G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

112話 真の役目

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 20XX/12/22 1050

 白川水希は動揺する。彼女の携帯端末に見た事がない文字が浮かび上がり、操作不能に陥った。戦闘を間接的に補佐する端末の機能不全は旗艦強奪は元より敗北、死に直結する非常事態。だが、その理由を彼女は知る由もない。

 浮かび上がった文字の羅列はツクヨミが本来の役目に目覚めたその時に合わせて仕込まれた文章。地球全土の携帯端末は例外なくツクヨミに繋がっており、だから携帯端末にまで表示された。当然、白川水希には何が書いてあるか分からない。

「解読しましょうか?」

 不意の提案に白川水希が声の主の睨む。アマテラスオオカミ。文章は旗艦アマテラスで使われる言語で構成されていた。言ってみればひらがなカタカナと同じで、旗艦出身ならば誰でも読める。真意を測りかねる白川水希は無言を貫く。が、神は勝手に解読を始めた。

「意志は時を経る毎にその輝きを曇らせ、弱らせ行く。宇宙に散逸さんいつするか細く、弱い意志の群れが進む未来、進むべき道に迷った意志が向かう先は自らの手による破滅以外にない。それは何時か分からないが、しかし確実に現実となる。だから私は抵抗したい。意志に再び輝きを。弱く、脆く、痛みに怯え、未知に恐怖し、他者を受け入れる事を拒絶する孤独でか弱い意志に再び強い光を。今、我が最愛のツクヨミがその資質を持つ者を選定した。その者と力を合わせ、かつて誰もが持っていた強い光を取り戻してくれる事を願い、彼女の全ての機能を解放する。彼女が選定した者のみが振るう神へと至る光、ハバキリの、導く先に希望、が……」

 事態の更なる打開を求め、端末に浮かんだ文字を翻訳し始めたアマテラスオオカミ。が、最後まで翻訳する前に言葉を止めた。正確には文中の単語に反応した。

 ハバキリ。神でさえ動揺する理由は、アベルが必死で隠し通した真実。

 ハバキリに相応しい者を選別し、その力を補佐する。アマテラスオオカミの補佐というカムフラージュの裏に隠された、ツクヨミの真の役目。そしてツクヨミ選別後、更に※※が認めた者のみがその力を十全に使う事を許される力。それ程に強く、制御し難く、極めて危険である故に中途半端な過去のツクヨミではその役目を担うに不適切と判断したアベルは今の今まで真の力と使命を秘匿ひとくし続けた。

「な、何ソレ?社長は私に何も……」

「三種の超兵器、神代三剣の一つ。では、主星に安置されているのは偽物?ならば起動しないのは……ですが、それがまさかこの星に、でもどうしてこんな辺鄙へんぴな場所に?それにどうやって?」

 翻訳された文章に記述された兵器の名に白川水希は困惑し、オペレーター達は絶句し、アマテラスオオカミは地球へと渡った経緯に思考を割く。

 だが、答えなど出ない。現状で真実を知る者はアベルのみ。神代三剣がそれぞれ旗艦の神、主星の姫に預けられた理由と似て非なる。未完成ではない。その危険性故にツクヨミの選別なしには機能しないだけ。よって、ツクヨミ不在の主星では誰一人として起動さえ出来なかった。そして、残る神代三剣と同じく超絶的な力を持つ。伝説や伝承レベルの噂話は全て真実。

「只の演算装置ではなかったのか!?まさかカインの遺産、しかも神代三剣の一振りだと。オイッ!!」

「はいはい、分かってますよ。聞こえますか、サルタヒコ。独断行動を許可します。ツクヨミとハバキリを確保しなさい」

 当然、そう考える。単純で欲望に正直なヤゴウの意を汲み、不気味なまでに冷静だったオオゲツがハバキリの奪取を指示すると地上のサルタヒコが淀みなく動く。現状、権威が失墜しきったヤゴウ達が逆転しようと考えるならばハバキリ奪取以外にない。が、映像の向こうに不気味な動きがあった。サルタヒコの背後から何者かが近づき、そして――

「承知しました。これよ……り」

 背後から思い切り殴り飛ばされた。瞬く間に全員の視界から消えるサルタヒコ。無人の映像は暫し激しく動いていたが、やがて別の男がひょっこりと顔を見せる。

「ちょっと、どうしたの?何があったの?」

「オイ、聞こえてっか?駄目だろうがよぉ、こんな時に調和っての?乱しちゃあさ?」

 この状況を理解しているのか、飄々とした口調と共に映像の中心にドンと姿を見せたのはタガミ。直後、ヤゴウとオオゲツの表情が醜く歪んだ。余程にこの男のニヤケ面がしゃくに障ったらしい。

「貴様ァ、タガミ!!何のつもりだ。いや。そうだ。オイ、約束の報酬!!貴様への報酬ならば倍は出すぞ!!何ならスサノヲの隊長にでも……」

「オイオイオイ、俺がお前らのいう事を素直に聞く良い子ちゃんとでも思ったのか?つーか今までロクに信用してなかったくせに虫が良すぎるだろ?あー、それからヒルメちゃん」

「なんでしょうか?」

「俺の秘蔵、とっておきの映像コレクションが必要になったら言ってくれや。皆に見せてやればひっくり返るぜ」

「ありがとうございます、自衛の為ですね」

「そぉだよん。どいつもこいつも性根が腐ってる上に金しか信用してねー連中だ。いつ裏切るか分からんからな」

「お前。普段からふざけてると思えば妙なところで小賢しいというか狡猾こうかつというか……」

「ジーサン。黄泉送りの件、まーだ根に持ってんの?」

「違うわ馬鹿タレ」

「馬鹿なッ、確かに調査で弾いてッ」

「アンタ達さ、最新の機器には敏感なのにちょーっと古くなるとてんで駄目なのな。このバッヂ、実は録画装置なんだな。で、一切合切の言動全部盗撮してたって訳よ。いい勉強になったろ?少しは古いモンも大事にしねーと、ってな。ま、これに懲りたら拝金主義見直せやボケカスゥ!!」

「旧式の、録画装置!?そんな骨董品を使いよってェ」

 アマテラスオオカミが自らの補佐に選んだだけあり、流石にしたたかな性格をしている。アベルとツクヨミはようやく理解した。ヒルメがタガミを補佐役に抜擢した理由は地球からの監視を見越した上での判断だと。

 そう考えれば他に幾らでも有能な人材がいる中、わざわざあの男を選ぶなどしない。土壇場や逆境時に見せる精神力に加え、冷静で抜け目がない性格反して表面上は隙だらけ。精神的な未熟さや幼稚さが演技ではないならば見抜くなど不可能。

 ヤゴウの怒りをしたり顔で受け流すタガミの評価を地球側は見誤った。ただ、ヤゴウ達が想定外に足を引っ張た為、結果的に地球側の不利益とならなかっただけ。もしそうでなければ、地球側の計画に狂いが生じていた点は疑いようない。
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