G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

127話 願いは希望に昇華し 花と咲く

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 20XX/12/22 1057

 旗艦アマテラス 黒点観測解析部門――

 黒点観測解析部門。マガツヒの巣である黒点|(=ブラックホール)と呼ばれる特定地点を観測、行動を予測し連合全域に周知する部門。乱暴に要約すれば、天気予報ならぬマガツヒ予報。巣から飛び立ち宇宙を彷徨さまようマガツヒとの接触は接触先の全滅と同義、よって当部門は連合運営に必須となる。ある意味においてはスサノヲに並ぶ最重要部門の一つ。

 旗艦アマテラスでの大規模な戦闘は粗方終息した。が、混乱は終息しない。突如襲来した黒雷クロイカヅチにより場が混乱に支配され、結果として機能が完全にマヒした。艦橋で発生した騒乱に、旗艦は停滞を余儀なくされる。

 押し寄せる悪夢を前に辛うじてだが正気を保っていた黒点観測解析部門の主幹は、映像に映る艦橋の惨状に頭を抱えた。もうあと少し、艦橋の問題が解決すれば神に状況を報告出来る、そうすれば事態打開の知恵を出してもらえると信じていた。

 が、そうそう上手く事は運ばず。主幹のバッヂを付けた小柄な女性が食い入るように見つめる艦橋の映像には、黒雷で逃げようとするオオゲツが銃弾を素手で受け止める光景。事態が予断を許さないと知った彼女は大いに青ざめたが――

「主幹!!マガツヒの転移、尚も続いています。も、もう駄目です。1光年先にまで詰め寄られました。つ、次の転移で確実にこの近辺に現れます。PZM-2Ecitonエシトンが億単位の規模で集結しているそうです!!ど、どどどどどうしましょう?」

 無情にも追い打ちが掛かる。マガツヒの大群が目と鼻の先にまで迫った。1光年など転移が常態化した世界には無きに等しい。死の足音が目の前に迫り来た。

「集合地点周囲のカグツチ濃度が急降下し始めました。カグツチとの消滅反応、確認」

「相対濃度、ゼロからマイナスへ。空間汚染始まりました」

「PZM-2よりも強力な反応を確認、PZM-1 Bombyxボンビクスの出現を確認!!」

「恐らく、新たな巣を作るのものと思われるのですが、でも……周囲に何もないんですけど!?」

「こんな行動パターン、データにありません!!規模が桁違い過ぎて何が始まるか予測不能。ど、どどどどうしよう?」

「ニニギ主幹、お願いですから早く神に打診してください!!このままじゃ、ぜん、全滅しますよ!!」

「マガツヒ、尚も増加中!!」

「艦橋から濃度データが送られてきました。現在レベル27。依然として上昇中……28への上昇を確認。と、止まりません!!まだ上昇し続けています!!」

 彼方此方から上がる悲鳴交じりの報告が幾重にも重なり、小柄なニニギを更に攻め立てる。マガツヒの脅威と恐怖を知るからこそ、宇宙という闇の中を跋扈ばっこする悪夢への抗いがたい恐怖の積み重ねが小さな身体を圧し潰す。

「聞こえますか?」

 恐怖に混乱する観測部門が、唐突な声に静まり返った。

「もしや、アマテラスオオカミ?」

 恐怖からの混乱が、一瞬の静寂を経て安堵に変わる。彼等にとって神の存在が如何に大きいか、それ以上に寄りかかっているかが垣間見える一幕。

「はい。マガツヒですが、恐らく様子見と思われます。引き続き監視継続、転移再開と同時に緊急警報を再発令、全部隊を地球から撤退。地上側のハイドリを閉鎖後、全戦力をマガツヒにぶつけます。勝率は極めて低いですが、周辺宙域の濃度を考えれば避難エリアまでは持ち堪えられるでしょう」

 アマテラスオオカミの回答は淀みなく、観測部門の誰もが落ち着きを取り戻した。神の判断ならば間違いはない、と誰もが確信しているが、状況は予断を許さない。艦橋ではオオゲツと神の睨み合いが続く。

「あ、あの。残存部隊より連絡アリ。部隊の再編制は問題ないとの事ですが、侵入者数が不明の為、マガツヒのみに戦力を割くのは危険との事。如何いたしましょう?」

「彼女、一度全員に向けて連絡を行っていました。旗艦を人質に取ると。先ず通信に使用する特殊な粒子の残存反応を調査するよう指示。恐らく周辺に潜伏している筈です。発見次第、武装解除を促してください。それから地球への流入量を調べたいので銀河系圏内のカグツチを観測、結果を報告」

 通信が、やや不自然な場所で途絶えた。

「え?あ、あの!?」

 各区域の戦闘と杜撰な判断が引き起こした傷跡が少しずつ、真綿で首を絞める様に神を追い詰める。艦橋と同時並行する形での処理は神の限界を超えた。加えて、艦橋ではオオゲツが旗艦から逃げようとする直前。腹を括るしかない、状況が改善するか不透明な状況にニニギは頬を叩いた。

「アレが精一杯。これ以上は期待出来ない。それより計測急いで!!」

「承知しました……えーと……す、少なくとも周囲1光年の範囲までは確実!!原座、範囲を拡大し再観測中です」

「ありがとう。影響範囲は濃度と維持時間と同義。そのまま私達の生存率に直結する。次、ヤタノカガミで放出したエネルギーの充填状況は?」

「駄目です、充填した傍から勝手に放出してます。依然として止められません!!」

 予断を許さない状況は続く。不倶戴天の敵は観測史上類を見ない数を伴い、今や喉元にまで肉薄した。更に地球からの侵入者も見つかっていない。アマテラスオオカミに代わる形で指示を出し続けるニニギだったが――

「地球への流入が続いている様なので仕方が……ってなんだアレ!?」

 何かを目にし、我を失った。

 それは長い歴史の中において一度として目にした事の無い光景。言葉を失い、見惚れる主幹の姿を怪訝に思った誰もが同じ映像を見て、彼女と同じく言葉を失い、見入った。その流れは止まることなく続々と増え行く。一人、また一人とその光景を眺め始める流れは止められず、やがて黒点観測解析部門の全員が見入った。

 ※※※

「レベル4の緊急避難警報が発令されました。最高段階の警報となります。市民の皆様は落ち着いて所定の避難施設まで退避、次の指示があるまで待機して下さい。また、避難施設以外の場所に止まらないで下さい。これは旗艦秩序維持法に定められた義務となり、違反した市民の安全は一切保証出来ず、同時にあらゆる補償の対象外となります」

 艦全体に鳴り響く最高レベルの警報が不安と恐怖を際限なく煽り続け、やがて頂点へと達する。誰もが正気を失いつつある。戦闘が終了したかと思えば、不倶戴天ふぐたいてんの敵が続々と集結していると知れば無理もない。

 挙句、アラハバキの本性が明るみになり、自分達を支えていたアマテラスオオカミを封印してしまった事実が止めを刺す。戦闘とは比にならない恐怖に支配された市民誰もが一様に不幸を嘆き、凶事が通り過ぎる事をただひたすらに祈るか、あるいは――

「馬鹿野郎、早く進みやがれッ!!」

「オイ押すんじゃねぇよ!!」

「助けて助けて助けて助けて助けて助けて……お願いします、神様。幸運の星よ」

 暴動を起こす。避難施設への道はごった返し、あふれた市民達の一部が恐怖と不安を怒りに変え、周囲に当たり散らす。避難は更に遅れ、争いは激化、一層の不安と恐怖を駆り立てる。その様は誘爆しながら巨大な爆発へと変わっていく様とよく似ていた。

「おはながさいているよ」

 極限状態の中、小さな子供がポツリと呟いた。一刻を争う事態の最中に聞こえた呑気のんきな台詞に―― 

「こんな時に何バカな事を!!それに花なんて別に珍しく……な」

 当然、大人達は叱りつける。だが、誰もが子供が指さす先に言葉を失った。やがて、一人また一人とその場所を見つめ、呆然と見つめる。小さな子供が指差した場所は空中に浮かぶ巨大なディスプレイに映る映像。暗い宇宙に青く輝く星、地球に向けて押し寄せる大量のカグツチの光。

 渦を巻く白い粒子は地球を中心に花弁の様に広がっていた。まるで、宇宙に咲いた巨大な花。叶わないと諦めた願いが叶った歓喜か、あるいは祝福している様な、そんな風に咲いた花を誰もが見た。

 宇宙に咲いた白い花をいつの間にか市民全員が見つめる。誰もが無言で、ただじっと。そんな中、誰かがぽつりと呟いた。綺麗、と。

 同じく、その花をマガツヒも見る。遥か先であっても意志の流れが起こす現象を見逃さないマガツヒも同じものを――否、その中心にいる何かを――
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