G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第7章 世界崩壊の日

幕間16-10 世界崩壊の日 ~ 旗艦侵入 其の1

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 20XX/12/22 0930

 ハイドリを抜け、現人偽神達が到着した場所は旗艦内外を繋ぐ検疫部門管轄地区、第一検疫所。やがて検疫所から衝撃が発生、続いて扉が強引にこじ開けられた。姿を現したのは旗艦への侵入を果たした白川水希達。無論、悠長に検疫所で検査を受けるなどしない。

 本来ならば封鎖されている旗艦への転移を可能としたのはツクヨミ。彼女の圧倒的な演算能力ならば封鎖を解除、旗艦と直通させるなど容易い。旗艦アマテラスへの道は僅か数秒で繋がった。

 本命の旗艦に侵入した彼女達の目に飛び込んで来たのは殺風景な検疫所とその先に見える無機質で殺風景な空間。風光明媚ふうこうめいびな景色は一切なく、夥しい数のレールが敷かれ、その上部に行き先が記された電光掲示板の光が淡く光る。

 この場所から市街地を始めとしたあらゆる施設群同士へ移動する玄関口。超広大な旗艦にける長距離移動には転移が用いられるが、逆に比較的短距離な場合は完全自動運行の列車が代替する。本来ならば人が活発に往来する時刻。が、戦いを前に入艦に制限を掛けたようで人の姿は見られない。

「では、各自の端末に送られた指示通りに行動しなさい。目的地までの数字上の距離は途轍もないですが、高速列車を出た先に点在する固定転移装置による転移が大半で、実際の移動距離はほんの僅かで済むそうです。何事もなく進めば10分程度で到着……」

 シン、と静まり返る検疫所に白川水希の声が響く。ココまでは事前の計画通り。が、説明と並行して端末を操作する彼女の口が止まる。

「艦橋に護衛が、いない?少し予定を変更、艦橋には私が1人で向かいます。レイコ達は居住地区へ、それ以外は予定通りそれぞれの担当区域に。以後は手筈通り、市民に成りすまして破壊工作、可能な限り敵を引き付けなさい」

「ですが、貴女は大丈夫なのですか?あの人だけでなく貴女にまで何かあれば私は……」

「恩義は気に掛ける必要はないと前にも言ったでしょう?アナタはアナタの役目に集中しなさい」

「はい。分かりました。では私は一番近い居住区画へ向かいます!!」

 少々の問答の末、本来の計画とは別行動を取る為に現人偽神アラヒトガミの少女が足早に姿を消した。固く握りしめる武器はマジンと融合した刀。元を辿れば彼女の家に代々伝わる由緒ある名刀だそうだ。時の権力者を常に影から日向から護ったとされる刀を彼女は力の依代に選んだ。少女が行使する力は、力による解決を主眼に選んだ他の現人偽神とは少しばかり違い、だから危険な旗艦内の襲撃に抜擢された。

 女はどれだけ鍛えても腕力で男に勝てない。鍛えなくても勝てる力の使い方を身に付けろ、とある男から受けた助言を元に彼女は才能を開花させた。少女の努力が正しく報いた力は斬ると言う刀本来の役目は勿論の事、振るう度に刀身から零れるナノマシンを吸い込んだ人間の脳に強く作用する。端的に説明れば、少女の声に従うようになる。

 他者を意のままに操ると言う、地球において少女一人に開花した、極めて特異な能力。

 最も、その力は少女の胆力を反映してか酷く不安定で、ちょっとしたことで正気を取り戻す。現状の彼女ではほんの僅かな隙を作るのが精一杯。とは言え、それでも旗艦側から見れば脅威でしかない。何せ連合において人の精神に作用するナノマシンの製造は禁止されており、またそもそも製造自体も極めて困難を極める為に連合の何処にも存在しない。

「麗しいですねぇ、愛情と言うのは。ですが、そんな軽薄な感情で戦いに勝てるならば苦労はしませんよねぇ?おっと、これはすみません。お気に障りましたか?」

「いいえ。では、我々も参りましょうか。全員、与えられた目的を必ず遂行しなさい!!」

「「「「はい。承知いたしました」」」」

「では私も……ン?何これ?」

「これは、雨?艦内の、しかもこんな場所で?いやはや何ともまた、奇妙な光景だ」

 一足先に目的地へと向かった少女に続こうとした直後、不意に滴る何かに気づいたミズキとゲイルが殺風景な天井を見上げた。残り現人偽神達も視線の先を追う。見上げても確認出来ない上空数百メートル上の天井付近には幾つもの小さな穴が開いており、其処からまるでシャワーの様に水が噴出し始めた。

 出始めは弱く、やがてそれなりに勢いと量を伴い強く地面に向けて降り注ぐ様子は、地上から見ればなるほど確かに雨に酷似している。が、実際は違う。雨と同時に緊急警報のサイレンが周辺に鳴り響く。

「当該区域で業務に当たる市民の皆様にお知らせします、レベル三の緊急警報が発令されました。ただ今、当該区域を中心に消毒雨による滅菌処理を行っております」

 サイレンが終わり、続けて無機質な人工音声が周辺に警告を始めた。

「旗艦秩序維持法に定められた検疫けんえき法に基づき、市民の皆様は消毒雨の散布が終了し、安全が確認されるまで最寄りの避難所からの外出が禁止されます。また、現在外出中の方は至急付近の避難所へ退避するようお願いします。併せて、本警報が発令された時点で当該区域からの移動禁止措置が取られます。旗艦検疫部門が到着次第行われる検査をクリアした者から順次解放される手筈となっておりますので、そのまま今しばらくお待ちください。尚、検査前に当該区域外へ移動した者は、理由の如何に関わらず処罰の対象となりますのでご注意ください。繰り返します……」

 閉鎖空間で降る雨の正体は検疫法に基づく消毒。誰もが暫し足を止め、無機質な警告を聞き入る。

「なるほど、パンデミック防止ですか。確かに、力づくで突破しましたからねぇ。と、するならば我々の後を追う様に雨が降る訳ですか。いやはや」

「つまり、私達がいると市民は外に出られないのか。予定を再修正、標的を避難施設に変更します。迎撃部隊の接近を確認次第、速やかに離脱。以後、繰り返しながら予定時間まで艦内をかく乱しなさい」

 白川水希が計画の再度修正を告げた。突発的な事態への対処として十分で、だから私もツクヨミも特に指示を出さなかった。

「私達がしくじれば地球は終わります。それだけは忘れないように。では、解散!!」

 指示を受け、各々がそれぞれの戦場へと駆け出した。居住区域へ。武器保管庫へ。与えられた目的を果たす為に、無駄を一切省き、行動を開始する。一方、全員を見送った白川水希は未だ雨が降る中に佇んでいた。その目が何を考えているかは未だに理解出来ないが、しかし多少の修正があったとはいえ計画は順調に進行している。

 艦内の仕組みを一々事細かに説明しなかったのは、情報の詰め込み過ぎによる判断遅れへの懸念もあるが、それ以上に彼女の存在に依るところが大きい。実際、計画を最適に修正した。彼女の役割は艦橋の占拠とアラハバキの無力化だが、今の様子を見れば十分に果たしてくれるだろう。

 やがて彼女も青い龍に腰かけ、目的の場所を目指し猛進を始めた。初めて訪れる巨大な人工物に狼狽える事なく、まるで知った風に突き進む彼女の目に迷いはない。
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