G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第8章 神の願い 望み ただ一つの答え

幕間19-9 真の目的 其の1

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 20XX/12/22 0951

 ほんの少し、僅かに目を離したその隙にハイドリを抑える現人偽神達が何者かに斬り捨てられていた。監視カメラの録画映像を確認した。灰色の光と共に出現した何者かが、清雅の精鋭達など物の数ではないと一蹴、周辺の支配権をあっさりと奪い返す光景が映された。

 仮面を被った正体不明の何者か。中身はようとして知れないが、いつぞやヒルメと会話していた相手だ。あの時から既に警戒していたが、やはり恐ろしく腕が立つようだ。あっさりと討伐した仮面は既に戦場から姿を消していた。

 戦いは旗艦側の劣勢へと追い込まれた。ただ、何れの戦場も混沌と始める。想定外の連続に、収拾がつけられないという気配さえ漂う。だが、まだ優勢。まだ、問題はない。これ以上の想定外を何としても防がねばならない。

 計画に支障が出る前に速やかに居場所を探し、叩く。清雅市中を網羅する監視カメラを全て確認、居場所を探し――

「特定した、既に本社前だ。高機動と隠形オンギョウ……にしても少々速過ぎる」

 焦る私の耳がツクヨミからの報告を捉えた。眼前に映像が出現する。本社前の映像には確かに仮面が到着し、清雅源蔵と対面する光景を映した。桁違いの速さだ。

「隠形。コソコソと監視している貴様等の事だから知っていると思ったが、対策していないのか?随分と杜撰ずさんなだな。此方の声、拾っているだろう?お前達が抑えていたハイドリは既に取り返した」

 男の声。しかも聞いた覚えがある。過去、何処かで。仮面の男は落ち着いた低い声は艦橋にも伝わる。丁度、通信機能の復元が完了したようだ。狼狽えるヤゴウの顔から動揺が消え、希望に満ちる。

「……れだ?タガミ!!聞こえるか?アレは誰だ!!」

「お?やっと繋がったのか、アレか?切り札だよ」

 タガミは自信満々に答えた、切り札だと。その言葉とハイドリ支配権が奪還され、戦場からの撤退が可能となった事実がクズリュウ達の心に余裕を生む。浮足立った足を地につけ、仮面を見上げた。同じく地球側の混成軍も、清雅の精鋭達も、誰もが突如現れた仮面の男の動向に注目する。

 一転攻勢の好機。が、動けない。遥か上空から見下ろす清雅源蔵が許さない。

「信頼して良いか、ヒルメ殿」

「お任せを。残存するカグツチを全てあなたの周辺に集中照射しますが、あまり派手に動かないでくださいね」

「あの男次第だが、まぁ最大限努力はしてみよう」

 仮面が艦橋のヒルメに連絡を取る。直後、ヤタノカガミから放たれるカグツチが増加、戦場の一角が仄かに白く染まる。仮面をを中心にカグツチがにわかに活気づくと、僅かに間をおき清雅源蔵と仮面の男が激突した。

 激しい戦闘。初撃は互いに様子見だった。清雅源蔵が一体の竜をけしかけた。対する仮面は攻撃を軽やかに交わしながら目にも止まらぬ斬撃を繰り出した。竜に幾つもの閃光が走り、無数に分解されると、制御を失い、落下する。

 その光景に清雅源蔵は高度を上げ、距離を取る。一度のやり取りで察した。接近戦は不利、仮面に距離を詰められたら即座に斬り捨てられる。

 足場にする竜が絶え間なく光弾を放ちながら距離を取り、更にもう一体の竜をけしかける。10メートル以上はある巨体が音速に近い速度度で仮面へと肉薄する――その下から更にもう一体が迫る。いや、戻って来た。初撃でバラバラにされた竜は周囲の物質から体躯を修復、万全の状態へと回復するや戦線復帰を果たした。

 清雅源蔵は3体の竜を操作しながら仮面を追いつめる。一方、仮面は全ての動きを見切り、軽やかに回避しながら接近してきた竜に斬撃を加える。

 翼が、尾が、胴体が、首が瞬く間に切断される。が、竜もその程度の怪我では行動不能にはならない。斬撃をモノともせず、僅かの間を置き修復、間髪入れずに攻撃を再開する。互角。拮抗する両者の実力は、紙一重で互いの命に届かない。

「もう一体だ!!」

 3体の竜では足りぬと判断した清雅源蔵がフェルドに叫んだ。本社前の広大な敷地の一角から青い光の柱が立ち上り、やはり竜の姿へと変貌する。合計4体の竜による波状攻撃は更に激しさを増すと、苛烈な攻撃の余波に周辺の被害が拡大し始める。

 巨大な顎による噛みつきで抉られ、鋭く巨大な爪により引き裂かれ、光弾により吹き飛ばされる。余りの激しさに地上の部隊の手が止まる。しかし、動く。動かざるを得ない。地球混成軍もクズリュウも、自分達が趨勢を左右する存在ではないと悟った。

 仮面と清雅源蔵。戦いを左右するのは両者以外に存在しない。地上の戦いは勝利した側の勢力が優勢となり、そのまま敗者側を押し切る。程なく、援護が始まる。クズリュウが仮面の男を援護すると、混成軍は清雅源蔵の間接的な援護を目的にクズリュウへ攻撃を再開した。

 果たして援護の甲斐あり、仮面が僅かずつ劣勢に追い込まれ始めた。地球の横槍は微々たるもの――が、問題は攻撃ではない。

 それまで攻撃に消極的だった混成軍は清雅源蔵が流した映像に自分達の正義を確信した。対してクズリュウ側は逆に正義、大義という梯子を外された動揺から立ち直れない。正義を失った状態で地球人を殺していいのか?疑問を抱えたままの戦闘は致命的。結果、攻撃力も防御力もガタ落ちし、拮抗状態に戻された。

 混成軍の士気と勢い、クズリュウ側の迷いが仮面に僅かながら暗い影を落とす。地上側の戦いが互角に近い状態にもつれ込んだ想定外に正義を確信する地球側の怒号が重なり、動きに僅か遅れが生じ始める。

 だがそれでも仮面の隙を晒さない。僅かに落ちた身体能力を豊富な経験で補う。仮面は極めて高い身体能力を最大限に使用し、数メートルの跳躍を行い、ビルを蹴り、清雅源蔵へ強襲した。清雅源蔵は仮面から距離を取る為、更に高度を上げる。ならばと仮面は何もない空中を蹴り上げた。僅かに足裏が白光すると同時、地面を蹴り上げたかのように再度跳躍し、清雅源蔵を追う。

 銃弾が飛び交う通常の戦闘から上空を見上げると、洗練された必要最小限の動きでマジンを斬り捨てる仮面と、常に距離を保ちながら反撃する幻想的な生物という非現実的な戦いが繰り広げられる。

 対照的な光景に当事者以外の誰もが魅入られる。地上の戦闘も苛烈さを増すが、混成軍とクズリュウ、何方の軍勢も戦闘を続けながらも徐々に意識が空中へと向かい始める。

「オイ、さっきから何喰わねぇ顔で使ってるソレは何だ!!あぁ、いやそんな事は今はどうでもいい。アンタ、一体何が目的だ?」

 誰かが、待ったを掛けた。清雅本社ビルに据え付けられた巨大ディスプレイの映像越しに、関宗太郎が清雅源蔵に呼びかけた。しかし、当人には届かず。仮面が相当に手練れな事もあるが、それ以上にたかだか一国の首相程度が清雅源蔵の道を阻むなど不可能。故に戦いは止まらない。

 しかし、何故か仮面の男が巨大ディスプレイからの呼びかけに反応した。興味が湧いたのか、攻撃の手を止め、手近なビルの屋上に着地する。武器を納め、清雅源蔵を見上げる。
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