【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

文字の大きさ
31 / 432
第2章 日常の終わり 大乱の始まり

25話 終わりの始まり 其の9

しおりを挟む
 ――第2居住区域

 ルミナがその場所へと転移した頃には、既に黄泉の現出と思える様な悍ましく、凄惨で、無慈悲な光景が広がっていた。山県令子が逃走経路とした場所にいた人間は1人残らず操られ、互いを攻撃している。

 殴り、蹴り、噛みつき、引っ掻き、頭突き……年齢性別の区別無く原始的な攻撃を行う人の群れは一様に赤く染まっており、さながら悪鬼、餓鬼、亡者に見え、だからこそ誰もがココは死者の国ではないかと錯覚する。更に周辺には大量の血しぶきで作られた赤い花が咲き、その周囲にはまるで花に栄養を奪われた搾りかすの如く倒れたまま動かない幾つもの人が転がる。

 そんな絶望の中にある唯一の幸運は小さな子供が居ない平日の昼下がりである事位だが、それも少女が居住区域を離れ教育機関が立ち並ぶ第12居住区域へと向かえばご破算となる。そして不幸な事にそれはこの第2居住区域に隣接している。操られ、互いを攻撃し合う人の群れを辿りながら山県令子を追跡するルミナはその事実を事前にヒルメから教えられており、だからこそ必死で追撃する。

 またソレは彼女以外の全員も同じだが、広大な区域を逃げ回るたった1人を探すのは困難を極める。艦橋は勿論、スサノヲもヤタガラスもあらゆる手段を用いて山県令子を追跡するが、少女は操った市民を巧みに使い逃げおおせる。ある時は派手に暴れる事で監視を集中させ、ある時は監視カメラを破壊し、ある時は大勢を壁にして隠れながら等々、あらゆる手段を用いた。

 不自然だと、誰もがそう結論した。旗艦の内情を知っている……まるで勝手知ったる故郷の様に逃げる少女の姿は余りにも不自然。だが最も不自然なのは山県令子の行動。少女は逃げる事だけに腐心し続けた。死を覚悟して、刺し違えてでも殺す決意を白無垢と死後婚という形で表現したのに、だが現実の少女はただ逃げ続けるばかりで何らの行動もとらない。

 しかしその行動はルミナと旗艦アマテラスを苦境に追い込み続ける。山県令子が逃げ続ける限り被害は拡大し続ける。

「がァァァぁァアアアアアアああッ!!」

 まるで獣の様な咆哮にルミナの足が止まった。操られた市民の1人と偶然目を合わせた彼女が見たのは、山県令子により異常な精神状態へと変貌した市民の1人。その足元には血まみれとなり動かなくなった市民の姿が確認出来る。ルミナは察した。恐らく次の標的は自分なのだろうと……彼女は舌打ちをすると急いでその場を後にするが、その直後にその動きは止まった。ソレ等は彼女の姿を視認しているにも関わらず、その存在をまるで無視するかのように別の誰かを狙い始めた。

 周囲では声にならない叫び声が幾つも木霊し、互いが互いを攻撃する光景が視界一杯に広がる。しかし1ルミナ=AZ1という格好の標的を視認しながら一様に無視した。彼女に攻撃したところで軽くあしらわれるか無力化されるだけだし、何よりも……ナノマシン機能を不活性化させるナノマシンの存在だ。

 元清雅社員から提供されたデータを元に対山県令子用の特製ナノマシンは、元を辿ればバグにより暴走したナノマシンの駆除用に調整された技術を応用した物。かなり際どいタイミングではあったがギリギリ実用化に間に合ったそうで、もし少女が何がしかの行動を起こした場合に集中散布する事で被害の拡大を防ぐ態勢も出来上がっていた。

 なのに、あの少女はどんな手段を用いてか不明だが超広範囲に拡散した挙句にルミナを攻撃しない様に指示まで出している。

 ルミナの顔色が苦悶に歪んだ。山県令子という少女は恐ろしい程に冷酷で冷静だと理解したからだろう。非力な少女は己の力を最大限に有効活用し英雄を追い詰める……その為にどれだけが犠牲になろうが何の躊躇いも無く、淡々と冷酷に実行する。

 恐ろしい。私はこの年若い少女が心底恐ろしくなった。アレはかつての清雅源蔵という男以上に歪んでいると、そう感じた。清雅源蔵……500年前に地球に逃がされた当時のカガセオ連合が誇る最新鋭の女性型式守を地球の神という歪んだ役割から解放する為に旗艦アマテラスが仕掛けた戦いを利用し、その末に敗死した男。

 私はこの少女と清雅源蔵という男が重なって見えた。そしてそれはこの事態を遠目から見守る全員が同じであっただろうと推測する。理解を拒み、自らの内に作り出した幻想に縋りついた男と、死んだ男の幻想に縛られた女。よく似た両者は戦火を広げながら目的の成就を果たそうと命を捨てる覚悟で臨んでいるが、清雅源蔵よりも残虐な選択を躊躇いなく実行する分だけ山県令子の方が厄介極まりない。

 清雅源蔵という男は歪みこそすれ地球の神|(=ツクヨミ)の為に行動していたが、少女の思い人は既に死んでいる。何を語りかけようが何も語らない死人への思慕は、程なく自分の都合の良い様に解釈をし続け、歪み、その果てに暴走する。

 が、殊更に厄介なのはこの少女の異様なまでの冷静さ。ソレはこの暴動に幾つもの意味がある事からも明白。一番は旗艦アマテラスへの打撃、その次にルミナと伊佐凪竜一への精神的な攻撃、最後にヤタガラスとスサノヲを釘付けにする目的も兼ねている。

 事実、彼らの多くはこの事態への対処の為に後方で釘付けされている。もし操られた市民達が他の区域へと一斉に移動する事態が発生した場合に備えているからだ。全て、たった1人の少女のいい様に動かされている。

 その山県令子の逃走経路を辿れば、最も人通りが多い第3居住区域との境目を目指す事がわかった。そこは第2居住区域から少しばかり低地に造られた居住区域。元々第1から第10区域は連合各惑星の主要大都市を模して造られた居住専用の区域であり、大小様々な企業に働く社員達の住居が軒を連ねる為に他区域と比較しても人の数は多い。

 続く第11から30までの区域は教育と各専門分野への研究、及び労働訓練を目的とした総合教育施設群が立ち並び、区分け上では居住区域と隣接しているものの人の数は其処まで多くはない。31以降は人も住めるが主に連合各惑星の風光明媚な観光地域を再現した区域、及び旗艦の主要産業である農業と工業を含む大多数の企業の工場が立ち並ぶ区域であり、先の30までの区域よりも更に人は少なくなる。

 山県令子はそうやって合計100に区切られた居住区域の内、取り分け人が多い第3居住区域を目指した。理由は言わずもがな、最大効率を狙ってのことだ。

 各区域への直接的な移動には簡素ながら手続きが必要となる他|(※遠く離れた各区域間の移動には短距離の空間転移が可能なハイドリを用いるが、隣接する区域などそこまで離れてない場合は自動運転が主に使用される)、簡単に移動できない様な仕切りも存在している。しかし、ここまで入念に計画を練る位だから恐らく機能していないだろう。

 山県令子を追跡するルミナは、居住区域全域に広がる光景に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも駆け抜ける。周囲に倒れる夥しい数の負傷者は生きてはこそいるが誰もが虫の息と言った様子であり、起きている者は次の標的を探して回るという絶望的な光景を見続ければ誰でもそんな顔色に変わってしまうのは仕方のない話だ。

 彼女は目の前の行動を止めたい衝動を抑えながらも走る事を止めない。自らの身に危険が及ぶからでは無い危険なのは我が身を顧みず諦める事無く暴れまわる市民側であり、彼らの最後に待つのはいずれ力尽きて死ぬと言う事実があるからだ。止めなければ彼らは死ぬ、そして一々止めている余裕は無い。

「ヒルメ、聞こえるか?此処まで大規模に操るには通常の手段では無理だ」

 ルミナが違和感を口にした。後方に広がる不気味で残酷な光景を目にしながら、彼女は冷静さを保っている。

 確かに眼前の光景と山県令子の能力を照らし合わせれば、違和感を覚える。他者の思考を制御不能にする能力は、山県令子が振るう刃から零れ落ちるナノマシンを吸収した者に限られた筈。逃げる先々でばら撒いたにしては、現実の暴動が余りにも超広範囲に渡っている。風に乗って広まったと仮定しても、余りにも不自然。

「既に空調設備にスサノヲを向かわせた。もう1つ、残念な知らせがある。白川水希から提供された情報を元にした解毒薬は大した効力を発揮しない」
 
「どうして?」
 
「ナノマシンの性能は飛躍的に向上していたものの、それでも効果は確認された。だが犠牲者の数が余りにも多すぎる。操られた市民の数は数千から万単位、出鱈目過ぎる。想定される犠牲者の数はかつての戦争の比では無い上に纏まる気配が全く無い。現在量産を急がせているが……何としても止めてくれ、君が望まない手段……いや、すまない」
 
「それは最後の手段だ、必ず止める」
 
「承知した、それから助っ人をそちらに向かわせた」
 
「助っ人?」

 この状況下で助っ人が来る。ヒルメの言葉に疑問を抱くルミナだが、その次の瞬間に灰色の光の中から爆音と共に現れたバイクに驚いた。ソコに乗っていたのは……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...