G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第9章 神の過去 想い そして託された願い

93話 はるか遠い 昔の話 その続き 其の3

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 2日前、この星の知的生命体との初遭遇時の映像を見返していた。雨が降り、引き返した一団を見る。艦外のカメラが遥か遠方で雨に打たれる知的生命体の一団を捉えた。誰の顔も、明らかに困惑していた。口には出さないが表情が物語っている。てっきり喜ぶものかと思っていたのだが。

 いや――彼等からすれば不気味としか表現できない面妖めんような女と別れた直後、言葉通り雨が降ってきたのだから驚く方が自然なのか。

「もしや、もしやあの女は妖怪などではなく神様なのでは。我々の苦境を知り手を差し伸べているのではないでしょうか?」

 無言の間を破り、一人が重い口を開いた。

「何を馬鹿なことを……いや、分かっている、全員同じ気持ちか。ならば全員一足先に戻れ、私はもう一度あの場所に戻る」

「どうかお気をつけて」

 皆に先に戻るよう告げ、私と対峙した山県兼定が道を引き返し、再び私と相見えた場所に戻って来た。が、一足早く機能を復帰させた私は既にその場にいない。

 男の目に映るのは、彼の文明では製造不可能な小型の宇宙船。正体不明の女と出会い、軽くあしらわれ、雨が降るから帰るよう促された一連の出来事は夢幻ゆめまぼろしなどではなく、事実だ。

 何か奇妙な箱としか思えない異様で巨大な物体を見上げる男の顔には先ほどよりも強い困惑と混乱に支配されている。山県兼定と名乗った男は先程までの出来事が事実か夢か、答えを得られないまま再び視界から消え去った。

 ※※※

 映像を切り、仕事に戻る。ナノマシンによる復旧が開始された事もあり、艦内は幾分か落ち着いた。不調の幾つかは解決され、破損したシステムの幾つかもアベルによって修正ないし新たに作り直された。

 だが、対応できない問題もあった。乱雑に飛び散った部品やら破片やらの後片付けがその一つ。後の自己紹介でアベルには身体がなく、艦内には清掃用のマシン一つすら積み込まれていないと判明した。加えて真面な設備もなければ資材もない。早急にこの星から離脱せねば、とはやる気持ちを抑えながら黙々と片づけを行う最中――

「先日の非礼、どうかお許しいただきたい!!」

 スピーカーから一際大きな声がした。声の主を確かめ、艦外に山県兼定の姿を確認した。非礼と聞き、問答無用で戦闘したあの時の行動を思い出す。謝罪か?しか随分と突然だ。どれだけ考えても心変わりした理由は思い当たらない以上、あの男を含む一団側に何かあったと考えるべきか。

 山県兼定は膝を揃え、畳む奇妙な座り方をしている。背筋は真っ直ぐ伸ばし、船を真っ直ぐに見据えていた。先日の気難しい人物像とは一致しない実直さを感じる。少なくとも、嘘偽りではないようだ。

「2日前、我々に恵みの雨を与えて下さった貴方にぜひともお願いしたい事がございます。どうか……どうかお顔を見せて頂きたい」

 男は叫び、額を地面にこすりつけた。微動だにせず、そのまま願いを請い続ける。この文化における礼儀作法らしい。お願い、か。来た理由にはおおよそ予測がつく。男の言葉と復旧した各種観測機器のテストを兼ねた周辺地域の詳細データを確認すれば、自ずと回答は出た。

「お気をつけて」

 背後から聞こえる無機質な声に押され、私は外へと向かった。男は相変わらず微動だにせず、艦内の映像から見たままの姿、額を地に付けたまま伏していた。

 私は一歩、また一歩と男に近寄る。どう言葉を掛ければ良いか迷う。だから、男から声を掛ける事を期待し、近づいた。しかし、男は私が姿を現し、近づいたというのに動こうとしない。このまま互いに黙ったままでは埒が明かない。どのような言葉を掛けるべきか私は再び考えた。

「用件はなんだ?」

 散々シミュレートした挙句がこれだ。自分でも驚くほど単純な一言に自分でも呆れたが、効果は覿面てきめん。男は直ぐに動き出した。出来ればもっと早くに動いて欲しかったのだが、と考えたがそれは言うまい。もう敵対するのは御免だ。地面から離れた山県兼定の額は土で汚れ、それ以上の汗が強面の顔を汚していた。男はそんな事などお構いなしに語りだす。

「先日、貴方様が起こした奇跡を拝見致しました。その奇跡でもってどうか我々をお救い頂きたく参上した所存でございます。どうか……」

「水だな」

 長々と話を聞いては彼の体調にも障る。言葉を遮り、簡潔に用件を言い当てた。ここ数日の周辺状況の観測から周辺地域が渇水に陥っている事実は既に私とアベルの知るところ。水不足を引き起こす晴天は、男達からすればさぞ忌々しいだろう。

「残念だが、私に君が考えるような力はない。あの日は雨が降ってくると分かったから伝えただけ。君も分かっているのではないか?」

 意を決し、残酷な現実を突きつけた。山県兼定の目に僅かながら動揺が浮かびあがる。随分と分かり易い性格をしている。だが、私も嘘はつかない。残念ながら私は奇跡を起こせるような超常的な存在ではない。

 だが、それでも男は食い下がる。そうするだけの理由があるのはよく分かる。男ほどの年齢ならば子供がいても不思議ではない。あるいは上司か部下か、ともかく渇水により近しい誰かが命の危機に瀕しているようだ。

「重々に承知しております。しかし最早、頼るものがないのです。わらにも縋る思いなのです。これ以上雨が降らなければ年貢を納める事が出来ず、我が主がお上から見捨てられてしまいます。ですから、どうか何とぞ、何とぞご慈悲をッ!!」

 男は叫び、再び額を地に擦り付けた。ネングとかオカミといったこの地域特有の固有名詞については相変わらずだったが、男を取り巻く状況は認識出来た。彼等から見れば怪しげな存在である私に頼むという事は、それ程に事態が切羽詰まっているようだ。という事は、協力を拒んだところで受け入れてはくれなさそうだ。だけど、それだけではない。何故だか彼の言葉に私の心は強く反応した。

「何か書く物はあるか?なければ今から伝える場所を覚え、皆で掘ってみるといい。場所は……」

 ざわつく心の赴くまま、男に助言を与えた。男は再び頭を下げ、すぐさま踵を返した。この程度ならばさして影響は出ないだろう。無暗に刺激し、敵に回す位ならば友好的な関係を築いた方がいい。私達は逃げてきたらしく、帰る場所がないのだから尚の事。

 だが、それ以前に逃げたくとも逃げられない。高い演算能力を持つ程度で、それ以外が抜きんでている訳ではない。それに、身一つで逃げられる程に私は何かを知っている訳ではない。だから、今はこれでいい。少なくともこの星を離れるまでは。

「これで良かったのでしょうか?」

 アベルが、私の決断に異を唱えた。彼への対応か?それとも私の下した決断の方か?私にもよく分からなかった。ただ、彼等の置かれた状況の改善を願わずにはいられなかった。

「見捨てられてしまいます」

 その言葉が酷く気になった。それだけが何故か記録に強く残った。そして何故残ったのか、やはりそれは分からなかった。
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