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第7章 世界崩壊の日
幕間16-11 世界崩壊の日 ~ 旗艦侵入 其の2
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20XX/12/22 0933
清雅市の戦況は激変した。ハイドリを占拠され、戦力の補充が行えなくなったクズリュウの勢いは格段に落ちた。また、清雅の本格的な参戦も後押しする。
マジンの攻撃はクズリュウを相手に手傷を追わせる程度の火力を出し、攻撃を受けようが暫くもすれば修復される。防壁もまたクズリュウの攻撃を相殺、致命傷から守る。
全て、問題なし。何もかもが想定通り。今はこれで十分。少数精鋭故に数の差を即座に押し返せてはいないが、勢いを削ぐだけならばこの程度であっても問題はない。
一方、優勢から一転して劣勢へと叩き落されたクズリュウの有様は悲惨そのもの。漸く理解したようだ。己に近づく敗北の足音を。今はまだとても遠く小さいが、徐々に、確実に近づく。無論、アラハバキの元へもだ。
艦橋を確認した。予想通りの光景が見えた。ヤゴウが特に口ぎたなくクズリュウを無能だなんだと罵っている。私が傍に居ればそれはお前だろうと言ってやりたいのだが、残念ながら私はあの場にも居なければ直接通信を入れて無能と罵る趣味もない。だから、彼は己が無能である事を理解出来ない。
が、そんな傲慢な態度が一変した。艦橋に映し出された夥しい数の映像の内の一つが、ハイドリを経由し、旗艦アマテラスへ侵入する青い影を捉えた。網目の様に張り巡らされた固定転送装置を移動する影の正体は艦橋へと向かう白川水希と彼女が造り出した龍。
旗艦アマテラスは途轍もない大きさであるが故に、通常の移動手段で艦内を移動していては目的地に到着するまでに数日から数十日以上掛かる事など当たり前。その問題を解決する為、艦の彼方此方に特定地点間同士を繋ぐ専用の転移施設が設置されている。但し、その数は余りにも膨大。それこそ無数に立ち並ぶ為、何も知らない侵入者が正確に目的地へと辿り着くなど本来ならば不可能。
しかし、旗艦の情報はツクヨミにより解析され尽くしている。故に白川水希も、他の現人偽神達も艦内をまるで勝手知ったる実家の如く正確に目的地を目指す。
白川水希は可能な限り敵を避け、無理なら速やかに排除しながら艦橋を目指す。戦いにおける時間の有用性を何よりも理解している彼女は無心そのもの、冷徹に目的を遂行する。
艦橋の前面に浮かぶ巨大なディスプレイが徐々に近づく死神の存在を淡々と映し出すと、漸く事態を察したヤゴウは必死に迎撃を指示し始めた。既に、傲慢さは微塵も存在しない。
圧倒的な文明と戦力差が生むワンサイドゲーム。彼らの頭の中にはそんな言葉と都合のよい妄想で支配されていた。が、現実は予想とは真逆。オペレーター達も、今戦場で戦う誰もがまさか自分達が狩られる側に回るとは微塵も考えておらず、従って残酷な現実の到来を想像することさえ出来なかった。今、この時までは。
「弐号機に連絡!!こちらに来いと伝えろ!!」
「承知しました……だ、駄目です!!通信に応答しません、目的地検索中、出ました。第五居住区画へ向かっています!!」
「そんな奴らよりこっちを優先しろ!!そんな事も分からんのか!!えぇい、ならば艦内移動用ハイドリへのエネルギー供給を切れ、今すぐだ!!」
「無茶言わないでください!!切ってしまったら大半の部隊と市民が孤立しますッ。それに供給を停止するには所定の手順が必要で、非常に時間が掛かります。今すぐには無理です!!」
「に……弐号機から返答あり、敵部隊の居住区画への侵入を確認、排除に移るとの事です!!」
「どいつもこいつも!!ならばまだ地上へ侵攻していない部隊を此方に回せ!!」
「承知しました、地上侵攻部隊の一部を艦橋の防衛に回すよう通達……残存全部隊、既に防衛に回っているそうです。第十隊長カラオより報告あり、読み上げます。『侵攻用のハイドリを敵に奪われた、新たなハイドリの生成を求める、地上に侵攻した部隊が全滅する恐れあり』との事です!!」
「そんな馬鹿げた事があるか!!各部隊に伝えろッ!!半分をココに回し、残りは地上に降下しろ!!オイ、新しいハイドリを作れ!!今すぐだ!!」
太々しい態度は完全に鳴りを潜め、隠しようがない程に焦る。漸く状況を飲み込み、ひたすらに右往左往するその姿にほんの少しだけ溜飲が下がった。
が、もう遅い。気付いた頃には全てが決まっている。王手。チェックメイト。彼等は漸く自分達が徐々に詰み状況に向かっている気付いた。露骨に焦るヤゴウ。対照的に冷静か、あるいはそれを装っている風に見えるオオゲツ。そして――
「何処に行くつもりだ!?」
艦橋の入口に立つハヅキ。逃げるつもりなのは明白。
「なに、適当なところで見学させて貰おうと思うてね。勝利は揺るがないならば、どこで見ていても同じじゃろう?」
ヤゴウは堪らず怒号を上げたが、情けない言い訳を置き去りにハヅキは艦橋入口の奥へと消え去った。真意は多くの者に見透かされている。強がってこそいるが、死ぬのが怖いだけ。強気な口調とは真逆に怯えた目が、隠した心情を物語っていた。
「あのババァ……勝手な事を!!」
「フフッ、老い先短い老人でも死は怖いようですね」
ヤゴウとオオゲツが逃げたハヅキに悪態をついた。が、死の気配を僅かでも悟り、逃げ出すのは寧ろ当然。身勝手な言動を目の当たりにしたオペレーター達は、未だこの場に残るアラハバキへの不快感を更に強めた。
ヒルメも同じく。無言で己に与えられた仕事をこなしているが、その目は他の者達と同じく彼等への不快感で溢れている様に見えた。
清雅市の戦況は激変した。ハイドリを占拠され、戦力の補充が行えなくなったクズリュウの勢いは格段に落ちた。また、清雅の本格的な参戦も後押しする。
マジンの攻撃はクズリュウを相手に手傷を追わせる程度の火力を出し、攻撃を受けようが暫くもすれば修復される。防壁もまたクズリュウの攻撃を相殺、致命傷から守る。
全て、問題なし。何もかもが想定通り。今はこれで十分。少数精鋭故に数の差を即座に押し返せてはいないが、勢いを削ぐだけならばこの程度であっても問題はない。
一方、優勢から一転して劣勢へと叩き落されたクズリュウの有様は悲惨そのもの。漸く理解したようだ。己に近づく敗北の足音を。今はまだとても遠く小さいが、徐々に、確実に近づく。無論、アラハバキの元へもだ。
艦橋を確認した。予想通りの光景が見えた。ヤゴウが特に口ぎたなくクズリュウを無能だなんだと罵っている。私が傍に居ればそれはお前だろうと言ってやりたいのだが、残念ながら私はあの場にも居なければ直接通信を入れて無能と罵る趣味もない。だから、彼は己が無能である事を理解出来ない。
が、そんな傲慢な態度が一変した。艦橋に映し出された夥しい数の映像の内の一つが、ハイドリを経由し、旗艦アマテラスへ侵入する青い影を捉えた。網目の様に張り巡らされた固定転送装置を移動する影の正体は艦橋へと向かう白川水希と彼女が造り出した龍。
旗艦アマテラスは途轍もない大きさであるが故に、通常の移動手段で艦内を移動していては目的地に到着するまでに数日から数十日以上掛かる事など当たり前。その問題を解決する為、艦の彼方此方に特定地点間同士を繋ぐ専用の転移施設が設置されている。但し、その数は余りにも膨大。それこそ無数に立ち並ぶ為、何も知らない侵入者が正確に目的地へと辿り着くなど本来ならば不可能。
しかし、旗艦の情報はツクヨミにより解析され尽くしている。故に白川水希も、他の現人偽神達も艦内をまるで勝手知ったる実家の如く正確に目的地を目指す。
白川水希は可能な限り敵を避け、無理なら速やかに排除しながら艦橋を目指す。戦いにおける時間の有用性を何よりも理解している彼女は無心そのもの、冷徹に目的を遂行する。
艦橋の前面に浮かぶ巨大なディスプレイが徐々に近づく死神の存在を淡々と映し出すと、漸く事態を察したヤゴウは必死に迎撃を指示し始めた。既に、傲慢さは微塵も存在しない。
圧倒的な文明と戦力差が生むワンサイドゲーム。彼らの頭の中にはそんな言葉と都合のよい妄想で支配されていた。が、現実は予想とは真逆。オペレーター達も、今戦場で戦う誰もがまさか自分達が狩られる側に回るとは微塵も考えておらず、従って残酷な現実の到来を想像することさえ出来なかった。今、この時までは。
「弐号機に連絡!!こちらに来いと伝えろ!!」
「承知しました……だ、駄目です!!通信に応答しません、目的地検索中、出ました。第五居住区画へ向かっています!!」
「そんな奴らよりこっちを優先しろ!!そんな事も分からんのか!!えぇい、ならば艦内移動用ハイドリへのエネルギー供給を切れ、今すぐだ!!」
「無茶言わないでください!!切ってしまったら大半の部隊と市民が孤立しますッ。それに供給を停止するには所定の手順が必要で、非常に時間が掛かります。今すぐには無理です!!」
「に……弐号機から返答あり、敵部隊の居住区画への侵入を確認、排除に移るとの事です!!」
「どいつもこいつも!!ならばまだ地上へ侵攻していない部隊を此方に回せ!!」
「承知しました、地上侵攻部隊の一部を艦橋の防衛に回すよう通達……残存全部隊、既に防衛に回っているそうです。第十隊長カラオより報告あり、読み上げます。『侵攻用のハイドリを敵に奪われた、新たなハイドリの生成を求める、地上に侵攻した部隊が全滅する恐れあり』との事です!!」
「そんな馬鹿げた事があるか!!各部隊に伝えろッ!!半分をココに回し、残りは地上に降下しろ!!オイ、新しいハイドリを作れ!!今すぐだ!!」
太々しい態度は完全に鳴りを潜め、隠しようがない程に焦る。漸く状況を飲み込み、ひたすらに右往左往するその姿にほんの少しだけ溜飲が下がった。
が、もう遅い。気付いた頃には全てが決まっている。王手。チェックメイト。彼等は漸く自分達が徐々に詰み状況に向かっている気付いた。露骨に焦るヤゴウ。対照的に冷静か、あるいはそれを装っている風に見えるオオゲツ。そして――
「何処に行くつもりだ!?」
艦橋の入口に立つハヅキ。逃げるつもりなのは明白。
「なに、適当なところで見学させて貰おうと思うてね。勝利は揺るがないならば、どこで見ていても同じじゃろう?」
ヤゴウは堪らず怒号を上げたが、情けない言い訳を置き去りにハヅキは艦橋入口の奥へと消え去った。真意は多くの者に見透かされている。強がってこそいるが、死ぬのが怖いだけ。強気な口調とは真逆に怯えた目が、隠した心情を物語っていた。
「あのババァ……勝手な事を!!」
「フフッ、老い先短い老人でも死は怖いようですね」
ヤゴウとオオゲツが逃げたハヅキに悪態をついた。が、死の気配を僅かでも悟り、逃げ出すのは寧ろ当然。身勝手な言動を目の当たりにしたオペレーター達は、未だこの場に残るアラハバキへの不快感を更に強めた。
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