G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

文字の大きさ
205 / 273
第11章 希望を手に 絶望を超える

128話 歪んだ祈りは誰にも届かず 

しおりを挟む
 人は一人では生きていけない。他人と協力して生きる事は強大な自然から身を守る為の手段として人が生み出し身に付けた技術。人は自分の力だけでは生きていけない、それは常識として人の中に刷り込まれ連綿と受け継がれてきた筈だった。

 人が集い知識を共有し、新たな知識を生み出し、己のものとする。だが、そうした流れから生み出された幾つかの技術は人が受け継いできた常識を捨てさせてしまった。一人でも生きていける世界、遠く離れた人と繋がる手段は人同士を分断した。人は一人では己を知る事は出来ない。

 人が生み出した協力協調という手段は、人が己を正しく知るための手段ともなっいた。人を通し己の形を知る手段もまた、長きに渡り人に受け継がれてきたが、それも失った。

 人は一人になり、己の正しい姿を理解出来なくなった。人が作り上げた社会という枠組みの中で自分という輪郭を失った人間は、その次に自分と他人の境界を見失い、最後に自分の物と他人の物、自分の価値と他人の価値が分からなくなった。

 人は二つに分かれる。殻の様に自らを閉ざして外界との繋がりを断つか、逆に世界全てを自分と錯覚し傲慢に振る舞うか。渦中の人物は何方を選んだのか――

 ※※※

 誰もがその光景を固唾かたずを呑む。スサノヲの老兵、スクナが清雅源蔵を斬り捨てた。ツクヨミが僅かに作った隙など想定できる訳がない筈。だが、何時訪れるとも知れないその機会を虎視眈々こしたんたんと狙い、遂には実行に移した。

 終ぞ清雅源蔵とツクヨミは理解し合えなかった。だが、これで戦争は終わる。アベルは清雅源蔵の安らかな死を願った。世界の頂点でありながら彼の人生は常に不幸の連続で、その末に起きた戦争の最中に無念の死を遂げた。だから、せめて安らかに、と。

「オロチが、起動している。しかも……これは!?」

 短い、無垢で歪んだ祈りは無駄に動揺するツクヨミの声に終わった。

「そんな馬鹿な!?」

 釣られて叫ぶアベルが生命反応を探る。清雅源蔵は――生きていた。空を踊るスクナが眼下に苦々しい視線を落とす。彼の攻撃はほんの僅か、届かなかった。

 清雅源蔵の執念か、あるいはスクナが想像以上に疲弊していた為か。何方にせよ、生き延びた清雅源蔵が端末を操作し、最後の切り札を起動させた。

 オロチ――

 ツクヨミとアベルがこの戦いの切り札として作り出した兵器。分かってしまえばただただ単純明快、超大容量大質量のマジン。この星において清雅源蔵のみが唯一扱い得る兵器。それを制御可能とするのは清雅源蔵に渡した端末とツクヨミのみ、その筈だった。

「やはり制御を受け付けない……何故?まさか彼が改良した?有り得ない、端末ならばいざ知らずナノマシンまで……私達が彼に教えた知識では手を加えるなんて!?」

 現実は神と地球の監視者の予測を完全に超えた。アベルは困惑する。が、現にオロチが止まる気配はない。彼に教えた程度の範囲ではナノマシンの改良など絶対に不可能だと双方共に確信していた。しかし現実は神と己惚れた罰とばかりにツクヨミとアベルを嘲笑あざわらう。

 清雅源蔵は独力でのナノマシン解析をやってのけた。ただツクヨミの為、それだけの為に彼は僅かな時間を惜しみ、独自に解析と改良を行った。

 出鱈目だとアベルは絶句。が、何もかもが手遅れ。清雅一族が地球とは比較にならない程に進んだ文明の知識を持つ理由は、神を守る観点からツクヨミの聖域を超えた活動を許さなかった為。加えてツクヨミが世界中に普及させた携帯端末を含めた通信システムの根幹に地球由来の技術が一切使用されていない。

 システムの管理維持代行に技術の漏洩ろうえい、盗難防止の為に知識の供与は必要だった。

 だからこそ、最低限に抑えた。必要以上に教えてしまえば解析、改良され、そうなれば一族の制御がより困難になると判断したアベルとツクヨミは、維持と管理に必要な最低限度の技術しか教えなかった。長である清雅源蔵すら技術の根幹こんかんを知らない。が、彼は僅かな断片から技術の全体像を描き、改良まで行った。

 天才――

 かつて歴史上に足跡を残した名だたる偉人達が称賛された様に、清雅源蔵も地球に生まれた突然変異レベルの天才だった。その結論に辿り着いたアベルの脳裏に才覚の兆候が描き出される。少年時代の清雅源蔵が足繁くツクヨミに会いに来ていた過去。幼少時から並外れた量の知識を詰め込まねばならない彼が如何にしてその時間を捻出ねんしゅつしていたか。

 幼少時から止まる事を知らない才能の果てに、清雅源蔵はカガセオ連合の知識を独力で解析し、オロチを我が物とした。当初は一族の誰よりも優秀な程度と思っていた。が、違った。アベルもツクヨミも彼の才能と執念を見誤った。清雅源蔵がああもツクヨミに執心するとは、その為に歪む事など想像さえしなかった。

 少年時代。清雅源蔵が聖域に迷い込んだあの日――ツクヨミと出会ったあの日をアベルは思い出す。彼女が理解を学ぶ良い機会になると考え、全てを黙認した。当時は正しいと確信した。事実、僅かではあるが互いの心は繋がっていた。だが、不幸な出来事が重なり互いの心が分断した。

 やがて源蔵の銘を継承した修一はツクヨミの願いを知った。彼の心に夢として刻まれた願いは、様々な事情を経た末に神を故郷たる宇宙へ帰すという目的にすり替わってしまった。

 地球の宇宙開発技術停滞はツクヨミが決定した。宇宙進出はカガセオ連合とマガツヒに捕捉される確率が上がるだけと知っていた為だ。だが宇宙が、故郷が向こうから姿を見せた。ツクヨミの願いも、自らの願いも叶わない、叶えられないと絶望した清雅源蔵は、己の内に刻まれ、抑え込み、だが諦らめ切れず、燻り続けていた夢が叶う機会が訪れた事で暴走した。

「私が……」

 アベルは辛うじてそれだけを呟き、口を閉ざした。ツクヨミと少年時代の清雅源蔵を引き離せばこんな事にはならなかったのでは。そんな疑念に支配される。だが、どれだけ後悔しても目の前で起きる光景を変えられない。

 本社周辺、カグツチが集まり仄かに白く染まるその空間に突如として濃い青が混ざり始めた。本社の真下から止めどなく溢れ続けるマジンは血まみれの清雅源蔵と幾つもの専用端末を巻き込みながら空高く舞い上がる。その光景は美しく、それ以上におぞましい。

「何なんだコレはッ!?」

「オイ、タガミッ!!何か知ってるだろ!!」

 地上は当然混乱する。誰もが終わると信じた戦いが終わらず、それどころか最悪の事態が起こる予兆に混乱し、叫ぶ。声の主が叱責するのは神と行動を共にしていたタガミ。

「不味いぜッ!!ありゃヒルメちゃんが予測した奴等の切り札で間違いねぇよ!!地下から反応検出、エネルギー量は……クソッ、なんだコリャ!?正真正銘のバケモンじゃねぇか。ヤゴウの※※※ピー野郎ッ!!だから本社地下の再調査させろって言ったのに!!」

「つまり、隠したかったのはツクヨミの居場所だけじゃなくてコイツもって事か」

「チィッ!!だから素人が指示を出すなとッ」

 絶望的な光景とタガミの回答が示す現実にクズリュウ側の退役兵達が絶句し、抑えきれない怒りを吐き出した。地上の様相は大きく変わった。清雅源蔵はまだ生きていて、戦いを継続する。全てはツクヨミの為、彼の心の奥深くに刻まれた願いの為。

 彼は、旗艦アマテラスを手に入れる。命を賭して――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...