G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第9章 神の過去 想い そして託された願い

98話 激突する兄弟

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 タケミカヅチ壱号機。意志を持ち、完全自立する兵器は地球製ナノマシンを取り込み、変貌した。両腕は一回り大きく肥大化し、まるで心の内を現していると言わんばかりに両手の爪、手の甲、肘に大小の鋭い刃が生える。

 対する弐号機は防戦一方。拠点の防衛を目的とする弐号機の専用兵装は自身に内蔵された最新鋭の防御兵装と超小型高性能された十機から成る菱形状の防御兵装内蔵型遠隔操作端末クナド、それに幾つかの通常兵器のみ。それでも並みレベルならば圧倒できる程に高性能だが、戦闘経験有無と意志の発露という大きな差により劣勢に陥る。

 睨み合う中、壱号機が僅か先行した。口角を歪めながら拳を振り抜く。バチ、と嫌な音が弐号機の直前で破裂する。防壁の破壊は成らず。が、壱号機は構わず攻撃を継続する。分かっている。今は出来ずとも、遠くない内に破壊出来ると理解している。

 弐号機も同じ結論に辿り着いており、周囲を浮遊する十機の遠隔操作端末を巧みに操る。特定端末だけに負担が集中しないよう負担を分散させつつ、同時に常に角度を付け、攻撃の威力を僅かでも逸らす。

 並行して攻撃も行う。強力な防壁で攻撃を防ぎつつ、隙を見て反撃に転ずる。手元に転移用の門を呼び出し、灰色の光の中に右手を突っ込み、巨大な刀を引き摺り出し、即座に振り下ろす。

 が、壱号機は片手で易々と受け止める。次いで弐号機は左手に持った大型の大砲の引き金を引いた。大きな反動と音、振動。威力は折り紙付き。攻撃は直撃、至近距離でさく裂した弾丸が巨大な爆風と衝撃波で両機を飲み込んだ。

 爆風から幾度も衝撃が響いた。弐号機が構わず攻撃を続ける。一発だけでは足りぬと二発三発と立て続けに零距離射撃を繰り出す。至近距離からの攻撃による影響は、超高性能な防壁を発生させる事が可能な弐号機側には存在しない。

 程なく爆風から弐号機が無傷で飛び出した。後方に飛び退き、防壁を展開したまま様子を窺う。至近距離から真面に攻撃を受けたのだから多少の手応えはあると信じたいが、油断と無縁の弐号機は無表情で爆風の先を見つめる。

「すげーや、さっすがタケルにーちゃん!!」

「がんばれー!!」

 場に不釣り合いな声。緊張を維持していた弐号機が反射的に声の方を振り向き、それまでの無表情を大きく崩した。動揺する彼が見つめる先には、逃げ遅れたと思しき数人の子供達がおり、各々が戦いの行方を見守っていた。

「君達は……早く逃げるんだ」

 弐号機は再び無表情、無感情の相貌に戻すと子供達に逃げるよう指示を出した。判断は正しい。子供達には一見すれば弐号機が優勢に立っている様に見えるのだろう。だが――

「戦場でよそ見をするとは、随分と出来の悪い弟ダな?」

 穏やかな声。弐号機は無表情のまま声を向き直る。が、代わりと言わんばかりに子供達の顔色が恐怖に染まった。爆風が霧散した。無傷の壱号機が悠然と立つ。互角。両者の実力は拮抗している――様に見える。

 子供達は怯え、すくみあがる。動けない。無垢な子供には悪意と敵意と殺意に晒された時の対処法など分かる筈もない。まだ小さいのだから仕方がない。無知なのだから仕方がない。だが、そんな一切は壱号機には無関係。

 自らを生み出した傲慢ごうまんな人間と同じだからというそれだけで、壱号機は子供を殺す。子供達の命運は尽きたも同然。しかし、弐号機は諦めない。

「大丈夫だ、必ず勝つ。だから早く避難してくれ」

 彼は壱号機から目を背け、子供達の恐怖と緊張を解す為、ぎこちない笑顔を作った。逃げるよう優しく促しつつ、子供達と壱号機の間に割って入る。

 アマテラスオオカミ程ではないにせよ、より早く戦況を見極め、適切な対応を行う高性能な演算機能を与えられた彼が非効率、非論理的な思考を取る。その源泉は――恐らく、アラハバキによってその機能を封じられた彼も兄と同じく、自我に目覚め掛けている。彼が如何なる理由で子供達を守ろうとするのか、その揺らぎが――意志が演算を超える。そんな気がした。

「どうした、弟よ!!よそ見をしている余裕などないダろう?」

 叫ぶ壱号機が弐号機目掛け拳を振り抜く。拳から発生した青白い衝撃波は彼と子供達の間にある全てを砕きながら直進する。壱号機には、滅ぼすべき相手である人間を守る同型機が酷く不快に映ったのだろうか。攻撃には子供諸共に粉砕する確固たる意志が宿る。

「させなイ」

「愚かダな、お前は!!」

 弐号機は咄嗟とっさに防壁を拡大、子供達を覆う様に再展開した。行動を予測していた壱号機は弐号機目掛け猛進し、拳を振り下ろす。攻撃を右手の刀で受け止める弐号機。一見すれば互角、同型機であるのだから基本性能に差はない――が、結果は弐号機の負け。押し負けた弐号機の刀は衝撃で弾き飛ばされ、また弐号機自身も大きく後退した。

 遥か後方の地面に突き刺さった刀の刃にヒビが走る。ナノマシンによって実体化された刃が凄まじい衝撃に破損、形状を維持できなくなり、やがて無数の金属音と共に地面に落ちた。

「に……にーちゃん」

 子供達は恐怖に震えながらも弐号機を心配する。よく見れば弐号機の右腕も破損していた。人間と同じに見せられた表皮が削り落ち、内部でうごめく鋼色の機械が剥き出しになっている。その光景を見ても尚、子供達は弐号機を心配する

 どうやら、少なくとも子供達に慕われる程度には良好な関係を築いていたようだ。ただ、その良好な関係が仇となった。
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