G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

文字の大きさ
177 / 273
第10章 目覚め そして 英雄となる

【走馬灯】 ~ ルミナ

しおりを挟む
 ここは――この場所は見覚えがある。小さい頃によく来た、両親の働く特兵研内の一角にある保育宿泊施設だ。

 本来ならばちゃんとした保育施設はあるのだが、研究が大詰めを迎えると帰る事が出来ない日が続く子持ちの研究者の為、簡素ながら一通りの機能と万が一の防護壁まで完備した施設が研究所内に作られ、私達もその恩恵に預かっていた。

 どうやらかなり重要な研究が大詰めらしく、ここ数日は両親どころか研究者全員が缶詰状態で働いていた。だが、苦悩はなかった。父も母も暇を見ては私の所にやってきて色々な話をしてくれた。

 今の研究は昔作られたとても高性能な武装を解析しているそうだ。品質を落とし、量産し、多くの兵士に渡ればマガツヒとの戦いにも弾みがつく。いつか私達の研究が大きな花を咲かせると信じて頑張っていると、そう話してくれた。

 だけど、その研究の為に私はいつも独りぼっちだった。頭ではわかっている――いや、無理だったな。良くゴネて困らせていたし、それが原因かどうかは分からないが、私は初等義務教育の一部を特別に免除され、親元で勉強する事を許可された。

 きっと教育機関の説得には骨が折れただろうなと今更ながらに思うし、悪い事をしてしまったという後悔の念も湧き上がる。だが、謝る事はもうできない。両親は研究中に起きた人為的なミスにより命を失った。そして私も――

 その日も両親は私を保育施設に預けると、私を振り返る事なく部屋を後にした。残ったのは私だけ。いつも通り、提出用の課題を黙々と解きながら時間が過ぎるのを待っていた。数時間もすれば食事に両親が戻って来る。それだけを楽しみに。

 だが、程なく部屋全体に耳を覆いたくなる程の大きな警報な鳴り響いた。何事かと外に出た私の記憶はそこで曖昧になる。施設の外の廊下、父の驚く顔、直ぐ後――そう、こんな風に視界が白く染まったかと思うと、激しい衝撃が身体を貫かれた。

「……!!」

 闇の中から意識を取り戻した切っ掛けは、酷い痛み。息が苦しい。身体が痛い。助けを呼ぶが、両親の名を必死に呼ぶが声が出ない。朦朧もうろうとする中、それでも施設で何か起きた事だけは理解できたがソコから先の記憶がない。

 恐怖で押し潰され、パニックに陥る。視界に入るのは真っ白な天井。辛うじて動く頭を横に倒すと、誰かが喧嘩をしていた。透明な壁で隔たれた部屋の向こうから聞こえる位に声が大きかった。一人は医療関係者、もう一人は――

「あなた達はいつもそうだ、ルールがルールがと言いながら非常時となるや破ろうとする!!確かに正論だッ。だがそれで誰もが動くと思ったら大間違いだ!!」

「だがこのままでは彼女は死んでしまう。助ける手段があるのならば視野に入れるべきだ。それに、それに生きていればいつか幸福をつかむ事ができる」

「本人か家族の許可が要ると言っている!!それに機械に置き換える意味を分かって言っているのか!!アンタの働くスサノヲにでも入れるつもりか、こんな小さな子まで駆り出すつもりか!!それ以前に!!彼女は一般市民だぞ!!分かっているのか!!遺伝子操作なんて受けてないし訓練も受けてない、死ぬのが多少遅れるだけだ!!アンタにその資格があるのか!!」

「違う、そうじゃあなくて」

 あぁ、私は死ぬのか。何となくそう思った。このまま眠れば楽になれるのかとそう考えた。目を瞑り、そしていつもそうするように呼吸を整え落ち着く。きっと死ぬって眠る様な感覚なんだろうなと、そんな事を考えて――口から何かを吐き出したような、そんな気がした。

 喧嘩をしていた声がぴたりと止んだ。横を見ると、忌々しそうに此方を向き何か指示を喚きながら席を後にする白衣の誰かと、私を見て嬉しそうな悲しそうな顔を浮かべる師の顔が見えた。あぁそうか、私は――自分で――

 次に意識を取り戻した時には私の身体はその大半が機械に置き換えられていた。それまでの慣れ親しんだ感覚とは違う身体、そして能面の様な顔。隣に立つ白衣の男はこれまでの経緯を雑に説明してくれた。

「君のご両親だが、言い辛いのだが亡くなったよ。正確にはご両親の働いていた研究施設の最奥区画は跡形も無く吹き飛んで、生死の判別すら出来ない。君は幸運にも頑丈な防壁で守られたセーフティルームに居たから助かった。最も、その……完全という訳ではなかった。出来得る限りの手は打ったし、その身体も可能な限り生身の時の君を再現したつもりだ。金銭的な問題についてはご両親の死亡事故に際し特兵研と保険会社、アマテラスオオカミから相応の金額が支払われる。今の君はとても辛い環境に置かれている。身体の事もそうだ。アマテラスオオカミの指示により、君の治療に掛かった費用は全額免除され、同時に君の今後の身の振り方についても可能な限り便宜べんぎを図ると通達が入った。落ち着いたらでいい、ゆっくり考えてくれ。では、これで」

 そう言うと医者は逃げるように立ち去り、部屋には私だけとなった。両親の死・漠然と考えていた事が真実であると告げられ言いようのない悲しみに包まれた。まだ小さかった私にそんな事実が受け止められる訳もなく、ただただ泣くしかなかった。

 何時までも、一人で泣いていた。涙を流せない身体から軋むような声で、ただただ泣き続け――ふと気が付けば傍に誰かいるような気がした。とても近く、だが振りむいても何処にも誰も居ない、だけど確かに誰か居る。






















 ※※※

 声が、聞こえた。遠い記憶の底から、直ぐ傍から私を呼ぶ声が――

「ルクセリア」

 私の名を呼ぶ、父と母の声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...