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第7章 世界崩壊の日
85話 完全決着
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20XX/12/22 1011
正面玄関口から地下の駅へと続く大きな門は開きっぱなしになっていた。逃げ出した社員がそのままにしたらしい。地下駅から踵を返し、正面玄関へと向かう。ここを出れば目的の場所までは目と鼻の先。戦場をどうやって突っ切るかは、走りながら考えればいい――と、そこで思考が停止した。
「や……くれた……なぁ……」
入口に大地が立っていた。ボロボロで、虫の息だ。あの高さから落ちたから死んだと思っていた。殺したと思っていた相手がまさかまだ生きているとは思わず、だが不思議と思考も行動も止まらなかった。
身体が淀みなく動く。ポケットにしまった銃を取り出し、今にも死にそうな男の心臓に銃口を向ける。酷く冷静な頭が漸く理解した。これが覚悟を決めると言う意味だと。それをこの状況で体現している自分自身への驚きも、やはりなかった。
「どけッ!!」
叫び、引き金に手を掛け、睨んだ。あれ程にぼろぼろならばきっと攻撃は通る。もう一度殴り合ってもいいが、これ以上疲弊するのはまっぴらごめんだ。それに、確信があった。もう大地に戦う力はない。素直にどかなければ撃つ。何をどうしても勝てないとアイツも理解している。
「い……だね……」
口から出た答えは相変わらずだった。だが、強気な態度とは逆に攻撃に移る気配はない。至近距離から爆発を受け、殴り合った末に20階以上の高さから落下したのだから無事でいる方が異常だ。
幾ら異常な力を持つといっても、限界はある。アイツは気付いていないのか?何度か見た、青い光が周囲に集まり傷を回復させる光景が、あの異常な修復能力が全く機能していない。なのに諦めるつもりがない。懐から錠剤を取り出し、噛み砕きながら飲み込む。ボリボリと音を立てながら一歩、一歩とにじり寄って来る。
「ま……だ……」
辛うじて、そう聞き取れた。諦めるつもりはないらしい。一方、何故そこまでして戦うのか、何が駆り立てるのか――いや、追い詰めているのか分からなかった。
大地は尚も俺の傍へと向かってくる。だが、逃げ回っていた時とは比較しようがない程に遅い。ヨロヨロと、まるで老人の様に覚束ない足取りで、ゆっくりと、そして――
「ウ……うがぁあぁぁあああああ!!」
突然、叫び始めた。それまでとは明らかに違った。鈍いながらも動かしていた足は止まり、床に倒れ、もがき苦しみながら、言葉にならない叫びを上げ続けた。まるで、痛みに耐えきれないといった様子だった。俺は、その光景から目を離せなかった。
立つ事すら出来ないようで、前のめりに倒れ、苦しみのたうち回りながらも、それでも懐から錠剤を取り出し、口に放り込み続ける。身体と心が完全に乖離している。
引き金に手を掛けながら、その様子をただ見守り。大地は尚も無心で錠剤を貪り続ける。ジャラジャラと大量に、飲みきれなかった錠剤が口から零れ落ち、床を彩った。だが、それでも何の解決にもならないらしい。苦しみは尚も増し、悲痛としか表現しようのない絶叫が辺りに響き渡る。
「チクショウ……チクショウチクショウチクショウチクショウチクショウチクショウチクショウ!!なんで、なんで勝てねぇんだクソが!!俺はッ……オレは……まだ死ね、な……」
それが最後の言葉になった。悶え苦しむ大地の動きが少しずつ鈍り、やがて動きを完全に止めた。身体から青い光が抜け落ち、空中に霧散していった。まるで魂が抜け落ちていくかのようだった。今際の際の様子を見れば、力の使い過ぎによる弊害を知っていたんだと思う。
なんでそこまで憎むのか、どうして俺は殺意を持たれるまで憎まれたのか分からなかった。だから俺はただ見下ろすしかなかった。非業の死を遂げたかつての友達だった何者かを、ただ無言で見下ろした。苦悶に満ちた顔に、何故か、不意に昔の記憶が蘇った。随分と昔の事だった様な、つい先日だった様にも思える会話が唐突に――
※※※
「お前またミスったの?」
「あぁ、で、バレるとめんどくせぇからこうしてサボってるんだけどな」
「いいのかよ、正直に言わなくて?」
「馬鹿かよ、正直に話してどうなるってんだ?面倒増えるだけだろうが。黙っていて上手く進んでんだから、余計な事ぁしなくていいんだよ」
「おいおい、自分のミスだろう?」
「だからどうしたよ、結果だろう全部。俺が黙って上手くいってるのに、バカ丸出しで正直に話して誰が得するんだよ。しねぇだろ、自分だけだぜ?罪悪感が消えるとか、正直に話す俺とてもカッコいぃとかさぁ。そんなのクソみてぇな自己満足だろ?」
「いや、落ち着けよ」
「いいか、俺が良い事教えてやるよ。馬鹿正直なんてぇのは自己満足のクソだ。誰だって言いたくない事の一つや二つある。お前も隠してんだろ?お前、ソレ言えるのか?他人に隠してる秘密喋れよって言えるのか?無理だろ?それで傷つくの言った奴だ。それによぉ、誰だって嘘ついてんのさ。で、なんで俺だけ嘘偽りなく生きなきゃァならんのよ。世の中なぁ、程ほどが一番いいんだよ。嘘つき続けろって言ってるわけじゃーねぇよ。だけど、馬鹿みてぇに全部包み隠さず話す必要もねぇのさ。嘘も方便ってなぁ。それにホラ、嘘つきまくるやつってソイツの人間関係全部壊してくだろ?逆も同じ。何でもかんでも正直に、なんてのも同じさ。だからほどほど正直、ほどほど嘘ついてけよ。キッツいだけだぞ、正直に生きても。そんな生き方出来る奴ぁ人間じゃないぜ。そんな奴は周囲を全部破壊してくんだよ」
「かっこよくまとめたけど結局お前ミスした事に変わりないだろ、それになんか話が逸れてないか?」
「だから細けぇよボケって……ン、連絡?……ゲッ、バレた!?」
※※※
不意に思い出した過去の思い出の中のアイツは、珍しく俺に説教と――いや、何かを教えようとしている雰囲気を感じた。今にして思えば、全部を壊していくってのは自分自身の事を指していたのだろう。全部隠して、自分を偽って仕事して、何もかもが分からなくなった。
もしかしたら、有り得ないかもしれないが――アイツは俺にはそうなって欲しくなかったのかもしれない。そんな気がした。殺意に満ちた顔を見て、理由のない殺意に晒されて、それでもそんな風に思えた。あの時の言葉に、最初で最後の優しさを感じた。そんな気が――
正面玄関口から地下の駅へと続く大きな門は開きっぱなしになっていた。逃げ出した社員がそのままにしたらしい。地下駅から踵を返し、正面玄関へと向かう。ここを出れば目的の場所までは目と鼻の先。戦場をどうやって突っ切るかは、走りながら考えればいい――と、そこで思考が停止した。
「や……くれた……なぁ……」
入口に大地が立っていた。ボロボロで、虫の息だ。あの高さから落ちたから死んだと思っていた。殺したと思っていた相手がまさかまだ生きているとは思わず、だが不思議と思考も行動も止まらなかった。
身体が淀みなく動く。ポケットにしまった銃を取り出し、今にも死にそうな男の心臓に銃口を向ける。酷く冷静な頭が漸く理解した。これが覚悟を決めると言う意味だと。それをこの状況で体現している自分自身への驚きも、やはりなかった。
「どけッ!!」
叫び、引き金に手を掛け、睨んだ。あれ程にぼろぼろならばきっと攻撃は通る。もう一度殴り合ってもいいが、これ以上疲弊するのはまっぴらごめんだ。それに、確信があった。もう大地に戦う力はない。素直にどかなければ撃つ。何をどうしても勝てないとアイツも理解している。
「い……だね……」
口から出た答えは相変わらずだった。だが、強気な態度とは逆に攻撃に移る気配はない。至近距離から爆発を受け、殴り合った末に20階以上の高さから落下したのだから無事でいる方が異常だ。
幾ら異常な力を持つといっても、限界はある。アイツは気付いていないのか?何度か見た、青い光が周囲に集まり傷を回復させる光景が、あの異常な修復能力が全く機能していない。なのに諦めるつもりがない。懐から錠剤を取り出し、噛み砕きながら飲み込む。ボリボリと音を立てながら一歩、一歩とにじり寄って来る。
「ま……だ……」
辛うじて、そう聞き取れた。諦めるつもりはないらしい。一方、何故そこまでして戦うのか、何が駆り立てるのか――いや、追い詰めているのか分からなかった。
大地は尚も俺の傍へと向かってくる。だが、逃げ回っていた時とは比較しようがない程に遅い。ヨロヨロと、まるで老人の様に覚束ない足取りで、ゆっくりと、そして――
「ウ……うがぁあぁぁあああああ!!」
突然、叫び始めた。それまでとは明らかに違った。鈍いながらも動かしていた足は止まり、床に倒れ、もがき苦しみながら、言葉にならない叫びを上げ続けた。まるで、痛みに耐えきれないといった様子だった。俺は、その光景から目を離せなかった。
立つ事すら出来ないようで、前のめりに倒れ、苦しみのたうち回りながらも、それでも懐から錠剤を取り出し、口に放り込み続ける。身体と心が完全に乖離している。
引き金に手を掛けながら、その様子をただ見守り。大地は尚も無心で錠剤を貪り続ける。ジャラジャラと大量に、飲みきれなかった錠剤が口から零れ落ち、床を彩った。だが、それでも何の解決にもならないらしい。苦しみは尚も増し、悲痛としか表現しようのない絶叫が辺りに響き渡る。
「チクショウ……チクショウチクショウチクショウチクショウチクショウチクショウチクショウ!!なんで、なんで勝てねぇんだクソが!!俺はッ……オレは……まだ死ね、な……」
それが最後の言葉になった。悶え苦しむ大地の動きが少しずつ鈍り、やがて動きを完全に止めた。身体から青い光が抜け落ち、空中に霧散していった。まるで魂が抜け落ちていくかのようだった。今際の際の様子を見れば、力の使い過ぎによる弊害を知っていたんだと思う。
なんでそこまで憎むのか、どうして俺は殺意を持たれるまで憎まれたのか分からなかった。だから俺はただ見下ろすしかなかった。非業の死を遂げたかつての友達だった何者かを、ただ無言で見下ろした。苦悶に満ちた顔に、何故か、不意に昔の記憶が蘇った。随分と昔の事だった様な、つい先日だった様にも思える会話が唐突に――
※※※
「お前またミスったの?」
「あぁ、で、バレるとめんどくせぇからこうしてサボってるんだけどな」
「いいのかよ、正直に言わなくて?」
「馬鹿かよ、正直に話してどうなるってんだ?面倒増えるだけだろうが。黙っていて上手く進んでんだから、余計な事ぁしなくていいんだよ」
「おいおい、自分のミスだろう?」
「だからどうしたよ、結果だろう全部。俺が黙って上手くいってるのに、バカ丸出しで正直に話して誰が得するんだよ。しねぇだろ、自分だけだぜ?罪悪感が消えるとか、正直に話す俺とてもカッコいぃとかさぁ。そんなのクソみてぇな自己満足だろ?」
「いや、落ち着けよ」
「いいか、俺が良い事教えてやるよ。馬鹿正直なんてぇのは自己満足のクソだ。誰だって言いたくない事の一つや二つある。お前も隠してんだろ?お前、ソレ言えるのか?他人に隠してる秘密喋れよって言えるのか?無理だろ?それで傷つくの言った奴だ。それによぉ、誰だって嘘ついてんのさ。で、なんで俺だけ嘘偽りなく生きなきゃァならんのよ。世の中なぁ、程ほどが一番いいんだよ。嘘つき続けろって言ってるわけじゃーねぇよ。だけど、馬鹿みてぇに全部包み隠さず話す必要もねぇのさ。嘘も方便ってなぁ。それにホラ、嘘つきまくるやつってソイツの人間関係全部壊してくだろ?逆も同じ。何でもかんでも正直に、なんてのも同じさ。だからほどほど正直、ほどほど嘘ついてけよ。キッツいだけだぞ、正直に生きても。そんな生き方出来る奴ぁ人間じゃないぜ。そんな奴は周囲を全部破壊してくんだよ」
「かっこよくまとめたけど結局お前ミスした事に変わりないだろ、それになんか話が逸れてないか?」
「だから細けぇよボケって……ン、連絡?……ゲッ、バレた!?」
※※※
不意に思い出した過去の思い出の中のアイツは、珍しく俺に説教と――いや、何かを教えようとしている雰囲気を感じた。今にして思えば、全部を壊していくってのは自分自身の事を指していたのだろう。全部隠して、自分を偽って仕事して、何もかもが分からなくなった。
もしかしたら、有り得ないかもしれないが――アイツは俺にはそうなって欲しくなかったのかもしれない。そんな気がした。殺意に満ちた顔を見て、理由のない殺意に晒されて、それでもそんな風に思えた。あの時の言葉に、最初で最後の優しさを感じた。そんな気が――
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