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第2章 日常の終わり 大乱の始まり
34話 発覚 其の5
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「肉親として、ザルヴァートル財団総帥として貴女と話がしたい」
ザルヴァートル財団総帥は英雄であり、孫でもあるルミナに尋ねた。ソレだけならば何の問題も無い。難しい質問ではない。誰もが固唾を呑んで彼女を見守る中……
「いえ、そのつもりはありません。どうぞお引き取り下さい」
ルミナは毅然した態度で提案を却下した。周囲からどよめきが上がる。出自への驚き、肉親の提案を却下した選択への疑問等々、それぞれに思うところがあるのだろう。だが困惑する周囲を他所に当の本人達だけは至って冷静。
「それはどう言う理由かな?肉親と信じられぬにせよ、財団総帥との対談に利があるか無いか、それすら分からない訳では無いだろう。聞かせて欲しいな、可愛い孫に会いに来た私を追い返すに足る理由を」
アクィラ総帥が説明を求めれば……
「財団への貸しはいずれ私達の首を絞める、そう判断しました。その提案を受けいれたら最後、財団に少しずつ乗っ取られ、いずれは奪われます」
ルミナは淀みなく淡々と答え……
「奪われるとは人聞きが悪いが、しかしそれがどうしたのかい?優秀な者が全てを手に入れる、私達一族はそうやってここまで巨大化したのだ。ヤハタ坊やは知っているだろう?私達一族がその財を継承するには己の能力を証明せねばならない。それが出来なければ例え直系であろうが容赦なく追放され、出来れば傍系であれ全てを継承できる。身内であっても容赦無し。優れた能力と正しい意志を持つ者以外に価値は無いという絶対のルールを敷いた事で我がザルヴァートル一族は栄えてきた。それは今後も変わらない。旗艦の有様、地球から有能な政治家を招きならが未だに具体的な行動1つ取る事が出来ないこの状況を見れば、私達こそが一番必要である事がわかるだろう?」
アクィラ総帥は静かに、力強くルミナを説き伏せた。スサノヲもヤタガラスも、ルミナを諭すその老女の目を見た。先程まであった、人のよさそうな優しい瞳はなかった。その名前に籠められたという"鷹"に相応しい、鋭く力強い瞳に誰もが気圧された。歴戦の戦士すら怯ませるその強い視線は、血を分けた孫娘であっても例外なく襲う。
「継承……私にそんな能力はありません」
そう呟いたルミナからは、先ほどまでの毅然さを感じなかった。
「謙遜せんでも良い。貴女が地球で命懸けの戦いを行い、そして生還した事実はよく知っている。最悪の状況の中で折れる事無く最良の決断を下そうと足掻いたその結果もね。今の貴女は旗艦内と地球の双方からの信頼が厚い。それは私達一族が手に入れたくても出来ない代物であり、唯一無二の価値であり、それを持って継承者へと推薦するには十分でもある。最も他の継承者は納得せんだろうし、貴女が望まないならば推薦もしないがね」
「ではその中から誰かを選べば良いでしょう?私である理由は無い筈です、何より個人的な事情で私を継承者に加える事は一族の理念に反するのでは?」
ルミナの会話に少しずつ、ほんの少しずつだが相手への拒絶の色が現れ始めた。彼女の悪い癖だ。一方、アクィラはそんな孫の態度にほんの僅か難色を示しつつも、何かを思い出すかのように彼女の美しい銀色の髪を眺めた。
「頑固じゃの、娘にそっくりじゃ。その顔、そして……あの男に似た銀色の髪もな」
「母と、父ですか?」
総帥が思い出したのは今は亡き愛する娘と、娘を奪った憎き男。両者の血を分けた娘、途絶えたと信じて疑わなかった血縁、娘の面影を強く残すルミナを見る総帥の心境は複雑だろう。しかも片や旗艦の英雄、片や連合最大の財団総帥。その関係性も加われば、心中を想像するのは極めて難しい。
「頑固者を説得するのは毎度骨が折れるな……今日は引き上げるとしよう。じゃが最後に良いか?先程、私は"旗艦内と地球の双方からの信頼が厚い"と言った。しかし、残念ながらそれは一時の事だ。いずれ貴女は……必ず旗艦と地球から拒絶され否定され見捨てられ、最後には敵と認識される。強い力、高い能力を持つ者は持たざる者から認められない、排除される運命なのだ。その兆候、もしかしたらもう既に何処かで起こっておるかも知れんな。だから貴女の居場所は私達の元しかない。それが持つ者、力を持って生まれた者の宿命なのだ。理解せよ、力を持つ者の末路は2つしかない。神と崇められるか、さもなくば悪魔と恐れられ排除されるかだ。知るが良い、神と悪魔は紙一重の存在なのだ。そして弱き者はその弱さ故にそれらの区別がつかぬ。故にほんの些細なきっかけでお前は旗艦を救った英雄、新たな神の座から転落し旗艦を脅かす悪魔へと堕ちる。人は最初は1人だった。だがやがて力を合わせる事を覚えた多くの者が集まり1つの事を成す、それを繰り返し人の世界は拡大していき、遂には宇宙へと旅立った。だがね、人は何処まで行こうが人のままなのだ。人は力を合わせる為に集まるが、そこへ至る流れの中には必ず同じ汚点が姿を見せるのだ。最初は同じ考えを持つ者同士が集まるが、やがて自らと違う者を排除し始める。どれだけ歴史を重ねようがその流れは生まれ、そして何時の日か貴女も否定される。お願いだ、可愛い孫まで失いたくない私の気持ちを理解しておくれ」
ところどころに強い口調があったが、何方かと言えば懇願の様に聞こえた。全てを語り終えたアクィラはルミナに背を向け、乗って来た車へと進み始めた。
誰も何も語れず、ただ黙ってその背中を見送るしか出来なかった。ザルヴァートル財団総帥という立場にある人物を軽々しく止められる筈もなく、また現状においてただ1人止め得るルミナは去り行く背中をジッと見つめるばかりで何らのアクションもとらない。
だが、そんなありきたりな理由で誰もが声を掛けなかった訳ではない。私も、その他大勢も、アクィラ総帥の背中を見て、"なんと小さい背中なのだ"と驚いた。
それは先ほどまで雄弁に語った女傑の背ではなく、スサノヲすら射抜き有無を言わせない強烈な視線を放った者の背中でもない、孫に拒絶された寂しい老婆でしかなかった。
とても小さく、哀愁を漂わせる背中を誰もが呆然と見送り、そしてルミナもまた無言で見送る。掛ける言葉が見つからない、どうすれば良いか分からない、人の心は理解し難いけど今の彼女の中に渦巻く感情は手に取るように分かる、とても分かりやすかった。
「最後に、1つ聞きたい」
車へと乗り込む足を止めたアクィラがルミナに尋ねた。振り返らず、立ちすくむ姿勢から表情は窺えない。
「何でしょうか?」
「貴女の覚えている姿で良い、娘は幸せだったか?」
「ええ、とても」
「そうか、ならば良い。いずれ、また会う事になる。その日にまた続きを話し合おう」
アクィラ=ザルヴァートルはルミナの言葉を聞き終えるや車に乗り、引き上げていった。その顔はこっそりと監視する私以外には誰も見えなかったが、何処か満足そうに見えた。
「ど、どうしましょう。えーと……ルミナ、いやルクセリア=ザルヴァートル」
消えゆく自動運転車を無言で見送るルミナの背に、彼女を呼ぶ声が無数に重なった。名残惜しそうに視線を戻した彼女の視界に、大挙して押し寄せたスサノヲ達が映る。誰も予想だにしなかった来客が乗った車が視界から消えた事で、漸く冷静さを取り戻したのだろう。
誰もが彼女の事を心配している証左。しかし本心は別の様に見える。誰もが英雄と言う近寄りがたいステータスにザルヴァートル財団総帥の血縁というとんでもない付加価値が加わったルミナの存在を嫌でも気に掛けてしまっているようだ。
もし彼女の身に何かあれば、自動的にザルヴァートルとの関係も拗れる事を意味していると考えているか、もしくはこの事実が公になった際の影響を心配している。要は財産狙いの馬鹿な男が大挙して押し寄せる可能性を苦慮しているのだろう。
「今までどおりルミナで良い。私は何も変わらないし変わっていない」
「承知しました。では、ルミナ=AZ1。サクヤから鬱陶しい位に連絡が入ってきています。ですので事後処理は我々に任せてこのまま検査に向かって貰えますか?」
「分かった……後は任せていいか?」
「「「お任せ下さいッ!!」」」
「ありがとう。それから、誰かヤハタの拘束に向かってくれ。恐らく逃げないだろうがタナトスに始末……いや、それも無いか。拘束したら速やかに尋問を開始、持っている情報を全て引き出したら関係各所に共有を頼む」
一通り指示を出したルミナは最後に力なく微笑んだ。疲労か、それとも唐突に知った出生の秘密への戸惑いか。とにかく彼女の笑みはとても儚く弱弱しかったのだが、しかしそんな笑顔を見た男性陣はやる気全開とばかりにテキパキと動き始めた。コレ、どう考えても彼女に言い格好したいだけでは……そう思える程度に男連中の顔はだらしなく緩んでいた。ホントに駄目だなコイツ等。
「承知した、ではサクヤまで送ろう」
一方、そんな連中とは違う反応を返すのはタケル。やはり彼は頼りになる。伊佐凪竜一が傍にいない現状、彼女を補佐出来るのは彼位だろう。
「いや、そのバイクと言うのはどうにも慣れない。緊急でないならもう少し落ち着ける移動手段の方が良いかな」
が、さっそく拒否された。見た目も性能も釣り合いが取れているのだが、世の中上手くいかないものだ。
「そうか?アレでも安全運転で走行したつもりなのだが?」
「アレで?そうなのか……ちょっと信じ難いが、とにかく後はよろしく頼む。ヒルメ、ハイドリを。それから私の本名と素性に箝口令を敷いてくれ」
『問題ない、既に実行している』
ルミナはその後も幾人かに指示を出すと、彼女の前方に生成された灰色の光の中へと消えていった。犠牲がどれだけで出たか分からない山県令子の反乱は、突如出現したタナトスと共に消失と言う最悪の結果で幕を閉じた。また、その女の置き土産とでもいうべき家族の再会は、ルミナをより苦難へと推し進めるだろう。
具体的には彼女に近づこうとする輩だ。その数は、恐らく尋常では無い筈だ。人の口には戸が立てられないという。箝口令を敷いたところでいずれザルヴァートルの血縁という情報は暴露されるだろう。
その名は商売を生業とする人間から見れば正しく神の威光その物であり、また単純に桁違いの金持ちという事も意味する。ソレだけでも十二分すぎるのに、挙句に地球を救った英雄という賞賛と、ソレ等全てが霞む容姿が加わるのだからもう目も当てられない。
だからこそ、誰もが懸念する。強い光はその背後に濃い影を生むように、彼女の出自がいずれ彼女自身を苦しめ追い詰めるかもしれないと誰もが危惧する。
ザルヴァートル財団総帥は英雄であり、孫でもあるルミナに尋ねた。ソレだけならば何の問題も無い。難しい質問ではない。誰もが固唾を呑んで彼女を見守る中……
「いえ、そのつもりはありません。どうぞお引き取り下さい」
ルミナは毅然した態度で提案を却下した。周囲からどよめきが上がる。出自への驚き、肉親の提案を却下した選択への疑問等々、それぞれに思うところがあるのだろう。だが困惑する周囲を他所に当の本人達だけは至って冷静。
「それはどう言う理由かな?肉親と信じられぬにせよ、財団総帥との対談に利があるか無いか、それすら分からない訳では無いだろう。聞かせて欲しいな、可愛い孫に会いに来た私を追い返すに足る理由を」
アクィラ総帥が説明を求めれば……
「財団への貸しはいずれ私達の首を絞める、そう判断しました。その提案を受けいれたら最後、財団に少しずつ乗っ取られ、いずれは奪われます」
ルミナは淀みなく淡々と答え……
「奪われるとは人聞きが悪いが、しかしそれがどうしたのかい?優秀な者が全てを手に入れる、私達一族はそうやってここまで巨大化したのだ。ヤハタ坊やは知っているだろう?私達一族がその財を継承するには己の能力を証明せねばならない。それが出来なければ例え直系であろうが容赦なく追放され、出来れば傍系であれ全てを継承できる。身内であっても容赦無し。優れた能力と正しい意志を持つ者以外に価値は無いという絶対のルールを敷いた事で我がザルヴァートル一族は栄えてきた。それは今後も変わらない。旗艦の有様、地球から有能な政治家を招きならが未だに具体的な行動1つ取る事が出来ないこの状況を見れば、私達こそが一番必要である事がわかるだろう?」
アクィラ総帥は静かに、力強くルミナを説き伏せた。スサノヲもヤタガラスも、ルミナを諭すその老女の目を見た。先程まであった、人のよさそうな優しい瞳はなかった。その名前に籠められたという"鷹"に相応しい、鋭く力強い瞳に誰もが気圧された。歴戦の戦士すら怯ませるその強い視線は、血を分けた孫娘であっても例外なく襲う。
「継承……私にそんな能力はありません」
そう呟いたルミナからは、先ほどまでの毅然さを感じなかった。
「謙遜せんでも良い。貴女が地球で命懸けの戦いを行い、そして生還した事実はよく知っている。最悪の状況の中で折れる事無く最良の決断を下そうと足掻いたその結果もね。今の貴女は旗艦内と地球の双方からの信頼が厚い。それは私達一族が手に入れたくても出来ない代物であり、唯一無二の価値であり、それを持って継承者へと推薦するには十分でもある。最も他の継承者は納得せんだろうし、貴女が望まないならば推薦もしないがね」
「ではその中から誰かを選べば良いでしょう?私である理由は無い筈です、何より個人的な事情で私を継承者に加える事は一族の理念に反するのでは?」
ルミナの会話に少しずつ、ほんの少しずつだが相手への拒絶の色が現れ始めた。彼女の悪い癖だ。一方、アクィラはそんな孫の態度にほんの僅か難色を示しつつも、何かを思い出すかのように彼女の美しい銀色の髪を眺めた。
「頑固じゃの、娘にそっくりじゃ。その顔、そして……あの男に似た銀色の髪もな」
「母と、父ですか?」
総帥が思い出したのは今は亡き愛する娘と、娘を奪った憎き男。両者の血を分けた娘、途絶えたと信じて疑わなかった血縁、娘の面影を強く残すルミナを見る総帥の心境は複雑だろう。しかも片や旗艦の英雄、片や連合最大の財団総帥。その関係性も加われば、心中を想像するのは極めて難しい。
「頑固者を説得するのは毎度骨が折れるな……今日は引き上げるとしよう。じゃが最後に良いか?先程、私は"旗艦内と地球の双方からの信頼が厚い"と言った。しかし、残念ながらそれは一時の事だ。いずれ貴女は……必ず旗艦と地球から拒絶され否定され見捨てられ、最後には敵と認識される。強い力、高い能力を持つ者は持たざる者から認められない、排除される運命なのだ。その兆候、もしかしたらもう既に何処かで起こっておるかも知れんな。だから貴女の居場所は私達の元しかない。それが持つ者、力を持って生まれた者の宿命なのだ。理解せよ、力を持つ者の末路は2つしかない。神と崇められるか、さもなくば悪魔と恐れられ排除されるかだ。知るが良い、神と悪魔は紙一重の存在なのだ。そして弱き者はその弱さ故にそれらの区別がつかぬ。故にほんの些細なきっかけでお前は旗艦を救った英雄、新たな神の座から転落し旗艦を脅かす悪魔へと堕ちる。人は最初は1人だった。だがやがて力を合わせる事を覚えた多くの者が集まり1つの事を成す、それを繰り返し人の世界は拡大していき、遂には宇宙へと旅立った。だがね、人は何処まで行こうが人のままなのだ。人は力を合わせる為に集まるが、そこへ至る流れの中には必ず同じ汚点が姿を見せるのだ。最初は同じ考えを持つ者同士が集まるが、やがて自らと違う者を排除し始める。どれだけ歴史を重ねようがその流れは生まれ、そして何時の日か貴女も否定される。お願いだ、可愛い孫まで失いたくない私の気持ちを理解しておくれ」
ところどころに強い口調があったが、何方かと言えば懇願の様に聞こえた。全てを語り終えたアクィラはルミナに背を向け、乗って来た車へと進み始めた。
誰も何も語れず、ただ黙ってその背中を見送るしか出来なかった。ザルヴァートル財団総帥という立場にある人物を軽々しく止められる筈もなく、また現状においてただ1人止め得るルミナは去り行く背中をジッと見つめるばかりで何らのアクションもとらない。
だが、そんなありきたりな理由で誰もが声を掛けなかった訳ではない。私も、その他大勢も、アクィラ総帥の背中を見て、"なんと小さい背中なのだ"と驚いた。
それは先ほどまで雄弁に語った女傑の背ではなく、スサノヲすら射抜き有無を言わせない強烈な視線を放った者の背中でもない、孫に拒絶された寂しい老婆でしかなかった。
とても小さく、哀愁を漂わせる背中を誰もが呆然と見送り、そしてルミナもまた無言で見送る。掛ける言葉が見つからない、どうすれば良いか分からない、人の心は理解し難いけど今の彼女の中に渦巻く感情は手に取るように分かる、とても分かりやすかった。
「最後に、1つ聞きたい」
車へと乗り込む足を止めたアクィラがルミナに尋ねた。振り返らず、立ちすくむ姿勢から表情は窺えない。
「何でしょうか?」
「貴女の覚えている姿で良い、娘は幸せだったか?」
「ええ、とても」
「そうか、ならば良い。いずれ、また会う事になる。その日にまた続きを話し合おう」
アクィラ=ザルヴァートルはルミナの言葉を聞き終えるや車に乗り、引き上げていった。その顔はこっそりと監視する私以外には誰も見えなかったが、何処か満足そうに見えた。
「ど、どうしましょう。えーと……ルミナ、いやルクセリア=ザルヴァートル」
消えゆく自動運転車を無言で見送るルミナの背に、彼女を呼ぶ声が無数に重なった。名残惜しそうに視線を戻した彼女の視界に、大挙して押し寄せたスサノヲ達が映る。誰も予想だにしなかった来客が乗った車が視界から消えた事で、漸く冷静さを取り戻したのだろう。
誰もが彼女の事を心配している証左。しかし本心は別の様に見える。誰もが英雄と言う近寄りがたいステータスにザルヴァートル財団総帥の血縁というとんでもない付加価値が加わったルミナの存在を嫌でも気に掛けてしまっているようだ。
もし彼女の身に何かあれば、自動的にザルヴァートルとの関係も拗れる事を意味していると考えているか、もしくはこの事実が公になった際の影響を心配している。要は財産狙いの馬鹿な男が大挙して押し寄せる可能性を苦慮しているのだろう。
「今までどおりルミナで良い。私は何も変わらないし変わっていない」
「承知しました。では、ルミナ=AZ1。サクヤから鬱陶しい位に連絡が入ってきています。ですので事後処理は我々に任せてこのまま検査に向かって貰えますか?」
「分かった……後は任せていいか?」
「「「お任せ下さいッ!!」」」
「ありがとう。それから、誰かヤハタの拘束に向かってくれ。恐らく逃げないだろうがタナトスに始末……いや、それも無いか。拘束したら速やかに尋問を開始、持っている情報を全て引き出したら関係各所に共有を頼む」
一通り指示を出したルミナは最後に力なく微笑んだ。疲労か、それとも唐突に知った出生の秘密への戸惑いか。とにかく彼女の笑みはとても儚く弱弱しかったのだが、しかしそんな笑顔を見た男性陣はやる気全開とばかりにテキパキと動き始めた。コレ、どう考えても彼女に言い格好したいだけでは……そう思える程度に男連中の顔はだらしなく緩んでいた。ホントに駄目だなコイツ等。
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一方、そんな連中とは違う反応を返すのはタケル。やはり彼は頼りになる。伊佐凪竜一が傍にいない現状、彼女を補佐出来るのは彼位だろう。
「いや、そのバイクと言うのはどうにも慣れない。緊急でないならもう少し落ち着ける移動手段の方が良いかな」
が、さっそく拒否された。見た目も性能も釣り合いが取れているのだが、世の中上手くいかないものだ。
「そうか?アレでも安全運転で走行したつもりなのだが?」
「アレで?そうなのか……ちょっと信じ難いが、とにかく後はよろしく頼む。ヒルメ、ハイドリを。それから私の本名と素性に箝口令を敷いてくれ」
『問題ない、既に実行している』
ルミナはその後も幾人かに指示を出すと、彼女の前方に生成された灰色の光の中へと消えていった。犠牲がどれだけで出たか分からない山県令子の反乱は、突如出現したタナトスと共に消失と言う最悪の結果で幕を閉じた。また、その女の置き土産とでもいうべき家族の再会は、ルミナをより苦難へと推し進めるだろう。
具体的には彼女に近づこうとする輩だ。その数は、恐らく尋常では無い筈だ。人の口には戸が立てられないという。箝口令を敷いたところでいずれザルヴァートルの血縁という情報は暴露されるだろう。
その名は商売を生業とする人間から見れば正しく神の威光その物であり、また単純に桁違いの金持ちという事も意味する。ソレだけでも十二分すぎるのに、挙句に地球を救った英雄という賞賛と、ソレ等全てが霞む容姿が加わるのだからもう目も当てられない。
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