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第8章 神の願い 望み ただ一つの答え
幕間19-6 神をなくした人々が 次に求めたものは
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20XX/12/22 0945
消毒用の雨が地面を叩きつける雨音だけが響き渡る旗艦、居住区域。戦闘が起きないと信じた場所で始まる破壊活動。衝撃と共に崩れ落ちる施設――無残な光景の中に、対峙する影が二つ。
「随分とまあ、壊し甲斐のある人が来たようで」
片方は我らが選定した地球側最高戦力、ゲイル。
「これ以上の破壊活動を許す訳にはイかない」
相対するは旗艦が製造した最新鋭の式守。過去の惨劇を理由に凍結封印され、そのまま破棄される筈だったタケミカヅチ計画の弐号機。
居住区域の更に避難施設のみに狙いを絞った襲撃。避難成功の成否によらず、不意を突かれた市民はただ狼狽えるばかりで何も出来ず。追い風がないが代わりに向かい風もない。そよ風の如き穏やかな艦内の環境、安定した日々は意志の衰退を引き起こした。
警報と共に流れた避難指示を終えた誰もがただ呆然と次の指示を待つばかり。有る者はその場にうずくまり何もせず、有る者は天を仰ぎながらひたすらに次の指示を待ち続け、また別の有る者は自らが従うべき情報が無い現実に右往左往する。
そんな混乱の色が深まる居住区域に、颯爽と姿を見せたのが弐号機。感情はない。が、言葉に現状への憤りと怒りが垣間見える。
無辜の民を攻撃対象とする倫理度外視の作戦は、全て承知の上で指示した。如何に強力といえど、今の地球に旗艦の全戦力を相手取る力はない。何より、旗艦には連合最強のスサノヲが控えている。だから戦力を分断し、艦橋制圧までの時間稼ぎをしなければならなかった。
もう直ぐあの映像が流れる。アラハバキの威光が地に堕ちればスサノヲと退役兵達は独自に行動を開始する。侮れば被害が拡大し、最悪は拮抗状態まで押し戻され、被害が余計に拡大する。
旗艦の治安維持を担うヤタガラスとクズリュウは既に排除済み。誰一人としてマジンを前に抵抗すら出来ず、居住地区をその血で染め上げる。呆気ない敗北を目の当たりにした市民達は更にパニックを起こした。
漸く、現実を理解したようだ。映像の向こう、実距離としても数億キロ彼方にある青い星で起こる惨劇はドラマでも映画でもない。自分達は関係なく、ましてや危害を加えられることなど絶対にない――そんな虫のいい話は現実には存在しない、儚い幻想の産物と思い知った。
疑念が、悲鳴が、区域のアチコチから上がり始める。自らが選んだ道は正しかったのか――異口同音の疑問が木霊すが、答えられる者はいない。唯一答えを出せる存在は、彼等が自分達の意志で封じたのだから。
「貴方達がおっしゃるのはおかしいでしょう?何せ、そちらから仕掛けてきたのですからねッ」
「詭弁を」
「もうすぐその証拠映像が流れますよ。そうすれば……フ、ハハはははっ、面白くなってきましたねぇ皆さん!!その映像、今しがた流されたそうですよ。もうすぐ皆様の元にも届きますよ」
「有り得なイ。神が組んだ多積層防壁を……!?」
ゲイルの言葉に疑問を呈す弐号機。だが、即座に否定された。区域中の巨大ディスプレイから映像が流れ始めた。アラハバキが市民達に隠してきた醜い本性が巨大ディスプレイをはじめ、旗艦の至る所に拡散する。
「なんだよ、アレ?」
「嘘でしょ……この戦争こっちから仕掛けたの?じゃああの時の説明なんだったのよ!!」
「こんな話聞いてないよ、オイどうすればいいんだよ。アラハバキも信用できないって、じゃあ俺達何を信用すれば……頼ればいいんだよ……」
「何とイう事だ、これが君達の作戦か。これでは、これでは誰も一つに纏まる事ができなイ」
旗艦が、混乱の極致に落ちた。誰も彼もが地球と同じく、真実を何一つ知らぬまま今日この日を迎えた。彼等はこの戦いにある種の熱狂を感じていたようだった。
自由への渇望が神の解放によって満たされた。それまでの管理体制により鬱屈した感情が爆発した。アラハバキはその感情を利用した。ただ利用されただけ。自由を手にした興奮が思考を麻痺させ、束縛からの解放が思考を放棄させ、その場で聞こえる最も大きく耳障りのいい声に従った。誰も、何も考えなかった。盲目的な信仰の結果が今の惨状など想像すら出来なかった。
そう、思考の放棄。アマテラスオオカミに従うだけ、極めて高い精度で未来を予測する神に全てを委ね続けた結果、自由と暴走を履き違えた。いや――停滞と呼ぶ方が適切か。
不自由な人間がいざ自由を手に入たとしても適切な判断など下せない。今まで自分で何かを決断する事など殆どなかったのだから無理もない。適正に従い、流されるままに教育機関を通過し、適正にあった職に就き、機械が判断した見合い相手と婚姻関係を結ぶ。こんな生き方が常態化した世界に自由を与えても何一つ決められない。
故に停滞し、故に動けない。だからアラハバキを盲信した。自分で決められないならば、動けないならば誰かに縋ればいい。神をなくした人々が次に求めたのは、神の代わりに縋りつける何か。それが偶然アラハバキであっただけだ。しかし、だとしてこの状況は果たして彼等の責任になるのか。
「いい感じに混乱してきましたね、私はその間に仕事をさせて頂きます」
「させなイ」
「まぁ貴方も落ち着きなさい、まだこれからなんですから。そうそう、市民の皆様。私とアラハバキからの細やかなプレゼントです、ぜひ受け取って頂きたいですねぇ」
慇懃な笑みを浮かべるゲイルが、停滞を望んだ人間に絶望を告げる。
消毒用の雨が地面を叩きつける雨音だけが響き渡る旗艦、居住区域。戦闘が起きないと信じた場所で始まる破壊活動。衝撃と共に崩れ落ちる施設――無残な光景の中に、対峙する影が二つ。
「随分とまあ、壊し甲斐のある人が来たようで」
片方は我らが選定した地球側最高戦力、ゲイル。
「これ以上の破壊活動を許す訳にはイかない」
相対するは旗艦が製造した最新鋭の式守。過去の惨劇を理由に凍結封印され、そのまま破棄される筈だったタケミカヅチ計画の弐号機。
居住区域の更に避難施設のみに狙いを絞った襲撃。避難成功の成否によらず、不意を突かれた市民はただ狼狽えるばかりで何も出来ず。追い風がないが代わりに向かい風もない。そよ風の如き穏やかな艦内の環境、安定した日々は意志の衰退を引き起こした。
警報と共に流れた避難指示を終えた誰もがただ呆然と次の指示を待つばかり。有る者はその場にうずくまり何もせず、有る者は天を仰ぎながらひたすらに次の指示を待ち続け、また別の有る者は自らが従うべき情報が無い現実に右往左往する。
そんな混乱の色が深まる居住区域に、颯爽と姿を見せたのが弐号機。感情はない。が、言葉に現状への憤りと怒りが垣間見える。
無辜の民を攻撃対象とする倫理度外視の作戦は、全て承知の上で指示した。如何に強力といえど、今の地球に旗艦の全戦力を相手取る力はない。何より、旗艦には連合最強のスサノヲが控えている。だから戦力を分断し、艦橋制圧までの時間稼ぎをしなければならなかった。
もう直ぐあの映像が流れる。アラハバキの威光が地に堕ちればスサノヲと退役兵達は独自に行動を開始する。侮れば被害が拡大し、最悪は拮抗状態まで押し戻され、被害が余計に拡大する。
旗艦の治安維持を担うヤタガラスとクズリュウは既に排除済み。誰一人としてマジンを前に抵抗すら出来ず、居住地区をその血で染め上げる。呆気ない敗北を目の当たりにした市民達は更にパニックを起こした。
漸く、現実を理解したようだ。映像の向こう、実距離としても数億キロ彼方にある青い星で起こる惨劇はドラマでも映画でもない。自分達は関係なく、ましてや危害を加えられることなど絶対にない――そんな虫のいい話は現実には存在しない、儚い幻想の産物と思い知った。
疑念が、悲鳴が、区域のアチコチから上がり始める。自らが選んだ道は正しかったのか――異口同音の疑問が木霊すが、答えられる者はいない。唯一答えを出せる存在は、彼等が自分達の意志で封じたのだから。
「貴方達がおっしゃるのはおかしいでしょう?何せ、そちらから仕掛けてきたのですからねッ」
「詭弁を」
「もうすぐその証拠映像が流れますよ。そうすれば……フ、ハハはははっ、面白くなってきましたねぇ皆さん!!その映像、今しがた流されたそうですよ。もうすぐ皆様の元にも届きますよ」
「有り得なイ。神が組んだ多積層防壁を……!?」
ゲイルの言葉に疑問を呈す弐号機。だが、即座に否定された。区域中の巨大ディスプレイから映像が流れ始めた。アラハバキが市民達に隠してきた醜い本性が巨大ディスプレイをはじめ、旗艦の至る所に拡散する。
「なんだよ、アレ?」
「嘘でしょ……この戦争こっちから仕掛けたの?じゃああの時の説明なんだったのよ!!」
「こんな話聞いてないよ、オイどうすればいいんだよ。アラハバキも信用できないって、じゃあ俺達何を信用すれば……頼ればいいんだよ……」
「何とイう事だ、これが君達の作戦か。これでは、これでは誰も一つに纏まる事ができなイ」
旗艦が、混乱の極致に落ちた。誰も彼もが地球と同じく、真実を何一つ知らぬまま今日この日を迎えた。彼等はこの戦いにある種の熱狂を感じていたようだった。
自由への渇望が神の解放によって満たされた。それまでの管理体制により鬱屈した感情が爆発した。アラハバキはその感情を利用した。ただ利用されただけ。自由を手にした興奮が思考を麻痺させ、束縛からの解放が思考を放棄させ、その場で聞こえる最も大きく耳障りのいい声に従った。誰も、何も考えなかった。盲目的な信仰の結果が今の惨状など想像すら出来なかった。
そう、思考の放棄。アマテラスオオカミに従うだけ、極めて高い精度で未来を予測する神に全てを委ね続けた結果、自由と暴走を履き違えた。いや――停滞と呼ぶ方が適切か。
不自由な人間がいざ自由を手に入たとしても適切な判断など下せない。今まで自分で何かを決断する事など殆どなかったのだから無理もない。適正に従い、流されるままに教育機関を通過し、適正にあった職に就き、機械が判断した見合い相手と婚姻関係を結ぶ。こんな生き方が常態化した世界に自由を与えても何一つ決められない。
故に停滞し、故に動けない。だからアラハバキを盲信した。自分で決められないならば、動けないならば誰かに縋ればいい。神をなくした人々が次に求めたのは、神の代わりに縋りつける何か。それが偶然アラハバキであっただけだ。しかし、だとしてこの状況は果たして彼等の責任になるのか。
「いい感じに混乱してきましたね、私はその間に仕事をさせて頂きます」
「させなイ」
「まぁ貴方も落ち着きなさい、まだこれからなんですから。そうそう、市民の皆様。私とアラハバキからの細やかなプレゼントです、ぜひ受け取って頂きたいですねぇ」
慇懃な笑みを浮かべるゲイルが、停滞を望んだ人間に絶望を告げる。
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