G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第9章 神の過去 想い そして託された願い

97話 現在 混迷する戦況 其の3

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 20XX/12/22 1000

 素顔を晒した仮面。その正体に旗艦側のほぼ全員が驚いた。ヤゴウは言うに及ばず、オオゲツでさえも。必死に動揺を抑え込んでいるが、目には明らかに動揺の色が浮かぶ。男の素顔に全く動揺していないのはタガミと、恐らく一連の首謀者、ヒルメのみ。

「貴様ッ!?黄泉に、拘束され……まさかタガミ、貴様ァ!!」

 たまらずヤゴウが映像に叫んだ。仮面の下、今まで素性を隠していた男の正体は、数日前タガミを殴ったというただそれだけの理由で極刑囚拘束区画黄泉に連行されたスクナだった。

「オイオイオイ、文句言われる筋合いねぇよなぁ?大体、お前も隠し事なしって約束破っただろうがよォ。それっぽい理由強引にでっち上げて黄泉に送ったのはこういう訳さ。あぁ、報告遅れてスマンね」

 全く悪びれない言動に、ヤゴウとオオゲツの視線が仲良く動いた。こんな回りくどい計画をタガミが単独で立案、実行に移せるなど考えない。計画補佐――いや、全てこの素性不明の式守シキガミの仕業だと。そのヒルメはどこ吹く風かと思いきや、ヤゴウとオオゲツの視線に含み笑いで返した。

「総員、奮起せよ。アマテラスオオカミより全権を委任された代行者スクナが全部隊に勅令ちょくれいを出す。スサノヲとヤタガラスにクズリュウと同じ権限を与える。同時に、アマテラスオオカミの鎖による拘束から全員を解放する。守ると決めた者の為に奮起せよ!!かつて我々は神に守られてきた。今度は、誰かを守る番だ!!思うだけでは伝わらない、その意志を、行動を通し言葉と共に証明せよッ!!」

 スクナが勅令を発した。

「馬鹿な!?勅令はまだしも、どうして鎖の解除が出来るッ!!奴は岩戸の中だぞ。解放する鍵アメノウズメもココにあるのにどうしてッ!?」

 狼狽えるヤゴウ――

「まさか……アマテラスオオカミが……それでは私達の計画が……」

 動揺を隠し切れないオオゲツ。代行とは言え神の勅令。勅令の遵守は法、義務、権利に最優先する。この時点でアラハバキは完全に手足をもがれた。勅令を受け、旗艦側のシステムに何かが強制介入、鎖に関連する全システムを強制停止させた。

「私達の行動を読み、対策を立てる。こんな真似が出来るのは……」

 またしても予測を外れた。計画が更に大きく狂う。清雅源蔵の造反に続き、連合最強と目されるスクナが姿を見せた。更に勅令による鎖の消失を受け、退役兵とヤタガラスの士気は見違える程に向上した。戦況が押し戻される可能性は非常に高い。

「全部隊へ通達。勅令が下されました。現時刻を持って、皆様の行動を制限する障害は全て取り除かれました。今から皆様の元に十分な質の武装を転送します。どうかこれで……」

 事態を知るヒルメは思考が停止する有象無象を他所に淀みなく動く。通信を開き、不遇にあえぐスサノヲに武器を転送した。やはり、彼女は――

「勝手な事、しないでくれますか!!」

 が、行動中断する。怒号がヒルメをさえぎる。白川水希。広大な艦橋を所狭しとうねる龍がヒルメに狙いを定め、噛み砕かんと大きな口を開け、突撃する。しかし――

 ガキィ

 鈍い音、衝撃が広大な環境に広がる。攻撃は見えない壁に弾かれ、未遂に終わった。壁の奥を睨む白川水希、対してヒルメ以外は唖然とその光景を見つめる。そんな能力を持つ者はこの場に存在しない。監視した限り、類似する性能を持つのは弐号機のみ。

「私、実は極秘裏に製造されたタケミカヅチ計画の参号機でして。ですのでこういう真似も出来るんですよ」

「馬鹿なッ!?計画では2機だけのハズだッ!!」

「アマテラスオオカミ。やはり大人しく封印されたのは切り札を隠して……いや、まだこの程度では」

 ヒルメが己の素性を明かした。その正体にヤゴウとオオゲツは再び面食らい、オペレーターは恐れおののく。計画の中心に居たアラハバキでさえ知らない計画外の機体など想定出来る訳がない。参号機はオペレーター専用の制服の懐から菱形状の何かを取り出した。遠隔操作か、空を舞う何かは僅かに輝きながら巨大な防壁を展開した。

 アレは弐号機が装備する専用武装。確か、名は久那土クナド。遠隔操作式の防壁発生装置。龍は彼女が展開した防壁に弾かれ、体勢を崩す。

「なら、これはどうですか?」

 白川水希が即座に次の指示を出す。龍はおぞましいほどに青い輝きを増大させ、出鱈目な速度で加速する。先ほどまでとは桁違いの威力を伴う一点突破の体当たり。さながら青い流星は、防壁と激突するや凄まじい衝撃を発生させた。余波で周辺の諸々が吹き飛び、比較的離れていたオペレーター達は慌てて逃げ出す。

 それ程の威力を、それでも防壁は受け切った。が、能面の如きヒルメの顔に明らかな緊張が浮かぶ。一見すれば均衡きんこう状態だが、いつ崩れるか分からない。

 尚も続く突撃。その度に広大な艦橋全体が地響きのように鳴動する。二度。三度。が、四度目はなかった。呆気なく防壁が消失した。勝負は白川水希の勝利となった。防壁に威力を相殺されながらも、龍は果敢に突撃する。しかし、ヒルメへの直撃は成らず。軽やかな動きで回避した。

 防壁を消失しながらも、尚も食い下がるヒルメ。龍は艦橋を悠々と旋回し、再びヒルメへと向かう。先程よりも速度を増した攻撃は、遂に音速を超えた。うねり、突撃する度に衝撃波が周囲を揺さぶる。

 艦橋の誰もが遠巻きに眺めるしか出来なくなった。何かをしようにも白川水希がいては何一つ出来ない。ヤゴウも命惜しさに押し黙り、オオゲツも不測の事態に何の手も打てず、忌々しいとばかりに戦闘を見つめる。

 ※※※

 ヒルメと白川水希。拮抗する両者の戦闘は、程なく様相が変化した。攻撃を刹那で見切り交わし続けていたヒルメが徐々に追い詰められ始めた。元々戦闘用ではないのか、戦闘用プログラムをインストールしていないのか、又は訓練を受けていないのか、あるいは白川水希の能力が予測を超えていたのか。

 龍の攻撃が遂にヒルメを捉えた。

 直撃し、艦橋の床に叩きつけられるヒルメ。流石に体躯は無事なようだが、大きくひしゃげた床と艦橋を伝う衝撃、大きく揺れ動く映像が威力を物語る。力なく床に倒れ込んだまま動かないヒルメに、オペレーター達の顔面は蒼白となった。

「そのまま、そこで寝ていなさい!!」

 白川水希は言い放つと龍を操作、震えるオペレーターをさらい、操作用デバイスを奪い取った。呆気にとられるオペレーター達を他所に、手近な席に座った彼女は手際よく地上との通信を切断し始めた。

「な、なんで?どうして?」

 初めて見る機器をまるで熟知しているかのように操作する様子に、オペレーターが疑問の声を上げる。その動きは熟練者を連想させる程に鮮やかで、手際が良かった。

「ツ、ツクヨミ……ですか……」

 ヒルメの声が耳を掠めた。ゆっくりと、震える体躯を引き起こし、だがそれ以上の行動を取らず、ただ白川水希を眺めながら回答を待つ。ダメージは深刻なようで、流麗な動きは鳴りを潜めている。

 艦橋に動く人影は白川水希だけとなった。それは白川水希という地球人ならば特兵研の最新鋭機とすら互角以上に戦える事実に、あり得ない現実に戦慄せんりつし、恐怖した結果。

「そうですよ。お前達が捨てた我らの神が居るのに、どうしてこの結末を予見できなかったのです?初めて会った時から思っていましたが、随分と無能ですね。だから、私達が貰います。お前達には過ぎた代物です」

 誰も止められない。せめて、誰かが助けにこれば――と願うが、現実が無情に否定する。転移装置はエネルギー逆流により破損、無事な装置はエネルギー供給停止により機能停止中。誰もこの場に来れず、従って白川水希を止める手立てはない。

「まだ……まだ状況が」

 ヒルメは未だ諦めていない。だが、この状況で何を期待するというのか?何を願うというのか?奇跡でも起きるのを待つつもりか?しかし奇跡など起きない。その可能性は人自身が潰したのだから。
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