152 / 273
第8章 神の願い 望み ただ一つの答え
幕間19-8 悪夢の連鎖 そして復活 其の2
しおりを挟む
完璧だと自負していた。だが、今目の前で起きるこの光景は何だ?アラハバキは何を復活させたのか理解しているのか?焦りは苛立ちへと変わり、平静であった心を激しくかき乱す。だが、まだ大丈夫だ。マジンの制御下にあるならば――
「ふふふフフ……ハハハハ!!だから!!あの時言っダたろう。お前達が持つ意志によってお前達は滅びる、と!!意志を軽んじる貴様達が、資格の無い貴様達が、強い意志無くば勝てない戦いを先導する事を、そしてお前達はそれに気づいていない。より弱く、より脆く、その道を自らが選択している事を、破滅への道を突き進んでいる事を、その事実から目を逸らしている事を。ダから貴様らは滅びるのダ!!お前達を殺すのは……私他ならぬお前達自身ダッ!!」
何か、様子がおかしい。直感。否、確信。壱号機の呪詛は過去スサノヲに投げかけた言葉。だが、何故この場で話す?そもそもマジンに浸食されているならば――いや、まさか制御を振り切っているのか?
「ま、待て。お前、本当に制御……オイ、ローシュ!!聞こえているのか!?」
ほぼ同時に同じ結論に辿り着いたゲイルが通信を飛ばした。しかし、無情にも返答はない。
「ハハハッ、この古臭い端末の持ち主か?なら、バラバラにしてやったぞ。そうそう、こいつは有り難く頂くぞ」
「な!?」
「アラハバキ共の支配下から解放してくれた礼がてら、一度合わせてやった。ダが、それも終わりだ。では始めようか、兄弟」
最悪の展開が、容易く現実となった。壱号機はマジンに取り込まれておらず、再び自らの意志で殺戮を始めるつもりだ。手には真っ赤に染まった地球製の端末を握っている。エネルギー源となるホムラの制御は出来ないが、今回の為に調整したナノマシンの性能が加われば相当以上の脅威になるのは疑いようない。
無言の間
互いを凝視する壱号機と弐号機は、だが次の瞬間――まるで示し合わせたかのように駆け出した。本来は相互協力してマガツヒを殲滅する為に生み出された兄弟が、同じ目的で生み出された兄弟が数奇な運命に踊らされ、欲望の渦に飲み込まれた果てに激突する。このような願いは込められていない。だが、運命は無情にも兄弟に殺し合う宿命を与えた。
強大な力がぶつかり合い、居住区域は混乱の極致へと至る。敵を殲滅する事を目的に生み出された壱号機の攻撃を弐号機は辛うじて防ぐ。両者の性能は同じ。だが、無表情の弐号機に反し、壱号機は不敵な笑みを浮かべる。理解した。強烈な意志が内在する為にカグツチをより多く取り込める分、己が有利である事に。
「君達は本当に人か。これは本当に意志の為す事なのか。何故ここまで出来るのだ」
弐号機の声が戦場に木霊する。彼に感情はない。その筈だが、言葉は抑揚の無い普段の言葉遣いとは違う、極僅かな震えを感知した。それはまるでこの事態に怒りを感じているかのようだった。戦場となる居住区域は相変わらず消毒用の雨が降り注ぎ続け、住民が流した赤い血は雨に押し流され、綺麗に消え去った。
だが、その光景は血を啜る化け物が流れた血を全て啜り、それでも足らぬと叫んでいる様に見えた。その化け物とは人の悪意、あるいは歪んだ意志が生み出した戦いと言う行為そのものだ。
※※※
戦火は居住区域から離れた複数箇所で同時発生する。超広大な生活圏の丁度中央に位置する居住区域から数十キロ離れた別の居住区域内においても同じく、突如として量産型のタケミカヅチが姿を現した。出現場所は何処も彼処も一般的なマンション。
比較的治安の良い区域は監視カメラによる監視が丸ごと外されている。気になっていたのは確かだ。もっと詳細な調査を行えば看破出来たかもしれない。が、限られたリソースを旗艦側の監視不能区域にまで割くのは事実上、不可能だった。
それに――過激派の犯罪隠ぺい、管理リソース不足以外の理由が見当たらなかった。現実に旗艦側のリソースは完全に不足しており、犯罪のもみ消しらしき光景も相当数確認した。が、現実は違った。住居の扉や壁を破壊して現れたタケミカヅチ計画の量産型こそが真の理由。アラハバキは切り札となる量産型を秘匿すると言うただそれだけの為に、ここまで回りくどい計画を立てた。
何者かは分からないが、神の不在にあっても尚、ここまで慎重に事を運ぶ深慮遠謀には恐れ入る。しかし、如何に先を見通せるとはいえ量産型諸共に壱号機が敵に回る事までは想定出来なかっただろう。
咥えて、住居を無理矢理改造する手間暇をかけた影響か、総数が少ない。ざっと確認した限り、精々20体程度。しかし性能は抜きんでており、数など何の参考にもならない。
その力が図らずも、直ぐに証明された。当該区域に駆け付けたヤタガラス達が量産機と戦闘を開始したものの、たった一機に為す術なく全滅させられた。市民達の阿鼻叫喚の叫びが聞こえ、続いて建物や道路が血で染まる。
私もツクヨミも絶句した。悪夢の再演を止めるには壱号機を破壊するしか道はないが、それを成せる程の戦力は旗艦側に存在しない。本来ならば旗艦の危機に際し命を賭けて守護する筈のスサノヲは市民達が自ら望んで彼等の排斥を望み、その意を汲んだという体裁でアラハバキが酷使した。
連合各地の資源採掘基地の調査と防衛。本来ならばスサノヲではなく担当宙域の惑星が行うべき調査を引き受けた理由は、スサノヲを旗艦アマテラスへと近づけないと言う表向きの理由に加え、単純に各惑星から金銭を得るという側面もあった。
スサノヲは大きく疲弊していて真面に戦えない。その事実は我らにとっては幸運だが、旗艦側にしてみれば絶望に等しい不幸でしかない。だが、最大の不幸は流れる夥しい血も、怨嗟と恐怖の叫びも雨にかき消されてしまう事だ。戦場に振る絶望の雨が、全てを押し流す。
「ふふふフフ……ハハハハ!!だから!!あの時言っダたろう。お前達が持つ意志によってお前達は滅びる、と!!意志を軽んじる貴様達が、資格の無い貴様達が、強い意志無くば勝てない戦いを先導する事を、そしてお前達はそれに気づいていない。より弱く、より脆く、その道を自らが選択している事を、破滅への道を突き進んでいる事を、その事実から目を逸らしている事を。ダから貴様らは滅びるのダ!!お前達を殺すのは……私他ならぬお前達自身ダッ!!」
何か、様子がおかしい。直感。否、確信。壱号機の呪詛は過去スサノヲに投げかけた言葉。だが、何故この場で話す?そもそもマジンに浸食されているならば――いや、まさか制御を振り切っているのか?
「ま、待て。お前、本当に制御……オイ、ローシュ!!聞こえているのか!?」
ほぼ同時に同じ結論に辿り着いたゲイルが通信を飛ばした。しかし、無情にも返答はない。
「ハハハッ、この古臭い端末の持ち主か?なら、バラバラにしてやったぞ。そうそう、こいつは有り難く頂くぞ」
「な!?」
「アラハバキ共の支配下から解放してくれた礼がてら、一度合わせてやった。ダが、それも終わりだ。では始めようか、兄弟」
最悪の展開が、容易く現実となった。壱号機はマジンに取り込まれておらず、再び自らの意志で殺戮を始めるつもりだ。手には真っ赤に染まった地球製の端末を握っている。エネルギー源となるホムラの制御は出来ないが、今回の為に調整したナノマシンの性能が加われば相当以上の脅威になるのは疑いようない。
無言の間
互いを凝視する壱号機と弐号機は、だが次の瞬間――まるで示し合わせたかのように駆け出した。本来は相互協力してマガツヒを殲滅する為に生み出された兄弟が、同じ目的で生み出された兄弟が数奇な運命に踊らされ、欲望の渦に飲み込まれた果てに激突する。このような願いは込められていない。だが、運命は無情にも兄弟に殺し合う宿命を与えた。
強大な力がぶつかり合い、居住区域は混乱の極致へと至る。敵を殲滅する事を目的に生み出された壱号機の攻撃を弐号機は辛うじて防ぐ。両者の性能は同じ。だが、無表情の弐号機に反し、壱号機は不敵な笑みを浮かべる。理解した。強烈な意志が内在する為にカグツチをより多く取り込める分、己が有利である事に。
「君達は本当に人か。これは本当に意志の為す事なのか。何故ここまで出来るのだ」
弐号機の声が戦場に木霊する。彼に感情はない。その筈だが、言葉は抑揚の無い普段の言葉遣いとは違う、極僅かな震えを感知した。それはまるでこの事態に怒りを感じているかのようだった。戦場となる居住区域は相変わらず消毒用の雨が降り注ぎ続け、住民が流した赤い血は雨に押し流され、綺麗に消え去った。
だが、その光景は血を啜る化け物が流れた血を全て啜り、それでも足らぬと叫んでいる様に見えた。その化け物とは人の悪意、あるいは歪んだ意志が生み出した戦いと言う行為そのものだ。
※※※
戦火は居住区域から離れた複数箇所で同時発生する。超広大な生活圏の丁度中央に位置する居住区域から数十キロ離れた別の居住区域内においても同じく、突如として量産型のタケミカヅチが姿を現した。出現場所は何処も彼処も一般的なマンション。
比較的治安の良い区域は監視カメラによる監視が丸ごと外されている。気になっていたのは確かだ。もっと詳細な調査を行えば看破出来たかもしれない。が、限られたリソースを旗艦側の監視不能区域にまで割くのは事実上、不可能だった。
それに――過激派の犯罪隠ぺい、管理リソース不足以外の理由が見当たらなかった。現実に旗艦側のリソースは完全に不足しており、犯罪のもみ消しらしき光景も相当数確認した。が、現実は違った。住居の扉や壁を破壊して現れたタケミカヅチ計画の量産型こそが真の理由。アラハバキは切り札となる量産型を秘匿すると言うただそれだけの為に、ここまで回りくどい計画を立てた。
何者かは分からないが、神の不在にあっても尚、ここまで慎重に事を運ぶ深慮遠謀には恐れ入る。しかし、如何に先を見通せるとはいえ量産型諸共に壱号機が敵に回る事までは想定出来なかっただろう。
咥えて、住居を無理矢理改造する手間暇をかけた影響か、総数が少ない。ざっと確認した限り、精々20体程度。しかし性能は抜きんでており、数など何の参考にもならない。
その力が図らずも、直ぐに証明された。当該区域に駆け付けたヤタガラス達が量産機と戦闘を開始したものの、たった一機に為す術なく全滅させられた。市民達の阿鼻叫喚の叫びが聞こえ、続いて建物や道路が血で染まる。
私もツクヨミも絶句した。悪夢の再演を止めるには壱号機を破壊するしか道はないが、それを成せる程の戦力は旗艦側に存在しない。本来ならば旗艦の危機に際し命を賭けて守護する筈のスサノヲは市民達が自ら望んで彼等の排斥を望み、その意を汲んだという体裁でアラハバキが酷使した。
連合各地の資源採掘基地の調査と防衛。本来ならばスサノヲではなく担当宙域の惑星が行うべき調査を引き受けた理由は、スサノヲを旗艦アマテラスへと近づけないと言う表向きの理由に加え、単純に各惑星から金銭を得るという側面もあった。
スサノヲは大きく疲弊していて真面に戦えない。その事実は我らにとっては幸運だが、旗艦側にしてみれば絶望に等しい不幸でしかない。だが、最大の不幸は流れる夥しい血も、怨嗟と恐怖の叫びも雨にかき消されてしまう事だ。戦場に振る絶望の雨が、全てを押し流す。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる