G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

110話 正体 其の2

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 そんな目が出来るのか。ヒルメの変化はそれ程までに異質で、誰もが固唾かたずを飲む。式守シキガミの機械然とした無感情、無機質とは明らかに違う、明らかな冷徹さと冷酷さ。あるいは畏怖、恐怖。そんな感覚が見た者を支配し、脊髄を伝い、身体中を震わせた。

「ヤゴウ様。私の正式名称、知っていますか?」

「貴様の名前なんぞ……」

「オオヒルメノムチ。ですがコレ、とある名前の別称なんです。遥か遠い昔に名付けられた仮称、私以外の誰も知らない……もう一つの名前」

「だから貴様……」

「アマテラスオオカミ」

 艦橋の時間が止まった。呆然とするヤゴウとオオゲツ。艦橋で右往左往していたオペレーターの大半は思考停止し、ヒルメ――いや、アマテラスオオカミと名乗った式守を見つめる。唯一の部外者、白川水希も想定外の事態に面食らい、ほぞを噛む。遥か遠く地球から監視するアベルも同じく。恐らく彼女の素性を知る者は地球に降りたタガミ、スクナを含めたごく僅かだけ。

 誰も、視線を外せない。緊急警報のアラートだけがけたたましく鳴り響く中、自らの正体を明かした式守は無表情で佇む。タケミカヅチ計画の副産物にしては余りにもお粗末な戦闘能力。

 一方、これまでの指示は的確で、だから旗艦の誰もが渡りに船と高性能な演算機能をすんなりと受け入れ、疑いもしなければ何者か思考を巡らせるさえしなかった。が、その理由が明らかとなった。確かに神であるならば納得できる話だと、誰もが納得した。

「う……嘘だろ?」

「え、マジ?」

「な……そんな馬鹿な!!」

「機能を停止された旗艦の神……嘘ではないの?」

 全員の視線を軽く受け流しながら、且つてヒルメと呼ばれた式守は語る。旗艦アマテラスの中心、カガセオ惑星連合の二つの頂点の一つであるアマテラスオオカミは、己が封印から逃れるに至った経緯を話し始めた。

「今はもう存在しない、遥か遠い昔に存在した故郷。そこに置いてきた誰にも呼ばれない、私のもう一つの呼び名です。貴方達の奸計かんけいにより封印され、本来ならば解除コードアメノウズメなくして正常稼働はできないのですが、貴方達の動向と船団の行末が心配でしたのでタケミカヅチ計画の余剰品から急造したこの躯体に一部機能を移しました。本体は今も変わらず封印されているので今の私には大した事は出来ませんが……私がこうして起動している事の意味、貴方達にならば分かりますよね?意図しない形ではあったものの、タケミカヅチ暴走に関わっている事、その証拠がある場所を私が把握している事、ご存知ですよね?だから急いで封印措置を実行した。姫の承認は捏造ねつぞうしたか、あるいは主星にも貴方達の考えに同調する者達がいるか。しかし、どちらにせよそれも終わりです」

 正体を明かすに相応しい状況が訪れたと判断した神は自らの正体と共にアラハバキの終焉を宣言した。

「暴走に?ま、まさかアンタ達、アマテラスオオカミを封印する口実を作る為に!?」

「フフッ。まさか貴方自身が切り札とは。でも貴方を封印する為だけに存在するシステムから切り離されても稼働しているなんて少々汚くありませんか?」

「そんな事よりッ、説明しろよ!!」

「説明など不要だ、もし証拠があるならば今すぐ出して見せろ!!どうした?どうせデマカセだろ、本当は?」

「フフッ、驚きはしましたが大した事出来ないなら意味はないで……」

「私も同じですけどね」

 式守の正体の露見と共に艦橋は動乱する。神の健在にアラハバキへの信頼を完全に喪失したオペレーター達。が、その状況に白川水希が割って入る。口調こそ平常通りだが、内心はどうだろうか。予想外の事態の連続に加え、マガツヒという未知の敵が加わった事で宇宙への逃走は諦めざるを得なくなった。通常ならばそう考えるが――

「予定を変更します。全員、可能な限りの数の市民を人質に取りなさい。現在マガツヒとか言う化け物が此方に向かっているようです。ですから、市民の命を盾にここの連中にマガツヒと戦わせます」

「貴女と言う人は」

「冷静と言って欲しいですね。戦えないならば代わりに戦わせれば良い……ん?何、コレ?」

 白川水希の言動はアマテラスオオカミが予測した以上に冷酷だった。が、またしても不測の事態。何かに気付いた白川水希は言葉を止めると、端末を呆然と眺め始めた。
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