【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第3章 邂逅

96話 過去 ~ 夕日の沈まぬ世界へ 其の4

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 最先端文明は異星の文字の翻訳すら瞬時に行うが、しかしメニューの名前からどんな料理か予測してくれるわけではない。メニューをツクヨミに翻訳してもらい、老人と相談しながらメニューを決め終えた2人がこの星で初めて食事にありつけたのは店内に入ってから15分ほどが経過した頃だ。

 カウンター席の向こう、調理場から伊佐凪竜一の前に置かれたのは野菜ベースのソースに茹でた細長い麺を混ぜ合わせたパスタの上に山盛りの肉が乗せられた料理。真っ赤なソースと程よく焼け焦げた様々な形状の肉から立ち昇る煙と匂いが食欲を程よく刺激している様子は彼の表情を見ればよく分かる。

  一方、姫の目の前にあるのは茶褐色のスープ。但し年頃の少女が食べ切るには少々大きな皿の中には大量の素材がこれでもかと投入されており、分かるだけでもエビ、カニと言った甲殻類に加えニンジン、タマネギ、ジャガイモ、そしてスープを存分に吸った米など様々だ。

  恐らく"甲殻類と野菜の煮込みスープ"という響きで料理を選んだと思われるが、まさかこんな豪快な料理が出てくるとは思わなかった姫の顔には食べ切れるか不安そうな表情が浮かんでいる。

「お腹空いただろう、お代はいいから遠慮せず食べていきなさい」

「あ、あの……」

「有り難く頂きます」

「は、はい。いただきます」

 善意を無下にできない、伊佐凪竜一は老人に声を掛けるや勢いよく皿の料理を貪り始めた。最初こそ拒絶を口にしたが、やはり空腹状態は堪えたようだ。隣を見れば同様にフォルも皿の料理に手を伸ばし始めたが、その食べ方は育ちを感じさせるほどに落ち着いており、同じ空腹状態にも関わらず気品さえ感じられる。

 そんな対照的な所作に老人は苦笑しつつも開店に向けた仕込みを続け、伊佐凪竜一と姫は黙々と食べ続け、ツクヨミは老人に許可をもらうと店の端に積み上がった雑誌や新聞に目を通す。

 穏やかな時間はゆっくりと過ぎ、やがて16時を回った。定時を告げる大きな鐘の音が響くと同時、それまでは喧騒と無縁だった店の外には急激に人の波が生まれ始めた。店の戸を叩く音や大小様々な声が幾重にも重なる。

「あ。あの……」

 "おや、もうこんな時間だ"と僅かに驚く老人の声に少し遅れる形で姫の申し訳なさそうな声が聞こえた。彼女の皿を見れば、そこにはまだ幾分かの具材とスープが残っている。特定の具材に偏っているところを見るに、どうやら好きな食べ物を後に残しておくタイプのようだ。が、姫が好物に手を付けようと端を伸ばす間にも店外の人だかりは増えていく。

「済まないねぇ、良ければ外で食べていってくれるかな?お椀は後で回収するから店の近くに置いておいてくれればいいよ」

「は、はい。ありがとうございます。あの、あの、こう言った物を食べる機会が余りなくて、申し訳ありません」

「あぁ。いいよいいよ。ワシの料理を食べる顔が見れただけで十分さ。それからお兄さん」

 老人は未だ食べ終わらない姫から伊佐凪竜一へと向き直る。

「何ですか?」

 既に食事を終えた彼は布巾でテーブルを綺麗に拭いていたのだが、老人から呼ばれると手は止めないまま顔だけを老人に向けた。

「持っていきなさい」

 そう言うと老人は綺麗になった机の上に包み紙を置いた。彼は掃除する手を止めると、老人に頭を下げながら感謝の言葉を述べた。中身など空けなくても分かる。木製の硬い机の上に置かれたと同時に幾つも重なって聞こえたジャリッという音は小銭の音。

 ツクヨミが手早く中身を確認すれば、僅かばかりではあるが現金だった。その事実に未だ隣で食事を取り続けた姫は驚き、慌てて口をハンカチで拭くと老人を見つめた。

「あの、どうして此処までして頂けるのでしょうか?」

「正直に言えば、ちょっとお嬢さんには濃すぎる味付けだったし量も多いだろう?その理由はね、基本的にココの住民に合わせた味付けと量だからなんだよ。今は色々と大変でね、生活がちょいと厳しい奴らが多いのさ。だもんでそんな奴らでも満足できるようにって調整し続けた結果なのさ」

「は、はぁ。色々……ですか?」

「さっきも話したが税金とかさ、上の方で何かあったようで。まーた値上がりしてみんな参ってるのさ」

「あ、じゃあ店が狭いのも……」

「それは違うよ。形よりも中身をとったのさ。店よりも旨いモン作った方がいいってね。まぁ狭いけどもな、これでも作る分にはナンも困らない。上が何考えてるか分かんねーけどな、でもへこたれるわけにゃーいかねぇのよ、それにワシはもう歳だからそんな贅沢なんていらない。今の若いモンに頑張ってほしい、この店はそんなワシの誇りなんだよ」

「誇り……ですか。あの、上の人に恨みは無いんですか?税金、辛いんじゃないんですか?」

「そりゃ辛いさ、何に使ってるかも分かんないしね。それに昔から不平等だと思っていたよ、税金収めなかった罰に対して集めた税金を有効に使わない罰が軽すぎやしないか、とか。だけど愚痴言っても仕方無いって思ってね。昔はがむしゃらに働いてそんなこと考えやしなかったが、上には上なりのしがらみがあるんじゃないのか。こんなちょいと大きな都市に居る程度ワシですらそう感じるんだ、この星……引いては惑星同盟なんて更にでかい組織になればそりゃあもう想像できん程の苦労があるんじゃないかってな」

「あ、あの……」

 それまで饒舌な口調で老人に食い下がっていた姫は突如として口をつぐんだ。己を見透かされたと勘違いしたのだろうか。

「だがよ、ワシはこうして生きとる。どんなに苦しくてもそれでも生きとるよ、ココの奴らもな。でなぁ、決めたんだよ。ワシはな」

「何をでしょうか?」

「若いモンを応援するってな。待ってりゃ解決する訳でもない、だけど行動するにはちょいと歳取りすぎたようでね。だから、ワシはワシのやり方で若いモンを応援しようって決めたのさ。いつかワシが応援した若いヤツがでっかくなってこの星を変えてくれるって期待してな。これがワシの決めた生き方なのさ」

 姫の疑問に老人は真っ直ぐ真摯に答えた。その答えか、あるいは態度に何かを感じた姫は無言で頭を下げると料理の入った皿と共に店の外へと出ていった。

「ありがとう。必ず恩は返します」

「無理はせんでいいよ。他所の星から来るだけでも結構な金が掛かるんだろう?ワシ一人の為にそんな無茶をする必要は無い。其れよりもこれから話す内容をよく覚えておきなさい」

「はい」

「いいかい、兄さんに渡した路銀では隣のサウスウエスト駅までしか行けない。で、だ。その駅で必ず降りて人を探すんだ。名前は"アックス=G・ファーザー"。そこいら周辺を束ねる"ゴールデンアックス"という名前のマフィアのボスだが、その男は他のバカやってる連中や余裕の無い若いモンとも違い分別があるし頭も切れる。君達の状況を何とかできるならばその男以外に有り得ない。覚えたかい?」

「全て記録しました。惜しみない助力に感謝します」

「ありがとう。後、必ず恩は返しに来るから」

「あぁ、其処まで言うなら期待しているよ」

 老人の言葉を頼りに伊佐凪竜一とツクヨミも店の外に出た。外は既に大勢の人だかりが老人が提供する食事を心待ちにしていたようで、伊佐凪竜一とその足元を転がる球体、そして店の外に用意された小さな椅子とテーブルに腰かける少女をジロジロと見つめていたが、しかしそんな視線も一時だけ。店内から老人の威勢の良い声が聞こえると誰もが彼らに興味を無くし、今日の食事を求めて店の中へと意識を向けた。

「あの……申し訳ありません。こんなに大量に食べたこと有りませんので」

「気にしなくて良いよ。まぁ俺もあんなに沢山喰ったことないけど。だけど喰い方や時間なんて気にしなくていいんだよ。大事なのは……」

「なのは?」

「作ってくれた人に感謝して美味しく全部食べる事だ。食べ終わるまで待ってるよ」

 伊佐凪竜一はそう優しく語り掛けると、彼の好意を受け取った姫は落ち着いてゆっくりと皿に手を付け始めた。通念を通して変わる事のない夕暮れの赤い光が照らす中、姫は初めて口にするであろう料理をゆっくりと堪能する。

 その目を見れば僅かばかり前までの疲れた様子は見て取れなかった。老人との会話は他愛なかったが、それまで知る事が無かった世界と自らの価値観を少しだけ広げたからか、苦境の中でも今の生き方を貫く老人を見て何か思うところでもあったのか、それとも食事をとったからか、ともかく姫の様子を観察すれば少しだけ元気が出たように見えた。

 だが、だがそれでもその目の奥に宿る光はとても冷たかった。私はその目を見てどうしてかそう感じとってしまった。姫が大量の料理に悪戦苦闘しながら漸く平らげたのは店の外に出てから更に10分程が経過した頃。

 机の上に皿をコトリと置いた姫は小さな店で客を捌く老人を見つめると無言で頭を下げ、つられるように伊佐凪竜一も頭を下げた。"何やってんだ?"と、そんな心無い言葉が数人の客から寄せられたが、彼等はそんな事など気にも留めず店を背に駅へと向かった。

 コレが一行のサウスウエスト駅に降り立つまでの経緯。老人の助言通りサウスウエスト駅に降り立った一行はアックス=G・ノーストと出会い、更に過酷な運命に身を投げる事となった。"地球の英雄"伊佐凪竜一、連合の頂点"運命傅く幸運の姫君"フォルトゥナ=デウス・マキナ、そして"元地球の神"ツクヨミ。彼らの運命は何処に向かい、どんな結末を迎えるのか。

 彼等が辿るであろう運命を想像した私は、捧げたい衝動に駆られた。とても久しぶりに、我が主に祈りを……だが彼らの背中を見て、その目を見て、私は何故か思い留まってしまった。何故だろうか、どうして私は祈りを止めたのだろうか。

 いや、本当は理解しているのだ。常に前を向く意志を秘めるその目を見た心の中に形容しがたい何かが生まれつつあるのを感じたからだ。ソレは祈るという所作に対し気恥ずかしさ、羞恥、無恥を呼び起こし……何よりはっきりと語り掛けるのだ。"それで良いのか"、"その行動は本当に正のか"と、苛む程に語り掛ける。

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