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第10章 目覚め そして 英雄となる
【走馬灯】 ~ 伊佐凪竜一
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仲良く手を繋いで一緒に歩いている光景。一人はまだ小さい頃の俺、そして一緒に歩いているのは――俺のじいちゃんだ。過去の記憶を、あの時の記憶を俺は見ているようだ。これが走馬灯、か?
「またみんなとケンカしたの?」
「そうじゃないんじゃよ、だが……まぁ似たモンか」
「もう、なかよくできないのかなぁ?」
「みんな一人ひとり違う。そんなモンが同じところで一緒に生きよう思ったら自分の事ばかり考えてたら駄目だ。戯言ではなく本当に昔はこんなんじゃぁなかった。急な発展に心が付いていけない、心だけが置いて行かれている、そんな状況だ。顔突き合わせても何考えてるかわからねぇ、通じ合わないってのは寂しいな。だがこんなモンが無かった時代もあった、無くても分かり合える時代が確かにあった。大丈夫さ」
あの時は分からなかったけど、今ははっきりと見えるじいちゃんの悲しそうな笑顔、それだけが妙に心に残った。
※※※
「いい加減に白状しろよ清雅のイヌッコロが!!幾ら金ェ貰ったんだ!!」
「そうだ!!先祖から代々受け継いだ土地ィそんな簡単に譲れるかってんだよ!!金じゃぁないんだよ!!」
「そんなに金が大事か!!」
じいちゃんが方々から責められている。だけど違うんだ。そうじゃないんだ。誓って金なんて貰ってないし、そもそも清雅は俺達に接触すらしていない。相手はとても強大でこんな小さな村簡単に消せるんだ。みんなわかってない。抵抗しても勝つ事なんて出来ない。
アイツ等の決めた事をどうしたって覆せないなら、いっそ纏まった金を貰って何処か別の場所に移り住めばいい。それだけなんだ。なんでわかろうとしないんだ。なんでどいつもこいつも自分の頭ン中で出した結論だけを信じるんだ。どうして――
「違う……そうじゃないんじゃよ。わしゃあ、ただ」
「何が違うってんだよ!!いつまでしらばっくれる気だ!!テメェの言い訳は聞かねぇって言ってんだろ!!」
激昂した一人が感情のままにじいちゃんに殴りかかり、そしてそれを切っ掛けに一方的な殴り合いへと発展した。そして――
「オ、オイ……マ、マズい、コイツ死んで」
俄かに冷静になった大人達が事の重大さに気付き、ざわつき出す。誰もが一斉に正気に戻り、そして狼狽え始めた。もう遅いのに、もう手遅れなのに、どうしてもっと早く正気に戻ってくれなかったのか。そんな怒りと憎しみが沸々と湧き上がってくる。
だけどその怒りも直ぐに掻き消えた。何時も優しく頭を撫でてくれた無骨な手、時折酷い棘のある言い方をするけどその奥には優しさも交じっていた口。居なくなった両親の代わりにずっと俺を見守り続けてきた目、床に倒れて全く動かないその人と目が合った。
まるでボロ雑巾のようだった。叫びたい、けど声が出ない。自分の中にある物を全て吐き出したいのに、だけど口から出てこない。震えるばかりの俺の視界がやがて歪みだす、目から止めどなく涙が溢れてくるのが分かった。
「ちょ……ちょっとどうするのよ!!幾ら何でも……」
「うるせーよ、それもこれも全部コイツが清雅と繋がってるからだろうが、俺達を分断して楽してここの土地手に入れようって、その手先になってるからだろうが!!」
「だけんどもこれはどうしようも……ボウズ……お前、何時から……」
大人達が一斉に俺の方を見た。その目が何を言いたいか分からなかった、だけどとても怖いという感情が湧き上がる。誰の目も正常じゃない、怒りに充血したたくさんの目は小さな集会所を飛び出すと小さな床窓から中の様子を覗いていた俺を取り囲んだ。そして――
「いいか、よく聞け。お前のじいちゃんは悪い事したから罰を受けたんだ。分かるな?」
分からない、理解できない――
「お前は今日ここで見た事を誰にも言っちゃあいけないぞ、分かったな!!分かったらとっとと帰んな!!」
まだ小さな子供だった俺はただただどうしていいか分からず、あちこちキョロキョロしているだけだった。目に入ってきたのは真っ赤な夕焼け、じいちゃんから貰った真っ赤な厄除けのお守り、そして床窓の中、真っ赤に染まる――
その後、どうやって帰ったか覚えていない、気が付けば家の布団の中だった。
じいちゃんはいつの間にか家に戻ってきていた。そしてもう二度と動かない。冷たく横たわるじいちゃんを見て夢だと思った光景は現実で、もう二度と話す事が出来ない、会えないと言われて、枯れた涙が再び目から溢れてきた。
一月後、なし崩しで土地の買収が決まり、誰もが住み慣れた土地を離れざるを得なくなった。その裏で、もう一つの悲しい別れを経験した。
この一連の出来事以降、仲の良かったお姉ちゃんと仲違いしてしまった。昔はとても仲の良かった筈の近くにすむお姉ちゃんと、結局最後の最後まで仲直りできずに終わってしまった。最後の日、せめて仲直りしようとこっそり会って仲直りの握手をしようと思った、だけど差し出した手を跳ね除けられ、逃げられてしまった。
思い出したくない昔のいろんな事が頭を駆け巡った。あれから誰かの中に一歩でも踏み込む事が怖くなった、だけどじいちゃんの言った事も正しいと思っていた。分かり合いたい、でも怖い。酷い性格だと泣きたくなる。口癖の様に俺に教えてくれた言葉が胸に蘇った。
「仲直りしたい?そう難しいもんじゃぁない。ほら、こうして手と手を……」
どうしてかその言葉だけが耳に残り、何時までも頭の中で木霊していた。グルグルと、グルグルと――
ふと気が付けば傍に誰かいるような気がした。とても近く、だが振りむいても何処にも誰も居ない、だけど確かに誰か居る。
「またみんなとケンカしたの?」
「そうじゃないんじゃよ、だが……まぁ似たモンか」
「もう、なかよくできないのかなぁ?」
「みんな一人ひとり違う。そんなモンが同じところで一緒に生きよう思ったら自分の事ばかり考えてたら駄目だ。戯言ではなく本当に昔はこんなんじゃぁなかった。急な発展に心が付いていけない、心だけが置いて行かれている、そんな状況だ。顔突き合わせても何考えてるかわからねぇ、通じ合わないってのは寂しいな。だがこんなモンが無かった時代もあった、無くても分かり合える時代が確かにあった。大丈夫さ」
あの時は分からなかったけど、今ははっきりと見えるじいちゃんの悲しそうな笑顔、それだけが妙に心に残った。
※※※
「いい加減に白状しろよ清雅のイヌッコロが!!幾ら金ェ貰ったんだ!!」
「そうだ!!先祖から代々受け継いだ土地ィそんな簡単に譲れるかってんだよ!!金じゃぁないんだよ!!」
「そんなに金が大事か!!」
じいちゃんが方々から責められている。だけど違うんだ。そうじゃないんだ。誓って金なんて貰ってないし、そもそも清雅は俺達に接触すらしていない。相手はとても強大でこんな小さな村簡単に消せるんだ。みんなわかってない。抵抗しても勝つ事なんて出来ない。
アイツ等の決めた事をどうしたって覆せないなら、いっそ纏まった金を貰って何処か別の場所に移り住めばいい。それだけなんだ。なんでわかろうとしないんだ。なんでどいつもこいつも自分の頭ン中で出した結論だけを信じるんだ。どうして――
「違う……そうじゃないんじゃよ。わしゃあ、ただ」
「何が違うってんだよ!!いつまでしらばっくれる気だ!!テメェの言い訳は聞かねぇって言ってんだろ!!」
激昂した一人が感情のままにじいちゃんに殴りかかり、そしてそれを切っ掛けに一方的な殴り合いへと発展した。そして――
「オ、オイ……マ、マズい、コイツ死んで」
俄かに冷静になった大人達が事の重大さに気付き、ざわつき出す。誰もが一斉に正気に戻り、そして狼狽え始めた。もう遅いのに、もう手遅れなのに、どうしてもっと早く正気に戻ってくれなかったのか。そんな怒りと憎しみが沸々と湧き上がってくる。
だけどその怒りも直ぐに掻き消えた。何時も優しく頭を撫でてくれた無骨な手、時折酷い棘のある言い方をするけどその奥には優しさも交じっていた口。居なくなった両親の代わりにずっと俺を見守り続けてきた目、床に倒れて全く動かないその人と目が合った。
まるでボロ雑巾のようだった。叫びたい、けど声が出ない。自分の中にある物を全て吐き出したいのに、だけど口から出てこない。震えるばかりの俺の視界がやがて歪みだす、目から止めどなく涙が溢れてくるのが分かった。
「ちょ……ちょっとどうするのよ!!幾ら何でも……」
「うるせーよ、それもこれも全部コイツが清雅と繋がってるからだろうが、俺達を分断して楽してここの土地手に入れようって、その手先になってるからだろうが!!」
「だけんどもこれはどうしようも……ボウズ……お前、何時から……」
大人達が一斉に俺の方を見た。その目が何を言いたいか分からなかった、だけどとても怖いという感情が湧き上がる。誰の目も正常じゃない、怒りに充血したたくさんの目は小さな集会所を飛び出すと小さな床窓から中の様子を覗いていた俺を取り囲んだ。そして――
「いいか、よく聞け。お前のじいちゃんは悪い事したから罰を受けたんだ。分かるな?」
分からない、理解できない――
「お前は今日ここで見た事を誰にも言っちゃあいけないぞ、分かったな!!分かったらとっとと帰んな!!」
まだ小さな子供だった俺はただただどうしていいか分からず、あちこちキョロキョロしているだけだった。目に入ってきたのは真っ赤な夕焼け、じいちゃんから貰った真っ赤な厄除けのお守り、そして床窓の中、真っ赤に染まる――
その後、どうやって帰ったか覚えていない、気が付けば家の布団の中だった。
じいちゃんはいつの間にか家に戻ってきていた。そしてもう二度と動かない。冷たく横たわるじいちゃんを見て夢だと思った光景は現実で、もう二度と話す事が出来ない、会えないと言われて、枯れた涙が再び目から溢れてきた。
一月後、なし崩しで土地の買収が決まり、誰もが住み慣れた土地を離れざるを得なくなった。その裏で、もう一つの悲しい別れを経験した。
この一連の出来事以降、仲の良かったお姉ちゃんと仲違いしてしまった。昔はとても仲の良かった筈の近くにすむお姉ちゃんと、結局最後の最後まで仲直りできずに終わってしまった。最後の日、せめて仲直りしようとこっそり会って仲直りの握手をしようと思った、だけど差し出した手を跳ね除けられ、逃げられてしまった。
思い出したくない昔のいろんな事が頭を駆け巡った。あれから誰かの中に一歩でも踏み込む事が怖くなった、だけどじいちゃんの言った事も正しいと思っていた。分かり合いたい、でも怖い。酷い性格だと泣きたくなる。口癖の様に俺に教えてくれた言葉が胸に蘇った。
「仲直りしたい?そう難しいもんじゃぁない。ほら、こうして手と手を……」
どうしてかその言葉だけが耳に残り、何時までも頭の中で木霊していた。グルグルと、グルグルと――
ふと気が付けば傍に誰かいるような気がした。とても近く、だが振りむいても何処にも誰も居ない、だけど確かに誰か居る。
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