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第7章 世界崩壊の日
87話 死ぬなよ
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「ちょっと屈んでな」
猛スピードで発進した車は道なりに進みながら本社出口を目指す。直ぐ傍には清雅の社員。マジンとかいう兵器を操る女?らしき人影との距離がみるみる近づく。
見つかれば問答無用で攻撃される、と反射的に後部座席に潜り込んだ。屈みながらも銃を持つ手に力を入れる。何の役にも立たないだろうが、それでも何もしないよりはマシだと祈る様に握り締めた。
「だから大丈夫だって。ホラ、今どっかと連絡してるぞ?俺達を社員だと勘違いして、逃がせって指示でも出てるんじゃない?」
刑事の言葉に恐る恐る後部座席から後方を覗いた。確かに言葉通り、女が誰かと連絡を取っている。直ぐ傍には全長10メートル以上はある鋼鉄の巨人。如何にもといった姿をしたロボが車を無言で見下ろす。確かに攻撃の気配は微塵も感じない。通話を切った女が通信相手に一礼した。一体、誰と連絡を取っていたんだろう?清雅源蔵か?
「ハハ、だから安全って言ったろ?」
俺の疑問を遮り、運転席から刑事が得意満面に笑う。確かに、と刑事を見ると左手一本でハンドルを操作しながら、右手を窓の外に投げ出していた。よく見たら小さな白旗を振っている。な?とミラー越しに俺を見る刑事のオッサン。自慢気に笑っているが、多分関係ないだろ。
「さて、じゃあ第三ビルだったか。近くでドンパチやってるから、ちょいと遠回りするぜ。で、だ。頼みがある、アンタが知ってる事、全部教えて欲しい」
唐突に、刑事が切り出した。飄々として掴みどころがないが、一応は職務には熱心なのか?そう言えば、何か気になったから清雅本社までやって来たんだったな。職業柄――いや、違うか。もしかしたらこの刑事も察したのかもしれない。俺が一連の不可解な現実の答えを知る位置にいると踏んでいる。確かに知っている。が――
「正直に話すけど、その代わり頭おかしいとか言わないでくれよ。本当の事なんだから」
こうやって前置きをしておかなければ口汚く罵られるか、嘘をつくなと怒鳴られる。少なくともその程度には荒唐無稽な話だ。
「なんだそりゃ?」
俺の言葉に刑事は顔をしかめた。ま、無理もないか。
※※※
戦場を避けるために歩道を走り、ビルの中を突っ切り、大きく迂回したり、と紆余曲折があったものの、目的の場所には直ぐに到着した。近くで戦闘が起きているにも関わらず、何の怪我もなくすんなりと辿りつけて安堵した。反面、ハンドルを握る刑事はそう思っていないようだ。何とも口惜しそうな、端的に時間が足りないと嘆いている。
「外でドンパチやってる宇宙から来たナントカって連中の映像を見ただけじゃ半信半疑だったが、巻き込まれた当人がそう言ってるんなら間違いないんだろうな。ま、確かにそう考えりゃあ清雅の出鱈目な技術力に納得はいくよな。何せ、世界中の科学者連中が揃って白旗上げる様な代物だ。こぉんな風に、さ」
俺の話をすんなりと受け入れた刑事は小さな白旗を何度か振った。確かに、と思う。俺の世代もそうだし、50歳位に見えるこの刑事の世代の時点であっても既に携帯端末が世界中に行き届いている状況だったから、何の疑問もなく受け入れられた。ただ、技術革新をリアルタイムで見た世代からの批判、不信は大きかったと歴史の授業で習った。科学者達が連名で批判した、なんて事件もあったらしい。
「うーむ。頭がパンクしそうだ」
刑事が盛大な溜息と共に再び白旗を振った。心情はよく理解できる。俺も最初はそうだった。
「宇宙人が落っことした携帯端末を拾ったか、あるいは助けられた見返りに協力しているのか。それとも無理矢理……は有り得ねぇよな。今日この日まで何も問題起きなかったんだからなぁ」
ただ、やはり真相に辿り着くのは無理だ。特に刑事のオジサンが話を聞いたのは数分前。もっと懇切丁寧に教えてあげたかったが、生憎と俺には時間がない。逸る俺の顔にオジサンは何かを言い出しかけ、飲み込んだ。代わりに口元に手を当て、うーむと唸り声を上げる。
「言った通りさ。嘘じゃない、命を狙われたし、身近な人が一人死んだ。ここで嘘をつく理由はないよ」
「それが本当なら、俺どころか警察の手にも負えんなぁ。本当ならもっと聞きてぇが、お前さんの邪魔する訳にもいかねぇ。じゃあアバよ」
「あぁ、コッチこそありがとう。それと」
「そうだな、後よぉ」
後部座席のドアを開け外に出た、ビルの正面には大きく清雅第三ビルと書かれている。扉を閉め、運転席のオジサンを見下ろした。オジサンも俺を見上げ、ニカッと笑った。自然と、俺も笑みが零れた。
「「死ぬなよ」」
互いの別れの言葉が偶然にも重なった。刑事はハハ、と苦笑した。逸る気持ちは確かにあった。だけど、あの時間は無駄ではないと、そう思えた。
刑事は苦笑した顔を変えないままに車を発進させた。小さくなる車を見送っていると、開け放たれたままの運転席側の窓から手をヒラヒラと動かすのが見えた。俺も小さく手を振り、逃げ去る車に背を向け、ビルを見上げ、固く閉ざされた入口を蹴り飛ばし、駆け上がる。この何処かにルミナがいる。
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7章終了
next → 8章【神の願い 望み ただ一つの答え】
猛スピードで発進した車は道なりに進みながら本社出口を目指す。直ぐ傍には清雅の社員。マジンとかいう兵器を操る女?らしき人影との距離がみるみる近づく。
見つかれば問答無用で攻撃される、と反射的に後部座席に潜り込んだ。屈みながらも銃を持つ手に力を入れる。何の役にも立たないだろうが、それでも何もしないよりはマシだと祈る様に握り締めた。
「だから大丈夫だって。ホラ、今どっかと連絡してるぞ?俺達を社員だと勘違いして、逃がせって指示でも出てるんじゃない?」
刑事の言葉に恐る恐る後部座席から後方を覗いた。確かに言葉通り、女が誰かと連絡を取っている。直ぐ傍には全長10メートル以上はある鋼鉄の巨人。如何にもといった姿をしたロボが車を無言で見下ろす。確かに攻撃の気配は微塵も感じない。通話を切った女が通信相手に一礼した。一体、誰と連絡を取っていたんだろう?清雅源蔵か?
「ハハ、だから安全って言ったろ?」
俺の疑問を遮り、運転席から刑事が得意満面に笑う。確かに、と刑事を見ると左手一本でハンドルを操作しながら、右手を窓の外に投げ出していた。よく見たら小さな白旗を振っている。な?とミラー越しに俺を見る刑事のオッサン。自慢気に笑っているが、多分関係ないだろ。
「さて、じゃあ第三ビルだったか。近くでドンパチやってるから、ちょいと遠回りするぜ。で、だ。頼みがある、アンタが知ってる事、全部教えて欲しい」
唐突に、刑事が切り出した。飄々として掴みどころがないが、一応は職務には熱心なのか?そう言えば、何か気になったから清雅本社までやって来たんだったな。職業柄――いや、違うか。もしかしたらこの刑事も察したのかもしれない。俺が一連の不可解な現実の答えを知る位置にいると踏んでいる。確かに知っている。が――
「正直に話すけど、その代わり頭おかしいとか言わないでくれよ。本当の事なんだから」
こうやって前置きをしておかなければ口汚く罵られるか、嘘をつくなと怒鳴られる。少なくともその程度には荒唐無稽な話だ。
「なんだそりゃ?」
俺の言葉に刑事は顔をしかめた。ま、無理もないか。
※※※
戦場を避けるために歩道を走り、ビルの中を突っ切り、大きく迂回したり、と紆余曲折があったものの、目的の場所には直ぐに到着した。近くで戦闘が起きているにも関わらず、何の怪我もなくすんなりと辿りつけて安堵した。反面、ハンドルを握る刑事はそう思っていないようだ。何とも口惜しそうな、端的に時間が足りないと嘆いている。
「外でドンパチやってる宇宙から来たナントカって連中の映像を見ただけじゃ半信半疑だったが、巻き込まれた当人がそう言ってるんなら間違いないんだろうな。ま、確かにそう考えりゃあ清雅の出鱈目な技術力に納得はいくよな。何せ、世界中の科学者連中が揃って白旗上げる様な代物だ。こぉんな風に、さ」
俺の話をすんなりと受け入れた刑事は小さな白旗を何度か振った。確かに、と思う。俺の世代もそうだし、50歳位に見えるこの刑事の世代の時点であっても既に携帯端末が世界中に行き届いている状況だったから、何の疑問もなく受け入れられた。ただ、技術革新をリアルタイムで見た世代からの批判、不信は大きかったと歴史の授業で習った。科学者達が連名で批判した、なんて事件もあったらしい。
「うーむ。頭がパンクしそうだ」
刑事が盛大な溜息と共に再び白旗を振った。心情はよく理解できる。俺も最初はそうだった。
「宇宙人が落っことした携帯端末を拾ったか、あるいは助けられた見返りに協力しているのか。それとも無理矢理……は有り得ねぇよな。今日この日まで何も問題起きなかったんだからなぁ」
ただ、やはり真相に辿り着くのは無理だ。特に刑事のオジサンが話を聞いたのは数分前。もっと懇切丁寧に教えてあげたかったが、生憎と俺には時間がない。逸る俺の顔にオジサンは何かを言い出しかけ、飲み込んだ。代わりに口元に手を当て、うーむと唸り声を上げる。
「言った通りさ。嘘じゃない、命を狙われたし、身近な人が一人死んだ。ここで嘘をつく理由はないよ」
「それが本当なら、俺どころか警察の手にも負えんなぁ。本当ならもっと聞きてぇが、お前さんの邪魔する訳にもいかねぇ。じゃあアバよ」
「あぁ、コッチこそありがとう。それと」
「そうだな、後よぉ」
後部座席のドアを開け外に出た、ビルの正面には大きく清雅第三ビルと書かれている。扉を閉め、運転席のオジサンを見下ろした。オジサンも俺を見上げ、ニカッと笑った。自然と、俺も笑みが零れた。
「「死ぬなよ」」
互いの別れの言葉が偶然にも重なった。刑事はハハ、と苦笑した。逸る気持ちは確かにあった。だけど、あの時間は無駄ではないと、そう思えた。
刑事は苦笑した顔を変えないままに車を発進させた。小さくなる車を見送っていると、開け放たれたままの運転席側の窓から手をヒラヒラと動かすのが見えた。俺も小さく手を振り、逃げ去る車に背を向け、ビルを見上げ、固く閉ざされた入口を蹴り飛ばし、駆け上がる。この何処かにルミナがいる。
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