G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第10章 目覚め そして 英雄となる

107話 その意志は無駄じゃないと ただ証明してあげたくて

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 20XX/12/22 1045

 ――意識が覚醒した。痛みと不快感に、遠くから聞こえる轟音、小刻みに震える振動が辛うじて生きていると証明する。ゆっくりと身体を起こした。ただそれだけで身体がきしみ、中から嫌な音を上げる。だけど、やはり動けない。どうにか顔だけを動かして周囲を見渡す。

 ビルの屋上部分が綺麗な円形に吹き飛ばされていた。今いるのは剥き出しとなった何処かの部屋らしい。自然と、視線がナギを探した。彼は――直ぐに見つかった。一つ上のフロアに倒れていた。辛うじて破壊を免れた壁にもたれかかっている。恐らく叩きつけられた拍子に意識を失ったのか、ピクリとも動かない。

 私も殆ど同じ、意識があるだけで動けそうにない。と、再び鈍い音が衝撃と共に身体を伝う。パラパラと小さな瓦礫がれきが落ちる。このままでは戦闘に巻き込まれる。這いずり、瓦礫に隠れ、様子を窺う。

 戦いは清雅源蔵達とスクナ、清雅、混成軍とクズリュウの直接対決といった様相を呈していた。後者の戦況は五分で、双方共に多くの死傷者を出している。仲間の死を目撃したクズリュウと地球混成軍は恐怖と憎悪に、比較的冷静な清雅社員達は混乱に支配されている。

 清雅源蔵の言動に、信仰心が足元から崩れ去った。しかし今更別の道など選べず、正気を失った。誰もが正常な判断を投げ捨て、自暴自棄のまま目の前の敵と戦う悪夢の様な光景が広がる。

 上空に目を向ければ合計8体の竜と清雅源蔵達がスクナをじわじわと追い詰める光景。明らかな劣勢。体力と気力と精神力が削り取られ、敗北は時間の問題。如何に強かろうが、精神的にも肉体的にも相当以上に疲弊している。

 加勢しなければ、と思うが満身創痍まんしんそういの上に手持ちの武器は全て失った。何より――違和感に顔を触る。肌身離さず身に着けていたバイザーが破損していた。感触から顔の一部が剥がれ落ちている。鏡はないが、見たくもない能面のさらに奥、灰色をした機械の肉がうごめいているのが分かる。

 辛うじて原形を保つ左側のバイザーの耳元を操作した。辛うじてデータが残る程度で、それ以外の機能は期待出来そうになかった。通信は拾えず、私からの呼び掛けも無意味。出来る事がなくなった。

「####!!」

 呻き声の様な、よくわからない声がした。ナギが意識を取り戻したようだ。アチコチ傷だらけ、服や顔が血と埃で汚れている。服の袖で身体を拭き、上のフロアから意を決して飛び降り、痛みにのたうち回りながらも私に何事かを呟いた。

「####!!#####!!」

 意識がはっきりしない。言葉が良く聞き取れない。彼の元へ行こうと何とか身体を起こした直後、足元が大きく揺れた。ピシ、ピシッと嫌な音が聞こえる。外からの一際大きな爆発音が響く同時に、足元が崩れ落ちた。

 辛うじて床の端に手を掛け、瓦礫と仲良く地面に叩きつけられる事態は避けた。が、それだけ。何もない足下を見れば真下まで一直線、間違いなく死ぬ。救援も来そうにないし、そもそも通信端末も兼ねたバイザーが破損している。彼では機械の私を引き上げられず、使えそうな武器は全て吹き飛ばされた。もう出来る事はない。なら、後は彼に託そう。きっと理解してくれる。いや、そうしてくれなければ――

「これを受け取ってくれ。此処まで私が集めた情報とそれを基にした推測、彼らの切り札に関する内容が記録されている。私はもう助からない、だから……」

 彼に託したい。だけど、彼は引かない。どうして、なんで――いや、分かっていた。分かっている。でも、だから助けたいと思っていただけなのに。

「ッ……君は、まさか君もか!?携帯が……」

 彼の端末も壊れている。もう、言葉さえ通じない。ただ、それでも私は――

「私はいい。手を離せ。私の代わりにこの情報を……」

 私を助けてくれたように、君も助けたかっただけなんだ。最初は利用するつもりだったとしても、以後は違う。危険を承知で、地球から見放されるのを承知で助けてくれた君を、その意志は無駄じゃないと、ただ証明してあげたくて。だから、だから――

「わかってるだろ。君が私を助けたいように、私も君を助けたいんだよ」

 言葉が通じなくても、分からなくても大体何を言っているか分かる。長いようで短い逃避行で、性格や考え方はそれなりに理解した。だけど、こんな時までお互い通じ合わなくてもいいだろうに。

 彼は私の言わんとする事を正しく、全て理解し――その上で私の手を掴んだ。

 ぎゅっと握手する形になった彼の手は思うより大きく、そして温かかった。アチコチがボロボロな今の私にそんな感覚は無い筈なのに。そして私が集めた情報を記録したバイザーは遥か下に落下していき――彼は私を支えきれず、やがて体勢を崩し始めた。

 でも――正直、これでいいかなって思ったし、本当はとても嬉しかった。

 だけどそれを伝える事はもう――?

 そう考えた瞬間、急に辺りが真っ白になった。もしかして死んだのか?この感覚、身体の中にあるカグツチが妙にざわつくというか引っ張られるというか、そんな感覚。数日前、山県大地と彼が操るヘビと戦って死を覚悟した時に似ていた。でもこれはあの時と違う。

 冷たい海の底に落ちていくようなそんな感覚はなく、なんというか明るい空の下で温かい空気に包まれている様な感覚が周囲を包んでいる。
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