G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

109話 正体 其の1

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 マガツヒ襲来を告げる警報が艦橋に響く。決してあってはならない事態が遂に訪れた。旗艦は転移中継地点としての機能も有しており、墜ちれば連合の運営に多大な影響が出る。

「あ、あのあのあのあの……こ、黒点観測部門より緊急連絡!!データ確認……マガツヒうごごご、動き出しました。観測範囲内にある巣に動き……って全部?う、嘘でしょ!?」

「全ての巣で空間転移時に見られる時空間震動反応を確認。少なくとも探査区域に存在する16の巣から当該宙域に向けた一斉転移を確認」

「空間震動、多数。規模、総数共に……測定不可!?合わせて急激なカグツチ濃度の低下、及び通信異常も確認」

「観測部門より緊急連絡、これ程の数に襲われたら……ハハ、すす数時間と持たずに全滅するって……ドウシヨ」

「ヤゴウ様、今すぐ部隊を引き上げさせないと、これだけの大群に襲われたら確実に全滅です!!」

 告げられる絶望的な結末に混乱する最中、意を決しオペレーターが撤退を指示した。が――

「えぇい!!全部隊に通達を出せ、何としてもツクヨミだけは奪って来い!!奪い次第ここを離れる!!」

 端から異常なヤゴウの指示は予想通り支離滅裂を極める。途端にピタ、と会話が止まった。命が惜しくないのか、と誰もが唖然とする。

「な、何言ってるんですかッ!?合計100億以上を数時間で全滅に追い込む化け物の群れが向かってきてるんですよ?今すぐ全部隊引き上げさせて逃げなきゃダメでしょ!?」

「正気ですか?アイツ等自力で空間転移するし何処までもコッチを追って来るんですよ!!これまでスサノヲ達が倒してきたのは巣から離れた集団けなんです」

「そーなんですよ、だから幾ら何でもあんな大群に襲われたら一巻の終わりですよッ!!」

 絶望的な報せは止めどなく続く。観測史上最大最悪規模、これ程までの大群が群れ成すことなど通常ではありえなかったマガツヒの襲来。連合史上初、旗艦観測3000年史上初の悪夢が現実に訪れた。もし太陽系圏まで到達しようものならばオペレーターの予想通り地球人類70億、旗艦30億の民は半日と持たず消え失せる。ようやく己の無知を悟った白川水希は絶句する。

「そ、そそんな程度知っている。だから急いで奪えと言っているッ。とにかく、早く!!」

「ちょっと旗色が悪くなってきたようね。これ以上は……」

 狼狽えるヤゴウは尚もツクヨミの奪取を叫ぶ。命の危機が迫って尚、欲望に忠実な精神性は逆に敬意を表したい程に浅ましく、それ以上に愚か。が、もはや誰も指示を聞き入れない。自分達だけではなく知り合いや家族も纏めて死ぬ可能性があるのだから従う理由がない。

 同じくアラハバキに属するオオゲツも特に口を挟まない。が、賛同している訳ではなく呆れて物が言えないらしい。本来ならば避難は当たり前。群れ単位での襲撃に限った話。今回のケースでは逃げたところで助かる可能性など無きに等しいが、今のところ逃げる以外の道は存在しない。現状を正しく認識できないヤゴウに呆れるのも無理はない。

「地上のカグツチ濃度を観測して下さい、大至急です」

 ヤゴウを指示を塗り替える指示。視線がヒルメへと向かう。彼女は地上で起きた光源の正体に予測をつけた。冷静ならば恐らくオペレーター達も気付くレベル。しかし、彼女以外が全く答えに辿り着かない状況に、混乱する艦橋の様子が窺い知れる。

「あ、あの。駄目だそうです。黒点観測部門から連絡です。マガツヒ探知用のセンサー類全てが一斉に不調をきたしたとの事。この不調ですが、かなり大規模の為に修復の目途が立たないそうです!!」

「一体何が起きたの?多分さっきの白光現象か、直前に観測したエネルギーの放出現象が原因かな?」

「ア、アレ?艦橋コッチのセンサーの一部も破損してます。オカシイな、何コレどうなってるの!?」

「何が起きたのです?」

「白光現象とエネルギー放出を境に艦外の一部計測機器類に異常発生。出鱈目な数字を出しています。地球の戦闘区域周辺のカグツチ濃度一切が計測できません!!」

「艦内の機器は正常に動作していますが、つい先程危険域への到達を確認しました。このまま上昇を続ければ、遠からず故障すると思われます」

「異常とはどの様な状態ですか?」

「は、はい。濃度が0と1の間を滅茶苦茶な速さで切り替えながら表示していて、恐らく白光現象を引き起こしたカグツチ濃度が高すぎる事が原因による故障かと思うんですけど。でもそんな事あるんですか?」

「故障直前に示していた数字は危険域でした。少なくとも濃度10以上の可能性がありますがやはりセンサー類が全滅していて正確な数字が出せません!!」

「そうですか。基本的に艦外のセンサーは濃度が10を超える事態は想定していません。今、私が個人的に使用するセンサーと繋ぎました。測定値の上限は有りません、現在はどの程度でしょうか」

「まさかさっき地上で観測した光って……」

 発光現象の正体が明らかとなる。

「恐らくそうでしょう、地上で起きたのは急激な濃度上昇による白光現象です」

 ヒルメの回答に、艦橋中がどよめいた。白光の度合いは濃度に比例するが、あれ程の光量は誰も見た事がない。現実にも、過去3000年の記録にも。ダメ押しに光が物理的なエネルギーを持ち、清雅市上空を覆っていた雲を吹き飛ばしている。無論、そんな現象も一度として観測されなかった。

「どれ程の濃度なのか、そもそも何が原因で引き起こされたのかも不明です」

「あ、あの、戦闘区域の……計測が完了しました……100!?100を超えてます!!」

「ちょーっと嘘でしょ、緊急避難宙域レベルじゃない?幾ら何でも間違いでしょ!?」

 計測された濃度にやや間延びした口調のオペレーターが明らかに動揺した。緊急避難宙域とは恒星からおよそ100キ~10000キロ範囲を指す。この付近はカグツチ濃度が高く、マガツヒが寄ってこない。一方、艦全体に防壁を展開しないと恒星が放つ熱で艦が破壊される。基本的に長時間の停泊は推奨されず、当該宙域を通過する事でマガツヒの目を眩ますのが主目的の一時避難宙域。

「戦闘、回避出来るかもしれません。地球のカグツチ濃度はほぼ恒星と同じ。あれ程の濃度なら消滅を恐れ、近づかないでしょう。全アメノトリフネに通達を。可能な限り地球へ接近して下さい。それから、誰でも良いのでマガツヒの監視をお願いします。転移の際の空間震動だけを注視すればおおよその動きは把握可能です。併せてマガツヒ襲撃に備えるよう全部隊に通達。地球からの侵入者だけに気を取られると被害が拡大、最悪全滅します」

「貴様、誰が勝手に指示を出していいと言った!!」

 不測の事態。未知の現象を前にヒルメが的確な指示を飛ばす。安堵し、冷静に対処を始めるオペレーター。が、ヤゴウの横槍に止まる。どうやら余程に不満らしい。男の愚かしさは到底擁護できるものではなく、愛想をつかしたオオゲツは心底から不快そうな顔をヤゴウに向ける。

 また、ヒルメも同じく。無機質な眼差しに決意がにじむ。気圧されたヤゴウはそれまでの気勢はどこえやら、押し黙ってしまった。
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