G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

130話 神代三剣

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 視線を外せない。サルタヒコよりも、その手に握られた一振りの刀に釘付けとなる。誰もが独断の理由に合点がいったと、そんな心情を顔に出す。

「お前達も分かっていただろう、何時か使うと。今がその時だ」

 神代三剣はその危険性故に神の許可なしには使用できない。正しく使わねば旗艦を、連合さえ滅ぼしかねない諸刃の剣。だが、肝心の神は封印中。

「貴様には使いこなせんよ。おいタガミ、コイツはワシが引き受ける」

「言われなくてもッ、じゃ宜しくゥ!!」

「あ、おい待てコラ!!申し訳ありません、後はお願いします」

 神代三剣の危険性をその身で知るスクナがサルタヒコとタガミの間に割って入ると、タガミはならばと即座に任せ、残る施設部隊への追撃へと向かった。頼りにしているのか、面倒事を押し付けただけか、何れにせよ行動は早い。また、残るスサノヲもタガミに続く。

「ジジイがッ」

 凄むサルタヒコ。対するスクナは余りにも潔く引いたタガミを呆れがちに見る。微塵も恐れず、自信に満ちるを通り越して無視する態度にサルタヒコは激高――

「貴様……う、うぉ!?」

 怒りのままムラクモを振るった。が、真面に制御出来ず滑稽極まりない姿を晒した。熟練した兵士でさえ制御困難な量のカグツチを消費する刀剣は、ただ強いだけの者が所持したところで体内のカグツチを喰い尽くされ、あっさりと気絶する。その意味では最低限度の能力はある。が、莫大な力を抑え込むだけの力量は残念ながらない。

「認められていないのに、無茶をする」

 アベルがそっと囁いた。その事実を知るのは、現状においてごく僅か。その内の一人がアベル。ハバキリと同じくムラクモにも意志が宿っており、※※が認めない限り、その力を完全に使う事は出来ない。

 露見した実力にスクナは不敵な笑みを浮かべた。が、サルタヒコも同じく。今、戦場にはムラクモをただ起動させるだけならば十分以上のカグツチが満ちる。サルタヒコは周辺に存在するカグツチを取り込み、肉体を通して刃に送り込み、全てを容易く両断する光刃を完成させた。

 認められておらず、断片程度の力しか行使できない。だがその程度の現段階でさえ、既存とは比較にならない驚異的な火力を生み出す。ただ、相変わらず制御が出来ていない。圧倒的な高出力に振り回されるサルタヒコの様子はじゃじゃ馬に振り回される騎手と評するのが近い。

 しかし、危険極まりない点にも変わりはない。不完全な現段階でさえ触れた物どころか遥か先の物体さえ容易く両断する。現代まで残る伝説的な武器の一振り。

「クソがァ、これ以上邪魔するなァ!!」

 咆えるサルタヒコ。スクナはやれやれと呆れながらも軽やかにムラクモの刃を交わしながら急加速で接近、右手に持つ刀を水平に突き立てた。神速の如き刺突攻撃。突きだした刃は強固な防壁に触れると僅かの閃光と共に容易く貫き通し、暴れまわるサルタヒコの脇腹にめり込んだ。

 堪らず呻くサルタヒコ。口からは血が吹き零れる。スクナは攻撃の手は止めない。再度の刺突。今度は右肩を正確に貫き通した。が、サルタヒコは意地でも武器を手放さない。

 強情な態度に、ならばとスクナは右肩を目掛け二度三度と正確に攻撃を重ね、傷口を抉り続けた。それでもサルタヒコは離さず、苦し紛れにムラクモを振り回す。刃が通った遥か後方の物体は音もなく斬り崩れた。

「その口ぶりからするに、散々タガミとアマテラスオオカミに邪魔された様じゃな」

「貴様の後に殺してやるよォ!!」

「そうかい。ま、そのザマじゃあ無理だろうがな」

 破れかぶれの攻撃。未熟ならば直撃しただろうが、相手は歴戦。スクナは軽やかに避けながら攻撃を繰り出し続ける。経験も、技量も、何もかも遠く及ばないサルタヒコは徐々に押され始める。

 ※※※

 サルタヒコがスクナと交戦を開始した同じ頃、ツクヨミ強奪指示を受けたアスクレピオス社の私設部隊員達も戦闘を開始していた。が、その足が止まる。本社へ猛進する施設部隊を制止したのは清雅の精鋭達。

 連合超大企業の製薬会社に雇われた私設部隊の大半は元退役兵。彼等の主たる業務は物資の護衛。商用艦など比較的警備が手薄な艦を狙う宇宙海賊、そして最悪の敵であるマガツヒと遭遇した場合に積み荷や乗組員を護衛する役目を担う。

 いわゆる荒事専門とする私設部隊が、同じく地球最大の企業、清雅の社員達と交戦する。私設部隊員達の目的は金銭。対する清雅側の目的は地球とその神を守る為。遠く離れながら同じ立場に立つ者同士が、異なる目的の為に鍛え上げた力を振るう。

 本来ならば互角か、あるいは清雅側が押していた。しかし、清雅源蔵に裏切られる形となった心境が清雅の精鋭の心に大きな影を落とす。

 誰もが必死で抵抗をするが、迷いと混乱の分だけ決意が鈍り、行動が遅れる。最初の差は僅か1だったとしても、次は2、その次は3と確実に差が出る。そして今は戦場、僅かな差であっても死ぬには大きすぎる。

 尚も動作は精彩を欠く。心中から精神的な支柱であった清雅源蔵の存在が消えた影響は大きい。マジンの性能は変わらずとも、旗艦側の武装は地球に押し寄せるカグツチの影響で性能が飛躍的に向上している。同様に戦闘能力自体も。

 幾つもの不幸が重なった結果、必死の抵抗虚しく清雅側の一人が脱落した。前線で踏ん張っていた精鋭の一人が高性能な武器に押され、マジン消滅と同時に数人掛かりの攻撃を真面に喰らい、命を落とした。

 清雅の精鋭達の誰もが恐怖と混乱がない交ぜになった顔を浮かべた。地球の為、神の為に幾多の犠牲を踏み越え今日この日を迎えた。だが、本当に正しかったのか。支えを失い、生じた迷いに心が、身体が支配される。

 対して、清雅側の精神崩壊に勝利を確信したアスクレピオス社私設部隊員達は淡々と次の処理に移る。彼等の勝利条件はツクヨミとハバキリの確保。成果なくして戻るなど出来ない。しかし――

「追イ付イたぞ」

 背後から男の声。は、と驚いた私設部隊が視線を逸らしたと同時に凄まじい衝撃が発生、私設部隊を吹き飛ばした。

 清雅の精鋭達の抵抗は無駄ではなかった。勝つ事こそ出来なかったが、時間稼ぎには成功した。衝撃の中心に立つのは弐号機――否、タケル。彼の凄まじい勢いを乗せた蹴りは私設部隊員達の装備する簡易型の防壁発生装置程度では到底無効化など出来ず、少なからぬダメージを受け、勢いも大きく挫かれた。

「オイオイオイ、ちょっと遅すぎじゃァないか?」

「瀕死のスサノヲ風情が」

 更にスサノヲ達が追い付き、タケルと時間差で波状攻撃を仕掛けた。ほんの僅かの間に逆転を許した私設部隊員達の誰もが無表情の下に怒りを滾らせる。

「4人か。舐めてるのか?」

 私設部隊が咆えた。互いが鍛え上げた己の力への自信に満ち、武装の質はほぼ互角。だが、数が違う。私設部隊員側は合計15名。対するスサノヲ側は4人。一見すれば大きな差に見えるが――

「差の内にも入らんよ、試すか?」

「知った顔がいるが、加減はせんぞ」

「チ、隊長クラスまで下りて来ているのか」

 タケルに次いで現れたのはイヅナとワダツミと、おまけでタガミ。私設部隊員を恫喝せんばかりに睨みつける2人の目は怒りに爛々らんらんと輝き、周囲にはその意志に反応したカグツチが緩やかに渦を巻く。イヅナとワダツミは千余名のスサノヲにおける最上位、各部隊の隊長を任されている。当然、その実力は一線を画す。

 私設部隊員は目の前の2人が無休で酷使され続けた悲惨な状態を知っているが、知って尚、最大限に警戒する。タガミはともかくとして、スサノヲ隊長クラスを敵に回す意味をよく理解している。睨み付けるスサノヲ|(と、おまけでタガミ)から視線を逸らせず、動く事さえ出来ない。
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