G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

126話 祈り 届かず

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 混乱は続々と終息に向かう。清雅と旗艦の戦いは地球周辺へのカグツチの異常流入という奇跡により瞬く間に押し返された。既に大半から抵抗の意志が折れている。清雅源蔵以外は。彼は、彼だけは未だ諦めない。

「博士、聞こえているか!!何をしている!!」

 止めどなく押し寄せるカグツチを排除しようと地下に控えるフェルドに命令を出す清雅源蔵。が――

「こ……これは、これはまるで、巨大な……は」

 連絡が不自然に途絶えた。ようやく繋がったと思えば何かを伝えようと必死に振り絞り、しかし叶わず音信不通となった。

「チッ。肝心な時に役に立たん、ならばッ!!」

 役に立たないと吐き捨てる清雅源蔵。が、実際は違う。特殊な力場を発生させ、戦場周辺のカグツチを霧散させる地球製のアラミサキは想定通りに稼働していた。ただ、流入量が余りにも桁違いというそれだけだった。

 フェルドは既に限界以上まで稼働させていたが、それでも押しのけられず、遂には負荷に耐えきれず機器が爆発を起こした。彼はその余波に巻き込まれ、通信不能となった。

 本社地下研究施設に置かれたアラミサキ含めた無数の装置は、清雅市が主戦場となると予測したツクヨミ指示の元で改良が行われた。その上で勝利を盤石とする為、フェルドをはじめ数名が常駐し、常に適切な調整と完璧な維持が行われていた。それでも尚、銀河中から押し寄せるカグツチに対応出来なかった。

 施設内は装置周辺が完全に吹き飛び、研究者達の大半が爆風に吹き飛ばされた。何れも酷い怪我を負っているが、辛うじて生存している。ただ、彼等が無事でも装置が破壊されては意味がない。アラミサキの爆発により施設は半壊した。端から役には立っていなかったが、仮に健在であったとしても無力。何れにせよ、図らずも地下施設も無力化された。

「何故、どうして?通信は聞こえている筈なのに……」

 一方、ツクヨミは清雅源蔵に呼びかけ続ける。が、彼女の状況も良くない。言葉が届かない、届いていない。最も望むツクヨミからの呼びかけすら届かない理由は清雅源蔵の内面。現実のツクヨミよりも、自らの内に作り出した幻想の、ある種理想と呼べるツクヨミに支配されている。

「神への、異常な執着と独占欲か」

 アベルがそっと、囁くようにツクヨミの疑問に答えた。異常と呼べるほどの独占欲。ソレが清雅源蔵がひた隠し、戦場で垣間見せた本心。清雅源蔵の冷徹冷酷な性格の源泉は一族を導く使命でもなければ神への信仰でもなかった、とアベルは結論した。ならば、彼は次の手段に出る。伊佐凪竜一がカグツチを引き寄せ、ルミナが扱う状況を単独で切り返そうと考えるならば――

「彼は、切り札を……オロチを使うつもりです」

 アベルが最悪の結論を重ねた。間違いなく最後の切り札を切る。悲しい話だ、とアベルは苦悶を吐き出した。一族の悲願たる理解を学んだツクヨミが再び清雅源蔵に心を開こうとしているが、肝心の清雅源蔵にその心が届かない。

 一方的な思いは理解ではない。片方が拒絶し続ける限り理解は訪れない。そして、皮肉にも今までツクヨミがして来た事を今度は清雅源蔵が行っている事に彼は気付いていない。それ程に清雅源蔵の心はツクヨミから離れていた。

 オロチ。対スサノヲを想定した最後の切り札を使ったならば、今まで強いてきた犠牲も努力も全てが無意味となる。ツクヨミは必至で思考する。どうすれば清雅源蔵に言葉が届くか。戦い以外で彼を止め得るのは己しかいない。必死で思考し――

「聞こえているか……修一」

 意を決し、もう一度呼びかけた。源蔵は代々の長が襲名する特別な名。修一とは23代目襲名前以前の名。本名で呼びかけると同時、清雅源蔵の動きが止まった。同じくして、追従する全ての竜も動きを止める。

 携帯を見つめたまま微動だにしない清雅源蔵の表情は驚きに満ちる。心が、別の何かで満たされた。一族の呪いと呼ぶに相応しい、ツクヨミの願いの為に生きる事を強制される人生と共に受け継ぐ「源蔵のろい」ではない、彼が生まれた時に名付けられた本名――かつて、短いながら交流を重ねた過去にツクヨミが呼んでいた名で呼びかけられた事で、漸く清雅源蔵の意識に変化が訪れた。

 心を満たす偽りの神が消え、現実のツクヨミに意識が向かう。陳腐だが、これもまた奇跡ではないか。後は説得さえ出来れば戦いを止められる。その機会が訪れたと、アベルは安堵した。

「漸く隙を見せたなッ」

 悲しいかな、願いは別の形で叶う事となった。ほんの僅かな隙。清雅源蔵が僅か晒した隙をその男は見逃さなかった。瞬きする程の間、ほんの一瞬の後にスクナが清雅源蔵を斬り捨てた。

 当然、清雅源蔵がツクヨミに耳を傾けるなど知りもしない。だが、その瞬間に備えるどころか機会が巡って来るや即座に実行に移した。誰もがその圧倒的な速度に感嘆せずにはいられなかった。どれ程の練度ならばこんな芸当が行えるのか、と。

 終わった。戦いは終わった。ツクヨミとアベルの望まない形だが、それでも。ツクヨミは吸い寄せられるように地上へ落ちる清雅修一を、悲壮な眼差しで見つめる。
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