」

 誰もが正体不明の何かに恐怖を覚え、身構える。モニター上では侵食されているのに、周囲を見回してもそれらしい物質は何も見られない。

 が、やがて異変を訴え始める。寒い。誰かに見られている。口々に訴える声は次第に大きく、数を増やし、やがては艦橋を余すところなく飲み込んだ。外敵の侵入だけに止まらない異様な雰囲気と、旗艦完成時から今の今まで一度として起こらなかった不正侵入により正常な思考が奪われ、真面な判断が取れず、ただ口から感情を吹き零すばかり。

 醜態しゅうたいの要因は神。旗艦を制御管理する神が封印されて以後、全てを人が行わねばならなくなった。代替となるシステムは用意されているが所詮は一時凌ぎ、神と比較すれば余りにも性能が劣る。

 補助があっても人程度の能力では神の代替など到底出来ず、よって簡単に限界を超え、挙句に他部門からの仕事も回って来た。艦橋の処理は限界を超えパンク、結果として誰もが疲弊ひへいし切った。すり減らされた精神では真面な判断が取れず、取れたとしても大幅に遅れる。

 だがそれ以上に、誰も彼もが神を頼り切る思考に支配されている事が大きい。あらゆる問題を未然に防ぐ事で艦の秩序と治安を維持してきた神が傍に居るならば、有事であっても頼れば良いという思考が常態化して当然。結果、誰もが想定外の対処方法を知っているだけ、知識や情報として持っているだけで実践する気概も勇気もないと言う、お粗末な連中を生み出した。

 旗艦とその民が如何にアマテラスオオカミという存在に寄り掛かっていたかが窺える一幕だ。

 情けない。口だけではないかと、私はそう思った。コレが連合最先端とうたわれ、楽園と呼ばれ、連合最強の戦力を擁する旗艦アマテラスの真実だ。不幸な戦争が炙り出した技術と文明と――いや、神の加護に溺れ切った人の意志の末路。

「旗艦への転移を許した理由が判明しました。外部からの攻撃により僅か数秒で封鎖が解除されていました。清雅と言う組織の仕業に間違いないでしょうが、侵入された事を悔やんでも解決しません。消毒用の雨の準備を急いでください。準備ができ次第、侵入を許した区域一帯に降らせて未知の粒子ごと洗い流してみましょう。それよりも居住区域への侵入の方が問題ですね」

 冷静な指示が耳を掠めた。監視カメラを操作、声の主を映す。やはり、とツクヨミが呟いた。ヒルメだ。完全機械製の式守シキガミならば混乱とは無縁でも頷ける。指示を受け、一番近くにいたオペレーターがヤタノカガミの調整に忙殺されるヒルメに代わり急いで担当に取り次ぐ。

「問題?居住区域が?……どうしてそんな場所に?まさか無抵抗の市民を狙うつもりなのか?」

「それもあるでしょうが、何処かで服を調達して市民に成りすますつもりです。今のところは侵入者として認識出来ますが、こうまで用意周到となれば識別用生体認証を偽装する手段も用意しているでしょう」

「でもどうやって?どこで?」

「強奪か、あるいは事前に用意していたか。何れにせよ、市民に紛れ込みながら遠隔操作で破壊工作を行うつもりです。敵を見つけられなければ被害は拡大します。幸い、侵入者の数は多くありません。よって、有効な対策は侵入者全員を執拗に追跡する事だけです。お願いできますか?」

「そんな……って驚いてる場合じゃない、承知した。後、各部隊に急いで通達を出し……」

 やはりあの式守が邪魔をするか。冷静沈着なヒルメの声が動揺を飲み込んだ。混乱は消え、意志が、手が、対処へと移る。その矢先――

「オイ、誰が勝手に指示を出していいと言った!!勝手な事をするな、今この艦の責任者はワシだぞ!!」

 怒号が全てを台無しにした。オペレータ達も、ヒルメも怒声の発生源を見つめる。その目に如何なる感情が宿っているか、など感情に疎い私ですら簡単に理解出来た。敵である私ですら同じ気持ちを抱いた。

 彼等には立場の違いを超えた同情すら湧く。瞬く間に、艦橋が諦めと怒りに支配された。誰もが吐き出したい感情を必死でこらえる。握った拳に力を込め必死で耐える者、抑えきれない怒りにデスクに当たる者までいた。

 一方、下に付く者の感情など全く意に介さない怒号の主、ヤゴウは周囲から愚か者の烙印を押されている事など知りもせず、ただ己の立場に酔いたいが為に無能極まりない指示を出し続ける。だから、あの男は知らない。無能故に知らない。突き進む先に待つのは破滅と敗北であることを知らない。
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