G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第9章 神の過去 想い そして託された願い

99話 弐号機の過去 其の1

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 ――約3か月前

 アベルから受け取った膨大なデータの中に弐号機を捉えた映像があったのを思い出した。不自然な程の美形に恐らくは式守シキガミ、最悪は弐号機の可能性も視野に入れていたが、諸々を踏まえた上での結論は「一先ず問題なし」だった。

 関連する中で最も古い映像は居住区域の一角に作られた公園から始まる。幾つもの木々や椅子の他に運動用の広い空間が用意された公園に広がる喧騒の中心に弐号機はいた。その彼は――何故だか子供達に振り回されていた。

 そんな様子を大人達は遠巻に窺う。子供達とは対照的に冷めた目には、弐号機に対する拒否感が隠し切れない。

 かつて多くの命を奪った壱号機の反乱から幾分か時間が経過したとはいえ、人型をした式守への拒否感は大きい。ましてや同型機となれば尚の事。量産型制御機能の削除や専用武装を防御系統に絞るなどの対処程度で過去の恐怖は拭えない。弐号機も大人達の視線に気付いていながら、それでもあえて気付かないふりをしている。

 一方、大人達の思惑はまだ小さな子供達には理解出来ない。屈託ない笑顔と言葉に子供達との交流がもう何日も続いている様子が垣間見えた。

「やくそくおぼえてるー?」

「どんな約束だったろうか?多すぎてどれか分からなイ」

「はなしかたがかたーい、あのねなまえかんがてきたの」

「コードネームは必要になれば与えられる手筈となってイる」

「だからだよー、なまえないのはかわいそー」

「そうだよ、かわいそー」

「承知した」

「でね、あのね……タケルってどうかな?おおむかしのおはなしにでてくるすごいひとのなまえからとったの」

「考えておく」

「それはだめー、いますぐー」

「承知した……では今からタケルと呼んでくれ。だがここだけにして欲しイ」

「はーい、じゃあわたしタケルくんとけっこんするー」

「なにそれぇ?」

「むかしのことおべんきょうしてたときにきいたの、あいしあうだんじょがする……なんだっけ?」

「ぼくもしってるけど、でもそのはなしをおとうさんとおかあさんにするとすごくおこるんだ。なんでだろうね?」

 子供達はそれぞれが好き勝手に弐号機に要求を出すが、悲しいかな知識が追い付いていない。肉体的にも未成熟な未成年との婚姻はどの星系でも厳しい制限や罰則によって規制されている。

 地球も例外ではない。世界各国で制定された法律の大半は旗艦法と連合法を参考にした。それが結果的に平和を維持する事になると、そう信じて徐々に変えさせていった。

 当然その情報を持っている弐号機は、子供との婚姻が連合法で禁止されているのは君達をを守る為なのだ、と――

「結婚とは社会に出る程度に成熟した者同士が夫婦とイう新しく小さい社会的な形式を作る事を指すもので、この旗艦アマテラスに限れば今から一1453年前に廃止された制度となってイる。先ず廃止された原因だが、現制度の前身となった婚姻制度とは、婚姻関係を結ぶ夫婦が基本的に船団内の男女のみを想定してイた制度であった為、拡大する価値観に対応しきれなくなったからだ。婚姻制度に対する旗艦内の不満が徐々に高まっていく状況に対し、より幅広イ価値観を認める事で市民のストレスや不満を緩和しようと言う当時のアマテラスオオカミの決断により、同性に始まり種族や星の壁をも超え自由に配偶者を選ぶ事が出来る新しい制度、つまり現在君達が良く知る配偶者選択制度が新たに施行される事となった。あぁそう、名を変えたが婚姻を結べる相手が広がっただけでその実情は婚姻と何ら変わらなイ。この為、婚姻とそれに関係する相続などの複数の法律は旗艦秩序維持法ではなく、カガセオ連合が制定した連合法に別途制定された取り決めに従う必要がある。つまり結婚、引いては夫婦を語るとなれば連合法に記された規定を読み解く必要がある。例外としてこの取り決めを無視できるのは主星に住まう姫ただ一人のみとの記載がある。残念ながらその情報につイては私の記録にはなイが極めて局所的な事例であり無視しても問題が……」

「むずかしー」

 すかさず、婚姻に関する一切合切を早口でまくし立た。整然で正確だが、当然だが子供には難しく、誰もが可愛らしい顔をしかめた。ただ、子供達を考え説明しなかったと思われる部分がある。

 過去の歴史において普遍的であった配偶者を自ら探す自由恋愛は、文明の発展や流入に伴う価値観の多様化により徐々に衰退していった。神は問題解決の為の代替手段として、遺伝子や性格などの複数の要素から配偶者を選択するシステム「キクリヒメ」を新たな価値として普及させた。今より1000年以上も前の話だと記録にある。

 ただ、副次的な効果もあったようだ。多様性が多様性を衰退させる矛盾。配偶者選定システムを受け入れた結果、それ以外の婚姻形態が全て衰退した。神の安寧はゆっくりと、確実に、麻薬の如く人心を依存させた。

 変革は受け入れる。但し、神ならば。人は、望んで神の中に停滞した。不安定の排除の最たる例は婚姻もだが、それ以外に幾らでもある。今まで見た中で言えば車の形態も、恐らく3000年の間にもっと発展出来たであろうに、しかし何時までも四輪から進歩しないのは神が「先進的な技術は対マガツヒに全て注ぐ」との決断を疑わず受け入れた為だろう。停滞が思考の土台として定着した、それが楽園の真実。

 弐号機の前で話を聞く沢山の子供達を生んだ両親も一人の例外なくシステムが選定した相手を配偶者としている。他星系との婚姻率は極めて低く、旗艦内において他星系からの移住も含めたとしても僅か数百組程度しか存在しない。

 そう考えれば、大人達が弐号機に対し複雑な感情を抱く理由は一つではないと理解した。過去に衰退した自由恋愛への拒否感。衰退した古い価値と嬉々として語る子供達への拒否感の表出が弐号機へ向ける視線と態度の正体。

 恐らくこの後、子供達は叱責されるだろう。子供時分の頃は憧れたであろう感情を今の大人達は認める事が出来ない。成長に伴い知った常識に囚われ、それ以外を選べなかったが故に、自由に焦がれる子供達が愚かで憎らしく見えるのかもしれない。私はそんな負の連鎖を、子供達と弐号機の僅かなやり取りを通して垣間見た。

「む、承知した。では……イやしかし結婚となると障害となる要素が多イ。残念だが君とは……イやそれ以前にまず年齢が」

 婚姻の要求は却下されて当然。とすれば、次に女の子は瞳に涙を浮かべる。

「う……うぅ、グスッ」

 子供は時に無茶な要求を出し、叶わぬと泣く。これは陽が昇り沈むのと同じ、変えようのない節理。途端に弐号機の態度が露骨に変化した。

「!!……訂正する。過去の偉人はこのような言葉を残した。『この世で最も価値のある宝とは、苦難を共に乗り越える仲間である』と。私達の前にある苦難はとても大きイ、だからこそ共に乗り越えようと力を合わせる事が大切なのだが、これは夫婦と言う間柄におイても同じと言える。つまり、先ず夫婦になれなイこの状況を乗り越える事で、より夫婦に一歩近づけるのではなイかとナントカカントカ」

「えへへ」

 弐号機は辛うじて機嫌を取る事に成功した。あの焦り方、子供達に泣かれると両親から罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせられるのだろう。非常に面倒でデリケートな為、特に注意を払う必要がある事を学んでいるようだ。一見すれば説明通り、交流を学んでいるだけに見えた。
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