【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第4章 凶兆

112話 神か、悪魔か? 其の1

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 ――旧清雅市と市外を繋ぐ橋梁

 全ての視線が向かう先には無骨な鋼製アーチの橋があり、すぐ下を静かに流れる清流の音が蒸し暑い外の空気に僅かな清涼感を与える。一見すれば何の変哲もない風景は、程なく一変する。

 暗闇に目を凝らしていると、橋の向こう側に小さな影が蠢いた。1つ、2つ……正体不明のソレ等は数を増やしながら橋のど真ん中をゆっくりと進む。セオは表情を強張らせ、伊佐凪竜一は奇妙な影をジッと凝視し、車内から動かないアレムとフォルトゥナ姫もまた橋を渡る異様な何かの気配から目を離せず、暗闇の中を恐る恐る見つめる。

 周囲の全ての視線と意志が橋の上に注がれる中、蠢く何かは橋上灯の照らす範囲に足を踏み入れた。ソレまで闇の中で不定形だった影が灯りの下ではっきりとした形をとる。

 人だ。橋を蠢く影の正体は人種も性別も年齢もバラバラな……いや、人の群れには1つだけ共通点があった。誰もが布を腕に巻きつけている。青、青色の布だ。その色を見れば誰もがを想起する、おおよそ人間離れした青い髪と瞳を持つ地球の神ツクヨミを。

「何だアレ?」

「彼らは……反宇宙組織、そう名乗るグループです」

「テレビで言ってたあの?」

「はい、正しくソレです。ここ2ヵ月程の間に急速に広まった考え方で、それは……ツクヨミによる支配体制の復活です。彼らはその過激派、ツクヨミ復活に同調するばかりか過激な方法で実現しようとしています。どうやって知ったのかと言う問題は残りますが……つまり貴方を殺す事が彼らの重要な目的の一つなんです」

 セオの言葉に伊佐凪竜一は絶句、尚も膨れ上がる人波を呆然と見つめる。無理もない、自らの行動がもたらした結果を全否定する連中が自らの眼前にとして現れたのだ。報道では実感が湧かなかった彼もいざその現実を目の当たりにすれば言葉の1つさえ出てこない。

 しかし問題はそれだけにとどまらない。伊佐凪竜一は視線の先にもっと悍ましい物を見つけた。それは映像で見ていた私ですら目をそむけたくなる光景。そこには所用で一人別行動を取っていた筈の男、且つて清雅に所属し他の清雅社員達と共に宇宙へと上がったハシマがいた。但しその姿は見るも無残であり、拷問が加えられた事は明白な位に見る影もない。

「どうして……なんで此処まで出来るんだ?」

「仕方ねぇよなぁ?俺達から見れば裏切者だし、地球から見れば忌々しい清雅の元社員で、更に地球の神様を奪った手伝いをした男だ!!」

 伊佐凪竜一が絶句し呆然と見つめる中、山県大地がその疑問に答える様に叫んだ。それは何処までも楽しそうで、何処までも下衆で、そして美しい程に歪んでいた。

「おい、生きているのだろうな?」

「当たり前だろ、使い道があるからな」

「フン、少しは頭が回るようだな。さてどうする?逃げるか?逃げてもいいぞ、但しその映像を全世界に流すがなぁ。傑作だろうぜ、お前は英雄から一転して戦場から逃げる臆病者に早変わりだ!!」

「だがそんな真似しないよなぁお前ならさぁ?さぁ決着つけようぜェ!!」

 山県大地とカーティスは一方的に捲し立てつつ戦闘態勢を取った。その言動に伊佐凪竜一が叫んだ、"どうしてそこまでするんだ!!"と。彼は怒りのままに叫ぶと山県大地は待っていましたとばかりに即答する。彼の伊佐凪竜一に対する執着は尋常では無い、滾る殺意と憎悪に満ちた顔がそれを証明している。

「お前に言ったよなぁ?正直すぎると全部ぶっ壊しちまうってさぁ、お前は馬鹿正直に真っ直ぐ突き進んで全部壊しちまったんだよ!!認めろッ、今このザマはお前が正しいと信じて突き進んだ結果だ!!」

 伊佐凪竜一の声をかき消さんばかりに吠える山県大地の表情は喜びに溢れていた。彼を追い詰めるのを心底楽しんでいる。が、状況は更に悪化する。反宇宙組織の一団が困惑する伊佐凪竜一目掛けて畳み掛けるように声を上げた。

「そうだ!!お前が余計な真似をしなければ俺達はこんな惨めな思いをせずに済んだんだ!!」

「あのまま行けば地球は勝ってたかもしれないって!!そうすれば、生活も滅茶苦茶にされずに済んだのに!!」

「あの戦いは全部宇宙の奴らの責任なんだろ!!なんでそのツケを俺達が払わなくちゃならないんだ!!」

「清雅が無くなっちまったおかげでアチコチ大不況だし働き口も無い、俺達日本人は世界からは爪弾き者扱いだ!!」

 神は自らが作り上げた世界を自ら否定し、その先を人自身の手に委ね消滅した。私も、A-24なかまも、伊佐凪竜一も、あの戦いに大なり小なり関わった者達も、その意志はいつかきっと理解されると願っていたが……結末は残酷だった。

 彼等の思考思想の源泉は、只々単純に"神がいた方が楽だった"、"面倒な事は全て神に任せたい"、そんな自堕落で自らの足で歩くという人本来の生き方への否定、そして……神が維持する偽りの歴史、世界の頂点たる日本という幻想を破壊した伊佐凪竜一への憎悪。人は神なくば生きていけないという散々に語りつくされたチープな思考が霞むほどの邪悪な意志の源泉に横たわるのは無知が生む怠惰と憤怒という汚泥。

「それもこれも全部、全部全部全部全部全部ッ!!」

「「「「お前のせいだ!!」」」」

 聞くに堪えない罵詈雑言は鋭利な刃物の如く人の心を傷つける。ソレは見えないが……いや、見えないからこそ誰もが躊躇いなく言葉ぶきを振るい強靭な意志で今この時まで戦ってきた伊佐凪竜一から戦意を削り落そうとする。

 正しい。その行動は反吐が出る程に正しい戦術だ。桁違いに強い相手を前に馬鹿正直に正面から戦いを挑むなど愚か者の発想だし、それがカグツチを行使する者ならば尚の事。

 心、意志の強さがその者の強さに直結するこの世界の法則を知っているならば、ソレを折り、戦意を削り、喪失させるのは別に不自然ではない。彼等がその法則をつい半年前に知った地球人であるという点を除けば、だが。

「どうしてそこまで言えるんだ!!勝てた保障など何処にもない、それに清雅源蔵の言葉を忘れたのかッ!!自分とツクヨミ以外どうなっても構わないと、そう言い捨てられた事を忘れたのか!!」

 伊佐凪竜一に代わる形でセオが溜まらずそう叫ぶが焼け石に水、まるでオウム返しの様に繰り返される一辺倒の罵倒を前にしてはたった1人の正論など風前の灯火。容易く掻き消され、霧散する。

 闇が全てを覆う時間、夜。ソレは熱と光が消え何もかもが冷えていく時間。だがそれは人の心であっても同じのようだ。かつて世界を救い、神の如く崇められた英雄はその立場を一転、地球から安寧を奪った悪魔と罵られる。

「ハハハハッ……いや傑作傑作、やはり現実はお伽噺の様に上手く回らない様だなぁ?」

「そうそう。世界を救った英雄様は……神と引き換えに死を免れた英雄様は今や世界の敵だ」

「だが、まだ全てがそう言っている訳では無い!!」

「そう!!お前の言う通りだよセオ!!だがそれも時間の問題だ、拡大する反宇宙主義、反英雄主義は止まらないッ!!止められないッ!!」

「クッ……」

 容赦なく追い詰める山県大地にセオは必至で反論するが、遮る様に叫ぶカーティスに何も言い返せなかった。が、状況は止めどなく悪化の一途を突き進む。

 何かに気付いた伊佐凪竜一は視線を橋の中央に向けた。これまで一度として挫けず、またどれだけ罵詈雑言を向けられても輝きを失わなかった彼の瞳に初めて動揺の色が浮かぶ。

 視線の先、反宇宙組織なる一団の最前列に彼のよく知る人間の姿があった。徹底的に痛めつけられ、傷だらけとなった男の姿が闇の中に浮かぶ光景はさながら磔刑の罪人と重なる。その正体は……ハシマだった。

「に、逃げてください……ゴホッ……貴方はココで死んではいけない、生きていれば汚名は雪げます。ですから私には構わず……ぐッ!!」

 瀕死の彼が案じたのは己ではなく英雄。しかし力無い呟きは直後に響いた銃声にかき消され、傷だらけの身体にめり込んだ銃弾により強引に止められた。顔は腫れ、手もアチコチ怪我で赤黒く変色している。見ているだけで痛々しい位の怪我で全身ボロボロのハシマは、その上で更に肩口を撃ち抜かれた。

 夜の闇にうっすらと残る残光を辿れば、ソコには下卑た笑顔で銃を握り締めるカーティスの姿。本来ならば目を背けたくなる凄惨な光景。

 が、瀕死の怪我人に追い打ちをかけたカーティスと山県大地は眉の一つさえも動かさず、反宇宙組織は当然の罰だと歓喜の声を上げた。悲痛な反応を示しすのは伊佐凪竜一とセオ、そして車中のアレムとフォルトゥナ姫、そしてその映像を見る私位だ。
 
 ハシマの肩口に出来た銃創から溢れる血が身体を伝い、靴も靴下も履いていない素足の先へと辿り着くと地面に赤い染みを作った。

 姫がヒッっと叫んだ。声を必死に押し殺そうとしているが、だがその顔は恐怖で歪んでいる。車外の2人は姫の顔を見た。まだ年端の行かない少女は見てしまった。死の恐怖を、他者への労わりを欠片も見せない悪意を、今まで一度としてみる機会など訪れなかったであろう凄惨で無常で冷酷な現実を目の当たりにした。

 もう、ソコに可愛らしい少女の顔はなかった。幼く愛くるしい少女の顔は恐怖で歪んでいた。
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