G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第10章 目覚め そして 英雄となる

106話 一転 窮地へ

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 清雅源蔵は死んでいない――

 信じられないような言葉に視線が泳ぐ。瞬間、空を蹴り上げ、移動するスクナと僅か目が合った。怒りと焦りが混じる目はそのままに、僅か口角を上げた。が、直ぐに笑みを消し、竜を睨む。

 急いで屋上から竜を見下ろした。怪しい部分は何もない――いや、違う。竜は依然として存在している。今までの情報から判断するに、清雅源蔵が死亡したのならば竜は制御を失い消滅する。なのに、まるで何かを待つよう空に悠然と浮いたまま。もしや――

「あそこで戦っていた清雅源蔵、マジンなのか?嘘だろ、人と全く変わらないじゃないか?」

 ナギの指摘は正しい。間違いなく。山県大地やゲイルよりも高い性能を有するなら、人と見紛う複製など雑作もないという訳か。答えは正しく、戦場に清雅源蔵が再臨した。本社の広大な敷地の中央から青い光が飛び立つ。一際大きな竜に男が乗っている。清雅源蔵が戦場へと舞い戻った。

「ハハハハハハッ……随分と頑張ったようだが、やはり私の方が一枚上だったな」

 清雅源蔵。腹の底から、男の名を絞り出した。だが、現れたのはではなかった。清雅源蔵が操っていた竜には何時の間にか別の男達がいた。新たに現れた巨大な竜とそれ以前に師と戦っていた合計7体の竜にそれぞれ1人ずつ、計8人の男が突然――

「一人は清雅源蔵だが、残りは誰だ?一族の誰かなのか?」

 誰だ?とナギに聞いていた。僅か数時間前の出来事、悪いと思いつつも蹴り飛ばし、気絶させた事などとうに忘れていた。

「しゃ、社長だ。雑誌とか番組の特番で見た事ある……全員、社長だ」

 何となくそんな気がしていた。彼を見た。驚き、目を丸くしている。懐かしい。そんな感覚が不安を吹き飛ばした。他愛ないやり取りに、心が少しずつ落ち着く。

 ナギが言うならば間違いなく、戦場に現れた子供から少年、青年、壮年まで、髪の長さやら身だしなみまで様々で忌々しい程にバリエーションに富んだ男達の全員が清雅源蔵。だが、全員が生身ではない。あの中に本体がいて、それ以外はマジン製の偽物。ただ、アレでもまだ足りない。アレは切り札じゃない。

「これはこれは、黒幕一味が雁首がんくび並べて遅刻とは情けない話だ。その兵器、恐らくナノマシンを操っておるのか。理屈は分からんが、しかし気になるな。そのご自慢の兵器、何故他が使っている物と性能に大きな差があるのだ?下の連中が使っていたモノとは明らかに性能が違う。上に立つ者ならばもう少し部下を信頼しなければいかんと思うのだがね?それとも、そんな殊勝な考えを持ち合わせてはおらんのかな?」

 スクナの口調に僅かな嫌味っぽさが覗く。あぁ、と大体の状況が分かった。あの人がああいう物言いをする時は完全に想定外の状況が発生している時だ。焦りや状況の悪化を隠す時、あの人はあんな口調になるのを思い出した。最後に話したのは何時だったか、ナギとはまた別種の懐かしさが胸を貫く。

「フン、元より奴ら半端者等信用していない。それに限りがある。誰が使うかとなれば、私以外に居ない。これが、私の切り札だ。ツクヨミ自らが直接設計を行い私に、私だけに与えたモノ。高度な演算機能で限りなく高い精度で、より大量のマジンを操作する。正に神器。これで、貴様らを黄泉の底に叩き落とすッ!!あんな馬鹿共の下でゴチャゴチャと策を弄したようだが、それもここまでだ!!」

「ならば少しは部下達に配るべきじゃったな。結果はこのザマ、ワシの侵入を許した」

「だからどうしたッ。誰も信用する必要などないッ。私が信じるのはツクヨミと、そして自分自身だけだッ!!全ては私一人が居れば事足りるのだよッ!!」

 余りの言い回しに、狂信的以外の感想が浮かばなかった。それがあの男の正しい姿で、今まで隠し通してきた本心か。事実、自分とツクヨミ以外の全てがどうでもいいと言い切る清雅源蔵を見上げる清雅の連中は酷く動揺している。

「どう言うつもりだ?貴様の為に戦う者達をどう考えている!!」

 部下を全て切り捨てるに等しい発言にスクナが声を荒げた。表情に、声に怒りが抑えきれず噴出している。

「どうもこうもない、そのままの意味だ。この戦場に最後まで立っていていいのは私だけだ!!そしてッ!!」

 スクナの怒号など清雅源蔵は全く意に介さない。まるでそよ風の如く受け流した。が、それまでスクナを睨みつけていた清雅源蔵が突如、私達を向いた。怒りに震える2つの目と、意志を感じない無機質で不気味な14の視線が私達を見下ろす。不味い――そう思った頃にはもう遅かった。

「よくも今日この瞬間まで生き延びてくれたものだ。その生命力、ゴキブリ並だと褒めてやろう。だが、これまでだ!!」

 私達の立つビルに一番近い竜の口が光った。光弾――と気付いた頃には既に遅く、激痛と共に身体が浮遊する感覚に襲われた。逃げる暇すらなく、吹き飛ばされたようだ。続けて身体を突き抜ける爆発と衝撃。思考を、脳を揺らされ、意識が飛ぶ。目の前が真っ白になりながら、直前まで考えていたのは、彼の無事だけだった。
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