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第11章 希望を手に 絶望を超える
124話 まだ 戦いは終わっていない
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黒雷が艦橋に大きく空いた横穴の向こうへ消え去ってから暫くして、複数回の振動と爆音が艦橋を揺さぶった。映像が宇宙空間へと踊り出す黒雷を捉える。前方には赤い円状の輝き。
超長距離を転移する為の転移用ゲート、アケドリ。機体は艦橋を一瞥する事なく赤い光が漏れ出る門の中に吸い込まれ、消失した。その光景にオペレーター達は緊張の糸が切れたかのように椅子の背もたれに背中を預けた。
「あーンの女ァ!!言うに事欠いてノロマとかァ、次ィ会ったら絶ー対にぃブン殴る!!」
「クソッ、あんなモンをこんな場所に持ち出されたら分が悪い」
対照的にクシナダを含むスサノヲ達はしてやられたと怒りを吐き出した。が、何をすれども事実は覆らない。
「落ち着いて下さい。誰か、あの機体を追跡して下さい」
唯一、冷静な神は適切な指示を飛ばす。事実は変えられずとも、抵抗すれば未来を変える事は可能。
「し、承知しました。機体識別記号と事前申請から追跡開始します」
「え?だ、駄目です!?該当する機体、存在しません!!」
手近なオペレーターが襲撃した未知の機体の転移先を追跡を開始した。機体識別記号とは超長距離転送機能を持つ全機体に割り振られる固有番号。固有番号と主星の管理部門の事前転移申請を突き合わせれば移動先の特定は容易に行える。転移、特に超長距離の転移はその危険性故に、ごく一部の例外を除き番号登録と事前申請なしには許可されない。
「え、嘘でしょ!?」
「あ……見つかりました。艦識別記号との一致を確認、アスクレピオス社が所有するアメノトリフネ型の商用艦。当該艦の転送申請も確認、申請者はアスクレピオス本社、申請日は3日前」
「転移先の座標を調査しましたが、出鱈目でした。主星と合同調査が入るのに……ともかく目標、消失しました」
「そうか、クソッ。艦橋は業務に忙殺される隙に、だろうが」
「主星にも手を回していたのか。何処まで先を考えればここまで出来るんだ、化け物め!!」
「後は主星に調査を任せるしかありませんが、転移途中で強制脱出、別の機体か艦に拾われたらもうお手上げです。寧ろ、そうする算段が高いと見て良いでしょう」
「識別記号はブラックボックスで製造会社でしか……そうか、お前かッ」
スサノヲの一人がヤゴウを睨みつけた。ヒ、と後ずさるヤゴウ。その姿にかつての傲慢な姿勢はない。KNYK重工。旗艦に籍を置く軍需企業だが、特に大型兵器に強い。黒雷の制御システム系統はブラックボックス扱いで、神が管理する旗艦でしか製造を許可されない。その神は封印中。神が残した堅牢なセキュリティは立ちはだかるが、改竄は不可能ではない。
「旗艦、か。何もかも奴の手の上だな」
「申し訳ありません、アマテラスオオカミ。もう少し早くクシナダの加勢に回っていれば……」
「いえ、艦外にも黒雷の反応を確認しました。もし抵抗したらその戦力で艦橋を攻撃したでしょう」
「ツクヨミ強奪用、でしょうか?」
「恐らく。それよりも、主星へ以下内容を通達。旗艦秩序維持法に反したアスクレピオス社の代表取締役を至急拘束するように、と。スサノヲの皆様はヤゴウを拘束後、至急KNYK重工、TK&HDT、MHTT機工、アスクレピオス支社へ向かい全データを押収。あれ程の行動力と先見性です、不都合なデータ諸共に全てを消去する前提で行動をお願いします」
「承知しました」
怒り、動揺、混乱。渦巻く感情に行動を止めるスサノヲ達に神が指示を出した。艦橋に控えていたスサノヲ達はすぐさま部屋を後にし、僅かに出遅れたクシナダは少々バツが悪そうな表情と共にヤゴウへと近づく。手には拘束用の錠が握られている。気付いたヤゴウは当然抵抗するが、しかし彼女は父かあるいは祖父ほど年の離れた男のみっともない抵抗を難なく抑え込み、手際よく両手を錠で拘束した。
「こんな……こんな筈が……これは、コレは悪い夢だ」
後ろ手に錠を掛けられたヤゴウが虚ろな目で呟く。ここまで落ちぶれればいっそ哀れ。そんな感情と視線を誰もが向けた。が、アマテラスオオカミは容赦しない。
「貴方は一人、何処までも自分しか見ず、それ故に孤独で、他人を受け入れられず認められない。だから何も為せなかった。貴方の傍には誰も居ないから、居るのは貴方と同じく他者を受け入れ認めない孤独な人達だから。でもよかったですね、これからの生活はきっと幸せですよ」
「な、何を」
「これからの貴方はずっと一人です。誰からも認めず、受け入れず、そんな貴方の望むまま、ずっと一人で贖罪し続けるのです。どれだけ願っても、祈っても、叫んでも、寄り添う者はいない。それが貴方が受ける……黄泉という牢獄で死ぬまで続く罰です」
黄泉への収監。その言葉にヤゴウは崩れ落ちた。同時、旗艦内での戦いに完全な終止符が打たれた。白川水希は拘束、その行動を封じられ、旗艦アマテラスを散々ひっかきまわしたアラハバキは4名中2名死亡、1名逃亡、残されたヤゴウは全ての権限を剥奪された。必勝を見込んで仕掛けた戦いに敗北し、全てを失った。
だが、まだ戦いは終わっていない。地球での戦いに決着が付いていない。宇宙を望み戦火を広げる者と、止める者の戦いがまだ終わっていない。
超長距離を転移する為の転移用ゲート、アケドリ。機体は艦橋を一瞥する事なく赤い光が漏れ出る門の中に吸い込まれ、消失した。その光景にオペレーター達は緊張の糸が切れたかのように椅子の背もたれに背中を預けた。
「あーンの女ァ!!言うに事欠いてノロマとかァ、次ィ会ったら絶ー対にぃブン殴る!!」
「クソッ、あんなモンをこんな場所に持ち出されたら分が悪い」
対照的にクシナダを含むスサノヲ達はしてやられたと怒りを吐き出した。が、何をすれども事実は覆らない。
「落ち着いて下さい。誰か、あの機体を追跡して下さい」
唯一、冷静な神は適切な指示を飛ばす。事実は変えられずとも、抵抗すれば未来を変える事は可能。
「し、承知しました。機体識別記号と事前申請から追跡開始します」
「え?だ、駄目です!?該当する機体、存在しません!!」
手近なオペレーターが襲撃した未知の機体の転移先を追跡を開始した。機体識別記号とは超長距離転送機能を持つ全機体に割り振られる固有番号。固有番号と主星の管理部門の事前転移申請を突き合わせれば移動先の特定は容易に行える。転移、特に超長距離の転移はその危険性故に、ごく一部の例外を除き番号登録と事前申請なしには許可されない。
「え、嘘でしょ!?」
「あ……見つかりました。艦識別記号との一致を確認、アスクレピオス社が所有するアメノトリフネ型の商用艦。当該艦の転送申請も確認、申請者はアスクレピオス本社、申請日は3日前」
「転移先の座標を調査しましたが、出鱈目でした。主星と合同調査が入るのに……ともかく目標、消失しました」
「そうか、クソッ。艦橋は業務に忙殺される隙に、だろうが」
「主星にも手を回していたのか。何処まで先を考えればここまで出来るんだ、化け物め!!」
「後は主星に調査を任せるしかありませんが、転移途中で強制脱出、別の機体か艦に拾われたらもうお手上げです。寧ろ、そうする算段が高いと見て良いでしょう」
「識別記号はブラックボックスで製造会社でしか……そうか、お前かッ」
スサノヲの一人がヤゴウを睨みつけた。ヒ、と後ずさるヤゴウ。その姿にかつての傲慢な姿勢はない。KNYK重工。旗艦に籍を置く軍需企業だが、特に大型兵器に強い。黒雷の制御システム系統はブラックボックス扱いで、神が管理する旗艦でしか製造を許可されない。その神は封印中。神が残した堅牢なセキュリティは立ちはだかるが、改竄は不可能ではない。
「旗艦、か。何もかも奴の手の上だな」
「申し訳ありません、アマテラスオオカミ。もう少し早くクシナダの加勢に回っていれば……」
「いえ、艦外にも黒雷の反応を確認しました。もし抵抗したらその戦力で艦橋を攻撃したでしょう」
「ツクヨミ強奪用、でしょうか?」
「恐らく。それよりも、主星へ以下内容を通達。旗艦秩序維持法に反したアスクレピオス社の代表取締役を至急拘束するように、と。スサノヲの皆様はヤゴウを拘束後、至急KNYK重工、TK&HDT、MHTT機工、アスクレピオス支社へ向かい全データを押収。あれ程の行動力と先見性です、不都合なデータ諸共に全てを消去する前提で行動をお願いします」
「承知しました」
怒り、動揺、混乱。渦巻く感情に行動を止めるスサノヲ達に神が指示を出した。艦橋に控えていたスサノヲ達はすぐさま部屋を後にし、僅かに出遅れたクシナダは少々バツが悪そうな表情と共にヤゴウへと近づく。手には拘束用の錠が握られている。気付いたヤゴウは当然抵抗するが、しかし彼女は父かあるいは祖父ほど年の離れた男のみっともない抵抗を難なく抑え込み、手際よく両手を錠で拘束した。
「こんな……こんな筈が……これは、コレは悪い夢だ」
後ろ手に錠を掛けられたヤゴウが虚ろな目で呟く。ここまで落ちぶれればいっそ哀れ。そんな感情と視線を誰もが向けた。が、アマテラスオオカミは容赦しない。
「貴方は一人、何処までも自分しか見ず、それ故に孤独で、他人を受け入れられず認められない。だから何も為せなかった。貴方の傍には誰も居ないから、居るのは貴方と同じく他者を受け入れ認めない孤独な人達だから。でもよかったですね、これからの生活はきっと幸せですよ」
「な、何を」
「これからの貴方はずっと一人です。誰からも認めず、受け入れず、そんな貴方の望むまま、ずっと一人で贖罪し続けるのです。どれだけ願っても、祈っても、叫んでも、寄り添う者はいない。それが貴方が受ける……黄泉という牢獄で死ぬまで続く罰です」
黄泉への収監。その言葉にヤゴウは崩れ落ちた。同時、旗艦内での戦いに完全な終止符が打たれた。白川水希は拘束、その行動を封じられ、旗艦アマテラスを散々ひっかきまわしたアラハバキは4名中2名死亡、1名逃亡、残されたヤゴウは全ての権限を剥奪された。必勝を見込んで仕掛けた戦いに敗北し、全てを失った。
だが、まだ戦いは終わっていない。地球での戦いに決着が付いていない。宇宙を望み戦火を広げる者と、止める者の戦いがまだ終わっていない。
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