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第9章 神の過去 想い そして託された願い
88話 遠い昔の思い出~清雅源蔵との邂逅 幼少期
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過去を思い出した。清雅源蔵と初めて会った日を――
※※※
久しぶりに脱出艇の外に出た。清雅一族と関わってもうどれ位の時が過ぎたか。400、いや500年近く経つのか。出会った時は無名で、地図を含めた記録にさえ記されなかった清雅村は、今では世界にその名を知らぬ者は居ない程の存在へと変貌した。時が経ち、時代が移り変わる中で私は――何時の間にやら神として崇められるようになってしまった。
私が望んだ訳ではない。彼等が頼んだ訳でもない。ただ、何時の間にかそうなってしまった。特に不満はなかった。村の皆はよくやってくれた。だが、昔はよくこうして表に出て外の光景を眺めたものなのだが、「神」として本格的に崇められる様になってからは軽い気分で表に出ると彼等が妙に殺気立つ様になった。信仰の対象である私の身に万が一何かあればと、そう考えているのだろう。
利益を齎す存在だからではなく、利用しているからでもないし、ましてや悪意や害意や敵意でもない。ただ単純に、私を守りたいという使命にも似た意志、それのみが連綿と一族に受け継がれているようだ。ただ、それでもずっとあの中に押し込められ続けては気分が滅入ってしまう。だからこうして、時折こっそりと抜け出すのだが――
「だれ?」
声に驚いた。誰も居ないと思っていたのだが、少なくともカメラの映像には映っていなかった。
「申し訳ありません、子供です。死角におりまして、気付くのが遅れました」
アベルから連絡が入った。なるほど。だがこの状況で見つかれば、この小さな子供は大人達から大層叱られるだろう。さりとて子供の面倒を見た経験もない。さて、どうしたモノか。私は大いに迷った。私と関わるのは大抵が清雅一族の長だったが、性別年齢に違いは有れど誰もが成熟していた。若くても30歳程度で、物心ついたばかりの子供との接触は初めてだ。
「おねーさんはだれですか?」
私が最初に返答しなかったからか、小さな紳士が精一杯の敬語で私に再度語り掛けてきた。大人達とは違い、変に穿った考え方はしないだろうから、正直に話して帰ってもらうのが一番良い。
「さぁ、誰だろうな。実は自分でもよくわからないのだ。君の名前は?」
短い思考の末、素直な心境を返答として選んだ。もう少し言いようがあったか?偶然の出会いを無駄にしてしまっただろうか?だが、他に何も思いつかなかった。
「ぼくはせいがしゅういちです。あ、でもげんぞう?だったかなそっちのほうがいいかも」
「そうか、君が次の」
「おねーさんはどこからきたの?」
「遠い空の向こう。真っ黒い宇宙の何処かから、かな」
「かえりたい?」
「そうだな、出来るならばそうした方が良いのだろうが」
「ならぼくがつれていく!!」
「そう、か。なら、君に期待しよう」
私は――私を精一杯気遣う小さな紳士の目を見つめるように屈み、頭を撫でた。私達の出会いは偶然で、しかもほんの僅かの時間で終わった。君と私の始まり。以後、少年は大人達の目を盗んではこの場所にやって来るようになった。
何れ一族の長を継ぐ彼が修めなければならない知識は膨大。一般的な学業は勿論、私の与えた技術を正しく扱えるように地球外の知識もその小さな頭に詰め込まなくてはならない。後は他者を動かす為の学問、経営術やリーダシップ論、帝王学やら果ては心理学から哲学まで。遊ぶ暇や世俗を知る機会すら一切与えられず、知識と言う知識を吸収する必要がある。
だというのに彼は何処からそんな時間を捻出しているのか疑問に思う程度に足繁く私の元に通った。私もそれまでの一族の誰とも違う彼を見て、ほんの少しだけ心が休まった。誰かと目線を合わせて話すと言う機会は――そうだ、思い出してみれば今まで一度としてなかった。
アベルも珍しく私の行動を咎めなかった。それどころか寧ろ一族の誰かが来る度に追い返していた事を後で知った。どうしてそのような行動を取るのか、と彼に聞いてもはぐらかされるばかりだった。ただ、それでも私は小さな少年との僅かな会話が楽しみとなっていた。
※※※
久しぶりに脱出艇の外に出た。清雅一族と関わってもうどれ位の時が過ぎたか。400、いや500年近く経つのか。出会った時は無名で、地図を含めた記録にさえ記されなかった清雅村は、今では世界にその名を知らぬ者は居ない程の存在へと変貌した。時が経ち、時代が移り変わる中で私は――何時の間にやら神として崇められるようになってしまった。
私が望んだ訳ではない。彼等が頼んだ訳でもない。ただ、何時の間にかそうなってしまった。特に不満はなかった。村の皆はよくやってくれた。だが、昔はよくこうして表に出て外の光景を眺めたものなのだが、「神」として本格的に崇められる様になってからは軽い気分で表に出ると彼等が妙に殺気立つ様になった。信仰の対象である私の身に万が一何かあればと、そう考えているのだろう。
利益を齎す存在だからではなく、利用しているからでもないし、ましてや悪意や害意や敵意でもない。ただ単純に、私を守りたいという使命にも似た意志、それのみが連綿と一族に受け継がれているようだ。ただ、それでもずっとあの中に押し込められ続けては気分が滅入ってしまう。だからこうして、時折こっそりと抜け出すのだが――
「だれ?」
声に驚いた。誰も居ないと思っていたのだが、少なくともカメラの映像には映っていなかった。
「申し訳ありません、子供です。死角におりまして、気付くのが遅れました」
アベルから連絡が入った。なるほど。だがこの状況で見つかれば、この小さな子供は大人達から大層叱られるだろう。さりとて子供の面倒を見た経験もない。さて、どうしたモノか。私は大いに迷った。私と関わるのは大抵が清雅一族の長だったが、性別年齢に違いは有れど誰もが成熟していた。若くても30歳程度で、物心ついたばかりの子供との接触は初めてだ。
「おねーさんはだれですか?」
私が最初に返答しなかったからか、小さな紳士が精一杯の敬語で私に再度語り掛けてきた。大人達とは違い、変に穿った考え方はしないだろうから、正直に話して帰ってもらうのが一番良い。
「さぁ、誰だろうな。実は自分でもよくわからないのだ。君の名前は?」
短い思考の末、素直な心境を返答として選んだ。もう少し言いようがあったか?偶然の出会いを無駄にしてしまっただろうか?だが、他に何も思いつかなかった。
「ぼくはせいがしゅういちです。あ、でもげんぞう?だったかなそっちのほうがいいかも」
「そうか、君が次の」
「おねーさんはどこからきたの?」
「遠い空の向こう。真っ黒い宇宙の何処かから、かな」
「かえりたい?」
「そうだな、出来るならばそうした方が良いのだろうが」
「ならぼくがつれていく!!」
「そう、か。なら、君に期待しよう」
私は――私を精一杯気遣う小さな紳士の目を見つめるように屈み、頭を撫でた。私達の出会いは偶然で、しかもほんの僅かの時間で終わった。君と私の始まり。以後、少年は大人達の目を盗んではこの場所にやって来るようになった。
何れ一族の長を継ぐ彼が修めなければならない知識は膨大。一般的な学業は勿論、私の与えた技術を正しく扱えるように地球外の知識もその小さな頭に詰め込まなくてはならない。後は他者を動かす為の学問、経営術やリーダシップ論、帝王学やら果ては心理学から哲学まで。遊ぶ暇や世俗を知る機会すら一切与えられず、知識と言う知識を吸収する必要がある。
だというのに彼は何処からそんな時間を捻出しているのか疑問に思う程度に足繁く私の元に通った。私もそれまでの一族の誰とも違う彼を見て、ほんの少しだけ心が休まった。誰かと目線を合わせて話すと言う機会は――そうだ、思い出してみれば今まで一度としてなかった。
アベルも珍しく私の行動を咎めなかった。それどころか寧ろ一族の誰かが来る度に追い返していた事を後で知った。どうしてそのような行動を取るのか、と彼に聞いてもはぐらかされるばかりだった。ただ、それでも私は小さな少年との僅かな会話が楽しみとなっていた。
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