G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第7章 世界崩壊の日

86話 今度は アンタが誰かを助けてやれよ

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 20XX/12/22 1017

 目的地は本社に隣接するビル。とは言え、本社の敷地面積が桁違い過ぎて、実際の距離は相当にある。外を見れば遠目にも青と白の服を着たヤツ等と、ソイツ等が操る生物やらロボやら果ては恐竜までがズラリと居並ぶ。

 本社敷地に均等に配置され、敷地外に出る様子はない。とすれば、やはりツクヨミは広大な敷地の何処かに居るようだ。本社ビルは四方八方からがっちりと守られている。残るは何故かがら空きの地下駅だけ。但し、地下は一度潜ればかなり遠くまで行かなければ地上に出られない。迂回するには遠すぎて、今から行くには時間が惜しい。となれば、強行突破しかない。馬鹿の一つ覚えと自動車を拝借する為に駐車場へと向かい――

「よぅ、乗っていくかい?」

 いきなり声を掛けられた。声の主を探し、一台の車に目を付けた。何の変哲もない、ちょっと年代物の車。近づき、窓を覗く。シートを倒し、スマホを弄っていた男と目が合った。白髪交じりの50代位の男。男は俺の顔を見るとニカッと笑った。が、正直怪しい。

 来客じゃないし、身なりを確認しても社員証が見当たらないから清雅の社員でもない。そして善意でもない。俺の顔は既にテロリストとして全国に報道されていて、知らない訳がない。運がないかと思えば幸運に恵まれたり、ここ数日を思い返すとここ最近の人生は妙に忙しない。

「あんたは?もしかして出社したはいいけど怖くて引き返そうと思ってたとか?」

 誰かさんとは違い妙案は思いつかなかったが、迷う暇もない。とりあえず素直に質問してみた。どうにも考えながら行動すると言うのは苦手だ。

「まぁそんなトコだよ、指名手配中の伊佐凪竜一君」

 飄々とした男が俺の素性を言い当てた。目を見た。先程までとは違う、鋭い目つきが睨み上げる。

「あぁ、違うぞ。逮捕するつもりはねぇよ。ガハハッ」

 一般人とは明らかに違うと思っていたが、どうやら刑事らしい。明け透けに正体をバラすところから判断するに、言葉通り逮捕するつもりはないらしい。男は挨拶代わりにもう一度二カッとはにかんだ。

「普段はガチガチに固められてるってーのに、今日に限ってスッカスカだからちょっくらお邪魔したんだけども。流石に社内に入る手段が見つからなくて困ってる内にドンパチ始まってねぇ。いやぁ、やっぱり無計画に行動するモンじゃないな、ガハハハッ!!」

 本当に刑事か?とてもそうは見えない、大雑把な言動に驚きを通り越し、ちょっと呆れてた。警察内部も当然の如く清雅の息が掛かっていて、歴代の署長から要職に至るまでが清雅一族に近しい者から選ばれる習わしだと人づてに聞いた。

 だから清雅警察は実質的に清雅一族の手足同然。だから本社に単独で乗り込むのは幾ら何でも無謀過ぎる。この人、大丈夫?あるいはクビになってヤケを起こしたとか?いや、今は素性の知れない人間の今後を気に掛けてる場合じゃない。

「本社に来た理由かい?まぁ、君と同じ……なんじゃないかな。当事者の君もそうだろ?この状況にはどうも裏がありそうってね。俺もキナ臭いと感じて。で、暇を持て余しているからこうして独自調査に来たわけさ」

「暇?警察ってそんなに暇なのか?」

「トカゲの尻尾切りさ。どこぞのテロリストにまんまと逃げられちまった責任って事で、有体に謹慎中なのさ」

 その言葉にあぁ、と何か納得した。そう言えばあの時、たしかこのオジサンみたいな身なりの男がいた記憶がある。バックミラー越しに僅かに見ただけだが、そんな程度でも――なんというか、奇妙な縁を感じた。

「まぁそれは置いといて、取りあえず乗りなよ。戦闘始まってからこっち、ずっと外の様子を眺めてたんだが、会社から逃げ出す連中を背中から撃つなんて真似はしなかった。そりゃそうだわな、この世紀の大イベントは世界中に中継されちまってるんだ。そんな人道外れた真似しようもんなら、あの妙な連中と地球の軍隊を纏めて相手する羽目になっちまう」

 確かに刑事の推測は正しい。半年前のテロ騒動を自演しておいてこんな初歩的なミスはしない。仮に攻撃するとしてももっと先、清雅の勝利が確定する瞬間までは行わない。多分、だけど。

 千歳一隅。車を探す時間が惜しい。走り抜けるには本社敷地は大きすぎて、その前に大地と同じ力を持った連中に見つかり、戦闘になる。今度も勝てるかどうかなんてわからない。

 手が、自然と車のドアに手を掛けた。後部座席に座り、運転席側へと腰を下ろした。念の為だ。この位置からならば銃を付きつけやすい。

「お?警戒してるのかい?まぁ仕方ねぇ。で、何処に行くんだい?」

 なんか、アッサリと見抜かれた。ただ、特に気にしてないみたいだ。刑事の言葉に目的地を告げた。清雅第三ビルまで――と、送ってくれるのは助かるんだが停職中とは言え、現職刑事が指名手配犯を手伝っていいのか?バックミラー越しの不審な目に気付いた男が三度ニカッと笑みを浮かべた。

「上の連中の対応が、な。お前さん達の情報だけはゆるゆるなんだよ。テロリストって広めろと、暗にそう言っている。些細だが、それでも清雅にしちゃあ気持ちよくない情報なのになぁ。だけど、それだけじゃない。目だ。その目はよぉ、少なくともテロなんて馬鹿げたヤツがするような目じゃねぇ。犯罪者ってのは差は有れど大抵もっと濁ってんだ。だが、お前さんは違う。後は、刑事の勘だ」

「勘って……それに目?」

「あぁ、嫌な目だ」

 何か気に障ったのか、男のトーンが急に変わった。

「昔、そんな真っ直ぐな目をしていた奴がいた。ソイツは結局誰一人支えも助けてもくれなくて、捻くれちまった。それからは適当に生きる様になって、駄目とわかると直ぐ諦めるようになった。だが、あれから嫌って位世の中見て、誰も助けない理由が少しだけ分かったんだ。誰もが助けてくれ支えてくれって縋ろうとするばかりで自分から行動しようとしなかった。で、ソイツも自分を無条件に助ける相手をボケっと待ってた。だから今決めたんだ。昔、誰も助けてくれなかった事を恨んで、憎んで、誰かの足引っ張るよりも、誰かを支えてやろうってな。お前さんを助けてやろうってな。オマエさん、後悔するなよ。俺みたいに、な。で、これはおっさんの独り言だが……今度は、アンタが誰かを助けてやれよ」

 語り終えた刑事はアクセルを踏み込み、車を急発進させた。こんな出鱈目な出来事がなければ恐らく接点すら持たなかった老齢の刑事が、自分の立場も顧みず、俺を助ける為に本社出口を目指す。その刑事の言葉が心に強く残った。元々そのつもりだったけど、強く背を押された気分になった。
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