口〈ハコ〉

風見星治

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事件資料8:月間GカルチャーPCに残存していた記事下書き-2

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 なんてこった。俺達はとんでもないモノを見ている。それは合同調査をしていたG県警、N県警の共通見解とはまるで違っていたからだ。アレはなんだ?少なくとも人じゃあないのは分かる。映像を通しても伝わる悍ましい気配が身体を貫き、震わせる。怪異、あるいは妖怪とか鬼とか。とにかく絶対に人間じゃない。間違いなく化け物だ。

 "成程"と、編集長が1人で勝手に納得した。"こんな非常識な情報を公開できる筈が無い"と、白髪交じりの髪を掻きむしりながら辿り着いた結論を語る編集長の言は最もだ。確かにこんなの馬鹿馬鹿しすぎて誰もがトリックか、さもなくば捜査をかく乱する為に作った偽物と考えるに決まっている。

 カサッと、何か紙を広げる音を耳の端が捉えた。1枚目でこれなのだから、2枚目はもっと衝撃的な何かが映っている。それは予感ではなく核心であり、逸る1人が全員の意見を聞かず2枚目のメモ帳を開き……

「え?」

 と、素っ頓狂な声を上げた。何だ何だ?と、全員がまだ20代後半という若さでこの奇特な会社に身を寄せた若造が見るメモ帳に視線を向ければ、ソコには少々理解しがたい、まるで脅迫する風な説明が書き殴られていた。

 口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口
 関係者、怪異に対抗できる人間以外絶対に見るな
 口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口

 オイオイそりゃあないだろとは編集長の弁。だが俺達も同感だ。1枚目のSDに収められていた映像は鮮烈で、どう考えても作り物じゃあない。こう言っては何だが、俺達は今までも散々にガセネタを掴まされてきたんだ。だけど、そんな情けない経歴だからこそ、何時の間にか映像に残る不審な痕跡、真贋を見極める技術を身に着けていた。だからわかる。アレは本物だと。なのに、だ。

「どうします?」

 若造は編集長にお伺いを立てたが、しかし彼の考えは手に取るようにわかる。いや、全員が同じ気持ちだ。見たい。メモの注意書きなんてクソくらえだ。俺達は今、マジモンの怪異の尻尾を掴もうとしている。G県の山間に封じられた禁忌、超特大の怪異だ。オカルトを多少かじった人間ならば、所謂いわゆる禁足地や神域に関する情報は一通り網羅している。が、そんな場所には何もなかったはずだ。

 俺達はこう予測した。数か月前、恐らく相当に長い間封じられてきた怪異の封印が解けた。ソレは地域住民が今も必死に封じたか、それとも封印したヤツが超有能だったか、何方かは分からないが完璧に封じ込めていたんだ。だが、解けてしまい、行方不明者達はソイツの餌食になった。

 誰ともなく尋ねた。"見るか?"と。反論する声は上がらなかった。

 信じて貰えるか分からない。だがそれでもコレだけは声を大にして言いたい。コレは、間違いなく本物だ。
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