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第10章 目覚め そして 英雄となる
幕間20-2 答えは何処にもなく 私の望みは叶わない
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20XX/12/22 1045
映像が清雅源蔵が吹き飛ばした第三ビルを拡大した。剥き出しとなり外気に晒された場所に伊佐凪竜一とルミナが倒れている。
生きていた。が、それだけ。咄嗟にスクナが一撃を入れ、直撃は避けた。が、それでも生きていること自体が奇跡と呼べる状態に変わりはなく。先に動いたのは伊佐凪竜一、続いてルミナが僅かに身体を動かした。2人共に瀕死、伊佐凪竜一の白いシャツには幾つもの赤い染みが滲み、ルミナも同様に鈍色をした機械部分が剥き出し、突き出ている。しかも一か所や二か所程度ではない。
伊佐凪竜一がルミナの状況を知り、慌てて彼女の傍に駆け寄った。彼女の周辺は相当以上にボロボロで今にも崩れかかっていた。駆け寄ろうとした瞬間、まるで見計らったかのように崩れ落ちた。床の下は遥か下の地面まで一直線。落下すれば命はない。
伊佐凪竜一が手首を掴み、引き上げようと試みる。が、彼には動かせない。ルミナの華奢な身体の大半が機械製、見た目だけは人と変わらないが、密度と重量は人とは比較にならない。ましてや彼は瀕死。出血、怪我、それに骨も数本はヒビが入っているか、あるいは折れている。
万全の状態でも1人で引き上げるには重すぎるのに、満身創痍の彼に引き上げる事は出来ない。
ルミナは辛うじて動いた片腕で何とか床につかまっている。その顔は、必死で自らを助けようとする伊佐凪竜一とは対照的に冷静――いや、諦めていた。彼女の姿も伊佐凪竜一と同じくボロボロで、恐らく自力でどうにかする力も機能もないと悟ったのだろう。整った顔を隠していたバイザーも破損している。既に機能の大半は失われていて、救援も出せないだろう。
ここまでか――絶望的な状況に置かれた2人に、私も漸く諦めがついた。画面の向こうでは相変わらず伊佐凪竜一だけが運命に対し必死で抵抗を試みているが、ルミナは変わらず対照的だった。ダラリとぶら下がった手を必死に持ち上げると、その手に握られたバイザーを彼に受け取るよう促している。
「すまない。君達にもうしてやれる事は何もない、身勝手な私を許してほしい」
伝わらない謝罪を、画面に向けて投げかけた。全ては私が原因。君達ならば、そう信じてしまった私の罪。悪戯に手助けをし、苦しみを引き伸ばした罪悪感が身体を軋ませる。悲しい、そう思った。だが、これは本当に彼等に向けた感情か?それとも、理解する事を学ぶ事が出来なかった自分に向けてか。私には分からなかった――
「ルミナッ!!」
伊佐凪竜一は叫んだ。彼女の名前を叫びながら、強引に引き上げようと尚も必死に試みる。
「待ってろ!!今助けるッ!!」
無意味だ。彼女の細身の身体は恐らく150キロ以上はある。そんな状況に加え瀕死の重傷では引き上げるどころか一緒に転落するだけだ。だが、それでも彼は諦めない。無意味だと理解しても、それでも彼女を助けようと死力を尽くす。
「これを受け取ってくれ。此処まで私が集めた情報とそれを基にした推測、彼らの切り札に関する内容が記録されている。私はもう助からない、だから……」
「うるせーよ、どうせまた自分の命捨てて誰か助けようってんだろ!!いい加減にしろよ!!」
「ッ・・・君は、まさか君もか、携帯が……だが、私が言う事分かっていなくてもだいたい予測付いているだろう、その上で無視する気か!!少しだけ認めたと思えば、全く度し難い程に愚かだな君は!!」
「何言ってるか分かんねーけどどうせまた馬鹿にしてんだろ!!お前のいう事聞く気なんてねーよ!!何でもかんでも自分の考えが、自分で出した答えだから絶対に正しいなんて思うんじゃねーぞ馬鹿野郎!!」
理解出来ない光景が私の視界を捉えた。どうしてそんな事をするのか?映像の中に映る2人が言い合う姿に、私は疑問で満たされた。数日間ではあるが共に行動し苦難を乗り越えた2人は、言葉が通じない事を理由に言い争いを始めた。
生き延びる為、相手を助ける為に懸命に行動しながらも、相手を傷つけ合う。その矛盾したやり取りに酷く落胆し、己の内にある何かが急速に冷えていく感覚に襲われた。
共に手を取り合って多くの苦難を乗り越えてきたのに、それでも理解し合えないのか。やはり私の望むモノは何処にもないのか、と。結論を出すと、また身体がまた軋むような感覚に襲われる。悲しい、辛いといった感情が私の内を満たしていく。答えは何処にもなく、私の望みは叶わない。
私は何の為に生まれ、何の為に存在し、そして何の為にここまで――君達もこの星や旗艦の民達と同じく、理解し合わず、互いを拒絶し合うのか。そう思えばその後の行動は酷く迅速で、私は何時もの映像を見つめた。縋るように。私の奥底から取り出した映像。
これは誰か?私は何者か?しかし終ぞ答えは出なかった。そして、これからも出ない。突き付けられた真実にまた心が軋み、更に激しさを増しながら私を暗い感情に包み込む。
「君の話などどうでもいい、よく聞け!!ここに彼らの切り札に関する情報が記録されている。発動すればどれだけ犠牲が出るか分からない!!君にこれを託す、これを私の仲間の誰かに、誰でもいいから届けてくれ。そうすれば……」
「いい加減にしろよ!!少しは自分の事考えろって言ってんだろが!!」
「倒せるかどうかわからない、だが奴が膨大な力を隠している事を仲間が知れば、勝つ為に一時でも纏まってくれる。必ず勝ってくれる、そうすれば君は助かる、命を落とさずに済むんだ!!」
「だからッ!!」
「君の復讐も果たせる。私なりに君を理解してみたつもりだ」
「うるせーよ!!後、嘘つくな、そんなので分かり合った気になるな、今の気持ちを分かれよ!!」
画面の向こうで繰り広げられる言い争いは一層酷くなり、私は意図して視線を逸らし続けた。もう見ていられない。カメラの電源を落とした。が、別のカメラが起動する。彼等の言い合いはまだ続いていた。いや、何故映像が途切れないのだ?もう彼らを追う必要はない。だが、何をどう操作しても映像が途切れない。
落としたと思った電源は実際は落とされておらず、落とされたとしても即座に復旧し、尚も2人を映し続ける。こんな真似が出来るのは私以外にアベルしかいない。
しかし彼が何故?だが、私がいくら問いかけてもアベルは何も答えず、ただただ私にその様子を届ける。まるで何かに祈る様に。外の戦闘はいよいよ佳境に入ろうとしていた。戦闘は激しさだけを増し、誰もが正常な判断を失い狂気に身を落とす。
映像が清雅源蔵が吹き飛ばした第三ビルを拡大した。剥き出しとなり外気に晒された場所に伊佐凪竜一とルミナが倒れている。
生きていた。が、それだけ。咄嗟にスクナが一撃を入れ、直撃は避けた。が、それでも生きていること自体が奇跡と呼べる状態に変わりはなく。先に動いたのは伊佐凪竜一、続いてルミナが僅かに身体を動かした。2人共に瀕死、伊佐凪竜一の白いシャツには幾つもの赤い染みが滲み、ルミナも同様に鈍色をした機械部分が剥き出し、突き出ている。しかも一か所や二か所程度ではない。
伊佐凪竜一がルミナの状況を知り、慌てて彼女の傍に駆け寄った。彼女の周辺は相当以上にボロボロで今にも崩れかかっていた。駆け寄ろうとした瞬間、まるで見計らったかのように崩れ落ちた。床の下は遥か下の地面まで一直線。落下すれば命はない。
伊佐凪竜一が手首を掴み、引き上げようと試みる。が、彼には動かせない。ルミナの華奢な身体の大半が機械製、見た目だけは人と変わらないが、密度と重量は人とは比較にならない。ましてや彼は瀕死。出血、怪我、それに骨も数本はヒビが入っているか、あるいは折れている。
万全の状態でも1人で引き上げるには重すぎるのに、満身創痍の彼に引き上げる事は出来ない。
ルミナは辛うじて動いた片腕で何とか床につかまっている。その顔は、必死で自らを助けようとする伊佐凪竜一とは対照的に冷静――いや、諦めていた。彼女の姿も伊佐凪竜一と同じくボロボロで、恐らく自力でどうにかする力も機能もないと悟ったのだろう。整った顔を隠していたバイザーも破損している。既に機能の大半は失われていて、救援も出せないだろう。
ここまでか――絶望的な状況に置かれた2人に、私も漸く諦めがついた。画面の向こうでは相変わらず伊佐凪竜一だけが運命に対し必死で抵抗を試みているが、ルミナは変わらず対照的だった。ダラリとぶら下がった手を必死に持ち上げると、その手に握られたバイザーを彼に受け取るよう促している。
「すまない。君達にもうしてやれる事は何もない、身勝手な私を許してほしい」
伝わらない謝罪を、画面に向けて投げかけた。全ては私が原因。君達ならば、そう信じてしまった私の罪。悪戯に手助けをし、苦しみを引き伸ばした罪悪感が身体を軋ませる。悲しい、そう思った。だが、これは本当に彼等に向けた感情か?それとも、理解する事を学ぶ事が出来なかった自分に向けてか。私には分からなかった――
「ルミナッ!!」
伊佐凪竜一は叫んだ。彼女の名前を叫びながら、強引に引き上げようと尚も必死に試みる。
「待ってろ!!今助けるッ!!」
無意味だ。彼女の細身の身体は恐らく150キロ以上はある。そんな状況に加え瀕死の重傷では引き上げるどころか一緒に転落するだけだ。だが、それでも彼は諦めない。無意味だと理解しても、それでも彼女を助けようと死力を尽くす。
「これを受け取ってくれ。此処まで私が集めた情報とそれを基にした推測、彼らの切り札に関する内容が記録されている。私はもう助からない、だから……」
「うるせーよ、どうせまた自分の命捨てて誰か助けようってんだろ!!いい加減にしろよ!!」
「ッ・・・君は、まさか君もか、携帯が……だが、私が言う事分かっていなくてもだいたい予測付いているだろう、その上で無視する気か!!少しだけ認めたと思えば、全く度し難い程に愚かだな君は!!」
「何言ってるか分かんねーけどどうせまた馬鹿にしてんだろ!!お前のいう事聞く気なんてねーよ!!何でもかんでも自分の考えが、自分で出した答えだから絶対に正しいなんて思うんじゃねーぞ馬鹿野郎!!」
理解出来ない光景が私の視界を捉えた。どうしてそんな事をするのか?映像の中に映る2人が言い合う姿に、私は疑問で満たされた。数日間ではあるが共に行動し苦難を乗り越えた2人は、言葉が通じない事を理由に言い争いを始めた。
生き延びる為、相手を助ける為に懸命に行動しながらも、相手を傷つけ合う。その矛盾したやり取りに酷く落胆し、己の内にある何かが急速に冷えていく感覚に襲われた。
共に手を取り合って多くの苦難を乗り越えてきたのに、それでも理解し合えないのか。やはり私の望むモノは何処にもないのか、と。結論を出すと、また身体がまた軋むような感覚に襲われる。悲しい、辛いといった感情が私の内を満たしていく。答えは何処にもなく、私の望みは叶わない。
私は何の為に生まれ、何の為に存在し、そして何の為にここまで――君達もこの星や旗艦の民達と同じく、理解し合わず、互いを拒絶し合うのか。そう思えばその後の行動は酷く迅速で、私は何時もの映像を見つめた。縋るように。私の奥底から取り出した映像。
これは誰か?私は何者か?しかし終ぞ答えは出なかった。そして、これからも出ない。突き付けられた真実にまた心が軋み、更に激しさを増しながら私を暗い感情に包み込む。
「君の話などどうでもいい、よく聞け!!ここに彼らの切り札に関する情報が記録されている。発動すればどれだけ犠牲が出るか分からない!!君にこれを託す、これを私の仲間の誰かに、誰でもいいから届けてくれ。そうすれば……」
「いい加減にしろよ!!少しは自分の事考えろって言ってんだろが!!」
「倒せるかどうかわからない、だが奴が膨大な力を隠している事を仲間が知れば、勝つ為に一時でも纏まってくれる。必ず勝ってくれる、そうすれば君は助かる、命を落とさずに済むんだ!!」
「だからッ!!」
「君の復讐も果たせる。私なりに君を理解してみたつもりだ」
「うるせーよ!!後、嘘つくな、そんなので分かり合った気になるな、今の気持ちを分かれよ!!」
画面の向こうで繰り広げられる言い争いは一層酷くなり、私は意図して視線を逸らし続けた。もう見ていられない。カメラの電源を落とした。が、別のカメラが起動する。彼等の言い合いはまだ続いていた。いや、何故映像が途切れないのだ?もう彼らを追う必要はない。だが、何をどう操作しても映像が途切れない。
落としたと思った電源は実際は落とされておらず、落とされたとしても即座に復旧し、尚も2人を映し続ける。こんな真似が出来るのは私以外にアベルしかいない。
しかし彼が何故?だが、私がいくら問いかけてもアベルは何も答えず、ただただ私にその様子を届ける。まるで何かに祈る様に。外の戦闘はいよいよ佳境に入ろうとしていた。戦闘は激しさだけを増し、誰もが正常な判断を失い狂気に身を落とす。
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