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第11章 希望を手に 絶望を超える
123話 それでは 御機嫌よう
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何もかもが理解不能。
「まぁ、2年程度ならこれ位はね」
女の意味不明な一言も、さも当然と銃弾を素手で受け止めた常識外の行動も、何もかも。何が起こった?何が起こっている?無数の視線が疑問の回答を求め彷徨い――やがて弾丸を手放した女の手に吸い寄せられた。美しい肌には僅かに抉られた程度の傷しか見えない。
「そんな」
「嘘でしょ?」
通常の銃弾でも非常識だが、先ほどの一撃はまだ新人とは言え連合最強と名高いスサノヲの攻撃。下手をせずとも直撃すれば跡形も残らない程の威力があった筈。だというのに、ほぼ無傷。異常極まりない。これ程の実力を持つならば、連合に知れ渡っていてもおかしくはないレベルの逸材。
しかも、笑っている。余裕か、狂気か。スサノヲという人外染みた行動を取る集団を見慣れたオペレーター達でさえ女の異常な精神に、何よりその目に震えあがった。笑みに反し底冷えする程に熱がなかったが、今の目はそれに加え暗く、淀んでいた。
クシナダの行動は艦橋から一旦姿を消す事でアラハバキが切り札を切りやすい様に誘導する為にアマテラスオオカミが立てた計画の一つ。だが見透かされ、大型機動兵器で艦橋に直接強襲を掛けさせた挙句、真正面から圧倒的な力でねじ伏せた。
だが、一連の想定外を目の当たりにしながら、それでもアマテラスオオカミは動く。何者か、など関係ない。アラハバキを完全無力化する唯一無二の機会は今を置いて他にないと最後の切り札を切ろうとし――
「アマテラスオオカミ、この場に居るスサノヲ全員を下がらせなさい」
先手を許した。性能不足と白川水希との戦闘が生んだ損傷による僅かな行動の遅れが致命傷となった。何もかもが敵の掌の上。黒雷での強襲も、素手で銃弾を受け止めるパフォーマンスも。だが何より、神の切り札さえ完全に見抜く強かさ。オペレーターに混じるスサノヲはクシナダだけではなかった。複数名が最悪の可能性に備えていたが、無駄に終わった。
「偽ればどうなるかは分かるでしょう?早くして頂きましょうか」
同じく先手を取った黒雷がクシナダの行動を阻むべく動く。持っていた剣でオオゲツを庇いつつ、同時に反対側に持っていた巨大な銃を構えた。銃口はクシナダではなく、オペレーター達の集団に向けられた。引き金を引けば人質となった一集団は間違いなく跡形も残さずに吹き飛ぶ。
脚を踏み込み、もう後少しで高機動へと移行する直前で出鼻を挫かれたクシナダの顔に苦悶が浮かぶ。動けない。動けば人質を殺し、最悪は艦橋に大穴を開ける。宇宙空間に放り出されたら艦橋のほぼ全員が死亡する。
オオゲツは軽やかに身を翻し、神を見た。不敵な笑みが浮かんでいるが、眼差しは相変わらず冷たい。従う以外に選択肢はない。クシナダ無言で唇を強く噛む。アマテラスオオカミも同じく、顔色に無念さが渦巻く。後手後手に回った事、本体封印中により演算機能が著しく落ち込んでいる事を差し引いたとしても、オオゲツ一人に対応出来なかった。
「致し方ありません」
アマテラスオオカミの一言に無数のオペレーターの中から数人が立ち上がり、武器を放り投げ、両手を上げながら壁際へと下がった。ややあって、クシナダも続く。
「フフッ、よくあの激痛の中を我慢したわね。冷酷な神様に代わって私が褒めてあげるわね。偉い偉い。そうそう、ノロマなお嬢さんもネ」
神すら出し抜いた女は想定通りの結果に不敵な笑みと共に拍手をした。傷の治っていない手を叩く度に女の白い肌に赤い斑点が生まれる。完全におちょくっている。
悍ましいと、誰もが感じた。この女は神の行動を全て見通した上で無能に徹した。20歳前後とは思えない程に似つかわしくなく――それどころか人であるかどうかすら怪しい、そんな印象を全員が持った。
胆力、計画性、クシナダの不意打ちに近い射撃を素手で防いで見せた身体能力、全てが驚嘆に値する。恐らく、スサノヲが万全の状態であったところでこの状況には対応できなかっただろうとの判断は決して過大評価ではない。
主星に本社を構える巨大製薬会社社長という枠に収まらない正体不明の女は再度周囲を見まわした。スサノヲ全員が壁際まで後退したと判断するとプレートを胸元に仕舞い、血で滴る手をそのままに再び背を向け、黒雷の操縦席へと歩み始めた。悠然と立ち去るオオゲツの背中を誰もが無言で見送る。誰も止められない化け物が歪んだ笑みを振りまきながら黒雷の中へと――
「何時か、必ず貴女に責任を取らせます」
消え行く直前、神が一言振り絞った。負け惜しみだと誰ともなく呟き、誰一人として否定出来なかった。無表情のまま、力なく呟く神の言葉には一切の根拠がなく、かつて神として振る舞った自信も、余裕も一切ない。
「ハハ、出来るんですか?意志、人が動くに最も重要な要素を無視した貴方に?それとも誰かにお願いするつもり?まぁ、楽しみにしていますよ」
「今の貴方、無感情で生気の無い能面の様な昔と比べたら酷く醜くて無様で……でも、とても素敵よ。素晴らしいでしょう?美しいでしょう?力強いでしょう?貴方が見縊り、制御と支配に不要と切り捨てた力は。それでは、御機嫌よう」
再度振り向いたオオゲツは心底から嬉しそうな笑みと嫌味に塗れた餞別の言葉を神に投げかけ、再び背を向けた。やがて、女の姿が操縦席の奥に消えると操縦席の扉が静かに閉じ、重力を振り切り浮き上がり、大きく空いた横穴の向こうへと飛び去った。
「まぁ、2年程度ならこれ位はね」
女の意味不明な一言も、さも当然と銃弾を素手で受け止めた常識外の行動も、何もかも。何が起こった?何が起こっている?無数の視線が疑問の回答を求め彷徨い――やがて弾丸を手放した女の手に吸い寄せられた。美しい肌には僅かに抉られた程度の傷しか見えない。
「そんな」
「嘘でしょ?」
通常の銃弾でも非常識だが、先ほどの一撃はまだ新人とは言え連合最強と名高いスサノヲの攻撃。下手をせずとも直撃すれば跡形も残らない程の威力があった筈。だというのに、ほぼ無傷。異常極まりない。これ程の実力を持つならば、連合に知れ渡っていてもおかしくはないレベルの逸材。
しかも、笑っている。余裕か、狂気か。スサノヲという人外染みた行動を取る集団を見慣れたオペレーター達でさえ女の異常な精神に、何よりその目に震えあがった。笑みに反し底冷えする程に熱がなかったが、今の目はそれに加え暗く、淀んでいた。
クシナダの行動は艦橋から一旦姿を消す事でアラハバキが切り札を切りやすい様に誘導する為にアマテラスオオカミが立てた計画の一つ。だが見透かされ、大型機動兵器で艦橋に直接強襲を掛けさせた挙句、真正面から圧倒的な力でねじ伏せた。
だが、一連の想定外を目の当たりにしながら、それでもアマテラスオオカミは動く。何者か、など関係ない。アラハバキを完全無力化する唯一無二の機会は今を置いて他にないと最後の切り札を切ろうとし――
「アマテラスオオカミ、この場に居るスサノヲ全員を下がらせなさい」
先手を許した。性能不足と白川水希との戦闘が生んだ損傷による僅かな行動の遅れが致命傷となった。何もかもが敵の掌の上。黒雷での強襲も、素手で銃弾を受け止めるパフォーマンスも。だが何より、神の切り札さえ完全に見抜く強かさ。オペレーターに混じるスサノヲはクシナダだけではなかった。複数名が最悪の可能性に備えていたが、無駄に終わった。
「偽ればどうなるかは分かるでしょう?早くして頂きましょうか」
同じく先手を取った黒雷がクシナダの行動を阻むべく動く。持っていた剣でオオゲツを庇いつつ、同時に反対側に持っていた巨大な銃を構えた。銃口はクシナダではなく、オペレーター達の集団に向けられた。引き金を引けば人質となった一集団は間違いなく跡形も残さずに吹き飛ぶ。
脚を踏み込み、もう後少しで高機動へと移行する直前で出鼻を挫かれたクシナダの顔に苦悶が浮かぶ。動けない。動けば人質を殺し、最悪は艦橋に大穴を開ける。宇宙空間に放り出されたら艦橋のほぼ全員が死亡する。
オオゲツは軽やかに身を翻し、神を見た。不敵な笑みが浮かんでいるが、眼差しは相変わらず冷たい。従う以外に選択肢はない。クシナダ無言で唇を強く噛む。アマテラスオオカミも同じく、顔色に無念さが渦巻く。後手後手に回った事、本体封印中により演算機能が著しく落ち込んでいる事を差し引いたとしても、オオゲツ一人に対応出来なかった。
「致し方ありません」
アマテラスオオカミの一言に無数のオペレーターの中から数人が立ち上がり、武器を放り投げ、両手を上げながら壁際へと下がった。ややあって、クシナダも続く。
「フフッ、よくあの激痛の中を我慢したわね。冷酷な神様に代わって私が褒めてあげるわね。偉い偉い。そうそう、ノロマなお嬢さんもネ」
神すら出し抜いた女は想定通りの結果に不敵な笑みと共に拍手をした。傷の治っていない手を叩く度に女の白い肌に赤い斑点が生まれる。完全におちょくっている。
悍ましいと、誰もが感じた。この女は神の行動を全て見通した上で無能に徹した。20歳前後とは思えない程に似つかわしくなく――それどころか人であるかどうかすら怪しい、そんな印象を全員が持った。
胆力、計画性、クシナダの不意打ちに近い射撃を素手で防いで見せた身体能力、全てが驚嘆に値する。恐らく、スサノヲが万全の状態であったところでこの状況には対応できなかっただろうとの判断は決して過大評価ではない。
主星に本社を構える巨大製薬会社社長という枠に収まらない正体不明の女は再度周囲を見まわした。スサノヲ全員が壁際まで後退したと判断するとプレートを胸元に仕舞い、血で滴る手をそのままに再び背を向け、黒雷の操縦席へと歩み始めた。悠然と立ち去るオオゲツの背中を誰もが無言で見送る。誰も止められない化け物が歪んだ笑みを振りまきながら黒雷の中へと――
「何時か、必ず貴女に責任を取らせます」
消え行く直前、神が一言振り絞った。負け惜しみだと誰ともなく呟き、誰一人として否定出来なかった。無表情のまま、力なく呟く神の言葉には一切の根拠がなく、かつて神として振る舞った自信も、余裕も一切ない。
「ハハ、出来るんですか?意志、人が動くに最も重要な要素を無視した貴方に?それとも誰かにお願いするつもり?まぁ、楽しみにしていますよ」
「今の貴方、無感情で生気の無い能面の様な昔と比べたら酷く醜くて無様で……でも、とても素敵よ。素晴らしいでしょう?美しいでしょう?力強いでしょう?貴方が見縊り、制御と支配に不要と切り捨てた力は。それでは、御機嫌よう」
再度振り向いたオオゲツは心底から嬉しそうな笑みと嫌味に塗れた餞別の言葉を神に投げかけ、再び背を向けた。やがて、女の姿が操縦席の奥に消えると操縦席の扉が静かに閉じ、重力を振り切り浮き上がり、大きく空いた横穴の向こうへと飛び去った。
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