G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

129話 君の願いであって 私の願いではない

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 空高く舞い上がる大量のマジンは清雅源蔵と彼が操っていた竜全てを飲み込みながら、やがて空中で巨大な球形を作り上げた。さながら、青天に浮かぶ青い月。やがて、球体に凹凸が現れ始めた。最初は誰が見ても何かわからなかったが、次第にはっきりと形を取り始めた。大きな顔だ。巨大な顔とその隙間を埋める様にして小さな顔が球形のオロチに所狭しと浮かび上がった。はっきりとした表情がない、まるでマネキン人形の様な不気味な顔、顔、顔。

「聞こえるか、修一。もういいんだ。宇宙を目指す君の願いは理解した。だが、もういい。これ以上戦う必要はない、誰も傷つける必要はない。君もだ。頼む、もう終わりにしよう」

 ツクヨミが優しく語り掛ける。だが――

「待って、待っていてくれ。ハハ、直ぐさ。直ぐに、直ぐに宇宙へ連れていく!!その道を阻む者は全て……殺す!!」

「違う!!それは私の願いではない、それは、君の……」

 君の願いであって、私の願いではない。ツクヨミの言葉は青く輝くオロチの中に届かず、虚しく空に霧散した。もはや言葉は届かず、清雅源蔵は己を制御出来ないまま暴走を続ける。オロチに出現した顔から何かが零れ落ち、地面に触れると周辺の物質を侵食し、形を作る。

 清雅源蔵の感情を正しく反映したかのように歪んだ竜。いや、竜の様な形状をした歪な化け物だった。翼が、胴体が、顔が、手足が歪んだ歪な竜モドキが次々と生み出されると、クズリュウをターゲットに攻撃を開始し始めた。

 同時に地上の戦いも激化する。その根源の片方であるアラハバキの置き土産、クズリュウ。その内で四企業が独自に保有する私設部隊員達の更に一部、アスクレピオス社の部隊がオオゲツの命令を受けてクズリュウの支配下を離れ、独自にツクヨミの元を目指す。

「クソがッ。あの化け物もだっつーのに。お前らぁいい加減諦めろや!!」

 私設部隊の一人を迎え撃つはクズリュウとして地球に降下した元ヤタガラス、タガミ。

「命令だ」

 相対するはオオゲツの忠実な配下、サルタヒコ。

「あーそうかよ。だがよ、お前等の大将はもう逃げちまったらしいぜ?」

「予定通りだ。それよりも……」

「アンだよ?」

「貴様が気に喰わなかった!!」

「奇遇だなオイ、俺もだよ。だがせっかく気が合ったのに済まねぇが、テメェはッ!!」

「貴様はッ!!」

「黄泉送りだ!!」
「黄泉に行けよ!!」

 互いは互いが気に入らないという単純明快な理由で敵対する2人の男の決意が重なる。激突する刃と刃。が――

「本物の黄泉に送ってやるよ、三下ァ!!」

「チィ」

 タガミが押し負けた。筋骨隆々の肉体、殺意が隠し切れない冷徹な瞳、歴戦を思わせる顔つき、何よりタガミの苛立ち混じりの表情が只ならぬ存在と告げる。ただ一度、刃を切り結んだだけでタガミは減らず口を叩けなくなった。一度だけでも十分に理解した。現状でサルタヒコには勝てない、と。

 無理もない。クズリュウのお守りに疲弊したタガミに対し、サルタヒコはほぼ万全の状態。ツクヨミ強奪に消耗を極力抑えていたようだ。

 その状況にクズリュウ側は内部分裂を起こした。アラハバキの威光が地に堕ち、スクナが神の勅令を持って出現した瞬間、クズリュウの大半はアラハバキを見限り、スクナの側についた。そのスクナに従いクズリュウは同士討ちを始めた。欲望か、あるいはただの命令か。混乱を好機と動くサルタヒコ達を止める為に。

 空を見上げればルミナがマジンから産み落とされる化け物共を薙ぎ倒し続ける。戦いはその様相を変えた。宇宙と地上、奪う側と阻止する側という図式から、戦いを望む者と止める者に。そして、その戦いを止める者達が続々と地上へ降り立つ。彼も、その一人――

「タガミ、退け」

「「あ?」」

 何者かの声にタガミとサルタヒコが間抜けに反応した直後、タガミの後方から長く伸びた刃状の何かが彼の横っ腹を掠めた。刃は私設部隊を統括するサルタヒコを貫き、遥か後方へ吹き飛ばした。何が起きた、と瓦礫から這い出すサルタヒコは、子供達の約束を胸に戦場へと参じた弐号機を見た。

「ガラクタがァ!!」

 視界の先に苛立ちを吐き捨てるサルタヒコ。

「よぉ、そっちは終わったのかい?」

「あぁ、援護する」

 弐号機はかつて見せるなど考えられなかった笑顔をタガミに向けた。その顔にタガミも満面の笑みで返す。弐号機の雰囲気の変化にいち早く気付いた。ボロボロの姿ではない、彼の目に全て理解した。誰かの指示ではなく、己の意志で死地へと降り立ったと。

「ヨシヨシヨシ、じゃあコレ終わったら旨い酒を奢ってやろう。約束だぞ」

 上機嫌なタガミに――

「飲めなイのだが……承知した」

 好意を無下に出来ないと渋々承諾する弐号機。その背後から――

「「じゃあ俺達にも奢れよ!!」」

 怒り心頭の2人が割って入り――

「やれやれ、そういう話は終わってからにせんか」

 更に呆れ交じりのしゃがれ声までもが続く。タガミの背後には何時の間にか旗艦の居住区域から転移したイヅナとワダツミ含めたスサノヲ達が、更にその背後から部下の姿に一時後退したスクナが合流していた。何れも弐号機と同じくボロボロに疲弊している。

「はー。仕方ねぇなぁオイ」

「お前!!お前の言動でどれだけ酷い目にあったと思ってるんだオイ!!」

「全部ヤゴウの指示とは聞いたが、納得は出来んわな」

「ちゃんとジジィから聞いてるじゃねぇか。いくら俺でもあんな滅茶苦茶な指示出さねーよ寧ろドン引きしたよ俺。後よぉ、言動とかもヒルメちゃんに言ってよ。裏でこそこそしてるの気取られたくないからアラハバキには目いっぱいご機嫌取って、お前達には嫌われておけって頼まれたからだよ。俺の努力とか苦悩の結晶なんだよ」

「努力と苦悩……なぁ、イマイチ信じられん。そもそも言い方ってモンがあるだろうし、随分と乗り気じゃったろうが。大体お前はそういう精神的に幼稚な部分が」

「ジーサン、説教は後でな」

 口が悪いが、険悪と評する程ではない。過去のタガミの行動は全てが偽りで、しかも神の指示となれば直轄のスサノヲに文句を言う権利はない。が、納得できるかと言えばそうでもなく、イヅナとワダツミはタガミに食って掛かり、心情を理解できるスクナも同調した。

「お前等、随分と余裕だなァ!!」

 ともすれば余裕に見える態度に苛立つサルタヒコ。余裕の歓談が生む熱は殺気に一瞬で冷え、誰もが声を睨みつけ――

「な、馬鹿な!?」

「テメェ、どうやって!?」

 驚愕した。サルタヒコは、その手に封印中の神代三剣ムラクモを握っていた。

 何を考え戦いを継続するのか。只の命令か、それとも欲望か。しかし理解しているのか?意志なき欲望は己諸共に他者を、世界を燃やし尽くす。彼は己が燃え盛る火の中にいると理解しているのか?燃え尽きた後には何も残らないと理解ているのか?しかし、理解しようがしまいが、地上の戦いは混沌へと落ちる。
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