175 / 273
第10章 目覚め そして 英雄となる
106話 一転 窮地へ
しおりを挟む
清雅源蔵は死んでいない――
信じられないような言葉に視線が泳ぐ。瞬間、空を蹴り上げ、移動するスクナと僅か目が合った。怒りと焦りが混じる目はそのままに、僅か口角を上げた。が、直ぐに笑みを消し、竜を睨む。
急いで屋上から竜を見下ろした。怪しい部分は何もない――いや、違う。竜は依然として存在している。今までの情報から判断するに、清雅源蔵が死亡したのならば竜は制御を失い消滅する。なのに、まるで何かを待つよう空に悠然と浮いたまま。もしや――
「あそこで戦っていた清雅源蔵、マジンなのか?嘘だろ、人と全く変わらないじゃないか?」
ナギの指摘は正しい。間違いなく。山県大地やゲイルよりも高い性能を有するなら、人と見紛う複製など雑作もないという訳か。答えは正しく、戦場に清雅源蔵が再臨した。本社の広大な敷地の中央から青い光が飛び立つ。一際大きな竜に男が乗っている。清雅源蔵が戦場へと舞い戻った。
「ハハハハハハッ……随分と頑張ったようだが、やはり私の方が一枚上だったな」
清雅源蔵。腹の底から、男の名を絞り出した。だが、現れたのはその男だけではなかった。清雅源蔵が操っていた竜には何時の間にか別の男達がいた。新たに現れた巨大な竜とそれ以前に師と戦っていた合計7体の竜にそれぞれ1人ずつ、計8人の男が突然――
「一人は清雅源蔵だが、残りは誰だ?一族の誰かなのか?」
誰だ?とナギに聞いていた。僅か数時間前の出来事、悪いと思いつつも蹴り飛ばし、気絶させた事などとうに忘れていた。
「しゃ、社長だ。雑誌とか番組の特番で見た事ある……全員、社長だ」
何となくそんな気がしていた。彼を見た。驚き、目を丸くしている。懐かしい。そんな感覚が不安を吹き飛ばした。他愛ないやり取りに、心が少しずつ落ち着く。
ナギが言うならば間違いなく、戦場に現れた子供から少年、青年、壮年まで、髪の長さやら身だしなみまで様々で忌々しい程にバリエーションに富んだ男達の全員が清雅源蔵。だが、全員が生身ではない。あの中に本体がいて、それ以外はマジン製の偽物。ただ、アレでもまだ足りない。アレは切り札じゃない。
「これはこれは、黒幕一味が雁首並べて遅刻とは情けない話だ。その兵器、恐らくナノマシンを操っておるのか。理屈は分からんが、しかし気になるな。そのご自慢の兵器、何故他が使っている物と性能に大きな差があるのだ?下の連中が使っていたモノとは明らかに性能が違う。上に立つ者ならばもう少し部下を信頼しなければいかんと思うのだがね?それとも、そんな殊勝な考えを持ち合わせてはおらんのかな?」
スクナの口調に僅かな嫌味っぽさが覗く。あぁ、と大体の状況が分かった。あの人がああいう物言いをする時は完全に想定外の状況が発生している時だ。焦りや状況の悪化を隠す時、あの人はあんな口調になるのを思い出した。最後に話したのは何時だったか、ナギとはまた別種の懐かしさが胸を貫く。
「フン、元より奴ら半端者等信用していない。それに限りがある。誰が使うかとなれば、私以外に居ない。これが、私の切り札だ。ツクヨミ自らが直接設計を行い私に、私だけに与えたモノ。高度な演算機能で限りなく高い精度で、より大量のマジンを操作する。正に神器。これで、貴様らを黄泉の底に叩き落とすッ!!あんな馬鹿共の下でゴチャゴチャと策を弄したようだが、それもここまでだ!!」
「ならば少しは部下達に配るべきじゃったな。結果はこのザマ、ワシの侵入を許した」
「だからどうしたッ。誰も信用する必要などないッ。私が信じるのはツクヨミと、そして自分自身だけだッ!!全ては私一人が居れば事足りるのだよッ!!」
余りの言い回しに、狂信的以外の感想が浮かばなかった。それがあの男の正しい姿で、今まで隠し通してきた本心か。事実、自分とツクヨミ以外の全てがどうでもいいと言い切る清雅源蔵を見上げる清雅の連中は酷く動揺している。
「どう言うつもりだ?貴様の為に戦う者達をどう考えている!!」
部下を全て切り捨てるに等しい発言にスクナが声を荒げた。表情に、声に怒りが抑えきれず噴出している。
「どうもこうもない、そのままの意味だ。この戦場に最後まで立っていていいのは私だけだ!!そしてッ!!」
スクナの怒号など清雅源蔵は全く意に介さない。まるでそよ風の如く受け流した。が、それまでスクナを睨みつけていた清雅源蔵が突如、私達を向いた。怒りに震える2つの目と、意志を感じない無機質で不気味な14の視線が私達を見下ろす。不味い――そう思った頃にはもう遅かった。
「よくも今日この瞬間まで生き延びてくれたものだ。その生命力、ゴキブリ並だと褒めてやろう。だが、これまでだ!!」
私達の立つビルに一番近い竜の口が光った。光弾――と気付いた頃には既に遅く、激痛と共に身体が浮遊する感覚に襲われた。逃げる暇すらなく、吹き飛ばされたようだ。続けて身体を突き抜ける爆発と衝撃。思考を、脳を揺らされ、意識が飛ぶ。目の前が真っ白になりながら、直前まで考えていたのは、彼の無事だけだった。
信じられないような言葉に視線が泳ぐ。瞬間、空を蹴り上げ、移動するスクナと僅か目が合った。怒りと焦りが混じる目はそのままに、僅か口角を上げた。が、直ぐに笑みを消し、竜を睨む。
急いで屋上から竜を見下ろした。怪しい部分は何もない――いや、違う。竜は依然として存在している。今までの情報から判断するに、清雅源蔵が死亡したのならば竜は制御を失い消滅する。なのに、まるで何かを待つよう空に悠然と浮いたまま。もしや――
「あそこで戦っていた清雅源蔵、マジンなのか?嘘だろ、人と全く変わらないじゃないか?」
ナギの指摘は正しい。間違いなく。山県大地やゲイルよりも高い性能を有するなら、人と見紛う複製など雑作もないという訳か。答えは正しく、戦場に清雅源蔵が再臨した。本社の広大な敷地の中央から青い光が飛び立つ。一際大きな竜に男が乗っている。清雅源蔵が戦場へと舞い戻った。
「ハハハハハハッ……随分と頑張ったようだが、やはり私の方が一枚上だったな」
清雅源蔵。腹の底から、男の名を絞り出した。だが、現れたのはその男だけではなかった。清雅源蔵が操っていた竜には何時の間にか別の男達がいた。新たに現れた巨大な竜とそれ以前に師と戦っていた合計7体の竜にそれぞれ1人ずつ、計8人の男が突然――
「一人は清雅源蔵だが、残りは誰だ?一族の誰かなのか?」
誰だ?とナギに聞いていた。僅か数時間前の出来事、悪いと思いつつも蹴り飛ばし、気絶させた事などとうに忘れていた。
「しゃ、社長だ。雑誌とか番組の特番で見た事ある……全員、社長だ」
何となくそんな気がしていた。彼を見た。驚き、目を丸くしている。懐かしい。そんな感覚が不安を吹き飛ばした。他愛ないやり取りに、心が少しずつ落ち着く。
ナギが言うならば間違いなく、戦場に現れた子供から少年、青年、壮年まで、髪の長さやら身だしなみまで様々で忌々しい程にバリエーションに富んだ男達の全員が清雅源蔵。だが、全員が生身ではない。あの中に本体がいて、それ以外はマジン製の偽物。ただ、アレでもまだ足りない。アレは切り札じゃない。
「これはこれは、黒幕一味が雁首並べて遅刻とは情けない話だ。その兵器、恐らくナノマシンを操っておるのか。理屈は分からんが、しかし気になるな。そのご自慢の兵器、何故他が使っている物と性能に大きな差があるのだ?下の連中が使っていたモノとは明らかに性能が違う。上に立つ者ならばもう少し部下を信頼しなければいかんと思うのだがね?それとも、そんな殊勝な考えを持ち合わせてはおらんのかな?」
スクナの口調に僅かな嫌味っぽさが覗く。あぁ、と大体の状況が分かった。あの人がああいう物言いをする時は完全に想定外の状況が発生している時だ。焦りや状況の悪化を隠す時、あの人はあんな口調になるのを思い出した。最後に話したのは何時だったか、ナギとはまた別種の懐かしさが胸を貫く。
「フン、元より奴ら半端者等信用していない。それに限りがある。誰が使うかとなれば、私以外に居ない。これが、私の切り札だ。ツクヨミ自らが直接設計を行い私に、私だけに与えたモノ。高度な演算機能で限りなく高い精度で、より大量のマジンを操作する。正に神器。これで、貴様らを黄泉の底に叩き落とすッ!!あんな馬鹿共の下でゴチャゴチャと策を弄したようだが、それもここまでだ!!」
「ならば少しは部下達に配るべきじゃったな。結果はこのザマ、ワシの侵入を許した」
「だからどうしたッ。誰も信用する必要などないッ。私が信じるのはツクヨミと、そして自分自身だけだッ!!全ては私一人が居れば事足りるのだよッ!!」
余りの言い回しに、狂信的以外の感想が浮かばなかった。それがあの男の正しい姿で、今まで隠し通してきた本心か。事実、自分とツクヨミ以外の全てがどうでもいいと言い切る清雅源蔵を見上げる清雅の連中は酷く動揺している。
「どう言うつもりだ?貴様の為に戦う者達をどう考えている!!」
部下を全て切り捨てるに等しい発言にスクナが声を荒げた。表情に、声に怒りが抑えきれず噴出している。
「どうもこうもない、そのままの意味だ。この戦場に最後まで立っていていいのは私だけだ!!そしてッ!!」
スクナの怒号など清雅源蔵は全く意に介さない。まるでそよ風の如く受け流した。が、それまでスクナを睨みつけていた清雅源蔵が突如、私達を向いた。怒りに震える2つの目と、意志を感じない無機質で不気味な14の視線が私達を見下ろす。不味い――そう思った頃にはもう遅かった。
「よくも今日この瞬間まで生き延びてくれたものだ。その生命力、ゴキブリ並だと褒めてやろう。だが、これまでだ!!」
私達の立つビルに一番近い竜の口が光った。光弾――と気付いた頃には既に遅く、激痛と共に身体が浮遊する感覚に襲われた。逃げる暇すらなく、吹き飛ばされたようだ。続けて身体を突き抜ける爆発と衝撃。思考を、脳を揺らされ、意識が飛ぶ。目の前が真っ白になりながら、直前まで考えていたのは、彼の無事だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる