G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第10章 目覚め そして 英雄となる

幕間20-1 神の苦悩

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 20XX/12/22 1045

 無慈悲な攻撃だった。清雅源蔵は伊佐凪竜一とルミナが居たビル屋上を跡形も無く吹き飛ばすと、後に残った残骸を一瞥すらせずスクナへと振り向いた。

「もう終わりだ。博士、奥の手を使う」

「承知、承知。準備は整っておりますよ」

 心中晴れやか、後顧こうこうれいを完全に立った彼は直後、地下に控えるフェルドに指示を出した。奥の手。清雅源蔵の指示に従い、フェルドが清雅市地下に多数設置された地球製アラミサキ全機を最大出力で稼働させた。

 私達は当の昔に計算し終えていた。最大稼働させれば清雅市周辺からカグツチをほぼ完全に一掃出来る。カグツチが枯渇こかつ状態になれば旗艦側の戦力は最低レベルにまで落ち込む。それはつまり、奥の手だけでスサノヲとクズリュウを完全敗北させるには十分だと。

 宇宙を満たすカグツチが存在しないという状態は基本的に起こりえないが、実際にはいくつかの星系には結界と呼ばれる技術が存在する。その中には空間すら断絶する超高度の結界があり、それを使えば清雅市で起きるカグツチの消失現象に近い状況を作り上げる事も可能。

 しかし、アラハバキもクズリュウも油断した。そんな状態を地球が単独で作り上げるなど有り得ないと、何より自分達が未開の一惑星に負けるなど有り得ないと己惚れた。例え存在したとしてもヤタノカガミが存在するからと。唯一、荒唐無稽こうとうむけいな事態を想定した訓練を課されるスサノヲはこの戦場に殆どおらず、いたとしても全員が完全に疲弊ひへいしきっている。

 程なく戦場からカグツチが一掃された。

 無謀を承知で地上に下ろされ、僅かに抵抗を続けるクズリュウ達は突然の事態に再び動揺、混乱する。しかし驚く暇はない。理屈を知らずとも、目の前の現象を好機と見た地球側の混成軍は猛攻を仕掛ける。

 威力を大きく落としながらも、それでも文明の差により優勢を維持していたクズリュウはあっと言う間に劣勢へと傾いた。それまで負う事などなかった傷が幾つも付けられ、自らの血が流れていく様を見て――それでも誰もが戦いを継続した。

 もう誰も正気ではなかった。恐怖か混乱か、とにかく真っ当な精神状態ではない。自らが傷つき、視界に映る仲間達が傷つき倒れていく様を目撃した未熟な兵士達は、殺される位なら、殺される前に、死ぬのが怖いから、様々な理由で相手を殺すという一つの考えに憑りつかれてしまった。

 一方、清雅源蔵と戦い続けるスクナだけは正気が失われつつあるこの場で唯一、正気を保っていた。ただ、それも何時まで持つか。

「チィッ、間に合わなんだかッ!!」

 事前にヒルメから入れ知恵されていたか。いや、ヒルメは地上の詳細な情報を持っていない。だとすれば、恐らくこの事態を予測していたようだ。

 流石と言うべきだが、予測していようが止められなければ無意味。結果は無惨。颯爽さっそうと空中を駆けるスクナは突如として発生したカグツチの消失に為す術なく地上へと墜落――直前、咄嗟とっさに腕から先端に鉤爪が付いたワイヤー状の補助武装を射出、手近なビルに打ち込んだ。

 先端が壁に穴を穿うがち、固定される。スクナの身体がワイヤー先端に向け引き寄せられる。どうにか地上に叩きつけられる最悪の事態は回避したが、代わりにビルの壁に叩きつけられた。

 僅かに捉えたその男の顔は忌々しさか、それとも口惜しさか、ここに至るまでのあらゆる状況が己の不利に働く嘆きか、単にビルに叩きつけられた痛みか、あるいはその全てか。それまで冷静さとは打って変わり、顔を大きく歪めた。

 精鋭の顔に刻まれた皺は自らの内から湧き上がる抑えがたい感情の波に一層深みを増す。対する清雅源蔵は正常に働く奥の手に勝ち誇り、地上を見下ろした。

 清雅源蔵の勝利はもう揺るがない。程なく地上に下ろされたクズリュウは一人残らず殺される。抵抗を続けるスクナも時間の問題。支柱を失った旗艦アマテラスに残存する戦力――とりわけスサノヲがどう出るかは予測が付かない。彼等の練度から判断すれば、個別の判断で最後まで抵抗を続けるだろうが、その頭上に勝利は輝かない。

 奥の手を切った清雅源蔵は、次にスサノヲ全員を無装備状態で地上に下ろさせるだろう。旗艦の民にこれ以上手を出す事はしない、そう言い聞かせればスサノヲ達は降りざるを得ない。市民側に正常な判断が出来るならばスサノヲは幾つかの部隊に分かれて地下を強襲するが、今の有様を見るに市民達は独断を許さない。

 恐怖と混乱に支配された旗艦は、自らの命と引き換えになるならば喜んでスサノヲ達を差し出す。私の予測は恐らく、いや確実に起こる。やがて、スサノヲ全員を殺戮した清雅源蔵はそのまま地上を離れ、アラミサキと共に宇宙へ上がり、タケミカヅチを破壊し、旗艦アマテラスを手に入れ、満面の笑みで私に差し出す。

 自らの忠誠の証明として。私が望まない物を――

 私はその時どんな顔をしているだろうか、彼に何と声を掛ければ良いだろうか。それ以前に、どうすれば、どうすれば私の予測を覆せるだろうか。
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