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第11章 希望を手に 絶望を超える
122話 分不相応な夢の代償は 安い命と無価値な人生では払いきれず
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「お、おい待てッ。連れていけ、俺も、俺も!!」
無関心、無遠慮に艦橋を去り行く女の背に誰かが叫んだ。ヤゴウ。恥も外聞もなく叫ぶ男はヨタヨタと歩きながら必死にオオゲツに食い下がる。心底から情けなくはあるがヤゴウの人生は破滅したも同然、このまま旗艦に残る意味などない。恥も外聞もない懇願にオオゲツが歩みをピタリと止めた。
バン
破裂音。艦橋を跳ねまわる音に全員の思考が僅か停止した。音を見る。オオゲツ、その手から立ち昇る硝煙。オオゲツが懐から取り出した銃を躊躇いなく発砲した。弾丸はヤゴウの頬を掠め、艦橋後方へと消えた。ヒ、と周囲のオペレーター達が言葉にならない悲鳴を上げる。
突然の行動に思考が追い付かない。何がどうして仲間を銃撃するのか理解出来ず、例外なく呆然とする。アマテラスオオカミすら、だ。
ヤゴウも同じく、まさか裏切ると思っていなかったオオゲツの行動に腰を抜かし、その場にへたり込んだ。停止する思考。が、やがて恐怖と裏切られた怒りに顔が紅潮し始めた。
対照的にオオゲツは冷静冷酷にヤゴウを見下ろす。誰もがアラハバキ内での力関係を思い出す。実質的な中心は何故かヤゴウ。次いでハヅキとイワザキ。オオゲツは年齢故か一番下に置かれる。暴露映像を見るに間違いはない。事実、当該映像にオオゲツの姿はなかった。しかし、現在の立場全く逆。
「この責任は貴方が取るべきでしょう、ヤゴウ?私はただ貴方に従っただけ。全ては貴方の判断だってのはタガミが散々に盗み撮りした映像を調べればわかる事。私は今回の件に関してはなぁんにも指示は出していませんからね。そうそう、タケミカヅチ計画のデータ、有り難く頂いていきますね」
「は、何を?どうして、お前が?」
オオゲツの言葉にヤゴウは理解が追い付かない。が、それ以外の全員が理解した。全てはオオゲツが計画し、ヤゴウ達はただ踊らされていただけだと。
「フフッ、労せずに貴重で重要な稼働データを手に入れる事が出来ました。貴方には感謝しかありませんよ……勿論、その頭の悪さにネ。とても苦労したんですよ。遺産に関する情報を握っていた無能な貴方の為に色々とお膳立てを整えるのは。それでも全部ご破算にしてくれるんだから、ホントに無能よねぇ?」
尚も饒舌に語る女の言葉に誰もが閉口した。その言葉を信じるならばアラハバキ、ひいては旗艦のこの有様もオオゲツが単独で作り出した事になる。ヤゴウも漸く理解した。己が都合良く利用されていたと。
「きさ、貴様。まさか、利用するつもりで」
自らへの悪意だけには敏感な矮小極まりない男は怒り心頭とばかりにオオゲツを責め始めるが――
バン
再び響く発砲音に黙らされた。オオゲツがもう一度引き金を引いた。黒光りする銃口から飛び出した弾丸はヤゴウの足元にめり込む。ヒッ、と情けない声を漏らすヤゴウは気勢を削がれたのか、それとも冷徹な眼差しに殺意を感じ取ったのか、恐怖に震える目で女を見上げた。身体は小刻みに震えている。
「神の加護がなくなるや財団にしてやられ軒並み収益悪化、助けてって泣きついて来たのだぁれ?そ・も・そ・も」
一連を見る全員の視線が、怯えるヤゴウからオオゲツの顔へ向かう。オペレーター達も、アマテラスオオカミも、白川水希も、監視するアベルも、全員がオオゲツの目を見た。ゾッとする程に熱を感じなかった。無表情か、あるいは無感情。それは、かつて共にアラハバキを運営した仲間に向ける目ではなかった。
「運も、実力も、人望も、目的を遂行する強い意志もない、社内政治で他者を蹴落とす才能しかない貴方程度が、一時でも分不相応な夢を見れたんですよ。もう十分でしょう?だ・か・ら、次は代償を支払う番よ。その安い命と、無価値になった人生でね」
目と同じく言葉にも熱を感じない。もう、使い道のなくなった道具が何か喚いている程度にしか感じていない。正しくどこ吹く風といったその態度は、既にヤゴウへの関心など完全に失っている。
「それでは……あぁそうそう。コレ、預かっておきますね」
残酷に言い捨て、再び艦橋に背を向けたオオゲツは何かを思い出したかのように懐から金色に輝くプレートを取り出し、左の人差し指と中指に挟み、これ見よがしにヒラヒラと見せつけた。
アメノウズメ。アマテラスオオカミを封じる天岩戸を解除させる為のキー。全てのプレートが揃わなければ神の封印解除が出来ない為、扱いには細心の注意を払う必要がある代物。重要な物と知って、アマテラスオオカミが喉から手が出る程に欲しいと知って、彼女は弄ぶ。
「返して貰います」
「あら?貴方は愚民達によって封印された筈でしょう?駄々を捏ねちゃあダメよ」
当然、ここまでを計画したオオゲツが素直に返す道理は存在しない。火を見るよりも明らかな返答。しかし――
「ダーメなのはアンタでしょ?こーンの性悪女がッ!!」
オオゲツの声を切り裂く怒号。続けて一際大きな破裂音。驚き、視線が折り重なる声と音に向かい、見た。視界を横切る一筋の光を。扉の向こうに立つクシナダの姿を。
光の正体はカグツチを纏った弾丸。一ヶ所目掛けて空を切り裂きながら突き進む弾丸は艦橋と廊下を繋ぐ入口奥から発射された。周囲のカグツチを巻き込みな、吸収しながら弾丸は輝き、更に速度を上げる。その光景に誰もが勝利を確信した。大方の予想はそのまま撃ち抜かれると予想、ごく僅かが身体を捻って弾丸を交わすと予想した。
直後、誰もが信じ難い光景を目撃した。咄嗟に振り向いたオオゲツは――弾丸を素手で受け止めた。しかも防壁すら展開していない、生身のままで、だ。
運動エネルギーを別の何かに変換しているのか、それともカグツチを急速に霧散させているのか、受け止めた手から肘に掛けて霧散する白い粒子が輝いた。女が身に纏う民族衣装の袖から伸びるスラリとした白い腕に握り締められた弾丸は程なく輝きを失い、手から離すと同時にカチンと力なく床を叩いた。
無関心、無遠慮に艦橋を去り行く女の背に誰かが叫んだ。ヤゴウ。恥も外聞もなく叫ぶ男はヨタヨタと歩きながら必死にオオゲツに食い下がる。心底から情けなくはあるがヤゴウの人生は破滅したも同然、このまま旗艦に残る意味などない。恥も外聞もない懇願にオオゲツが歩みをピタリと止めた。
バン
破裂音。艦橋を跳ねまわる音に全員の思考が僅か停止した。音を見る。オオゲツ、その手から立ち昇る硝煙。オオゲツが懐から取り出した銃を躊躇いなく発砲した。弾丸はヤゴウの頬を掠め、艦橋後方へと消えた。ヒ、と周囲のオペレーター達が言葉にならない悲鳴を上げる。
突然の行動に思考が追い付かない。何がどうして仲間を銃撃するのか理解出来ず、例外なく呆然とする。アマテラスオオカミすら、だ。
ヤゴウも同じく、まさか裏切ると思っていなかったオオゲツの行動に腰を抜かし、その場にへたり込んだ。停止する思考。が、やがて恐怖と裏切られた怒りに顔が紅潮し始めた。
対照的にオオゲツは冷静冷酷にヤゴウを見下ろす。誰もがアラハバキ内での力関係を思い出す。実質的な中心は何故かヤゴウ。次いでハヅキとイワザキ。オオゲツは年齢故か一番下に置かれる。暴露映像を見るに間違いはない。事実、当該映像にオオゲツの姿はなかった。しかし、現在の立場全く逆。
「この責任は貴方が取るべきでしょう、ヤゴウ?私はただ貴方に従っただけ。全ては貴方の判断だってのはタガミが散々に盗み撮りした映像を調べればわかる事。私は今回の件に関してはなぁんにも指示は出していませんからね。そうそう、タケミカヅチ計画のデータ、有り難く頂いていきますね」
「は、何を?どうして、お前が?」
オオゲツの言葉にヤゴウは理解が追い付かない。が、それ以外の全員が理解した。全てはオオゲツが計画し、ヤゴウ達はただ踊らされていただけだと。
「フフッ、労せずに貴重で重要な稼働データを手に入れる事が出来ました。貴方には感謝しかありませんよ……勿論、その頭の悪さにネ。とても苦労したんですよ。遺産に関する情報を握っていた無能な貴方の為に色々とお膳立てを整えるのは。それでも全部ご破算にしてくれるんだから、ホントに無能よねぇ?」
尚も饒舌に語る女の言葉に誰もが閉口した。その言葉を信じるならばアラハバキ、ひいては旗艦のこの有様もオオゲツが単独で作り出した事になる。ヤゴウも漸く理解した。己が都合良く利用されていたと。
「きさ、貴様。まさか、利用するつもりで」
自らへの悪意だけには敏感な矮小極まりない男は怒り心頭とばかりにオオゲツを責め始めるが――
バン
再び響く発砲音に黙らされた。オオゲツがもう一度引き金を引いた。黒光りする銃口から飛び出した弾丸はヤゴウの足元にめり込む。ヒッ、と情けない声を漏らすヤゴウは気勢を削がれたのか、それとも冷徹な眼差しに殺意を感じ取ったのか、恐怖に震える目で女を見上げた。身体は小刻みに震えている。
「神の加護がなくなるや財団にしてやられ軒並み収益悪化、助けてって泣きついて来たのだぁれ?そ・も・そ・も」
一連を見る全員の視線が、怯えるヤゴウからオオゲツの顔へ向かう。オペレーター達も、アマテラスオオカミも、白川水希も、監視するアベルも、全員がオオゲツの目を見た。ゾッとする程に熱を感じなかった。無表情か、あるいは無感情。それは、かつて共にアラハバキを運営した仲間に向ける目ではなかった。
「運も、実力も、人望も、目的を遂行する強い意志もない、社内政治で他者を蹴落とす才能しかない貴方程度が、一時でも分不相応な夢を見れたんですよ。もう十分でしょう?だ・か・ら、次は代償を支払う番よ。その安い命と、無価値になった人生でね」
目と同じく言葉にも熱を感じない。もう、使い道のなくなった道具が何か喚いている程度にしか感じていない。正しくどこ吹く風といったその態度は、既にヤゴウへの関心など完全に失っている。
「それでは……あぁそうそう。コレ、預かっておきますね」
残酷に言い捨て、再び艦橋に背を向けたオオゲツは何かを思い出したかのように懐から金色に輝くプレートを取り出し、左の人差し指と中指に挟み、これ見よがしにヒラヒラと見せつけた。
アメノウズメ。アマテラスオオカミを封じる天岩戸を解除させる為のキー。全てのプレートが揃わなければ神の封印解除が出来ない為、扱いには細心の注意を払う必要がある代物。重要な物と知って、アマテラスオオカミが喉から手が出る程に欲しいと知って、彼女は弄ぶ。
「返して貰います」
「あら?貴方は愚民達によって封印された筈でしょう?駄々を捏ねちゃあダメよ」
当然、ここまでを計画したオオゲツが素直に返す道理は存在しない。火を見るよりも明らかな返答。しかし――
「ダーメなのはアンタでしょ?こーンの性悪女がッ!!」
オオゲツの声を切り裂く怒号。続けて一際大きな破裂音。驚き、視線が折り重なる声と音に向かい、見た。視界を横切る一筋の光を。扉の向こうに立つクシナダの姿を。
光の正体はカグツチを纏った弾丸。一ヶ所目掛けて空を切り裂きながら突き進む弾丸は艦橋と廊下を繋ぐ入口奥から発射された。周囲のカグツチを巻き込みな、吸収しながら弾丸は輝き、更に速度を上げる。その光景に誰もが勝利を確信した。大方の予想はそのまま撃ち抜かれると予想、ごく僅かが身体を捻って弾丸を交わすと予想した。
直後、誰もが信じ難い光景を目撃した。咄嗟に振り向いたオオゲツは――弾丸を素手で受け止めた。しかも防壁すら展開していない、生身のままで、だ。
運動エネルギーを別の何かに変換しているのか、それともカグツチを急速に霧散させているのか、受け止めた手から肘に掛けて霧散する白い粒子が輝いた。女が身に纏う民族衣装の袖から伸びるスラリとした白い腕に握り締められた弾丸は程なく輝きを失い、手から離すと同時にカチンと力なく床を叩いた。
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